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4.5 メンテナンス基準案
 現行基準の調査及び船主への現状調査の結果を踏まえ、船体強度が、一生涯に渡り、安全に維持管理される方策を検討した。その結果、以下について、条約上なんらかの規制を行うことが必要であると考えられる。
(1)船体補修履歴の船上保管
(2)切替え基準
(3)状態評価手法の確立
(4)船主による自主メンテナンス計画の保持と確実な履行
 
(1)船体補修履歴の船上保管
 設計においてGBSで達成すべき強度が確保されていたとしても、補修工事(大規模な塗装工事を含む)が不適切であれば、補修箇所を起点とした損傷が生じ、折損事故や大規模油流出を招く恐れがある。そのことを回避することために、適切な補修の実行及び確認を目的として、補修の履歴を提出させ船上保管を義務付ける。補修履歴に記載する項目として以下が考えられる。
・補修年月日
・補修時期(船齢)
・補修を行った造船所(事業所)名
・補修時の船級名
・補修時の船主/運航管理社名
・補修箇所(タンクの種類含む)
・補修の理由(腐食、亀裂、変形 等)
・補修範囲(鋼材量含む)
・腐食の場合、局部腐食か一様腐食か
・亀裂の場合、延性亀裂か疲労亀裂か
・変形の場合、波浪荷重によるものか、接触事故によるものか
・切替え補修の場合、切替え板及び元板のグレード、板厚、接合部の塗装仕様
・補修箇所の写真(補修前、補修後)
 
(2)切替え基準
i 腐食衰耗
 GBSで、ネットスキャントリングの考えに基づいて、最低限確保すべき強度が明示された場合、一生涯に渡り船体構造強度がそれを下回ることの無いよう、衰耗限度を示す必要がある。現行の基準・規則では、
全体強度 ⇒ 縦強度が規則要求値の90%以上(タンカーESP)
局部強度 ⇒ 各船級規則による数値で、一般に対象部材によって異なる
となっているが、今後のIACSの作業で統一タンカー・バルカー規則(CSR)による腐食予備厚が統一されることで、衰耗限度の統一化が図られると思われる。また、衰耗限度の考え方は、残存板厚が、ネット寸法プラス次の検査までの間(2.5年)に想定される腐食量とで、バルカーCSRでは、その値を0.5mmと規定している。0.5mmが妥当であるか否かは2.5年の間に行われるメンテナンスに大きく影響するため、この数値はメンテナンス基準を検討する上で重要な数値となる。
ii 変形
 変形に対しては、船級規則にはなっていないものの、NKでは、部材板厚の2倍あるいは25mmのいずれか大きい凹損(大曲については4倍あるいは50mm)で切替えるべく指針を与えている。
iii 疲労亀裂
 どのくらいの亀裂長さや深さならば切替えよといった考えは船級規則に無く、ESPの詳細検査(Close Up Survey)で亀裂を発見した場合は、補修することが原則となっている。
 
(3)状態評価手法の確立
 主要船級では、船殻保全サービスを開始している。また、オイルメジャーは、船主に対し、旗国の検査とあわせて船級のCAP(Condition Assessment Program)を要求しており、経年船の状態評価は確立しつつあるといえる。
 現状では、優良な船主がその適合を受けているが、これをサブスタンダード船の排除のために活用する方策を考えることが望ましく、例えば設計寿命25年以降の延命を図る際に、現在および過去の船体状態をベースとして判定すること等が考えられる。
 現状では、油タンカーにおいて船齢10年以降の定期/中間検査で縦強度(断面係数)を評価判定し、これを船上に常に保管する仕組みは確立しているが、それと併せて、就航履歴(海域、海象含む)、(1)の船体補修履歴(塗装含む)等の情報を判定に取り入れることで、経年船の持っている構造リスクを明確化する。
 状態評価を行うための項目及び指標の示し方については今後検討する必要がある。
 
(4)船主による自主メンテナンス計画の保持と確実な履行
 船の安全管理の条件として、一定レベルの自主的メンテナンス計画の保持と確実な実施を前提とするような規定を設ける。一定レベルの自主メンテナンス計画を、船体保守マニュアルを参考にStandards for Maintenance procedureとして示す。本基準はGoal based Standardsで引用されるものを想定する。また、メンテナンス計画はISMコードのSMSマニュアルに含まれるものとするか、若しくは同様のスキームを船体メンテナンスにも導入し、一定期間ごとに見直すことを原則として考える。
 
表−4.4.1(1) 船体保守管理に関するアンケート調査結果
(拡大画面:259KB)
 
表−4.4.1(2) 船体保守管理に関するアンケート調査結果
(拡大画面:98KB)







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