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3−2. UKの海洋環境保全・自然保護政策の現状
 
 本節では、「海洋生物多様性保全の必要条件」とも言える、海洋環境保全・自然保護政策に関するUKの現状について、過去の経緯を踏まえた概説を試みる。
 
図3−3:海洋環境保全・自然保護の面から見た海洋生物多様性保全
 
3−2−1. UK海洋環境保全措置の過去の経緯
 「UKにおける海洋環境保全措置」は、法的義務に基づく措置とボランタリーな保全活動の双方を通して実施されてきた。しかしながらこれまでの海洋環境・自然保全活動は、「国際条約やEU指令などの新たな法的義務や、環境保護団体・世論からの圧力に対応するために個別に行われるケース」が殆どであった。
 
 また「海洋環境保全に関する国内法・規制」も分野別で「整合性」を欠いており、その結果として各規制当局の保全目標間に「統一性」がない。つまり、「海洋環境保全に関する全体的フレームワーク」が無いままに、「適宜必要に応じて限定的な対策・措置を積み重ねてきた状況」であると言える。
 
 その結果、以下の様な問題が発生している。
 
●「規制を受ける海洋環境関係者の立場から見て、複雑で混乱を招きやすい認可申請手続き」
 
●「特に沿岸地帯に関し、分野毎の法規制・規制当局間の法的権力の重複やギヤップの発生」
 
●「特定活動が他の活動や関係者・ユーザ及び環境全般へ及ぼす影響を、セクターを跨って管理・調整する仕組みの欠如」
 
●「海洋環境への影響可能性の事前検討・予防的措置を十分に取るための法規制の不足」
 
●「包括的で整合性の取れた海洋生息地・生物種に関する情報・科学的データの不在」
 
 この様な状況の中で、「UK国内の法令に基づく海洋環境保全措置」として、「海洋自然保護区(Marine Nature Reserve。MNRと略記)の構築計画」が開始したが、過去20年間においてMNR指定を受けた海域は3ヶ所に留まっている。「MNRネットワーク構築計画」が前進しなかった原因としては以下が挙げられる。
 
●「明確な海洋環境保全政策が存在しないために利害関係者間の意見調整が困難であったこと」
 
●「MNRスキームの実効性を評価する仕組みが無いこと」
 
●「保護対象が海洋であるがゆえの法規制執行及び取り締まりの困難さ」
 
 結果的には「MNRネットワーク構築計画」は大きな成果を生んでいないが、MNRが「海洋環境保全の具体的管理スキームの実地テストベンチとして果たした役割」を無視することはできないであろう。
 
3−2−2. UK政府の対応
 「海洋環境保全・自然保護政策策定とその具体的措置計画」において、解決しなくてはならない問題は多岐に亘り、複雑な相間関係を持っている。
 
●「国際条約、地域国際条約・協定、EU指令と国内法規制の整合性保持」
 
●「国内法整備」
 
●「海洋行動計画・規制に環境への配慮を取り入れるための措置」
 
●「保全措置と社会経済的開発のバランス」
  
●「関係者間利害調整メカニズムの確立」
 
●「海洋生息地・生物種に関する継続性・整合性のあるデータ整備・充実」
 
●「保全措置実施メカニズムのオペレーショナルな問題(保全措置の効果を評価するための指標不在、法規制執行・取り締まりの困難さ)の解決」
 
 「海洋自然保護調査(Review of Marine Nature Conservation。RMNCと略記)」は、海洋環境保全に関する様々な問題を実地レベルで原因分析し、具体的な解決策検討を図るための活動として位置付けることができる。
 
 RMNCでは、「分野別となっている現行法規制の重複・ギャップ分析実施し、現状問題点の具体的な分析・対策提案」が行われている。また、MNRやSSSIなど、「UK国内レベルの環境保全・自然保護措置及び全世界レベルの国際条約や地域国際レベルの条約・協定義務遂行のための措置を通じて、UKの海洋環境保全に関する全体的フレームワークを新たに構築していこうとする大規模なプロジェクト」である。
 
 RMNCの「アイルランド海パイロット・プロジェクト」に関しては、「海洋環境保全の具体的管理スキームの実地テストベンチ」としてMNRがごく狭い特定海域レベルで果たしたと同様の役割を「地域海レベルで果たす」ことが期待されている。
 
 「UKの海洋環境保全政策のフレームワーク」を策定する試みはまだ端緒についたばかりである。しかしながら、海洋環境保全に関する全体的フレームワーク構築における不可欠な部品を整備していくためのいくつかの個別プロジェクトが既に開始されている。その一例としては海洋生息地・生物種に関するデータ整備への取り組みとしての「MarLIN(Marine Life Information Network for Britain and Ireland。略記はMarLIN)」プロジェクトなどが挙げられる。「MarLINはUKの海洋生物学協会(Marine Biological Association)と主要な海洋生物学的データ保持者及び関係者による活動」であり、オンラインデータベースによって、UKとアイルランド周辺の海洋生息地・群生・生物種に関する情報を提供している。







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