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附録19
リーダーシップ2015仮訳
リーダーシップ2015
欧州造船・修繕産業の将来のあり方―長所を通じた競争力
 
はじめに
 リーダーシップ2015において、欧州造船産業はダイナミックな成長市場で長期的繁栄を確保するため大胆な計画を開始した。欧州造船産業は多くの企業と組織体で構成されている。それは、造船所、設備メーカー、エンジニアリングサービス事業者やその他知識提供者である。そして、新造船と修繕・改造からオフショア技術を含む機械的エンジニアリングと多種多様な特定サービスといった海事活動の広い範囲に従事している。これらの多くは中小企業である。
 
 造船のような高度技術産業分野での成功は、まず最初に知的活動が基本である。造船所、設備メーカー、研究センターおよび、その他先進的技術とエンジニアリングサービスの提供者による密度の濃いネットワークは欧州だけで存在する。この特別な先進性は、欧州造船業の将来を確かなものにする良い理由を与えている。知識ベース経済活動に関し、リーダーシップ2015は、2000年3月のリスボン理事会で前倒しが決定したEUの経済・社会・環境回復のための長期戦略に対する分野別対応である。リスボン戦略は、知識や革新技術にもっとターゲットを絞った投資や産業と研究機関のより密接な連携を通じて、競争力の改善やニュービジネス機会、及びバランスの取れた経済発展への基礎を提示している。この戦略の重要要素は、2003年6月のテッサロニッキ理事会の結論と欧州委員会の最近の成長と投資イニシアティブを再確認することであり、それは、なかんずくGDPの3%を目標とするR&D投資の増加と事業資金融資手続きの改善、拡大された欧州での産業分野への若年層の就業勧誘である。
 
 リーダーシップ2015のロードマップは2002年10月に欧州委員会に上程され、2015年までに世界の造船業におけるリーダーとしての役割を確保し、重要な挑戦事項への回答を提示する骨太の戦略を明記した長期的視点に立った産業のアウトラインが示された。プロディ議長はこのイニシアティブを歓迎し、全面的支援を申し出た。リーダーシップ2015はリッカネン委員長によって、起業環境の改善や所要の調整過程を円滑に進める手立てである欧州委員会の改定産業政策の中の分野別変革事項における優先課題の一つとして新たに認められた。多くの観点で造船は戦略的に重要である。造船は他分野へ多くの派生技術を提示しうる先端技術を開発し、国際貿易の実質的輸送手段を提供し、効果的軍隊運用のための重要事項である先進船舶を現代の海軍に供給している。それは、なぜ造船が世界中の国で継続して政策的支援を受ける特に微妙な産業分野であるかの理由である。
 残念ながら、全ての造船事業者が公正な競争原則を尊重している訳ではない。EUは世界市場で公正な競争を確保するため、あらゆる貿易政策手段を用いている。しかしこれは、具体的な行動と全面的な競争力を確保するために決定的な政策支援で補完されねばならない。欧州委員会はリーダーシップ2015諮問グループヘの全関係者の参加を歓迎する。諮問グループでは具体的な行動を策定し緊密な対話から適切な政策提案を行う。
 提出した報告書には、諮問グループで認知された8分野を基礎とした建設的過程の結果が要約されている。それは更なる所要の目標行動である。リーダーシップ2015のロードマップは、問題と推奨される目標への直接的対応が示されている。具体的には、
・選定された高価値市場分野での強い立場の維持と更なる強化
・製造と革新過程における世界的指導力の確保
・強力な顧客中心主義の徹底
・ネットワークされた産業構造の更なる改善
・製造過程の最適化と知識ベース製品への焦点強化
 リーダーシップ2015は、産業活力やダイナミズム、世界的競争力、継続可能な成長の確保を図り、行動の具体的テーマヘの効果的アプローチを明らかにしている。リーダーシップ2015を通じて、造船分野のユニークな特徴から出てくる特定条件が検討されている。この重要な時期に打ち出されたリーダーシップ2015はすぐに実施すべき現行の挑戦事項に対する最初の勧告である。そしてリーダーシップ2015は分野別の効果的な欧州産業政策の好例である。
 
欧州造船産業の重要データ
・年間売り上げ約340億ユーロ、その半分以上は輸出
・9000社以上の産業ネットワーク
・350,000人以上の労働力
・売り上げの10%を、高レベルのプロトタイプ作りと卓越した製品の優位性を通じたR&Dに振り向ける海事分野の重要な先導者
・複雑な船舶や修繕における強い世界的市場位置
 
世界の造船業における公平な活動条件の確立
 商業用造船・修繕事業は常にまさに世界的な市場で運営されており、造船所は世界中の顧客から契約を取るため競争している。造船業は早くからまた包括的に市場開放の力と、他のほとんどの工業製品との本質的な相違点となる「アンチダンピング規律の欠如」にさらされている。
 アジアの国家支援による戦略的投資が需要と供給間のバランスを欠くこととなった。今、行動を起こさなければ、世界の造船市場は高い周期性を特徴とするが、開放された貿易環境が悪い影響を及ぼし、過剰能力が産業界に深刻な問題を残してしまうだろう。特に市場船価へ衝撃が問題である。しかるに戦略的理由から創られた過剰生産能力は、世界の造船業にとって重大な問題なのである。
 この市場は、加害的廉売価格と幾つかの国における補助金による不公正慣行によって最適には動いていない。強力な国家助成規則がEUに存在するうちは、国際的なレベルで特定な規則が適用されることはないであろう。継続維持が困難な能力が現状で維持され造船所は生産設備の稼働を埋めるために採算の取れない発注を受ける他ない。この赤字は、造船所の倒産を救うため新たな政府介入を引き起こし、悪い循環が作られることになる。とても低く、下降傾向にある船価レベルは、船主に新規発注をさせるインセンティブを与えている。しかし低船価は、高船価で発注された既存商船隊の簿価に悪影響を及ぼす。
 ほとんどの産業は多国間貿易規則の存在で効果的にカバーされているが、造船はその特性のためにそれら規則の適用に容易には準拠できない。結論として造船分野は不公正貿易慣行に対し効果的な防御のこのような形式は当てはまらない唯一の産業なのである。
 EU造船産業は多くの貿易歪曲形態に直面している。即ち、直接補助と間接補助及び他の支援措置などの異なる形態が存在する。特に一つの大造船国による慣行であるが、具体的には、政府が保有又は管理する銀行による負債免除や負債の株式転換及び利子免除、またダンピング形態における不公正価格慣行、造船融資に関する灰色部分、地域の造船所における国内市場の留保、一般的輸入規制のような市場開放規制、輸入税と国内輸送サービスにリンクした自国建造優遇措置、通常の市場条件以下での船主へのローンとローン保証である。一般的に、条件付きで、法的又は事実として国内建造をする場合は、船主への補助金は造船所への補助金という形に恐らくなる。如何なる形態でもそのようなリンクが存在しない場合は、通常、政府助成は国内船主に利益を与えることとなる。
 EU造船産業は、OECDレベルを含む、国際造船協定が補助金と加害的廉売を規律すべきとの考え方を支持する。リストラ補助金は、EUの現行規律と同様に、補助金供与を受ける造船所の能力を顕著に減少される場合にのみ許されるとの規定が含まれるべきである。協定には、その義務に従わないケースでは効果的な救済が提供されなければならない。
 また既存の船舶輸出信用のOECD分野別合意と関連OECD合意は、潜在的市場歪曲とEU造船所の優遇措置を規則化するために、明確化し疑問の余地のない解釈が必要である。EUはこれらの規則が全ての主要国で統一実施され、全ての造船地域に拡大されることを希求するよう求められる。
 追加的事項として、造船へのWTOの補助金相殺措置合意の全面適用ができるように、世界の造船分野で公平な活動条件がWTOレベルで策定されねばならない。
 
世界造船業の公平な競争活動条件
問題点
・世界造船業は需要と供給のアンバランスにさらされている。
・加害的廉売慣行が競争を歪曲している。
・価格の押し下げと価格上昇抑制の結果が赤字を呼び、結局、多くの形態の政府助成と保護につながる。
・国際貿易規律は造船に適用困難。
 
勧告
・現行EU貿易政策アプローチを決意を持って継続する。
・造船へのWTO規則の全面強制・適用。
・2005年までに新造船協定を通じて、強制できるOECD規律の開発と既存規則の疑問の余地のない解釈
 
欧州造船産業の研究、開発及び革新投資の改善
 研究、開発、革新(RDI)投資は経済成長、競争力強化、雇用増進の鍵である。EU協定第157条は、EU産業の科学的技術的基礎の強化と国際的な競争力強化の奨励という欧州共同体の目標を明記している。この目標は、リスボン、バルセロナ、最近ではテッサロニキの各サミットで欧州理事会によって繰り返し強調され、具体的な勧告により補完されている。RDIは造船のようなハイテク産業特に重要である。欧州造船所は、今日すでに毎年の売り上げの約10%を投資しているが、この共同体目標に効果的に合致させるため追加努力が要請される。
 この観点から、欧州委員会の研究枠組み計画は欧州造船業のRDI努力を支援していることが認識される。この支援は、商業的かつ環境的な定期的予測を考慮して、訓練、環境、安全、競争力という問題に対し、長期的な解決を図るため、欧州研究の必要最小量を結集することによって、特定の利益を提供する。InterSHIP計画は、表面輸送における共同体枠組み計画によって支援される最大の統合プロジェクトであり、良い事例を提供している。海事産業会議(MIF)の枠組みの中で得られた経験を育てることをベースに、技術的な要件をつめて、RDIに関連する造船のための長期戦略的ビジョンに継続して焦点をあてていくことが重要である。このビジョンは船舶の長期にわたるライフサイクルとバランスが取れていなくてはならないし、広範な造船RDI環境内の全ての問題(産業、規制、運用など)に対応するため全ての海事関係者の継続した活発な参加が奨励されねばならない。
 そのようなビジョンは政策策定への指示や効果的な資源配分や欧州造船産業の長期的利益を最大化することに用いられる。
 しかし、RDI投資を改善するための基本的障害は、現行の共同体規則の適用にある。研究開発の政府支援の共同体枠組みは、EU競争規則に準拠する上で効力が存在し、造船分野の特徴から、このベースでは適切な助成を受けることができない。故に域内規律に全面的に従いつつ、RDI利益と分野内のニーズを生かすために新規規則と手段が必要とされる。共同体は既にこの問題は1998年に革新のための投資助成を給付する新規則が導入された時に認識されていた。しかしこの規定は、実施メンでの実態的な問題に直面し、一度も適用されなかった。
 可能な解決方法は、他の多くの産業のRDI活動はシリーズ生産が開始される前に実施されるが、造船事業では革新活動の多くの部分が、設計と製造過程に複雑に入り込んでいるという事実から導き出されねばならない。
 新造船は大きく複雑な製品で、特徴として一品ものとしてもしくは非常に限られたシリーズものとして進水される。造船所と舶用メーカーは革新システムと部品の明確化を受注に先立ってRDI活動として実施せねばならず、同時に顧客は、彼ら固有の事業コンセプトヘの注文設計を船に要求している。コンセプト設計段階での特定の革新技術の採用は、重要な競合優位を確立し、既製品での解決で引き合いを出す極東造船所に競合した時に勝利できる欧州造船所の唯一の道である。
 船舶はコンセプト設計をベースに販売され、それは完成品とは異なる。結局、製品開発と革新活動の大部分は販売契約のサインの後に実施される。事実、契約確定後に、造船所はコンセプト設計段階で出てきた特定のRDIニーズを明確化する立場にある。これらの活動は、最短可能期間で最小可能コストで実施せねばならない。
 この過程は、造船所にとって非常に大きな産業的かつ技術的リスクが隠されており、造船におけるRDI活動の大半は開発、設計、プロトタイプ船建造といった、例外なく後で商業的に使用される活動の一部に統合されている。
 複雑な船舶の市場は、欧州造船所に集中しているが、特にその特徴として、船舶の数や需要が限られる、非常に少ない姉妹船のためにプロトタイプが建造される、注文設計で知識ベースの生産過程である、多くの技術的支出がある、多くの専門的下請けが存在するというものが上げられる。複雑な船ではその価値と関連の革新技術の70〜80%迄が共同エンジニアリングを経た広範囲のネットワーク内で舶用メーカーと一緒に造船所が開発し実施するものである。
 これらの運用条件はEU造船産業の顕著な経済と財政負担にオンされる。欧州造船所のハイテクなニッチ市場への従事社数は増加しており、継続して今日の指導的立場を維持するためには投資の増加が必要である。
 現行の規制状態の下で、RDI支援スキームは非常に限られた範囲にのみ使用されている。コンセプトや機能と詳細設計活動に関して、造船産業の特性は適用可能な規則に反映されていない。造船契約の主題は船であり研究や開発、革新技術の知識ではない。しかしそれらは疑いなく船の建造に要求される。結果として造船特有のRDI活動は、設計、テスト、新クラス船舶の試運転に関して、あらゆる支援制度において実態を適切に認識する必要がある。またそれには適切な造船の特性概念と派生する取り返せないコストも含むべきである。これは革新助成の規定のもとでうまくいくはずである。
 他産業のプロトタイプを含む新製品の開発は、通常、競争になる前に検討され、25%までの支援が許される。造船においても他産業と同じ条件で実質享受できるようにすることが必要である。現行の規制制度の基本コンセプトを維持しつつ、域内市場への競争に被害が出ないように、造船産業の特徴が、他分野で活用されている助成に匹敵する程度の助成を享受する上で障害が出ないようにせねばならない。これはプロトタイプ製造コストを含む適用可能な支出の明確化が要求される。そして欧州造船所と舶用産業を横断する革新的技術の採用にインセンティブの提供する。
 これは、欧州造船所の技術的指導力の維持と改善に前向きな影響を与え、複雑なハイテク船市場で強力な位置を確保する助けとなる。そして欧州造船所は、エンジニアリングノウハウと新たな商業的機会を提供する新船開発への彼らの投資を増加する。現行のRDI支援スキームの全面適用の邪魔となる障壁は消える。改良RDIスキームは、欧州造船業をより高い技術レベルヘ移行させ、より大胆なアイデアを販売し、契約義務のしたがって産業に実現可能性を与える。新開発の技術的リスクを取って、革新活動は可能となり、同時に革新的解決に対する顧客要件は経済的に可能なやり方で埋め合わせできる。欧州経済の競争力を研究、革新、技術開発の推進で向上させるという第157条の手段は造船分野でより適切に継続することができる。
 効果的に適用できる適切な規制の枠組みがない事は、欧州造船所に、高度に開発された技術的解決手法を提案する手段を奪い、また難しくする結果となる。結果的に新型船の開発はコスト効果的に出来なくなる。一般的にRDI活動に関連するリスクが与えられ、金融機関が革新的プロジェクトヘ融資するのを拒むようになれば、造船所は彼らの顧客からのまだ高い需要に対応できなくなる。すでに貧弱な利益と組み合わさり、実質利益はさらに下がり、もしRDI投資を促進する適切な手段をとらなければ、欧州造船技術は下降スパイラルを呼び、極めて危険な状態に立ち至る。
 
RDI投資の改善
問題点
・欧州造船所は、低コストではなく先進技術を通じて国際的競争をせねばならず、RDI投資は重要。
・RDIの中で造船は他の工業とは異なる。しかしこれは現行欧州共同体規則の適用には反映されていない。
・造船知識の創造は、常にほとんどプロトタイプ開発に複合されており、十分に支援されていない。
 
勧告
・造船RDIの欧州規則は、技術基盤の創造手段として統合され集中した努力を通じて強化されねばならない。海事産業会議(MIF)の中で実施された作業はこのアプローチのべースを形成せねばならない。
・造船産業は、同種のRDI活動に従事している他産業と同じ条件で実質的に助成を享受せねばならない。
・助成程度は、設計、開発、製造の全段階で取られる実際の技術リスクを反映する必要がある。
・新たな定義が即ち革新助成に関し、必要であれば策定される必要がある。
・RDI投資支援は、欧州の技術的指導力を向上させることを目標とする必要があり、取ったリスクに対し報いなければならない。







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