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3−1−1−3. 絶滅危険種−CITES(ワシントン条約)
 1973年採択の「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES:Convention on International Trade in Endangered Species。CITESと略記。通称、ワシントン条約)」は、絶滅の危険に晒されている動植物の国際取引を規制・監視することによって、絶滅危険種を保護するための国際条約である。保護対象としてリストされる生物種は、その絶滅危険度により複数のカテゴリーに分類され、条約付属書にリストされている。
 
●付属書I
 「絶滅危険性が最も高い生物種として、生物種・その部分・その生物種を元にした派生的物品の国際的な商用取引が禁止されている生物種」
 
●付属書II
 「次に絶滅危険性の高いカテゴリーとして、輸出入システムを通じて、注意深い国際取引規制を行わないと絶滅危険性が生じる可能性がある生物種」
 
●付属書III
 「条約加盟国が自国政策上、国際取引規制を実施する生物種」
 
 UKのみに生息し、かつ絶滅の危機にある野生生物種は現在のところ無いと言える。UK領域に生息し、かつ保護が必要なウミガメなどの生物種は「付属書I及びIIにリスト」されている。UK政府は現在、ウバザメを「付属書IIリスト」に追加する活動を行っており、2002年11月にチリで開催されたCITES会議で再び提案を行ったが、僅差で否決されている。UKは既にウバザメを「付属書IIIリスト」に登録しており、これはUKが「付属書IIIリスト」に登録している唯一の生物種である。
 
3−1−1−4. 捕鯨−国際捕鯨委員会
 UKは1963年に捕鯨を全廃しており、「国際捕鯨委員会(International Whaling Commission。IWCと略記)」の1982年「商用捕鯨一時停止命令」を強く支持している。1998年4月に、UK政府は「捕鯨に関する諮問フォーラム(Consultative Forum on Whaling)」を設立した。このフォーラムは、鯨の保全に関係する組織の代表者で構成されており、保全に関する事項を議論するために定期的な会合を開いている。
 
3−1−1−5. 移動性野生動物−CMS(ボン条約)
 1979年採択、1983年発効の「移動性野生動物種の保全に関する条約(Convention on the Conservation of Migratory Species of Wild Animals。CMSと略記。通称ボン条約)」は、移動性野生動物の保全を目的とした国際条約である。CMSの枠組みの中で、複数の「地域国際レベル」の協定が作成されている。UKが関係する協定としては、以下の2つがある。
 
(1)小型クジラ類:ASCOBANS
 
 「バルト海及び北海の小型クジラ類の保全に関する協定(Agreement on the Conservation of Small Cetaceans of the Baltic and North Seas。ASCOBANSと略記)」は、1991年に採択、1994年に発効した。特に漁網による混獲問題に対処するため、2000年の協定国会議では小型クジラ類の混獲削減目標として、推定存在個体数の1.7%を超えないことが合意されている。
 
(2)南半球のアホウドリ類とウミツバメ類:ACAP
 
 北半球にはアホウドリ類は生息しないが、フォークランド諸島など南半球にあるUKの海外領土にはアホウドリ類の重要な生息地となっている地域がある。「アホウドリ類とウミツバメ類の保全に関する協定(Agreement on the Conservation of Albatrosses and Petrels。ACAPと略記)」は、卵の採取、漁網による混獲などの脅威から、これらの鳥類を保護することを目的としている。
 
 UKは2001年に協定に署名をしているが、批准は行っていない。協定発効には最低5カ国による批准が必要であるが、2002年12月現在で批准しているのはオーストラリアとニュージーランドの2カ国に留まっている。
 
3−1−1−6. ウミガメ類−ベルン条約
 「ヨーロッパの野生生物と自然生息地の保全に関する条約(Convention:Convention on the Conservation of European Wildlife and Natural Habitats。通称、ベルン条約)」は、欧州理事会主導で1982年に発効した。ヨーロッパの野生生物と自然生息地の保全に関し、欧州地域国際レベルで一貫した政策を定める必要性が条約作成の契機の一つとなっている。ウミガメ類の漁業による混獲や、地中海と北大西洋において営巣地となっている海浜での観光リゾート開発による有害な影響が、ベルン条約の最近の活動における主要なテーマとなっている。
 
3−1−2. 欧州連合を通した活動
 海洋生物種と生息地の保全・保護に大きな影響力を持つ「欧州指令(European Directives)」は、「生息地指令(Habitats Directive)」と「野鳥指令(Birds Directive)」である。MSRでは、まずこの2つの指令についての説明が為されている。
 
3−1−2−1. 生息地指令
 正式名称は、「Council Directive 92/43/EEC of 21 May 1992 on the conservation of natural habitats and of wild fauna and flora」。通常、「生息地指令(Habitats Directive)」と呼ばれる。
 
 欧州コミュニティにおける重要な自然生息地、動植物種の保全に関する指令である。この指令にリストされている自然生息地、動植物種を有する地域の保護がメンバー国に要求される。指令の中でも最も厳格な義務は、「保全特別地域(Special Areas of Conservation。SACと略記)」の選定・指定・保護に関するものである。生息地指令におけるSAC指定は、各メンバー国から提出された候補地リストを基に「欧州委員会(EC)」とメンバー国による協議を経て、承認される。
 
3−1−2−2. 野鳥指令
 正式名称は、「Council Directive 79/409/EEC of 2 April 1979 on the conservation of wild birds」。通常、「野鳥指令(Birds Directive)」と呼ばれる。
 
 EUメンバー国内の全ての野生鳥類に対する保護のための「指令」である。この指令は、「これらの生物種の保護・管理・コントロールを範囲とし、開発に対する規則」の基となっている。指令は全ての野鳥、巣、生息地に適用される。特定希少種と通常見られる季節移動性の鳥の生息地保全に対して特別保全措置を取り、その様な生息地として最適な地域を「特別保護地域(Special Protection Area。SPAと略記)」として指定することがEUメンバー国に要求されている。
 
3−1−2−3. ナチュラ2000
 「ナチュラ2000(Natura2000)」とは、欧州連合地域全体にわたる、前記のSACとSPAで構成される「保護地域のネットワーク」である。この保護地域ネットワークは、「陸地と海洋の双方における生息地と野生動植物保全の促進のために指定されるものであり、生物多様性条約の実施におけるECによる主要な貢献」である。
 
 2002年5月現在で、UKの領海水域において71ケ所の海洋SPAと62個所のSAC候補地が存在している。
 
 UK政府は、「生息地指令と野鳥指令を領海(12海里)を超えて200海里まで適用する方針」である。そのための法令整備が進められている。この計画は「オフショア・ナチュラ2000(Offshore Natura2000)」プロジェクトとして知られている。イングランド・スコットランド・ウェールズの各自然保全当局による「合同フォーラム」である、「共同自然保全委員会(Joint Nature Conservation Committee)。JNCCと略記」によって「オフショア・ナチュラ2000」候補地の検討が行われている。
 
 JNCCと、その構成メンバーである各自然保全当局の詳細については、本報告書6−2−2節を参照されたい。
 
3−1−2−4. EUの生物多様性戦略と行動計画
 「欧州委員会(EC)」は、1998年に「欧州コミュニテイ生物多様性戦略(European Community Biodiversity Strategy)」を採択した。その戦略に基づき、4つの「分野別生物多様性行動計画(Biodiversity Action Plan。BAPと略記)」が2001年に作成された。「分野別BAP」は以下のとおり。
 
●「自然資源保全のための生物多様性行動計画(Biodiversity Action Plan for the Conservation of Natural Resources)」
 
●「農業のための生物多様性行動計画(Biodiversity Action Plan for Agriculture)」
 
●「漁業のための生物多様性行動計画(Biodiversity Action Plan for Fisheries)」
 
●「経済開発協力のための生物多様性行動計画(Biodiversity Action Plan for Development and Economic Co−operation)」
 
 このうち、海洋生物多様性に直接関連するBAPは、「自然資源保全BAP」と「漁業BAP」である。
 
 「自然資源保全BAP」では、生息地指令及び野鳥指令の完全実施、政策優先順位付け、統合的沿岸管理の促進が強調されている。
 
「漁業BAP」は漁業資源の保全と持続可能な利用、海洋及び沿岸の生息地や漁獲目的外生物種(サメやエイなど)への漁業活動による影響の削減、養殖漁業による生態系への有害な影響を防止することなどに焦点をあてている。
 
また、EU第6次環境アクションプログラムでは、2010年までに生物多様性の減少をくい止めるという目標が掲げられている。
 
3−1−3. OSPAR条約を通した活動
 北東大西洋地域「国際レベル」では、「OSPAR条約」とその「生物多様性戦略」の下で活動が行われている。1992年採択時「OSPAR条約」は主に海洋汚染問題をその範囲としているが、1998年にポルトガルのSinatraで開催された「OSPAR委員会閣僚会議」において、付属書V(Annex V)として「海事領域における生態系と生物多様性の保護と保全」条項の追加が採択され、2000年に発効した。
 
 付属書Vでは、「北東大西洋における海洋生態系と生物多様性の保護と、可能である場合には有害な影響を受けたエリアの回復を行うこと」が条約締結国に要求されている。また、「海洋環境に有害な影響を与える可能性のある活動を管理するためのプログラムを採用し、措置を取ることに対する規定」を設けている。
 
 「OSPAR条約」ならび「1998年生物多様性戦略」の概略は以下のとおり。
 
●「保護が必要とされる生物種や生息地を調査し、優先順位付けを行う」
 
●「人間の活動の影響を調査し、優先順位付けを行う」
 
●「海洋保護地域のネットワーク確立を促進する」
 
●「生態学的特性目標(Ecological Quality Objectives。EcoQOと略記)」の策定
 
 「第5回北海会議」においてUKは、「OSPAR条約」を通じて「EcoQOスキーム」の北海における試行を行い、残りのEcoQOについても2004年までに策定する」ことに同意した。また、「EcoQO基準達成の進捗状況を評価するための統一的モニタリング体制の確立」も同意された。







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