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マラッカ・シンガポール海峡の情勢 2004

 事業名 海上安全に関する国際情報収集活動
 団体名 日本海難防止協会 注目度注目度5


第IX章 利用国負担問題に関するこれまでの議論と今後の方向性
 日本や中国、韓国、米国などのマ・シ海峡利用国が、同海峡の海上交通路としての機能を維持・発展させるため、同海峡を利用することにより得た便益をどのような方法で海峡沿岸国に還元すべきか、という、いわゆる「利用国負担問題(Burden Sharing Issue)」は、日本では、かなり以前から認識されていました。ただし、当時の認識は、得られた便益を海峡沿岸国に還元する、または、海峡沿岸国の負担を利用国がある程度肩代わりし、沿岸国の負担を軽減する、というものとは異なっていたと考えられます。当時においては、領海幅は3海里が一般的であり、マ・シ海峡の大部分は公海であったことから、日本には、自国商船隊の通航の安全は自国自身が関与して確保したい、という認識が根本にはあったのではないかと推測されます。このため、マ・シ海峡を国際的に管理しようと意図する提案が日本からIMCOに提出されましたが、インドネシア、マレーシアからの反発を招き、頓挫してしまいました。日本は、結局のところ、マラッカ海峡協議会を設立し、同協会の活動を通じて協力を行っていくことになりました(第II章「マラッカ・シンガポール海峡の概要」F「マ・シ海峡の国際法上の法的地位」参照)。これまで、同協議会は、日本財団、日本船主協会他の財政的支援を受け、マ・シ海峡の航行安全、海洋汚染防止のための様々な協力を海峡沿岸国に対し行ってきました(第V章「マ・シ海峡の航行安全・海洋汚染対策」参照)。もちろん、その間にも、なぜ、日本だけがマ・シ海峡の海上交通路としての機能維持のために貢献しなければならないのか、という議論はありましたが、現行の同協議会による協力方式を覆すほどのものではありませんでした。一方で、最近においては、マ・シ海峡を含む東南アジア海域などで頻発する海賊事件に対処するため、日本は、2000年4月に「海賊対策国際会議」を開催しましたが、この会議の結果を受け、日本の海上保安庁がマ・シ海峡沿岸国を含む東南アジア各国に対し、海賊対策に係る様々な支援措置を実施しています(第VI章「マ・シ海峡の海上治安対策」参照)。なお、この支援措置の中には、日本財団と協力して実施するものも含まれています。現在のところ、海峡利用国の中でこのような協力を行っているのは日本だけです。
 
日本では、かなり以前から認識されていました。
■日本での利用者負担問題に対する認識は、マ・シ海峡の航行安全問題に対する懸念から発展したものである。特に、同海峡における大型船舶の航行安全問題に対する懸念は、1967年(昭和42年)3月18日、英国南西岸沖のSeven Stones Reefで発生したトリー・キャニオン(Torrey Canyon)号(11万8千重量トン)の座礁・原油流出事故、また、同年4月4日、マ・シ海峡メダン岬(Tg. Medang)沖で発生した東京丸(15万9千重量トン)の底触事故を契機として、飛躍的に増大した。
 
 日本では、昭和40年代に入って経済の高度成長が加速し、エネルギー消費量が増加するに伴い、中東原油をマ・シ海峡経由で日本へ輸送する原油タンカーが大型化した。マ・シ海峡の通航に際して当時使用されていた海図は、1930年までの英国及びオランダの測量に基づき、1936年までに発行された両国の海図を基礎にして作成されており、大型船の運航にとって必要な水深20m付近までが正確に表示されていなかった。これらの海図は喫水が20mを超える巨大タンカーが使用するには不適当な海図であった。この結果、これらの船舶の運航は経験と勘によってなされており、これらの船舶の採用した航路は、公開されないことが多かった(財団法人マラッカ海峡協議会『マラッカ・シンガポール海峡航路整備事業史』(1978年)1-2頁)。
 
 日本は、1967年(昭和42年)、マ・シ海峡の大型船舶の航行安全環境を改善するため、国際海事機関(IMO)の前身である政府間海事協議機関(IMCO: Inter-governmental Maritime Consultative Organization)第4回航行安全小委員会において、マ・シ海峡の航路指定及び関連する措置に係る提案をシンガポールとともに行った。同小委員会は、マ・シ海峡の航路指定についての緊急の必要性を認めたが、その前提条件として、水路調査の実施、航路標識の設置を提示した。なお、当該水路調査の実施や航路標識の設置にあたっては、海峡沿岸3カ国が相互に、また、海運利害を有する諸国と協力することが望ましいとされた。
 
 この提案に関し、海峡沿岸国であるインドネシアは原則賛成はしたが、いかなる状況においても、領海における国家の権利と保全を妨げてはならないこと、インドネシアは自国領海の航行安全を確保する責任を十分自覚していること、について言及した。また、航路指定の前提条件として提示された水路測量の実施や航路標識の設置などの費用については、現段階又は予見し得る将来において負担することはできない旨述べた。
 
マラッカ海峡協議会を設立
■「マラッカ海峡協議会」は1968年(昭和43年)7月、任意団体として設立され、設立の日より日本政府施策に協力し、活発な事業活動を遂行してきた。その後、民法34条に定める公益法人に改組されることになり、昭和44年3月18日、運輸大臣に認可申請書を提出し、昭和44年3月29日認可され、昭和44年4月5日、財団法人マラッカ海峡協議会として登記手続きを完了した。(財団法人マラッカ海峡協議会『マラッカ・シンガポール海峡航路整備事業史』(1978年)11頁)
 
 一方で、マ・シ海峡沿岸3カ国も、1994年の海洋法条約の発効、これに前後する各国の同条約の批准(加入)を契機に、利用者負担問題をテーマとした各種国際会議を開催し、本件に係る海峡利用国の関心を高める努力を行っています。これらの一連の会議の中で、利用国負担問題に関するいくつかの論点が明らかにされました。その論点とは、利用国の範囲、第43条の規範性(協力は義務か)、協力に関する原則、協力の手法、資金調達メカニズム、管理機構の要否・構成、IMOの役割等です。これらは、いわば協力の哲学に関するもので、現在のところ、具体論には至っていません。
 
 この章では、利用国負担問題に関するこれまでの主要な議論を概観し、新しい要素であるセキュリティー問題の本件への潜在的影響について考え、更に、他の国際海峡における管理制度にも言及しつつ、海峡沿岸国と利用国との協力に関する原則や今後の方向性について考察します。
 
 
A 利用国負担問題に関する主要な議論
 
 利用国負担者問題に関する議論は、下記のとおり、専ら、海峡沿岸国のシンクタンクなどが主催する国際会議や沿岸国3カ国の政府間技術専門家会合(TTEG)で行われています(下記の会議名及び主催者を参照)。
 
1995年1月 「マラッカ海峡に関するワークショップ」
マレーシア海事研究所(MIMA)
1996年9月 「マ・シ海峡における航行安全と汚染防止に関する会議」
シンガポール政策研究所(IPS)及びIMO
1996年11月 「海洋汚染防止のための持続的資金供給メカニズムに関する会議」
PEMSEA
1999年4月 「マラッカ海峡国際会議」
プトラ大学マラッカ海峡研究開発センター
1999年10月 「マ・シ海峡における国連海洋法条約第43条の実施に関する会議」
シンガポール政策研究所(IPS)及びIMO
2001年3月 「沿岸国3カ国の政府間技術専門家会合(TTEG)」
 
 各会合で指摘された主要な論点は次のとおりです。
 
1. 「マラッカ海峡に関するワークショップ」(1995/01)
 
・IMOの主導の下ですべての利用者を集めて資金調達を議論すべき。
・沿岸国がIMOに対して新たな「マラッカ海峡協議会」の設置を提案すべき。
・トルコ海峡におけるモントルー条約にある役務提供料金の制度を参考にすべき。
 
2. 「マ・シ海峡における航行安全と汚染防止に関する会議」(1996/09)
 
・海洋法は外国船の領海通過に対する課徴金を禁じているが、特定の役務の対価としての課金は認められ、通過に対する課徴金も第43条の合意があれば可能。
・海洋法第43条の義務は強制的なものでなく、いわば勧告的なもの。
・海洋法第43条の「海峡利用国」の定義を明確化すべき。
・航行安全確保と海洋汚染防止に関する沿岸国の負担を、日本以外も含めたより広範な国際協力によって共有すべき。
・日本が汚染防除のため設置した回転基金を拡大発展させることも1つの方法。
・国際協力体制においても沿岸国の主権ないし海峡の管理権が尊重されるべきである。
・国際協力体制の構築に当たってはIMOが関与することが望ましい。
 
3. PEMSEA「海洋汚染防止のための持続的資金供給メカニズムに関する会議」(1996/11)
 
 会議自体は、東アジア海域における海洋環境の保全全般に関するものでしたが、その中でマ・シオ海峡問題に関連する指摘事項は次のとおりです。
 
・航行安全対策は海洋環境対策より複雑な仕組みが必要。
・資金調達方式を考える以前に、海峡の便益享受者間での合意が必要。
・国際協力のための信託基金を設定することも1つの方式。
・沿岸国は、利用国との対話に入る前に、海峡の管理権をどの程度国際社会に開放するか、資金をどのように集め、使うかを決めるべきである。
 
4. IPS/IMO「マ・シ海峡における国連海洋法第43条の実施に関する会議」(1999/10)
 
・協力基金は国際的組織によって管理されるべきである(シンガポール)/でない(インドネシア)。
・マレーシアは航行安全対策に多大の投資をしているにもかかわらず、マラッカ海峡の通航からそれに見合うほどの便益を受けていない。
・シンガポールは国際的な合意があれば、新たな基金に対しても応分の負担をする。
・海洋法第43条の「海峡利用国」には、旗国、輸出入国、それらの国の国民、法人、船主、海上保険会社、石油会社等が含まれる。
・資金調達メカニズムは、海洋法と整合的で、公平で、対策費用に見合っており、IMO及び国際的基準に適合し、利用者負担の原則に基づいていなければならない。
・海洋法第43条により、利用国は少なくとも沿岸国と対話に入るべき責務を負っているが、働きかけは、沿岸国からなされるべきである。
・海洋法第43条の合意の形成に際して、IMOがどのような役割を果たすべきかについてのコンセンサスが必要である。
 
5. TTEG責任分担WG報告(2001)
 
・利用国・利害関係者による資金協力の可能性のあるプロジェクトとして、(1)シンガポール海峡TSSに浚渫による拡張・直線化、(2)ロンド島、ブルハラ島、ジャンボアイ岬へのTSSの延長、(3)AIS地上局の設置、(4)航路標識の遠隔監視システム、(5)沈船除去、(6)水路再調査の6つが挙げられる。
・資金協力の可能性のある国等としては、(1)旗国、(2)船主国、(3)輸出入国、(4)船種別の海運団体(INTERTANKO、INTERCARGO、SIGTTO、ICCL等)、(5)OCIMFのようなその他の直接関連団体が挙げられる。
・任意による資金協力を促進するために、プロジェクトは、実行可能で、海峡の利用者にとって明白な利益があり、既存の対策と重複しないことが必要である。
・また、IMOとの共催による利用国会議を開催する前に、中国や韓国といった資金協力の可能性のある国・者に対する周知のための会合を開くことも考えられ、それは日本ないし日本財団との共催としてもよい。利用国会議の場所はシンガポールが適切である。


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