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マラッカ・シンガポール海峡の情勢 2004

 事業名 海上安全に関する国際情報収集活動
 団体名 日本海難防止協会 注目度注目度5


D 「協力する」について
 
1. 法的拘束力
 
 第43条には、「協力する(should co-operate)」と規定されており、条約上の義務規定であるところの「協力しなければならない(shall co-operate)」とは規定されていません。このことは、一見、沿岸国にとっては、不利なように感じられますが、過去の経緯を考えた場合、沿岸国と利用国の双方にとってバランスの良い規定ぶりになっていると考えられます。
 
過去の経緯を考えた場合
■マ・シ海峡における相次ぐ大型原油タンカーの海難事故を受け、1970年、日本はマ・シ海峡の国際管理に関する提案をIMCOに行ったが、沿岸国、特にインドネシアとマレーシアの反対にあった。インドネシアとマレーシアが懸念する点は、マ・シ海が沿岸国の領海であるにもかかわらず、将来的には国際共同管理の海峡となってしまう、ことである。この第43条に基づく協力が利用国の義務だとした場合、この義務規定を根拠に、海峡利用国が早急な協力体制(海峡の共同管理を含む)の構築を沿岸国に迫るという懸念も海峡沿岸国は持っていると考えられる。
 
 なお、沿岸国が1カ国の場合と、複数の国がある場合、当該沿岸国間の国際的な協力関係の構築については、同条約の中で規定されていませんが、これは、利用国との国際協力を構築する上での当然の前提として考える必要があります。
 
2. 協力の形態
 
 国際協力の形態には様々なものがあります。この形態は、協力の主体、客体がどのような組織なのかによっても異なってきます。マ・シ海峡については、協力の客体については航行安全対策や海洋汚染防止対策を講じている沿岸3カ国であることは間違いないのですが、協力の主体については、利用国政府、非営利の民間団体、海運会社や荷主等の私企業や業界団体、国際機関など、様々な可能性があります。
 
 利用国政府からの協力は、資金供与、技術協力・人材育成が中心になると考えられ、民間企業である場合には、サービス対価の支払い、基金への出資といった金銭的協力が中心になると考えられます。非営利の民間団体による協力は、その団体の設置目的により様々な形態があり得ます。マラッカ海峡協議会が日本財団等の支援を得て行ってきた、灯台・ブイなどの航路標識の維持整備、設標船の寄贈(以上は現物の供与)、油流出対策のための回転基金の設置(資金の提供)は、海洋法条約成立以前から第43条の趣旨を先取りした協力形態として、極めてユニークなものと考えられます。
 
3. 協力の程度
 
 協力の程度に関する問題とは、どの程度まで沿岸国に協力すべきであるか、という問題です。マ・シ海峡の海上交通路としての機能を維持するため、最低限行わなければならない事項、国際条約上の義務を履行するために行わなければならない事項など、いろいろな程度が考えられます。どの程度まで海峡の安全性を向上させる必要があるのか、については、マ・シ海峡の潜在的な危険性を考慮する場合、かなりの程度まで、様々な対策が講じられる必要があると考えられます。
 
 
F 協力事項
 
 43条の各項は、海峡利用国と海峡沿岸国が合意により協力をする具体的な事項について規定しています。
 
 (a)項の協力事項について簡単に言うと、「国際航行に資する改善措置(improvements in aid of international navigation)」ということになります。具体的には、当時想定されていた典型的な改善措置として、「航行のために必要な援助施設の設定及び維持」及び「安全のために必要な援助施設の設定及び維持」が例示的に示されています。なお、具体的にどの事項が前者に該当するか、あるいは後者に該当するかについては、区別されることによる効果が異なってくる等の事情もないのですが、あえてここでは、今回の考察の意義に鑑み、区別して考えてみることにします。なお、この規定には、「海峡における」という地理的な限定が付されています。
 
 (b)項の協力事項については、特に、マ・シ海峡の海洋環境保護分野における協力事項ということになりますが、汚染源となり得るものがたくさんある中で、特に、船舶からの汚染というものに焦点をあてた協力事項となっています。なお、この規定には、(a)項にあるような「海峡における」という地理的な限定は付されていません。
 
 なお、先にも述べましたが、(a)項及び(b)項に該当しない協力事項であっても、海峡沿岸国と海峡利用国とが合意をすれば、どのような協力事項でも実施可能であり、この第43条は、協力事項を各項に規定されるものに限るという趣旨ではありません。
 
1. 航行のために必要な援助施設の設定及び維持
 
 航行のために必要な援助施設(navigational aids)の最も典型的なものは、灯台、灯標、ブイ等の航路標識です。本項では、それらの航路標識の設定及び維持(establishment and maintenance)を協力事項の一つとして掲げています。
 
2. 安全のために必要な援助施設の設定及び維持
 
 「安全(safety)」とは非常に広い概念ですが、上記の「航行のために必要な援助施設」以外の「安全のために必要な援助施設」としては、船舶海難が発生した場合に、迅速かつ適切に救助活動が実施されるための調整業務を行なう「海上捜索救助調整センター(MRCC: Maritime Rescue Coordination Center)」などの施設がこれに含まれると考えられます。
 
 また、昨今のマ・シ海峡においては、いわゆる海賊事件が多発しており、現在、日本や東南アジア諸国を中心として外交的な協議が行われている「アジア海賊対策地域協力協定」の中で設置が検討されている「情報共有センター」などもこの中に含まれると考えられます。もっとも、同センターの活動対象とする海域は、特に、マ・シ海峡には限定されてはいません。
 
3. 「国際航行に資する他の改善措置の設定及び維持」
 
 先にも述べましたが、「国際航行に資する改善措置(improvements in aid of international navigation)」の具体例として、当時想定されていた典型的な改善措置であったところの「航行及び安全のために必要な援助施設」が挙げられています。第43条のこの部分は、「航行及び安全のために必要な援助施設の設定及び維持」には含まれない改善措置を網羅的に包括するための規定であると考えられます。
 
 「援助施設(aids)」という文言からは、建物、施設、といったものを想起しますが、「改善措置(improvements)」という文言からは、建物、施設の設置のみならず、サービスの提供など、船舶の国際航行に資する改善のための措置、方策などであれば、全て含まれると考えられます。具体的には、安全な航行に資する事業、例えば、沈船除去、浚渫等の実施、水路測量、航路標識の設定及び維持に係る人材育成事業についても、全てこの範疇に含まれると考えられます。
 
 以上については、第43条の規定ぶりから理解できる一般的な解釈ですが、シンガポール大学のローバート・ベックマン教授他が指摘しているように、この「改善措置」には、現在、マ・シ海峡で頻発する海賊事件や海上テロ事件への対応も含まれるとする考え方があります。
 
 もっとも、第43条の規定が議論されていた当時は、このような海上治安問題に係る協力は想定されていなかったと考えられますが、当該協力がマ・シ海峡の国際航行に資する改善措置である以上、当該問題に係る協力事項を第43条の協力事項から排除する理由はありません。ただし、この種の協力を実施していくには、沿岸国の主権に適切に配慮した方法が取られる必要があります。そもそも、この条文の趣旨は、ある海峡が沿岸国の領海で占められていたとしても、その海峡が公海等の一部と他の部分とを結ぶ実質的に唯一のものである場合は、沿岸国がその領海に及ぼす領域主権の絶対性より、当該海峡における船舶の通過通航という国際社会の利益を優先し、特別の通航制度を制定すること、ただし、当該海峡が国際社会に利益を生むものである以上、沿岸国のみにその海上交通路としての機能維持に係る負担を強いるのは理不尽であり、利益を得る者も沿岸国に協力し、合意ベースにより当該海峡の機能維持を行っていこうとするものです。そして、その機能維持の典型であるのが、船舶が安全に航行するための諸々の施策です。しかしながら、昨今のマ・シ海峡においては海賊が頻発しており、また、最近においては、海上テロの可能性も指摘されているなど、これまでの伝統的な航行安全対策のみでは、海上交通路としての海峡の機能を維持することができなくなっています。
 
 ここで問題となるのは、航路標識の建設のような協力プロジェクトは、建設後、沿岸国に管理を任せるなどにより、あまり沿岸国の主権を意識することなしに行い得るものですが、海上治安問題に関する協力に関しては、場合によっては、著しく、沿岸国の主権を脅かすものになり得るということです。例えば、利用国の海上治安機関の船舶が、マ・シ海峡において海上治安活動に従事するという協力は、沿岸国にとっては、合意が困難な協力内容であると考えられます。一方で、沿岸国の海上治安機関に専門家を派遣する、当該機関の職員の人材育成を行う、当該機関と連携訓練を行う、などについては、十分合意できる協力事項であると考えられます。実際、特に第43条に基づく協力という意識は関係者間にはないものの、この範疇に含まれ得ると考えられるものとして、日本の海上保安庁や日本財団が実施する海賊関連の一連の協力事項があります。
 
4. 「海峡における」の持つ意味
 
 以上のような協力事項について、第43条の枠組みの中で行われる以上、厳密には、マ・シ海峡の一般的な地理的範囲内ではなく、その中でも、国際海峡と考えられる場所、つまり、通過通航が認められる海域内で行われる協力事項に限られる必要があります。しかし、協力事項の性格上、その効果が海峡内に止まらないものがあり、特に、人材育成などについては、その効果を海峡内に止まらせることが困難、かつ不合理であると考えられます。従って、この規定においては、「海峡における」という限定的な文言はあるものの、特に、地理的範囲には拘る必要がないように思われます。ただし、沿岸国がマ・シ海峡の非常に広範囲における必要以上の協力を求めてくる場合などには、改めて、この43条の規定の「海峡における」という文言の趣旨を厳密に考えてみる必要があります。
 
5. 「船舶からの汚染の防止、軽減及び規制」
 
 この協力事項については、(a)項のように、「海峡における」という限定がありません。その理由として考えられるのは、海洋汚染対策は、その性格上、人為的に特定の海域内にその効果を限定することが困難な分野である、ということがあります。例えば、海峡内に暗岩が存在しているような海域にそれを示す航路標識を建設するような場合、その効果は、その海域に止まることになります。一方、海峡内のある港に油防除資機材を備蓄する場合、海峡外での油汚染事故に対し、当該資機材を使用することは禁止するということは、緊急事態における措置としては不合理となります。反対に、海峡外で発生した油流出事故によって海峡内が汚染されるような場合に、その対策が協力の対象とならないとするのも適当ではありません。また、沿岸国の海洋汚染担当官を対象とした研修を実施する場合についても、その研修で得られた知識は、他の海域における海洋汚染防止活動には使用してはならない、とするのは非常に不合理であると考えられます。
 
 次に船舶からの汚染に限定している理由ですが、国際海峡においては、通過通航という特別の制度が認められていますが、この通過通航の主体が船舶である以上、通過通航という特別の制度を創設することにより新たに生じる危険性のある船舶からの汚染については、利用国も責任がある、という考えに基づいているからであると考えられます。従って、海峡の海洋汚染原因となるものは、船舶起因のもの以外にも、陸上に起因するものもあるはずですが、後者については、専ら、沿岸国の責任で対処すべき事項ということになります。
 
 なお、「防止」、「軽減」及び「規制」に係る事項については、とりわけ、これが「軽減」にかかるものであり、これが「規制」に該当するものである、というような分類は意味がないと考えられます。


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更新日: 2020年3月21日

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