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2. UK海洋管理報告書
2−1. UK海洋管理報告書の目的と海洋政策における位置付け
 2002年5月にUK初の「海洋管理報告書(MSR)」である「私たちの海の保護:海洋環境の保全と持続可能な開発のための戦略(Safeguarding Our Seas:A Strategy for the Conservation and Sustainable Development of our Marine Environment)」が環境・食料・農村省(DEFRA)から発表された。
 
 このMSRは、「あらゆる海洋関連分野を横断して、統合的かつ持続可能な海洋環境管理に対するUK政府の理念と戦略のアウトラインを設定」しようとするものである。「現在までに政策実施のために行われてきた活動の包括的整理を行う」とともに、「将来の具体的な政策フレームワーク作成のための方向性を示す」ものとなっている。すなわち、「理念を現実のものとするための行動に関し、新しいアイデアやイニシアティブの提案」が含まれている。
 
 この最初のMSRの発行後、次のステップとして、MSRの中で示された戦略を前進させるための「複数のワークショップ」が開催された。またMSRのフォローアップとして、諮問文書「変化の海(Seas of Change)」が同年11月に発表された。この諮問文書は「MSRで示された戦略実現に向けた、具体的な方策を検討するのための議論べース」を提供するものである。
 
 「変化の海」においては、理念から実現に向けての「施策実施フレームワークやアプローチ方法」、「戦略目標」などが、「明細化」された形で提案され、「政府見解に対する意見」が募られている。しかしながら、その提案内容はハイレベルなものであり、「理念と具体的施策及びその実行プロセスの間のギャップ」は大きい。今後、このギャップを埋めていくためのプロセスとして、理念から実現に向けた活動の過程で「将来のMSR」が発表されていく予定である。
 
 「UKの海洋管理政策の理念設定から戦略的目標達成に至る過程の概念図と、その過程においてMSRが占める位置」を次ぺージ図2-1に示す。図中、「変化の海」で提案されている施策実施フレームワーク・アプローチ方法、戦略目標を整理して記入した。
 
「私たちの海の保護:海洋環境の保全と持続可能な開発のための戦略」は、「統合的海洋管理」のためのまさに最初の一歩である。今後のUK政府の課題として、MSRの発表により動き出した、「理念実現に向けた活動のモメンタム」を維持することがまず肝心であろう。
 
「モメンタムとは、人の思惑や心理により生み出される一見矛盾した2つの特性がせめぎあうことによって、一定の周期やパターンを形成しながら変動する動きや現象をいう。」
 
 そのためのUK政府の方針として、図2−1に示す様な「ハイレベルな枠組み整備」と並行して「個別サブジェクトに応じた実地施策」を促進していく、「マクロレベルとミクロレベルの両面アプローチ」を取る事が意図されている様に見受けられる。そのことは、MSRの内容を見ても、「ハイレベルな理念」とその実現に向けた原則の説明が最初に為された後に、項目毎の各章の章末に「前進するために」と題された「具体的施策のリストアップ」がされていることからも伺える。この両面アプローチが、今後どの様な成果を出していくのか、注目されるところである。
図2−1:UK海洋管理報告書の目的と海洋政策における位置付け
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