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2−3−7. MSR第七章「持続可能な漁業」
 MSR第七章では、まずUK漁業産業の現状規模及び全世界の漁獲量の増加傾向がデータとして示された後「持続可能な漁業に対するUKの取り組み」が、「地域国際レベル」、「国内レベル」、「国際レベル」の順に具体例を挙げて説明されている。
 
 MSRが発表された時期(2002年5月)には、2002年12月に実施された「欧州共同漁業政策(Common Fisheries Policy。CFPと略記)」の見直しが重要な政治問題となっており、MSRにおいても特に「欧州共同漁業政策」に対するUK政府の方針が詳細に述べられている。
 
 多数の国の排他的経済水域が狭い海域内で重複している欧州地域においては、統一漁業政策の重要性が極めて高い。EUのCFPは、1983年に最初の協定が結ばれて以来、1992年及び2002年の2回にわたり見直しが行われ、現在に至っている。
 
 以下にMSR第七章の内容を要約して紹介する。
 
(1)地域国際レベル:「欧州共同漁業政策(CFP)」
 
 CFPの「最大許容捕獲量」と「各国への個別割り当て量制度」によって「魚類資源の保全」が図られている。この制度は1983年に初めて合意が為された。最大許容捕獲量」と「加盟各国の捕獲量割り当て」は、科学的調査結果に基づき、「EU漁業理事会」において年毎に決定される。「資源保全」を目的とした制度実施手段として、「漁業設備ならびに漁法に関する規制」がある。具体的には「各魚類の陸揚げ許容最低サイズや漁網の目の大きさに関する規定」、「特定のタイプの漁業について禁漁区間や禁猟期を設けるなどの規制」である。
 
 2001年3月に発行された「ECグリーンペーパー(政策協議書)」に基づき、2002年末に「CFP見直し」が行われた。UK政府は、ECグリーンペーパーに謳われた「持続可能な開発をEU杜会の漁業政策の中心に据える」原則を支持している。ECグリーンペーパーでは、「現行のシステムが現在及び未来の漁業資源保全の目的を十分に果たしていない」という問題が指摘されている。問題の主な原因は、「域内の漁獲量と漁業資源量のミスマッチ」にある。グリーンペーパーでは、この需給のアンバランスは、EUによる漁船近代化公的補助金によって助長されていると分析され、「補助金の全廃」が提案されていた。
 
 2002年5月のMSR発行時点では「CFP見直し」が終了していなかったが、2002年12月16日から20日に亘って開催された「EU漁業相理事会」において、20日に合意が採択された。上記の様に、漁業資源保全に重点を置くEC案をUKも支持していた。結果としては、南欧諸国やアイルランドなど漁業産業界保護を優先する国の主張により、EC提案の新規制案に比較して大幅に譲歩した形で最終合意が為されている。
 
 「漁業関係者の経済的利益と漁業資源保全のバランス」を探るために、UK政府は関係者の政策策定参画を促進する方針である。その一例として、漁業産業界と政府のコミュニケーションの場として1998年に設立された、「UK漁業保全グループ」が挙げられている。またUK政府は、科学的根拠に基づいた予防的措置も重要視している。「国際海洋調査審議会(International Council for the Exploration of the Sea。ICESと略記)」による漁業関連の海洋調査・研究にはUKの科学者も多数参加している。
 
国際海洋調査審議会:International Council for the Exploration of the Sea(ICES)
 
 北大西洋(North Atlantic)における海洋研究のコーディネートと奨励を目的としており、19カ国、1600人の海洋科学者コミュニティのミーティングポイントとして機能している。事務局はコペンハーゲンに有り、メンバー国からの資金提供によって運営されている。ICESの歴史は古く、1899年ストックホルム、1901年クリスティアニアで開催された国際会議の結果を受けて1902年に設立されている。
 
 ICESの調査研究報告は、EUを含む各国政府の漁業政策に影響を与えている。最近のICESによる科学的アドバイスに依ると、EU域内の持続可能な漁業のためには漁獲量を1/3から1/2削減する必要があるとされている。
 
 メンバー国は以下のとおり。(アルファベット順)
 
ベルギー、カナダ、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ、アイスランド アイルランド、ラトビア、オランダ、ノルウェー、ポーランド、ポルトガル、ロシア スペイン、スウェーデン、UK、USA
 
 その他、オーストラリア、チリ、ギリシャ、ニュージーランド、ペルー、南アフリカがオブザーバとして加入している。また、いくつかのNGOもオブザーバステータスを持つ。
  
 
(2)UK国内レベル:漁業と養殖
 
 イングランドとウェールズにおいては、海岸から6マイルまでの漁業は12の「海洋漁業委員会(Sea Fisheries Committees。SFCと略記)」によって管理されている。SFCには、「その管理対象漁場における漁業管理と環境保全に関して条例」を制定する権限が与えられている。
 
 スコットランドにおいては、2001年に「スコットランド海洋漁業産業界のための戦略的フレームワーク」がスコットランド政府により発表されている。この戦略ドキュメントは持続可能な漁業の促進を目的としている。また、スコットランド政府と漁業関係者により「スコットランド近海漁業アドバイザリーグループ」が組織されている。
 
 UKの養殖産業においては主要な養殖魚種は鮭とニジマスである。UK政府は、養殖魚の健康維持対策に力を入れている。具体的な対策としては、EU域外からの魚貝類輸入におけるライセンスと健康証明書制度、魚の移動証跡管理のための政府データベースなどがある。
 
 また、養殖漁業における関係者参画の例として「養殖魚の健康に関するワーキンググループ」や「養殖漁業研究開発委員会」などの組織の例が挙げられている。
 
(3)国際レベル:持続可能な漁業
 
 MSRでは、漁業に関する国際活動におけるUKの政策は、「長期的な漁業資源の保全と持続可能な生計、そして海洋の生物多様性と生息地の保全促進のために、地域国際及び国際的なフレームワークを確立していくこと」であると説明されている。
 
 UK政府のアプローチのベースとなるのは、以下の2点である。
 
●主要な漁業協定と行動計画実施の重要性
 
●政策実施の要である「地域漁業機関(Regional Fisheries Organisation。RFOと略記)」を、効果的な地域的漁業管理の基礎として発展させていくこと
 
 現在、様々な地域をカバーする30以上のRFOが存在する。UKの政策は、「国際広域魚類資源(分布範囲が排他的経済水域の内外にかかる魚類資源)協定」、「国連食糧農業機関(FAO)責任ある漁業のための行動規範」、「FAO行動計画」などの実施促進のためにRFOを活用していくことである。
 
 UK政府は、「違法・無報告・無規制漁業(“Illegal, Unreported and Unregulated”の頭文字を取って一般にIUU漁業と呼ばれている)対策」に特に優先度を置いている。
 
 UK政府はまた、西アフリカ25カ国とのパートナーシップによる「持続可能な漁業による生計プログラム」に国際開発省から資金供給を行うなど、国際協力活動にも参加している。
 
国際漁業協定及び実施メカニズム
 
●1982年「国連海洋法条約(UNCLOS)」
 
 英語名 The 1982 UN Convention on the Law of the Seas。漁業やRFOの設立・利用を含む、世界の海洋統治に関する包括的な法的フレームワーク。
 
●1995年「国際広域魚類資源及び回遊性魚類資源の保全及び管理に関する国連海洋法条約の条項実施のための協定」
 
 英語名 The 1995 Agreement for the Implementation of the Provisions of the United Nations Convention on the Law of the Sea of 10 December 1982 relating to the Conservation and Management of Straddling Fish Stocks and Highly Migratory Fish Stocks。
 
 国際的漁業管理における予防的アプローチの適用やRFOの役割の発展など、重要な項目を含む。
 
●1995年「国連食糧農業機関・責任ある漁業のための行動規範」
 
 英語名The 1995 FAO Code of Conduct for Responsible Fisheries。
 
 あらゆる漁業について、保全・管理・開発の原則と標準を設定。
 
●「国連食糧農業機関・公海における国際的保全及び管理方策の漁船による遵守促進に関する協定」
 
 英語名 The FAO Agreement to Promote Compliance with International Conservation and Management Measures by Fishing Vessels on the High Seas。
 
 公海における漁業活動規制を逃れるために非締約国に船籍を移す、いわゆる便宜船籍変更を妨げることを目的とする。
 
●「国連食糧農業機関・行動計画」
 
 漁船容量、海鳥類、サメ類、IUU漁業の4つの項目に関するFAOによる一連の行動計画。これらの行動計画はFAO行動規範の下に作成された。
  







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