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5. バラストタンク塗装に関する調査研究
5.1 IMOにおけるバラストタンク塗装性能基準に関する動向
5.1.1 IMOの動向
 バルクキャリアの二重船側部分の塗装に関して、IMOにおいて塗装の基準を定める事が決まっており、当該基準が採択された場合には、今後、同基準がバルクキャリアの二重船側部に対する塗装基準としてだけでなく、バラストタンクの塗装基準として採択される可能性がある。このため、塗装WGを立ち上げ、バラストタンクの塗装に関する調査を開始した。
 MSC79においては、バルクキャリアの二重船側部分にIMOで定める基準に適合する塗装を施すべきとの規定(SOLAS12章6.3規則)について、我が国から、現時点において当該塗装基準が定められていないため削除を求めたが、多数の国から、当該基準は今後IMOで検討することが決まっており何らかの規定は残すべきとの意見が出された。その結果、IMOで塗装の強制基準ができるまでの間は各国が受け入れ可能な塗装基準を参照することとの規定が残った。また、IACS提案(MSC79/3/8)によって当該塗装基準はバラストタンクにも適用されることとなった。
 当該基準は、DE48(2005.2.21〜25)で本格的に検討されることが決定され、IACS-Industry Joint Working Groupで検討された塗装基準がDE48に提案された。
 
5.1.2 DE48の審議結果
 2005.2.21〜25日かけて開催された第48回設計・設備小委員会(DE48)の議題12において、具体的な審議が開始された。
(1)全般
 最初に議長から、本件はターゲット・デートが2006年であるし、詳細な専門的議論が必要であることから、コレスポンデンス・グループ(CG)を設置して検討を進めていくこととし、今回はジェネラルな議論を行いたい旨の提案があった。これについて特段の反対意見はなく、その通り進められることとなった。
(2)本件のスコープについて
 本件は、将来的にはバルカーの二重船側部と海水バラスト・タンクだけでなく、全船種のバラスト・タンクとボイド・スペースにマンダトリーに適用されるようになるだろうとの見方がノルウェー、希、パナマ、独、ICS、インタータンコ等から示され、我が国もこれに同調した。韓国はこの考えについて慎重であるべきとの姿勢を示したが、本件に関しては、本小委員会からMSC80に諮ることとなった。
(3)ターゲット・ユースフル・ライフについて
 ターゲット・ユースフル・ライフを15年とすることについてはどの国からも異論は出ず、各国合意した。15年とすることを明示的に支持した国は、我が国、英国、希、パナマ、独、仏、マーシャルであった。
(4)代替手段について
 我が国提案にあるオルタナティブ・プロシージャ(代替手段)については、有用なものであるとの考えが希等から示され、各国の支持が得られ、CGの中で検討することとなった。
(5)ベリフィケーション・スキームについて
 ベリフィケーション・スキームについて、どこが主体になるべきかについての議論では、英国が、Standard Organizationが扱うべき事柄であって主管庁又はROが行うことについて難色を示し、それに対し我が国は主管庁又はROが行うことを提案したが、我が国の意見に同調したのは独、バハマ及びインタータンコのみであった。具体的な内容については、CGで検討するべきとの考えが英国、独、ノルウェー、パナマ、韓国、仏、希から示された。
 これに関連して、我が国から提案したコーティング・テクニカル・ファイル(CTF)について議論され、英国、希を始めとして有用なものであるとの意見が多く出されたが、内容については
(6)プライマ除去の是非について
 希、英国及びインタータンコは、DE 48/12にあるプライマの取り扱い(70%除去)は永年使ってき業界の標準であるが、それ以外の方法でも同等性が立証されるならばDE 48/12の4章に規定されるオルタナティブとして認められ得るとし、CGで検討したい旨発言した。なお、インタータンコは、DE 48/12/3の内容については疑念がある旨発言した。
(7)CGの設置について
 CGの設置は、冒頭に議長から提案されたものであるが、これについて特段の反対意見はなく、設置することで議場内合意した。小委員会からCGに付託された事項(TOR)は以下の通り。
−IACS等から提出された案をベースに、我が国及び韓国の提案も勘案しつつ塗装性能基準を策定すること。
−塗装基準に適合していることをいかにして効率的に確認するかについて検討すること。
−プライマを除去しない塗装と70%除去した塗装が同等であることについて確認手法も含め技術的に検討すること。
−我が国が提案した、塗装に関する技術情報を船上に保管することを目的とするコーティングテクニカルファイルの詳細について検討すること。
(8)CGのコーディネータについて
 我が国と希はコーディネータを引き受ける旨提案したが、議長は中国が務めることを提案し、特段の反対意見が出されなかったため、中国が務めることとなった。
(9)日本提案に対する各国の反応
 ロシアが明示的に支持を表明したほか、我が国の提案がグレードを下げることは意図するものではなく、透明性のあるテスト、ベリフィケーション・システムに基づくオルタナティブによってIACS提案のレベルの達成を意図するものである、という基本的な姿勢は概ね理解された。
 
5.2 バラストタンク塗装基準に関する調査
 IACS-Industry Joint Working Groupにおける検討で、塗装の性能基準に関して、TSCF(Tanker Structure Co-operative Forum)のバラストタンクの15年塗装仕様(参考資料1)をベースに議論されているとの情報がもたらされた。同仕様は、塗装回数を固定的に規定する等、塗装の性能だけでなく施工に関する仕様まで細かく規定していることから、我が国造船業に与える影響が大きいことが懸念された。このため、塗装WGにおいて、以下の調査を実施し、IMO(DE48)に対して、5本の文書を提出した。
 
5.2.1 TSCF15年塗装仕様の問題点の把握
 RR-R6「バルクキャリアの安全」の中でNKの実施したTSCF15年塗装仕様に対する問題点の調査結果が、第1回の塗装WGにおいて安全基準課より紹介され、当WGにおいても当該仕様が強制化された際の問題点を共通の認識とした。
 
第1回RR-MP1塗装WG資料
WG-1-5 3-8 国内主要造船所が考える塗装スペックTSCF15年強制化の問題点
WG-1-6 3-9 国内主要造船所が考える塗装スペックTSCF15年の各項に関する問題点
WG-1-7 3-10 国内主要造船所のTSCF15年に対する全体的な意見
 
5.2.2 塗装に関する規格の調査
 舶用塗料に関するISO等の規格の調査を実施した。
 結果として、ISO、JIS等においては、舶用塗料に関する規格は、現行では存在していないこと、塗装に関連する指針としては、例えば「塗装前鋼材表面処理基準(日本造船協会、1984年板)、「新造船塗装検査基準(日本造船工業会、昭和59年3月)」、「船舶の腐食防止対策指針(日本海事協会、1986年)」、「Guideline of Painting Procedure for VLCC ballast Water Tank(日本造船工業会、October 1993)等があり、これらや、塗料メーカによるmanufacture's requirement等に基づいて現場での施工が行われていると推測された。
 その他、ブラスト処理のグレード等、塗装に関連するISO等に関する調査を実施し、TSCFの塗装仕様に関連する項目を中心に、資料5-1にまとめた。
 
5.2.3 TSCF15年塗装仕様に関する環境負荷の調査
 TSCFの塗装仕様は非常に細かく施工に関する手順等も規定している。例えば、施工時における発錆を防ぐ目的で塗布されているショッププライマーを例え健全な状態であってもブラストにより処理することや塗膜厚だけでなく塗装回数までも指定していること等である。これらは、環境負荷の増大を招く可能性があるため、当WG内で造船所に対するブラストの廃棄量及び塗料の使用量に関するアンケート調査を実施した(資料5-2、5-3)。
 結果、ブラストの廃棄量として現行の廃棄量と比較して、TSCF15年仕様で施工した場合、各造船所により施工法が異なるためバラツキはあるが、およそ2倍から7倍の廃棄量増加になるとの結果を得た。また、塗料の使用量に関しても同じ塗装膜厚を施工するのにも2回塗りの方が、使用量が増大する可能性が高いことが判った。
 塗装の2回塗りを強制化することは、現在開発中の低VOC型の塗料(VOCなどの有害物質の排出が少ないだけでなく、1回の塗布による塗料の付着量が多いことから1回塗りによる厚膜の施工が期待できる。)の開発意欲の低下や実際に開発された際の普及の阻害等が懸念されるので、こういった新技術への配慮も十分に考慮に入れた上で検討されるべきである。
 
5.3 IACS-Industry Joint Working Group提案への対応
 2004年11月、IACS-Industry Joint Working GroupがIMOに対して塗装の性能基準に関するドラフト(DE48/12、資料5-4)を提出した。このドラフトは、TSCF15年仕様をベースとしたものであり、我が国としては、次のような基本方針の基づき、5本の文章を作成し、IMOに提出した。
 
5.3.1 日本の基本的な方針
1)IACS等による提案に対する見直しの視点と具体的な改正案を提案する。
2)IACSその他Industryの機関が短期間に塗装基準案をまとめた努力を多とする。
3)提案の基準案を慎重に検討したところ、将来、強制基準とすることを考慮すると、以下の見直しを行う必要がある。
(1)IACS等の提案のCOATING STANDARDは、環境にunfriendlyな部分があるので、当該部分は日本が提案する代替基準案とすべき。
(2)IACS等の提案のCOATING STANDARDは、specificで問題。Innovationを取り入れやすい基準とすべき。このため、塗料と下地処理に関する標準試験ガイドラインを作成すべき。
(3)Validationの実効性を確保するため、具体的なvalidationガイドラインを作成すべき。
(4)Repair, maintenanceに資するため、documentationに関する具体的な基準を設けるべき。
 
5.3.2 DE48に提出の日本提案
 上記、方針に基づき、当WGで調査・検討した結果、以下の5本の提案をIMOに行った。
 
1)塗装の性能要件に関するコメント(定義とドキュメンテイション)(資料5-5)
 当WGの議論に基づいて、以下の内容の文章をIMOに提案した(DE48/12/4)。
 
1. 本年12月のIMO第79回海上安全委員会(MSC79)において、海上人命安全条約(SOLAS条約)附属書第XII章の改正が採択され、長さ150メートル以上のばら積み貨物船の2重船側部と海水バラストタンクは、IMOが作成する塗装性能基準(強制基準ではない。)に基づいて塗装する旨規定された。
 
2. 今次設計設備小委員会では、国際船級協会連合と海運関係国際NGOが合同して作成した塗装基準案について審議されるところ、本提案文書は、当該基準案に対する我が方コメントを提出するものである。なお、本件塗装基準は近い将来強制基準とすると思われ、我が方コメントは、それを見込んで当該基準案の全般に及んでいるので相当な分量となるが、このタイミングで提出することができる文書の分量は4ページに限定されるので、事項ごとに5つの文書に分割して提出することとしたい。
 
3. 本提案文書は、塗装に関してメーカーや造船所などからの技術情報をとりまとめた「コーティング・テクニカル・ファイル」を作成して船上に備え置き、塗装の補修や修理に役立てること、その他定義規定の編集上の修正などを提案している。
 
2)塗装の性能要件に関するコメント(塗装性能要件各論)(資料5-6)
 当WGの議論に基づいて、以下の内容の文章をIMOに提案した(DE48/12/5)。
 
1. 本提案文書は、国際船級協会連合と海運関係国際NGOが合同して作成した塗装基準案中「塗装性能要件」の部分について、各論の修正提案をまとめたものである。
 
2. 本件修正提案は、塗装要件の強化は支持するが、原案は低VOC(揮発性有機化合物質)塗料の普及を妨げるような規定があるなど、一部環境への配慮に欠けた規定があるため、当該部分の修正を行うことを主な内容としている。
 
3)塗装の性能要件に関するコメント(塗装性能要件各論)(資料5-7)
 当WGの議論に基づいて、以下の内容の文章をIMOに提案した(DE48/12/1)。
 
1. 本提案文書は、国際船級協会連合と海運関係国際NGOが合同して作成した塗装基準案中「検査と判定要件」の部分に対する修正提案をまとめたものである。
 
2. 原案は業界標準をベースに作成されているため、技術的にはしっかりした内容となっているが、認証スキームに関する部分が貧弱な内容になっている。
 
3. そこで、本提案文書は、原案の検査・判定基準部分を全部取り替え、型式承認の導入と、工程ごとにどのような検査を行わなければならないかを具体的に規定する等を内容とする修正提案を行うものである。
 
4)塗装の性能要件に関するコメント(塗装のテストガイドライン)(資料5-8)
 当WGにおいて、バラストタンク用塗料に関する耐久試験に関する文献調査及び塗料メーカーに対する聞き取りの結果、塗料の耐久試験としては、温度や塩分濃度と言ったある特定の塗装劣化要因に関する促進試験は、種々研究・検討されているが、バラストタンク内のように種々の劣化要因が混在しかつ場所により異なるようなものを一度に評価するような耐久性試験としては、現行では、TSCFのガイドラインにも引用されている、マリンテックの試験法(参考資料5)が最も一般的かつ信用されているとの結果を得た。このため、当該試験法を調査し、これをベースに塗装に関するガイドラインを作成し、以下の内容の文章をIMOに提案した(DE48/12/2)。
 
1. 本提案文書は、国際船級協会連合と海運関係国際NGOが合同して作成した塗装基準案中「同等措置」の部分について修正提案を行うものである。
 
2. DE48/12/1の型式承認を行う時や塗装の同等措置を認める時には、国際的に合意された試験方法を開発することが必要である。本件提案文書はその方法のたたき台を提案するものである。
 
5)塗装の性能要件に関するコメント(プライマー除去不要論)(資料5-9)
 当WGにおいて、日本造船技術センターが石油公団からの依頼により実施したタールエポキシ塗料の耐久試験の結果に基づいて、塗料と相性の良い健全なショッププライマーの有無は、塗装の耐久性には影響が無いとする、以下の内容の文書をIMOに提出した(DE48/12/3)。
 
1. 本提案文書は、国際船級協会連合と海運関係国際NGOが合同して作成した塗装基準案では、工作途中の錆を防止するために塗布する「プライマー」を、健全な状態であっても、70%除去する内容となっている(原案の3.3.d)。しかし、現在の我が国造船所の標準的な施工では、プライマーを残したまま本塗装を行っており、プライマーを除去することは大変な負担を生じせしめる。
 
2. プライマーと相性のよい塗装剤であれば、プライマーを除去した場合と同等以上の防食性能を有するため、このことを実験的に証明するデータを添えてIMOに提出し、プライマーを除去する基準の改正を主張するものである。







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