2. トピックス解説
欧州と韓国を巡る造船摩擦に関する2003年度の主要トピックスについて以下に解説する。また各項目の関係資料を付録として添付した。
2-1. 欧州委員会第7次造船市場報告(2003年5月6日)
韓国造船業の不公正慣行に対してWTO提訴を2002年10月21日に開始したECは、欧州造船業が被っている被害を証明するため、5月6日付で第7次造船事情報告書を欧州連合(EU)産業閣僚理事会に提出した。
同報告書では、「韓国造船業が活発に受注活動を行なっている船種部門に限り、韓国内の造船所同士が展開する熾烈な受注獲得競争によって船価の下落が発生している」と糾弾している。また米ドルに対するウォン高によってコストが増加しているにも拘らず、「更に低船価を提示しており、短期的な支払い債務で行き詰まると予想される」としている。
また同報告書では、詳細なコスト調査も添付されており、この調査結果が「韓国造船業によるインフレや財務コストを無視した船価設定を証明」しており、韓国造船所が提示する価格と「生産コスト+5%の利益として計算された通常船価」とのギャップが更に広がっていると断定している。
同報告書の提示を受けたEU産業閣僚理事会において、仏産業相ニコール・フォンテンヌ女史は、LNG船部門におけるEU造船業への被害状況の報告の遅れに懸念を表明し、暫定保護措置としての造船助成をメタンガスキャリア船部門にも適用するよう要請。一方欧州議会でも、現在の暫定助成対象以外の船種部門に関して、被害調査を早急に行うよう要請している。
以下を参照のこと。
附録1: 欧州委員会第7次造船市場報告プレスリリース
附録3: 欧州委員会第7次造船市場報告(概要和訳)
2-2. 欧州委員会WTO紛争処理パネル設置申請(2003年6月11日)
欧州委員会(EC)は、6月11日付でWTO(世界貿易機関)の紛争解決機関(Dispute Settlement Body: DSB)に対し、6月24日に予定されている次回の定例会議において韓国造船業の不公正慣行に関する紛争処理パネル(小委員会)の設置決定を行うよう要請した。
WTOの紛争処理手続きでは、先ず当事国による協議が行なわれ、協議要請から60日以内に解決しない場合、パネルの設置となる。このパネルは、当該国、利害関係国と無関係の第三者で構成する3名の委員から成り、最長9ヶ月の審議で報告書が提出され、DSBで採決される。ここで敗訴した側に不服がある場合は、更に上級委員会に提訴することが可能。現在20名の委員(コミッショナー)で構成するECの中で貿易を担当するラミ委員(フランス選出)は、韓国側が協議解決に意欲をみせなかったとして遺憾の意を表明している。
このECによるパネル設置要請を受けて、欧州連合造船工業協議会(CESA)と西欧造船工業会(AWES)は「欧州造船所はWTOパネル設置要請を強く歓迎する」と題する合同プレスリリースを発表し、欧州造船業の将来ビジョン作りの場としてLeaderSHIP 2015プログラム等を立ち上げて状況改善に努力する欧州造船業をアピールする一方、韓国造船業による不公正慣行によって世界の造船市場が歪曲されていると糾弾している。
以下を参照のこと。
附録4: 韓国造船不公正慣行に対する欧州委員会のWTOパネル設置要請プレスリリース
附録5: 欧州造船工業会WTOパネル設置要請を歓迎プレスリリース
附録6: WTO文書 欧州委員会によるパネル設置要請(WT/DS273/2)
2-3. 欧州委員会、暫定保護措置対象をLNG船まで拡大(2003年6月25日)
欧州委員会(EC)は、欧韓造船摩擦問題において、韓国造船業の不公正慣行に対する暫定保護措置としての欧州連合(EU)造船助成対象として、新たにLNGキャリア船を含むことを決定した。
ECは、6月25日付欧州連合官報C148号14ページにおいて、「2002年の実態を調査した結果、欧州造船業がLNG船部門においても、実質損害を被った事実が判明したことを確認した」との通知を同官報に掲載。
これによって、世界貿易機関(WTO)提訴の決着がつくまでの時間を考慮して2004年3月31日までの暫定助成がLNG船部門にも適用されることとなった。
一方6月24日WTOの紛争解決機関(DSB)における協議で、韓国のWTO代表は、EU側から出された協議解決のための小委員会(パネル)設置要請を拒否、「韓国政府は不正な助成を供与した事実はないと確信しており、現時点でパネル設置に同意できる立場にない」と主張し、また韓国造船工業会(KSA)は「EU側がWTOの協議解決に向けて努力しなかった」と遺憾の意を表明し、「7月初旬まで協議解決のチャンネルは閉じないが、ECによる根拠のない要請には合意できない」としている。
以下を参照のこと。
附録7: 欧州委員会暫定保護措置をLNG船まで拡大プレスリリース
附録8: 欧州委員会通報(2003/C 148/10)
2-4. 欧州委員会、付属書V手続き申請(2003年7月10日)
欧州委員会(EC)は、2003年7月10日にWTOの紛争処理機関(DSB)に対し、欧韓造船摩擦問題において、既に紛争処理パネルの設置を申請しているが、これを2003年7月21日のDSB会合の議題に載せるよう要請するとともに、補助金及び相殺措置に関する協定(ASCM)の付属書Vの著しい害に関する情報を収集するための手続きに基づき、韓国政府から関連情報を収集するとともに、第3国の市場として日本と中国における影響をも調査するため、質問状を送る手続きに入るよう要請した。
また、情報収集連絡調整者(Facilitator)としてECは候補者をノミネートするが、韓国から合意が得られない場合が想定され、その際はDSBが指名するよう要請した。
以下を参照のこと。
附録9: WTO文書欧州委員会による付属書V手続き要請(WT/DS273/3)
2-5. 日本、付属書V手続き受入(2003年7月29日)
2003年7月11日付けでメンバー国に回章された欧州共同体(WT/DS273/3)のコミュニケーション(補助金と相殺措置に関する合意の付録Vの情報収集過程に関するもの)で、ECが、日本を含む第3国へ質問を送る意図を明確としたため、日本は、付録Vの第1項にしたがって、「その領土内でこの規定の管理に責任を持つ機関」は、日本外務省のWTO紛争解決課である旨、紛争解決機関(DSB)に対し通知した。
さらに、日本は、いかなる情報提供に対する要請は文書にて、ジュネーブの国際機関担当の日本代表部の紛争解決担当官を通じて提出されるように要請した。
以下を参照のこと。
附録10: WTO文書 日本による付属書V手続き受入(WT/DS273/4)
2-6. 中国、付属書V手続き受入(2003年8月26日)
2003年7月11日付けでメンバー国に回章された欧州共同体(WT/DS273/3)のコミュニケーション(補助金と相殺措置に関する合意の付録Vの情報収集過程に関するもの)で、ECが、中国を含む第3国へ質問を送る意図を明確としたため、中国は、付録Vの第1項にしたがって、「その領土内でこの規定の管理に責任を持つ機関」は、中国通商省である旨、紛争解決機関(DSB)に対し通知した。
さらに、中国は、いかなる情報提供に対する要請は文書にて、ジュネーブのWTO担当の中国代表部を通じて提出されるように要請した。
以下を参照のこと。
附録11: WTO文書 中国による付属書V手続き受入(WT/DS273/5)
2-7. WTO欧韓造船摩擦パネルの構成決定(2003年8月27日)
世界貿易機関(WTO)の紛争解決機関(DSB)は7月21日、欧州委員会(EC)による協議要請から60日以内に解決しなかった欧韓造船摩擦問題に関して、小委員会(パネル)を設置した。日本造船工業会(SAJ)の要請を受けて第三国参加の意図を表明していた日本に続いて、アメリカ、ノルウェー、台湾、中国、メキシコの5ヶ国も、上記パネルに第三者として参加することとなった。日本を含めて第三国として参加する上記6ヶ国は、パネルを構成する当該国・利害関係国とは無関係の独立した専門家3名の委員(議長Mr. Said El Naggar, 委員Mr. Gilles Gauthier, Ms. Ana Novik Assael)に対して文書を提出し、会合にはオブサーバーとして出席する権限を与えられる。
パネルヘの委託事項は、標準的な「EC文書WT/DS273/2に上げられた協定の関連規定に照らし、ECがDSBに申し立てている事項を検証し、協定で決められたDSBによる勧告の策定と命令の発出を支援すること。(仮訳)」であったが、2003年8月11日ECは紛争解決に係る規則及び手続きに関する了解(DSU)の第8条7項に基づき事務局長はパネルの構成を決定するよう要請した。
参考:DSU第8条7項(仮訳)
パネル設置後20日以内に委員について合意されない場合は、事務局長は、いずれか一方の紛争当事国の要請に基づき、紛争当事国と協議の後、DSB議長及び関連する理事会または委員会の議長と協議の上、紛争において問題となっている対象協定に定める関連する特別または追加の規則及び手続きに従い自らが最も適当と認める委員を任命することによって、パネルの構成を決定する。DSB議長は要請を受けた日の後10以内に組織されたパネルの構成を加盟国に対して通報する。
以下を参照のこと。
附録12: WTO文書 パネルの構成決定(WT/DS273/6)
|