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4−3−5 副室内燃料噴射方向の影響
 第3章、第4章1−2までの結果から、性能向上を達成するためには副室からの噴流を継続させ、主室の燃焼を活発にすることが必要であることが明らかにされた。このための手段の一つとして、連絡口面積比を小さくすればよいが、この方法ではエンジン回転速度が高くなると、絞り損失が大きくなり、性能に及ぼす影響が大きい。そこで、副室内に噴射される燃料分布を変えることによって副室内の燃焼をコントロールし、噴流を継続させることを試みた。このときのエンジン性能および燃焼に及ぼす影響を調査した。なお、燃料分布を変える方法として、燃料噴射ノズルに燃料噴射方向、噴口径など、自由度の大きいホールノズルを使用していることを利用して燃料噴射方向を変えることによった。
 燃料噴射方向を変えた場合の試験条件を表4・5に示す。なお、連絡口の角度は図4・6に示す角度を表す。
表4・5 試験条件(噴射方向の影響)
連絡口面積 1.5%
連絡口数 6
連絡口角度 α 138°
噴射ノズル φ0.16×4-60°
φ0.16×6-60°
φ0.55×1+φ0.16×4-100°
φ0.55×1+φ0.16×2-100°
回転速度 1200rpm
負荷 4/4
燃料噴射時期 15〜0 degBTDC
 
 なお、図4・11において、ノズル仕様φ0.16×4‐60°では4噴口、φ0.16×6‐60°は6噴口のノズルを、φ0.55×1+φ0.16×4‐100°では上部の噴口数が6噴口、φ0.55×1+φ0.16×2‐100°では2噴口をそれぞれ示す。
 噴霧角が60°(a)の場合では、図3・12に示すようにノズル噴口径を小さくすることによりスモークの減少を狙ったものである。これは、第3章における結果より、噴口径を絞った場合ではスモークの低減が大きいことが明らかにされており、この効果を噴射方向をφ0.4×4−60°の場合と同じにして、スモークを低いまま、性能の回復を狙ったものである。なお、φ0.16×6‐60°の場合では噴口径φ0.4×4−60°に対して連絡口総面積が大幅に減少するので、噴口数を増加させることのより噴口総面積を増加させることを狙っている。
 (b)の場合では燃料を副室上部に噴射し、単噴口ノズルにおける副室上部の空気利用を向上させて燃焼を後期まで持続させることにより副室連絡口面積比が大きい場合でも燃焼後期に噴流を継続させることを意図したものである。これは第3章の結果では、単噴口ノズルφ0.55×1を使用した場合では、燃焼コンセプト(2)に示した連絡口付近に燃料、混合気を集中させ、主室に早期に噴出させることは達成できている。しかし、連絡口面積比が1.5%の場合では、連絡口面積比0.9%の場合に比べて、燃焼後期の後燃えが著しく、性能の低下が大きい。これは、性能がもっとも高かった連絡口面積比0.9%場合では、副室からの噴流が燃焼後期にまで持続しているのに対し、連絡口面積比1.5%では、燃焼後期では副室からの噴流が観察されていないことが急速圧縮膨張装置を使用した燃焼観察により裏付けられている。前に述べたように、単噴口ノズルを使用した場合では副室上部には燃焼ガスが観察されず、副室上部の空気は未利用のままとなっている。一方、燃料噴射ノズルφ0.4×4−60°を使用した場合では火炎が副室全体に広がり、連絡口面積比が 1.5%の場合でも副室からの噴流が燃焼後期まで持続している。そこで、単噴口ノズルにおいても、副室上部の空気を利用して副室上部でも燃焼をさせれば連絡口面積比1.5%が大きくても燃焼後期に噴流が持続して性能の向上が得られることを狙ったものである。なお、φ0.55×1+φ0.16×4‐100°とφ0.55×1+φ0.16×2‐100°は、噴口径φ0.16の噴口数を変えることにより副室上部へ噴射する燃料量を変えて、燃料分布の影響を調査することを狙っている。
 
a.噴口径、噴口数の影響
 ノズル噴口径、噴口数を変えた場合の性能、燃焼経過を図4・12、図4・13にそれぞれ示す。なお、図3・13に示したφ0.4×4‐60°の場合も合わせて載せている。φ0.4×4‐60°に対してノズル径をそのまま小さくした場合では、NOx、スモークの低下は大きいものの性能の低下が著しい。燃焼経過を見ると、噴霧角が同じφ0.4×4‐60°の場合と比較して、燃焼初期のピークが低下し、φ0.16×4‐60°、φ0.16×6‐60°の場合ともに燃焼初期のピークが低下し、燃焼後期の熱発生率が大幅に増加している。また、φ0.16×6‐60°の方が、φ0.16×4‐60°に比べて燃焼初期のピークが大きく、燃焼後期においては熱発生率が小さく燃焼が速くなっており、噴口数増加によって噴射期間が短縮していることが示唆される。しかし、性能はφ0.16×4‐60°、φ0.16×6‐60°の場合ともにほぼ同等となっているが、CO、HC、スモークはともに増大している。このことから、φ0.16×6‐60°の場合では隣り合う噴霧同士が干渉し、混合が不良となっていることが考えられる。φ0.16×6‐60°の場合では、総面積の低下を補うことを意図したが、φ0.16×4‐60°に対して噴口数増加により、燃料が早期に噴射される効果と噴霧干渉による混合の不良が相殺され、性能は変化せず、CO、HC、スモークはともに増大となったものと考えられる。
 なお、φ0.16×4‐40°の場合では、スモークの排出が少ない。図4・12に示すように、φ0.16×4‐60°の場合でもスモークが少なくなっている。したがって、噴口径の小さいノズルではスモークを低減する効果があると考えられる。しかし、φ0.16×6‐60°の場合では逆に増加している。このノズルでは隣り合う噴霧同士の干渉が考えられることから、噴口径によりスモークの低減を図るためには噴霧同士の干渉を避ける必要がある。また、図3・12に示すφ0.16×4‐40°の場合における燃焼経過と比較すると、熱発生率のパターンはほぼ同等となっている。このことから、廃食用油の燃焼は噴霧角よりも、噴口径の影響が大きく、これは噴射期間に影響を及ぼし、廃食用油は早期に噴射を終了させ、同時に噴霧干渉を避ける噴射系とすることが必要である。
 
b.燃料分布の影響
 単口ノズルに対し、噴口を追加したものに相当するφ0.55×1+φ0.16×2‐100°、φ0.55×1+φ0.16×4‐100°の場合における性能、燃焼経過を図4・14、図4・15にそれぞれ示す。
 単口ノズルφ0.55×1に対し、副室の上部に燃料を追加すると、その増加にともなって、性能、NOxともに著しく増加し、噴射時期10degBTDCにおいて、これまで試験を行ったものの中で最も高い図示熱効率を達成している。燃焼経過では、上部の燃料の増加とともに、初期燃焼が著しく増加し、燃焼後期では低くなっている。しかし、燃焼の終了はそれほど短縮せず、むしろ、単口ノズルφ0.55×1と連絡口面積比0.9%の組み合わせの方が燃焼の終了は早くなっている。これは、副室の上部に燃料を追加した場合では、その燃焼によって、中心の噴霧の主室への流出を促進させる効果があるものと考えられる。しかし、上部への燃料供給量は、噴口面積に比例すると仮定するとφ0.55×1の場合に対してφ0.16×4‐100°、φ0.55×1+φ0.16×2‐100°の場合で総燃料流量のそれぞれ約25%、約12%と見積もられ、その量は比較的少ない。このため、上部での燃焼は比較的早期に終了し、上部での燃焼によって主室への噴流を生成させる効果が燃焼後期では低下したためと考えられる。一方、φ0.55×1、連絡口面積比0.9%の場合では、副室上部での燃焼がなくても、連絡口面積比が小さいため、ピストン下降による副室から主室へのガスの移動のみだけでも主室の燃焼を促進するに十分な流速の噴流が生成され、これが燃焼終了まで持続し、その結果、燃焼終了も早いものと考えられる。以上のことから、副室式エンジンにおいて、主室への燃料の早期噴出とともに副室での燃焼の継続による噴流の強化が性能向上に重要と考えられる。
 また、φ0.55×1+φ0.16×4‐100°、φ0.55×1+φ0.16×2‐100°では、噴射時期10degBTDCで最も出力(図示熱効率)が高く、噴射時期を遅延するほど性能が低下し、C Oが著しく増加する。また、NOx低減のためには噴射時期を遅延する必要がある。φ0.55×1+φ0.16×4‐100°の場合では高い性能が達成されるものの、NOxも著しく高い。この高いNOxの排出、および噴射時期の遅延時のCO増加および性能の低下、さらにφ0.4×4のノズルを使用した場合における比較的低いNOxの排出、噴射時期遅延時の性能の低下がほとんどないことを考慮すると、性能、排ガス特性のバランスはφ0.4×4の方がよいと考えられる。
 
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図4・11 燃料噴射方向
 
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図4・12 エンジン性能(ノズル噴口径、噴口数の影響)
 
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図4・13 燃焼経過(ノズル噴口径、噴口数の影響)
 
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図4・14 エンジン性能(ノズル噴射方向の影響)
 
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図4・15 燃焼経過(ノズル噴射方向の影響)
 








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