附録23
造船国家助成フレームワーク仮訳
造船業に対する政府助成に関するフレームワーク
(2003/C 317/06)
1. はじめに
1. 1970年代の初め以来、造船への政府助成は一連の明確な共同体規律で統制されてきている。明確な規則に準拠していない工業部門において、造船セクターに適用可能な制度は、より厳密なものと、より穏当な規定が混在していた。このフレームワークでは、造船助成の新規則を設定するための理事会規則(EC)No.1540/98が2003年12月31日に失効するため、これに続き、造船に対する政府助成を評価するための新たな規則を提示するものである。
2. このフレームワークの目的は造船業に適用可能な規則と他の工業部門との相違を最大可能な程度まで減らし、かつ単純化することと、一般の横断的規定を造船セクターへも拡大することによって、この分野の委員会の政策に、より透明性を持たせることである。
3. しかしながら、委員会は、その政府助成管理政策に対し、造船分野に影響する特定要因が反映されるべきであることも認識する。これらの要因には次のものを含む。
(a)世界造船市場における過剰能力、低船価および貿易歪曲要因
(b)非常に大きな資本財としての船の性質(それは競争を歪曲する資金融通を支援する国の潜在的志向を惹起する。)
(c)WTOの不正貿易慣行に対する規律は造船セクターで適用することが困難であるという事実
(d)造船セクターのOECD協定の存在、即ち、1998年の船舶の輸出信用における分野別合意のある公的輸出信用のためのOECD指針協定であり、それは、公的輸出信用分野における幾つかの指針の適用に関する1978年4月4日の決定に替わる2000年12月22日の理事会決定2002/76/ECに準拠して、共同体に適用される。
4. 委員会は、造船業における正常な競争条件について、1994年の協定を見直すために、OECDの中で作業が開始されたことを承知している。本フレームワークは、OECDの作業結果に悪影響を及ぼそうとは全く意図しておらず、OECDの協定に照らして見直される。
5. これらの特殊な特性に照らして、このフレームワークの目的は適用可能な規則の単純化に加えて、次のものである。
(a)共同体域内造船所の効率と競争力を特に革新の促進を通じて大きく促進する。
(b)必要であれば経済的に不要な能力の削減を促進する。
(c)輸出信用と開発援助の分野での適用可能な国際的義務を尊重する。
1.1 これらの目的を達成するために、このフレームワークは、革新支援や企業閉鎖助成、輸出信用、開発助成、地方助成に関する特定の手段を提供する。
6. その殆どが一品生産、そのサイズ、生産ユニットの価格と複雑性、また一般にプロトタイプが商業的に使用されるという事実等の特性は、造船をユニークにし、他の産業との相違を示すものである。結果的に、造船は革新助成を受けられる資格のあるただ一つの分野である。革新のための投資助成は規則(EC)No.1540/98により導入され、技術的なリスク負担へのインセンティブとして十分に正当化された場合にのみ認可されるように意図された。しかしながら、この規定の実施は満足ではなかった。造船業のユニークな特性が、この分野特有の革新助成を維持することを正当化していると考えられる。したがって、このフレームワークは、旧規則の適用の困難性を考慮して、革新への助成措置を改善することをねらいとしている。
7. 委員会は、このフレームワークの規定に従う場合に限り、共通市場と共存しうる造船、修繕及び改造への助成と考える。
8. このフレームワークは、造船への暫定的防御メカニズムに関する2002年6月27日付けの規則(EC)1177/2002による臨時措置へ影響を与えるものではない。
2. 定義
10. このフレームワークの目的のために、次の定義を適用する。
(a)「造船」とは共同体において、「自航する外洋商業用船舶」の建造を意味する。
(b)「修繕」とは共同体において、「自航する外洋商業用船舶」の修理あるいは再調整することを意味する。
(c)「改造」とは共同内において、1000GT以上の「自航する外洋商業用船舶」の改造であって、積荷計画、船殻、推進システムあるいは乗客設備への根本的な変更に至るものを意味する。
(d)「自航する外洋商業用船舶」とは、以下を意味するものとする。
(i)乗客および(または)物品の輸送のために使用される100GT以上の船舶
(ii)専門サービス(例えば浚渫船や砕氷船)を行う100GT以上の船舶
(iii)365kW以上の引き舟
(iv)100GT以上の漁船であって、輸出信用および開発援助に関し、1998年の公的に支援される輸出信用指針におけるOECD協定と船舶の輸出信用の分野別了解、さらにそれらに対するあらゆる改正と修正、また漁業と水産養殖セクターの国家助成を管理する規則にしたがっているもの。
(v)前述した船舶の未完成の船殻は、浮上し移動するものであること。
上記の目的のために、「自航する外洋船」は、その恒久的推進装置と操舵手段によって、公海上を自航する全ての能力を有する船舶を意味する。軍用船舶(すなわち、それらの基本的な構造特性と能力が特別に例えば軍艦やその他攻撃もしくは防衛行動用の船舶のように、もっぱら軍事目的への使用が意図されている船舶)とその他の船舶になされる改造もしくは機能付加でもっぱら軍事目的であるものについては、このフレームワークは適用しない。国家助成管理に反して商業用船舶にとって有利な措置を、もっぱら軍用の船舶とこの種の改造及び機能付加として偽装しないように適用されるあらゆる手段と方法を提供する。
(e)「実質関係者」とは自然あるいは法人であって以下の者を意味する。
i 造船、船舶修繕もしく船舶改造に従事する所有者もしくは管理者
ii 造船、船舶修繕もしく船舶改造に従事することによって、株式所有あるいはその他の形態を通じて直接的又は間接的に所有され、管理される者
造船、船舶修繕もしくは船舶改造に従事する者もしくは企業がその企業の25%以上の株式所有権を保有又は管理する場合は、「管理者」と考える。
(f)「助成」は、EC条約の第87条(1)に規定する意味とし、資金融通、保証および租税免除のような手段を顕著に含むものとする。
3. 適用規則
3.1 スコープ
11.造船助成は、船の建造、修繕あるいは改造のために、直接的もしくは間接的に、供与を受けるすべての造船所、実質関係者、船主および第三者への助成を含むものとする。
3.2 横断的規則の適用
12. 一般原則としては、造船への助成は、EC条約第87、88条及びそれらをベースにした全ての法規と手段に従って供与される。それらには、以下の規則と改正・更新を含む。
(a)理事会規則(EC)No.659/1999、EC条約の第93条の適用のための詳細規則の規定
(b)委員会規則(EC)No.68/2001 訓練支援のためのEC条約の第87、88条の適用
(c)委員会規則(EC)No.69/2001 僅少支援のためのEC条約の第87、88条の適用
(d)委員会規則(EC)No.70/2001 中小企業への政府支援のためのEC条約第87、88条適用
(e)理事会規則(EC)No.1177/2002 造船に対する暫定防御メカニズム(2002年6月27日)
(f)経済的逼迫企業の救済と再建のための政府助成の共同体指針
(g)環境保護のための政府助成の共同体指針
(h)研究開発のための政府助成の共同体フレームワーク
3.3. 特定規定
13. 第3.2条に概説された一般原則は、次の例外(それらは、第1部に示された特定要因により正当化される)に従う。
3.3.1 研究、開発、革新助成
14. 研究開発プロジェクトに係る造船、修繕、改造による支出を負担するために供与される助成は、それが研究開発のための政府助成の共同体フレームワークもしくはあらゆる後続制度における規則に従っている場合には、共通市場と共存し得ると考える。
15. 既存の造船、修繕、改造の革新のために与えられる助成は、総額の20%の最大の助成限度までは、共通市場と共存しうると考えられ、以下に適合すること。
(a)革新的製品と工程の産業への適用に関連する、すなわち、共同体内の産業に存在する最新技術と比較して、技術的に新規もしくは抜本的に改良された製品及び工程であって、技術的もしくは産業的失敗のリスクのあるもの。
(b)その助成は、プロジェクトの革新的な部分に直接排他的に関係する投資、設計、エンジニアリングおよび試験活動に対する支出に制限される。例外的に、技術革新を活用するのに厳密に必要な、追加の生産費用は、それらが最小必要量に制限されるという程度まで適格である。
3.3.2. 閉鎖助成
16. 造船、修繕、改造に携わる造船所の全部又は一部の閉鎖から生じる通常経費に対する助成は、結果としての削減能力が、完全に廃棄され復旧しないのであるならば、共同市場と共存しうると考えられる。
パラグラフ16の中で引用された助成対象の経費は次のとおり。
(a)余剰もしくは、法的な退職年齢前に退職することになった労働者への支払い
(b)余剰となったもしくは余剰とされた、または法的退職年齢前に退職となる労働者に対するカウンセリング業務の費用で、当該造船所に依存しない、または事業が主に造船でない小企業の設立を促進するために造船所によって行なわれた支払いを含む。
(c)職業再訓練のための労働者への支払い。
(d)造船以外に使用するために、その建物、装置およびインフラストラクチュアの再開発のために発生する支出。
18. さらに、造船、修繕、改造事業を全て廃止する場合には、次の手段も共同市場と共存しうると考える。
(a)独立のコンサルタントの報告で決定される、次の2つの値の高い方を超過しない量の助成:設備の残存簿価、あるいは推定される3年間の割引かれた企業運用利益、ただしそれらは助成対象企業の施設の閉鎖による利益より小さいこと。
(b)企業が、必要最小限の設備を保持しつつ、作業の大半が既に終わり、残りの未完成作業を完成するために必要となる活動資金のための融資または融資保証ローン。
19. 部分閉鎖助成を受ける企業は、過去10年に救済あるいはリストラ助成から利益を得ていないこと。救済あるいはリストラ助成が与えられてから10年未満の場合は、委員会は会社の責任ではなく、例外的で予知できない状況でのみ部分的な閉鎖助成を許可する。
20. 関係地域の構造問題や、他業種への転換のケース及びそれらの新しい活動に適用可能な共同体制度と規則を考慮して、助成の規模と手厚さは、対象となる閉鎖の範囲によって適正に判断されなければならない。
21. 助成を受けた閉鎖後に設備復旧しないように、関係加盟国は、最低10年以上の期間は閉鎖造船設備が再開しないことを保証するものとする。
3.3.3. 雇用助成
22. 造船、修繕、改造に携わる企業において、身体不自由もしくは障害のある労働者の雇用や採用の創出のため、もしくは雇用のための追加費用のために付与される支援は、雇用のための国家助成のためのEC協定第87、88条の適用に関する、2002年12月12日のEC規則(No 2204/2002)にある実質的な規定に従っている限り、共同市場と共存可能である。
3.3.4. 輸出信用
23. 船舶建造もしくは改造のために国内又は非国内船主もしくは第3者に対する、国家助成による信用という形で与えられる造船助成は、それが、1988年の公的輸出信用ガイドラインとその分野別の船舶の輸出信用にかかわる了解、もしくは同種の協定及びその改定協定の一連の規定にしたがっている限り、共同市場と共存可能である。
3.3.5. 開発助成
24. 開発途上国への開発支援としての造船又は改造に関する助成は、それが、1988年の公的輸出信用ガイドラインとその分野別の船舶の輸出信用にかかわる了解、もしくは同種の協定及びその改定協定の一連の規定にしたがっている限り、共同市場に共存できると思われる。
25. 欧州委員会は、提案された助成の特定の開発内容について、助成が必要であるか、また、1988年の公的輸出信用ガイドラインとその分野別の船舶の輸出信用にかかわる了解、もしくは同種の協定及びその改定協定の一連の規定の範囲にあるかどうかを確認する。開発助成のオファーは種々の造船所が自由に入札に参加できなくてはならない。入札手続は、共同体公共調達規則が適用可能であり、これに従わなくてはならない。
3.3.6. 地域助成
26. 造船、修繕、改造にかかわる地域助成は、以下の条件を満足する場合、共同市場として共存可能である。
(a)助成は、既存の造船所の設備更新や近代化への投資のために供与されなければならず、既存設備の生産性向上を目的とし、その造船所の財政再建に結びついてはならない。
(b)EU協定の第87条(3)(a)に言及された地域において、地域助成の許可のための各加盟国の委員会で承認された地図(開発レベルを示す)に従うこと。ただし助成限度は、22.5%を超えないこと。
(c)EU協定の第87条(3)(c)に言及された地域において、地域助成の許可のための各加盟国の委員会で承認された地図(開発レベルを示す)に従うこと。ただし助成限度は、12.5%もしくはさらに低い適用地域助成限度を超えないこと。
(d)助成は、地域助成に適用される共同体ガイドラインに定義される適切な支出を支援するだけに限定されねばならない。
4. 通知義務
造船、修繕、改造への新しい支援供与の全計画は、支援制度もしくは制度でカバーされない個別支援の両方について、欧州委員会へ通知しなくてはならない。ただし、事前通知の要件から、国家支援のある種の類型を免除する規則において有効な条件を満たしている場合を除く。
5. モニタリング
28. 加盟国は、委員会規則(EC)No 659/1999とその実施細則に準拠して、既存の全ての支援制度について、委員会に対し年次報告として提出しなくてはならない。
6. 異なる制度からの重複支援
29. このフレームワークの中で規定された支援限度は、その支援が加盟国予算、あるいは共同体予算から一部又は全部が支出されているかどうかに関係なく適用可能である。このフレームワークの下で認可された支援は、EU協定の第87条(1)の意味において、他の形態の国家支援、あるいは共同体支援が組み合わされ、重複によってこれらのガイドラインに基づくものより高い支援程度をもたらすようなことはない。
異なる目的に対し、同じ支出対象を含む場合には、その中の最も優遇された支援限度が適用される。
7. このフレームワークの適用
31. このフレームワークは遅くとも2004年1月1日から2006年12月31日まで適用可能となる。この期間内に共同体の国際的な義務に照らして、委員会によってレビューが行われる。
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