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2−2. UK海洋管理報告書の構成
 MSRの第一章では、「UK政府の海洋環境管理に対する理念」が説明されている。それに続く各章では現在までに達成された成果がリストアップされ、UKの水域と沿岸地域で行われている、「漁業・養殖漁業」、「湖・船舶輸送」、「港湾活動」、「オフショア石油・ガス採取」、「オフショア再生可能エネルギー開発」など、あらゆる範囲の活動に関する現段階の政策が説明されている。最終章では、「政策策定過程において海洋科学が果たす役割」について解説されている。MSRの章構成を以下に示す。
 
 
「環境・食料・農村大臣によるMSR巻頭の辞」
 
「要約」
第一章
「理念とその実現」
第二章
「海洋の生物多様性の保護」
第三章
「統合的沿岸管理」
第四章
「陸上起因の汚染と海洋投棄への取り組み」
第五章
「海運と港湾の重要性」
第六章
「オフショア事業と再生可能なエネルギーの貢献」
第七章
「持続可能な漁業」
第八章
「気候変動への取り組み」
第九章
「海洋科学の最善利用」
付録A
「理念実現のための主要目標達成の予定表」
付録B
「用語集」
 
 MSRの序章にあたる「要約」では、まず「理念とその達成のための管理アプローチ及びUK海洋環境政策の柱となっている原則」について以下の様に述べられている。
 
●UK政府の海洋環境に関する理念
 清潔、健康、安全、生産的そして生物学的に多様性に満ちた海洋
 
●理念達成のための管理アプローチ
 生態系をベースとしたアプローチ
 
●海洋環境政策の柱となっている原則
(1)持続可能な開発
(2)統合的管理
(3)生物多様性の保全
(4)科学の強化
(5)予防原則
(6)関係者の参画
 
 これらのアプローチと原則については、本報告書2−3節において説明する。
 
 また、MSRの「要約」では、理念の達成に向けた実際的なステップとして、従来の分野毎のアプローチに替わるセクター横断的な新規施策の提案が、MSRに含まれていることが強調されている。「要約」では、新規施策の例として以下が挙げられている。
 
●重要な生息地の保護
 「保全特別区(SAC)」と、「特別保護区(SPA)」を領海(12海里)を超えた地域でも設定することを検討し、2002年中に領海外SAC及びSPAの最初の候補地を発表する。
 
SACとSPA
 生息地指令(Habitats Directive)と野鳥指令(Birds Directive)は、自然保全に関する主要なEU指令である。保全特別区(Special Area of Conservation。SACと略記)は生息地指令に基づき、野生生物の重要な生息地を保護するために指定される。特別保護区(Special Protection Area。SPAと略記)は野鳥指令に基づき指定され、あらゆる種類の野鳥保護を目的とするものである。詳細については、本報告書3−1−2節参照
    
 
●UKにおける海洋保全の改善
 「地域海規模での統合的な自然保全施策をテストするためのパイロットスキーム」を、アイルランド海で実施する。プロジェクトは2002年5月に開始され、2003年12月終了、2004年中に成果発表が予定されている。
 
アイルランド海パイロットスキーム
 海洋自然保護調査(Review of Marine Nature Conservation)による中間報告書(2001年発表)により提言された実験的スキーム。地域海規模で海洋環境管理に生態系ベースアプローチを適用した場合の効果のテストを目的としている。海洋自然保護調査は1999年に、当時の環境・運輸・地方省によって開始されたプログラムで、UKの海洋環境保全と自然保護のための既存システムの効率性評価と改善方法の提案を目的としている。海洋自然保護調査とアイルランド海パイロットの詳細については、本報告書3−1−4−2節及び3−2−2節参照。
    
 
●持続可能性へ向けての取り組み強化
 「欧州委員会(EC)」の漁業における「生物多様性計画(Fisheries biodiversity plan)」実施を促進し、「欧州共同漁業政策(Common Fisheries Policy。CFPと略記)」の見直しにおいて持続性と多様性問題に重点を置く。
 
欧州共同漁業政策:Common Fisheries Policy(CFP)
 多数の国の排他的経済水域(EEZ)が狭い海域内で重複している欧州においては、統一漁業政策が必要とされる。EUの共同漁業政策は1983年に最初の協定が締結された。MSRが発表された2002年は、同年12月に、このCFPの見直しが予定されていた(MSRの発表は5月)。詳細については、本報告書2−3−7節参照
    
 
●統合の推進
 海洋環境に対する空間計画(Spatial Planning)の役割を検討し、UK周辺沿岸地域の既存の海底地図を基にした情報センターを提供する。
 
●活動の効率化
 沿岸地域開発に関する規制のフレームワークを、規制体系の簡素化と海洋環境の保全の視点から見直す。
 
●政府内調整の改善
 政府内各部署間において、海底に影響を与える活動に関しての合意形成の効率化について検討を行う。
 
●進捗の評価
 海洋環境の持続可能な管理のための指標である、生態学的特性目標(EcoQO)の策定を近隣諸国と共同で推進する。
 
生態学的特性目標:Ecological Quality Objectives(EcoQO)
 北東大西洋海洋環境保護条約(OSPAR条約)の1998年生物多様性戦略で策定することが提唱された、生物多様性保全の評価指標。OSPAR条約とその生物多様性戦略の詳細については本報告書3−1−3節参照
    
 
●関係者の参画
 
 統合的沿岸地帯管理(ICZM)に関する欧州委員会勧告の実施方法をイングランド・ウェールズ・スコットランドの関係者と検討する。
 
統合的沿岸地帯管理(ICZM)に関するEC勧告
 2000年9月に、欧州委員会は、欧州全域における統合的沿岸地帯管理の実施に関する勧告提案を発表した。この勧告ではEUに属する各国政府に対し、各国の沿岸地域計画・管理に関連する法律・制度・利害関係者を分析するための全般的調査が要求されている。調査結果に基づいて、各国政府は国家沿岸戦略を作成しなくてはならない。この戦略は、沿岸地域における多様な関係者の役割・ICZM原則実施のための適切な複合的方策・公衆のさらなる参画を促進するための手段・地域的イニシアティブヘの長期的援助の財源を特定するものでなくてはならないとされている。詳細については、本報告書第4章参照
    
 
●開発目標の達成
 2002年の「持続可能な開発」に関する「ヨハネスブルグ世界サミット(World Summit on Sustainable Development。WSSDと略記)」において、持続可能な海洋管理によって食糧の確保・貧困の撲滅・さらに広範な開発が達成可能であると主張する。
 
●公海における海洋生物種と生息地の保護強化
 公海における海洋保護地域の問題とその実現可能性について、他国と協力し、国際機関を通じて検討していく。
 
●国際協力の強化
 国際連合の各種機関、地域的な漁業関連機関や条約機構などにおいて、国際協力・協調を促進していく。
 
●海洋科学研究の強化
 政策目標を支えるための科学的根拠を確実なものとするため、海洋調査研究計画の見直しを行う。
 
●効率的なモニタリング
 環境モニタリングの枠組みを開発し、2004年に「統合的海洋アセスメント結果」を発表する。
 
 MSR「要約」には、これらの新規施策を前進させるための最初のステップとして、理念達成のために何をするべきかを検討するための「ワークショップ」を開催し、今後作成される海洋管理報告書の範囲と内容についての意見聴取を行うことが予定されていると記述されている。
 
 MSRのフォローアップとして、2002年11月に発表された諮問文書「変化の海」では、既に開催されたワークショップのリストを含むMSR発表後の進捗状況と、今後の予定が説明されている。
 
 上記新規施策に関わる具体的な活動内容や、諮問文書に含まれる進捗状況と今後の予定については、本報告書内の関連する部分において、詳述・補足説明していく。







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