2−3. UK海洋管理報告書概要
ここでは、MSR各章の内容に関し、その概要を紹介する。
2−3−1. MSR第一章「理念とその実現」
MSR第一章では、海洋環境に関する理念、理念達成のための管理アプローチと原則、理念実現に向けた活動について説明されている。
(1)UK政府の海洋環境に関する理念
「清潔、健康、安全、生産的そして生物学的に多様性に満ちた海洋」
この長期的理念と共に、短中期的な成果・目標・抱負が必要である。
(2)理念達成のための管理アプローチ
「生態系をベースとしたアプローチ」
このアプローチを取ることは、以下の事を意味している。
(1)明確な環境目標の設定と、目標に沿った行動
(2)環境及び社会経済学的アセスメントの広範な利用
(3)海洋環境における活動の戦略的管理
(4)生物多様性を考慮に入れ持続可能な開発を確かにする政策決定と管理活動
(5)政策策定プロセスにおける科学的知見利用の促進
(6)焦点を絞った調査研究とモニタリング
(7)関係者の十分な参画
(3)理念達成のための6原則
(1)持続可能な開発
未来世代の需要を現世代の行動の犠牲としない。
「アジェンダ21」を受け、UKでは1999年に「UKの持続可能な開発に関する戦略ドキュメント(A better quality of life)」が作成されている。この「戦略ドキュメント」では、経済・環境・資源利用問題と共に、持続可能な開発の社会的側面を強調するために、より広範なアプローチが必要であるとされている。基本方針として、以下の事項が挙げられている。
●環境に対する短期的脅威だけでなく、長期的脅威も考慮
●海洋資源の効率的利用、再生不可能資源の代替確保
●海洋生物・生息地の保護
●地域社会・個人のニーズの反映
(2)統合的管理
より広範な視野を持ち共通認識を確立する。
(3)生物多様性の保全
UK国内の生物多様性を保全・拡充し、全世界的な生物多様性保全に寄与する。
(4)科学の強化
海洋環境の理解を促進し、科学的知見を政策策定に統合する。
(5)予防原則
科学的根拠が結論を出すに足らない場合には、安全側に偏向する。
(6)関係者の参画
関係者の政策策定への参加を奨励する統合的管理
(4)理念実現に向けた活動
MSR第一章では、理念実現に向けた活動として、以下の各項目別にUK政府の具体的な行動計画をリストアップしている。
(1)統合的管理(Stewardship)
(2)持続可能性の強調
(3)海洋保全の促進
(4)強固な科学とモニタリングによる政策のサポート
(5)関係者の参画の促進
リストされている個々の計画の詳細は、MSR集二章以降で、サブジェクトに対応する章にて記述されている。
MSR第一章は、MSR全体に亘って紹介されるUK政府の個別活動計画を分類し、整理したものである。次ページ図2−2に、MSR第一章の内容を整理して示す。
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図2−2:MSR第一章
2−3−2. MSR第二章「海洋の生物多様性の保護」
MSR第二章では、UK海洋管理政策の基本原則の一つである、「生物多様性の保全」に関連して、特に海洋における生物多様性保全・保護について記述されている。
UKの生物種のうち、約半数が海洋環境に生息すると推定されている。この海洋生物多様性を保護するためには、「生態系をベースとしたアプローチ」を取り、生態系を保護・保全する形で人間の活動を管理することが要求される。
MSR第二章の内容の詳細、及び補足調査結果については、本報告書第三章に記述する。
2−3−3. MSR第三章「統合的沿岸管理」
沿岸地域においては、「産業」、「観光」、「漁業」、「養殖」等、多様な活動が集中して行われている。また、陸地と海の境界として、ユニークな「環境状態」、「生息地」、「生物種」が見られるのも沿岸地域である。「人間による活動と自然保護・保全目標の間に生じる葛藤は、沿岸環境汚染や生物種の減少など様々な問題」を引き起こしている。
「統合沿岸管理(ICZM)」の概念は、「沿岸地域で発生する問題に取り組むためには環境保護目標を経済開発にシステマチックに統合していく必要がある」という認識を前提として発展してきた。
MSR第三章では、ICZMに対するUKの取り組みの状況が説明されている。MSR第二章の内容の詳細、及び補足調査結果については、本報告書第四章に記述する。
2−3−4. MSR第四章「陸上起因の汚染と海洋投棄への取り組み」
MSR第四章では、以下の4項目に分けて「陸上起因の汚染と海洋投棄に関するUK政府の取り組み」が説明されている。
●有害物質
●富栄養化
●放射性物質
●海洋投棄全廃
全般的に、「国際条約」や、「OSPAR条約」及び「EU指令」などの地域国際条約・規制の説明が多く、それらの国際的義務に対してUKが達成してきた実績がリストされている。
海洋汚染の問題は、「海洋の連続性から見て一国家レベルでの対応ではなく、全世界的な対応が必要である」ことは明らかである。UKとしての取り組みが主に地域国際レベルのフレームワーク内で行われている理由として、以下を挙げることができる。
●「陸上起因の汚染と海洋投棄の問題に関し、限定された海域内ではその海域に接する各国の汚染インプットの影響が顕著に現れること」
●「管理上の単位として限定海域を用いることにより、政策策定のプロセスの規模を管理可能な規模に抑えられること」
●「欧州においては漁業問題とも関連して、北海などの限定海域での現実的な利害関係調整を複数国家間で行う必要性が高いこと」
上記の4項目別に、MSR第四章に記述されている、「各種条約・指令及び対応するUKの活動」を次ぺージ以降、表2−1〜2−4に整理する。
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