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はじめに
 本書は、サンクチュアリが1987年以降継続して行ってきたアカウミガメの保護活動の歴史や綿密な繁殖調査データを掲載して、アカウミガメの神秘とその産卵地の大切さを伝えられるように編集したものです。
 
 遠州灘海岸の自然環境と野生動植物の保護活動の始まりは、1986年に偶然見かけたウミガメの産卵記事がきっかけでした。過去、遠州灘海岸での産卵記録はないものの、翌年に1ヶ月間調査したところ22頭の産卵が確認できました。2年目には、浜松海岸においてシーズン通して調査すると72頭の産卵がありました。
 しかし、この頃になると砂浜でのオフロード車の走行が目立つようになり、海浜植物が枯れ、砂浜の荒廃が急速に進みました。特にアカウミガメの卵は、盗掘やオフロード車に踏み潰されるなどの被害が多発したことから、活動は調査から保護へと移行していきました。
 
 本来、ウミガメは野生生物であり、人間の手によって保護することなく自然のままでの繁殖を見守るべきです。しかし、遠州灘海岸では、光やオフロード車等の種々の問題があることから卵をふ化場で保護し、子ガメが海に旅立つまでを見届ける事としました。こうしたアカウミガメの保護調査活動を当初より市民に公開し、市民とともに行ってきました。
 
 わたしたちは、21年間の活動を通して、アカウミガメの来る「暗くて静かで美しい浜辺」こそが、人間にとっても理想的な海岸であるとの思いを強くしました。次世代の担い手である子どもたちに貴重な海岸環境を伝えるため、これからも一層活発な保護活動を続けていく所存です。本書が、絶滅の危機にあるアカウミガメの保護活動と海岸環境の保護啓発の一助となれば幸いです。
 
 末筆になりましたが、本書の発刊ならびにアカウミガメの保護事業に対して、(財)日本財団様より長年のご支援ご指導を賜り、あらためてお礼申し上げます。
特定非営利活動法人
サンクチュアリエヌピーオー
理事長 馬塚 丈司
 
遠州灘海岸
 静岡県と愛知県にまたがる遠州灘海岸は、東の御前崎から西の伊良湖岬まで総延長115kmにもおよぶ海岸です。太平洋に面した一帯には、天竜川から運び出された砂が堆積し広大な砂丘地帯が形成されました。砂浜が延々と続く遠州灘海岸は温暖な気候と相まって特有の自然環境を育んでいます。【関連83ページ〜
 
 20数年前、この海岸でアカウミガメの産卵が確認されました。【関連19ページ〜
 ウミガメの産卵地としては、国内最北端に位置し、5月から8月にかけてアカウミガメのみが産卵に訪れます。
 
 東海道沿線の人口集中地帯が隣接し、東京、名古屋、大阪など大都市圏からの日帰りも可能な地理的条件やレジャーの多様化もあり様々な環境問題にさらされています。【関連17ページ31ページ〜
 
日本では主にアカウミガメ、アオウミガメ(屋久島以南で産卵)、タイマイ(八重山諸島などで産卵)の3種が産卵する。本州、四国、九州で産卵するのはアカウミガメ1種。【関連16ページ47ページ
 
 


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