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2-8. 欧州造船工業会年次報告書発行(2003年9月16日)
 欧州造船工業会(AWES)は、2002〜2003年の年次報告で様々な意見と活動の進展を述べている。報告は、下記のような7部から構成される。
 
I 世界の造船業
II 世界の造船政策
III 海上安全と環境保護の世界的政策
IV 欧州造船業の展開
V AWES作業部会と委員会の報告
VI AWES統計2002
VII AWES組織
 
 特に、2002年と2003年第1四半期の新造船発注量の欧州の占有率が記録史上最低を記録し、ECの措置は発動されたが最大6%の支援がどの程度効くかは今後の課題で、過去12ヶ月の状況ではむしろ限界があることを訴えている。また、これら効果の薄さ故に、OECDの新造船協定の必要性を述べている。
 
 AWESは、作業グループとして「市場予測」「修繕協力」「サブスタンダード船」と言った作業グループを持ち、特に修繕については、塗装技術の改善やIT関連等の研究開発補助金を業界としてECより獲得しようとしている。
 
 さらに各種安全規制からみの案件について、規制の見直しを先行誘導しようとしている努力が伺える。
 
 以下を参照のこと。
 
附録13: AWES2002〜2003年次報告書
附録14: AWES報告書 仮訳
 
2-9. 韓国、EUの造船助成をWTO逆提訴(2003年9月3日)
 韓国の外務・通産省に当たる外交通商部(MOFAT)は、EUに対し協議要請を9月3日付で送付し、欧州連合(EU)による造船助成に関し、公式にWTO逆提訴手続きを開始した。
 MOFATのウェブサイトに翌日4日MOFAT報道官の発表という形で公表された9月3日付プレスリリース(非公式英訳版)では、「2002年10月21日にEUは、韓国造船業の財政再建制度とリストラ対策に関しWTO提訴を行い、欧韓で2002年11月から2003年5月まで協議を3回に分けて実施した」としている。
 
 さらに「2003年7月21日にはWTO紛争解決機関によって小委員会(パネル)が設置され、現在もパネルの手続きが進行している」とした上で、また「韓国政府はWTO紛争解決手続きを通して、EUの造船業向け事業運営助成・リストラ助成・暫定的補助金供与の不公正慣行を証明する予定である。特に、暫定的補助金に関しては、補助金の反競争的性質からWTO協定における最恵国原則と矛盾するものであると考える」としている。
 
 最後に、「WTO協定に基づき、協議要請に続いて紛争当事国は60日以内に解決をめざして協議を行う。解決しない場合は、その後パネルの設置が要請される。一般的にパネルは構成委員メンバーの決定日から6ないし9ヶ月以内に報告書を提出するが、本件は急を要する内容であるため、パネルの報告書は5ヶ月以内に提出されることになるであろう」と結んでいる。
 
 以下を参照のこと。
 
附録15: WTO文書 韓国によるEUへの協議要請(WT/DS301/1)
附録16: WTO文書 韓国によるEUへの協議要請(WT/DS301/1)仮訳
 
2-10. EC、造船政策提言報告書で30点の提言を発表(2003年10月28日)
 欧州委員会(EC)の企業・情報社会担当リーカネン委員(フィンランド選出)は、10月28日付でEU造船・修繕業の将来を形作る造船政策提言報告書「LeaderSHIP 2015」で8項目30点の提言を発表した。
 
 この背景として、1月に関連するEC委員7名、欧州議会議員、組合代表、造船業界代表が団結して欧州造船業の競争力増強を確保する構想を展開するイニシアティブ「LeaderSHIP 2015」が発足し、特別アドバイザー・グループとして主要目標を掲げ、EU政策レベルヘの反映をめざして欧州造船業の将来を死守することを目的とし、最終報告書の発表が予告されていた。
 
 この最終報告書「LeaderSHIP 2015 - Defining the future of the European Shipbuilding and Shiprepair Industry(欧州造船・修繕業の将来を定義)」では、
・世界の造船業において公正な競争市場の確立
・研究開発投資の改善
・先進的な新造融資・保証制度の開発
・安全性、環境保護性の高い船舶の推進
・艦船建造をめぐる汎欧州的アプローチ
・欧州造船所の知的所有権の保護
・熟練した労働力の確保
・持続可能な業界構造の構築
という8項目において問題点を明確化し、それに対する具体的な提言を纏めている。
 
 なかでも欧韓造船摩擦に関する第1項目では、1)現行のWTO提訴及び暫定保護措置としての造船助成政策を維持し、2)WTOの規定を徹底遵守させ、3)OECD新造船協定を2005年までに確立して不公正慣行を厳しく取り締まるという3点を提言として列挙している。また第2項目では必要に応じて新しく「技術改革助成」が定義づけられるべきとされ、第3項目では欧州造船所の信用不安による資金調達のため、政策金融の起動等が積極的なアイデアとして提示されている。
 
 以下を参照のこと。
 
附録17: 欧州委員会リーダーシップ2015プレスリリース
附録18: リーダーシップ2015本文
附録19: リーダーシップ2015仮訳
 
2-11. EC、造船技術革新投資助成枠を10%から20%までに拡大(2003年11月26日)
 欧州委員会(EC)は11月26日、欧州造船業の競争力を増強するための新しい枠組み(Commission Framework)を採択し、造船技術革新のための投資に対するEU加盟国政府による助成枠をこれまでの10%から20%までに倍増した。
 
 この新枠組みは、1988年6月に成立したEU閣僚理事会規則1540(Shipbuilding Regulation)が2003年末で失効するため、これを置き換えるものとなっており、EU域内で最先端とされる造船関連技術と比較しても新しい製品が開発される場合にのみ、「革新助成(Innovation aid)」が最高20%まで供与されることとなる。
 
 この枠組みでは、訓練助成、中小企業助成、雇用助成、僅少助成等、欧州造船業に対するEU加盟国による助成に関する規制を簡易化し、また造船業の特性を踏まえ、上記の革新助成や造船所閉鎖助成、輸出信用や開発助成に関して優遇規制が設定されている。
 
 以下を参照のこと。
 
附録20: EC革新助成プレスリリース
附録21: EU造船工業会(CESA)プレスリリース
附録22: 造船国家助成フレームワーク本文
附録23: 造船国家助成フレームワーク仮訳
 
2-12. EUのリーダーシップ2015への支援方針発表(2003年11月26日)
 EU閣僚理事会委員会、欧州議会、経済社会委員会、地域委員会は、共同でコミュニケを発表し、リーダーシップ2015報告書の勧告に対するECの立場を明らかとした。
 具体的には、
 
1)「世界の造船業において公正な競争市場の確立」については、OECDでの造船協定の必要性を支持し、リストラ補助を行う場合の能力制限に言及し、最終的にはWTOにおける公正な競争市場規律の必要性を主張している。
 
2)「研究開発投資の改善」については、革新助成枠組みの採択を約束し、欧州共同体によるR&D助成の効果のモニタリングを行う予定としている。
 
3)「先進的な新造融資・保証制度の開発」については、欧州投資銀行が引き渡し前・後融資について先導的役割を担えるかを検討中であり、通貨リスクの再保険によるヘッジの検討も約束している。
 
4)「安全性、環境保護性の高い船舶の促進」については、短距離海運(SSS)の可能性を後押しすることを表明している。
 
5)「艦船建造をめぐる汎欧州的アプローチ」については、2004年には欧州防衛庁が設置される予定で、運用や仕様の統一の方向性が打ち出されている。
 
6)「欧州造船所の知的所有権の保護」については、専門家等による保護方策の具体的検討を約束している。
 
7)「熟練した労働力の確保」については、出された勧告に合意し、ECが部門別社会対話を開始していることに言及している。
 
8)「持続可能な業界構造の構築」については、ECは更なる事業統合と競争規律の尊重が造船業等に利益をもたらすとの考えを示した上で、この責任は主に産業界にあることを述べている。
 
以下を参照のこと。
 
附録24: EUのリーダーシップ2015に対するコミュニケ
 
2-13. EU競争閣僚理事会、造船の公正な競争確立の努力を要請(2003年11月27日)
 欧州連合(EU)の競争閣僚理事会は11月27日にブリュッセルで会合を開き、欧州委員会(EC)に対して世界の造船業界の公正な競争確立に向けてWTO(世界貿易機関)とOECD(経済協力開発機構)における努力を要請した。
 
 11月28日付ECプレスリリースによると、議長国イタリアの議事進行によりEU企業の買収認可問題等を審議したEU競争閣僚理事会は、ECよりEU造船業に関して現在WTOとOECDにおいて公正な市場競争が確立されるべく努力が続けられることを要請した。
 
 また、議長国イタリアは、特にWTO紛争解決手続きのタイムテーブルに関して、韓国の不公正慣行に対抗するための暫定的保護措置(TDM)としての造船助成が失効した後の影響を検討することを示唆した。
 
 以下を参照のこと。
 
附録25: EU競争閣僚理事会 プレスリリース
 
2-14. EC、欧韓造船摩擦で暫定造船助成の延長を正式提案(2004年1月21日)
 欧州委員会(EC)は1月21日、「韓国造船業による不公正慣行に対抗するための暫定造船助成措置を延長することを欧州連合(EU)閣僚理事会及び欧州議会に対して提案する決定を採択した」とプレスリリースで発表した。
 
 現行の暫定保護措置(TDM)としての造船助成は、WTOの紛争処理パネルが2004年8月前までに結論が出る見込みはなく、さらに控訴の可能性を考慮すると、WTO紛争処理上級委員会の決定は2005年初めまでは出ない可能性が極めて高いため、当初の助成条件を維持しながら有効期限を2005年3月末日まで延期するべきという結論に達したECは、本提案を閣僚理事会と欧州議会に対して提出し、同時進行で審議が行なわれる共同決定手続き(Co-decision procedure)を経て採択されることは間違いないと予想されている。
 
 同プレスリリースでEC競争担当マリオ・モンティ委員(イタリア選出)は、「助成は明らかにEU造船業の世界的競争力を強化する方針とは言えないが、現在EUの利益が危機に瀕しているという特別事情を鑑みて、本日の決断に至っている」と語り、競争担当委員として不本意ながら、やむを得ず造船助成延長が正当化される事情を強調した。
 
 またEC貿易担当パスカル・ラミ委員(フランス選出)は、「我々には、韓国による不公正慣行によって苦しむEU造船業を支援する義務がある。一方WTOにおいても、韓国による不公正慣行に対抗し、問題解決をめざしてEU側の主張を貫き通さねばならない。個人的には韓国がWTO協定違反の助成を中止して、協議解決されることを切望する」としている。
 
 以下を参照のこと。
 
附録26: EC、暫定造船助成の延長プレスリリース







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