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(1)廃食用油を燃料としたエンジンの性能と燃焼経過
 試作した単気筒エンジンにおいて、廃食用油を燃料として運転し、全負荷まで運転が可能であった。このときの噴射時期に対する図示平均有効圧、図示熱効率を図3・8に示す。図示平均有効圧については全般的に軽油の方が高くなっているが、これは試験を行った時のサイクル当たりの投入発熱量が軽油の方が約10%程大きいためである。しかし、図示熱効率を見ると廃食用油の方が軽油より上回っている。このことは遮熱エンジンにおいて、廃食用油に何らの加工あるいは処理を行うことなく、燃料としてそのまま利用可能であることを示す。また、軽油においてもほぼ同等の熱効率が得られるので、状況に応じて従来燃料に切り替えることのできる多種燃料エンジンとしての可能性もあることを示している。
 排気性能を図3・9に示す。NOx、COは軽油の方が高くなっており、噴射時期を進ませるとNOxは増加し、COは減少する。HCはともに非常に低い値である。しかし、廃食用油でも、HCは軽油と同じ分析計を使用しているので、分析できない成分も排出されている可能性があり、今後調査する必要がある。スモークは廃食用油の方が約半分程度になっており、大幅に少なくなっている。しかし、廃食用油のほうが発熱量あたりの噴射量が少ないので、軽油の噴射量を3/4負荷相当にした場合のスモークを併記している。図から明らかなように、廃食用油のスモークは軽油の3/4負荷相当とほぼ同等となっている。このことから、廃食用油を燃料にした場合ではスモークの排出が半減することが期待できる。これは廃食用油には約11%の酸素が含まれており、スモーク生成の抑制または再燃焼の促進効果があるためと考えられる。NOxに関しても廃食用油のほうが軽油の3/4負荷よりも低くなっている。
 以上のことから、廃食用油をそのまま燃料として使用した場合では、NOx、スモークともに低減することができる。
 廃食用油と軽油の場合のインジケータ線図と熱発生率を図3・10に示す。熱発生率に着目すると、軽油の方が着火直後の熱発生率の立ち上がりが大きく、僅かながら予混合燃焼のピークが現れている。これは、遮熱エンジンで着火遅れが大幅に短くなっているものの、軽油の方が燃料の蒸発・混合気形成が速くなされ、予混合燃焼が多くなっているためと考えられる。その後の拡散燃焼では両燃料との間に大きな差異は認められない。これは、廃食用油は軽油と同じように燃焼し、燃焼上の問題点は少ないことを示している。
 以上のことから、遮熱エンジンでは廃食用油を何らかの処理、あるいは加工を施すことなしにそのまま燃料として利用でき、その場合ではスモーク、NOxの低減が可能であり、特にスモークでは約50%の大幅低減が達成可能である。
 
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図3・8 エンジン性能(廃食用油と軽油)
 
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図3・9 排気特性(廃食用油と軽油)
 
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図3・10 燃焼経過
 

(2)設計要素の影響
 燃焼室形状・噴射ノズルなどの設計要素はエンジンの燃焼、性能を大きく左右する。ここでは設計要素として、燃焼室連絡口面積比と燃料噴射ノズルを取り上げ、性能に及ぼす影響について試験を行った。
 連絡口面積比は主室に噴出する火炎の速度、到達距離に、燃料噴射ノズルの仕様は燃料の副室内での分布にそれぞれ大きな影響を及ぼす。主室、副室の形状・諸元は、連絡口面積比、燃料噴射ノズルの諸元を変えた場合でも同一である。なお、燃料噴射ノズルを変えた場合の噴射方向を図3・7に示している。
○性能・排ガス
 連絡口面積比が1.5%、0.9%の場合における性能および排ガス特性を、燃料噴射時期に対して、図3・11、図3・12にそれぞれ示す。
 図示熱効率はいずれの連絡口面積比、ノズル仕様においても燃料噴射時期10degBTDCで最も高くなっている。試験を行った中で、燃料噴射ノズルがφ0.55×1、連絡口面積比0.9%の組み合わせが最も図示熱効率が高く、図示熱効率は40%を越えている。なお、この条件で4気筒エンジンにした場合、正味熱効率は約36〜37%が期待でき、同クラスの水冷ディーゼルエンジンに比べて2〜3%低い程度に止まる。今回は始めての試験であり、性能・燃焼の最適化は今後の課題である。したがって、今後の燃焼改善によって、正味熱効率は従来エンジンと同等あるいは上回ることが期待できる。
 燃料噴射ノズルでは、連絡口面積比0.9%の場合のほうが図示熱効率が高く、その他の燃料噴射ノズル(多噴口ノズル)では連絡口面積比1.5%のほうが図示熱効率が高くなっている。これは、図3・7に示すように単噴口ノズルと多噴口ノズルでは噴射方向が異なるので副室内の燃料分布が異なるのは明らかであり、副室内の燃焼が変化しているためと考えられる。ここで、ノズル仕様φ0.4×4-60°の場合に着目すると、連絡口面積比が1.5%、0.9%の場合ともに燃料噴射時期を上死点まで、遅延させても図示熱効率はほとんど低下せず、燃料噴射時期の影響が少ない。特に、噴射時期を遅延させた場合では、噴射ノズルφ0.55×1とほぼ同等となっており、この噴射ノズルにおける燃焼を詳細に解明することにより、高熱効率、低NOxの同時低減を達成する燃焼系の構築に大きな手がかりを得られるものと考えられる。
 単噴口ノズルでは、燃料噴射時期の進角に対してNOxは単調に増加するが、多噴口ノズルにすると、燃料噴射時期10degBTDCより進角するとNOxの増加傾向は頭打ちになるか、または逆に減少する傾向がある。全ての条件で、連絡口面積比が0.9%のほうがNOxの排出が多い。これは、空気あるいは燃焼ガスが、主室から副室、副室から主室へ移動する際の速度が連絡口面積比0.9%の方が高いため、燃料と空気、燃焼ガスと空気の混合が促進されるためと考えられる。
 スモークの排出は、噴射時期を遅らせた場合のほうが減少し、また、連絡口面積比が0.9%のほうがスモークは低い。これは、NOxの場合と同様、燃焼ガスが連絡口を通過する際の速度が連絡口面積比0.9%の方が高いため、混合が促進され、すす生成の抑制、再燃焼の促進がなされたためと考えられる。
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図3・11 エンジンの性能
(ノズルおよび連絡口面積比の影響)
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図3・12 排気特性
(ノズルおよび連絡口面積比の影響)
 








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