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第2章 総則
2.1 適用の範囲
(1) 本マニュアルは、超軽量コンクリートを使用した浮体構造物に適用する。
(2) 本マニュアルは、係留装置を介して岸壁や海底地盤に係留された浮体構造物に適用する。
(3) 本マニュアルは、浮体の構造としてRCハイブリッド構造を例にとり作成した。
【解説】
 本マニュアルは下記の浮体構造規模に適用する。
 浮体幅10〜30m、長さ概ね100m以下。(「揺れない浮体構造物設計技術マニュアル付録B(p50)」を参考として決定したものである。規模が大きく異なる場合は、別途詳細検討を行うこと。)
2.2 用語の定義
 本マニュアルで用いる主要な用語の定義は次のとおりである。
(1)浮体 :海底地盤に接地せず、浮力により海上に浮かんでいる浮体構造物本体をいう。
(2)超軽量コンクリート :従来の軽量コンクリートより更に単位体積質量が小さい1200kg/m2〜1600kg/m2程度の構造用軽量骨材コンクリートとする。
(3)係留杭 :浮体の水平方向移動を拘束する海底地盤に打設された杭をいう。
(4)係留装置 :浮体と係留杭あるいは岸壁間を連結する装置をいう。チェーン、防舷材等の装置である。
(5)連絡橋 :浮体と岸壁を連結する橋体をいう。
(6)RCハイブリッド構造 :鋼板とコンクリートをずれ止めを用いて力学的に合成した構造であり、コンクリートの片側に鋼板を配し他方を鉄筋コンクリートとした合成部材で、一般にオープンサンドイッチ構造と呼ばれている。水密性、強度に優れた構造である。
(7)合成版 :鋼・コンクリートより構成されているハイブリッド構造の版をいう。
【解説】
 上記以外の用語については、港湾の施設の技術上の基準・同解説(平成11年)、コンクリート標準示方書(平成8年度版)、道路橋示方書(平成8年12月)が参考にできる。
2.3 適用基準
 本マニュアルに示されていない事項については、次の基準・指針等によるものとする。
(1)港湾の施設の技術上の基準・同解説
   (社)日本港湾協会 平成11年
(2)浮体構造物技術マニュアル
   (財)沿岸開発技術研究センター 平成3年
(3)港湾構造物設計事例集
   (財)沿岸開発技術研究センター 平成11年
(4)ハイブリットケーソン設計マニュアル
   (財)沿岸開発技術研究センター 平成11年
(5)道路橋示方書・同解説
   (社)日本道路協会 平成8年12月
(6)道路橋支承便覧
   (社)日本道路協会 平成3年7月
(7)コンクリート標準示方書
   (社)土木学会 平成8年
2.4 超軽量コンクリートの性質
2.4.1 単位容積質量
(1) 超軽量コンクリートの単位容積質量は、γ=1200〜1600kg/m3を標準とする。
(2) 超軽量コンクリートの単位容積質量は示方配合によって、この範囲内を目安とする。但し、コンクリートの水セメント比は、45%以下を標準とする。
【解説】
(1)について 超軽量コンクリートの単位体積質量は、練り混ぜ前の骨材の含水状態によって異なるため、事前に実験により確認する必要がある。
 平成12、13年に実施した「超軽量コンクリート等による浮体構造物の研究委員会」で実施した強度試験で、所定の特性が得られた設計強度30N/mm2の超軽量コンクリートの配合を参考配合として、資料集1.に示す。
2.4.2 耐久性
 以下に示す耐久性を有していることが望ましい。
(1) 耐用期間中にしばしば作用する規模の荷重によって構造物の使用性を損ねることのないよう、比較的軽微な損傷ですむよう要求される性能。
(2) 施工中に生じる初期欠陥により構造物の耐久性を損ねることを防止するため、初期に要求される性能。
(3) 耐用期間中に生じる塩害、波浪および気象作用に対し構成材料が劣化して大規模な補修を必要としないために長期に要求される性能。
【解説】
(1)について 浮体構造物は、その立地上軽微な損傷といえども補修が困難なケースが多く、耐用期間中はメンテナンスフリーであることが望ましい。比較的軽微な損傷の代表的なものはコンクリートのひび割れである。本マニュアルの対象としている構造物は鉄筋コンクリート構造と同様であり、耐久性を損なわない範囲で設計上ひび割れを許容している。しかし、ひび割れの発生を許容していても、損傷の程度によっては長期的な耐久性に大きな影響を及ぼす。したがって(1)に示す性能を具備するよう定めた。
(2)について 施工法との関連でセメントの水和熱による温度ひび割れや豆板、コールドジョイントといった構造物に初期欠陥が生じるケースは多々ある。初期欠陥は、厳しい環境下に置かれる浮体構造物にとって、長期の品質を確保する上で大きな影響を及ぼす場合もある。したがって、十分な施工管理を行って初期品質として要求される性能を具備する必要がある。初期品質に対する限界状態としてはセメントの水和熱による温度ひび割れ、および乾燥収縮ひび割れを照査するのがよい。
(3)について 浮体構造物はその環境上塩害を受けやすく鉄筋が腐食しやすい。また、寒冷地に建設された場合、凍結融解作用によりコンクリートが劣化する可能性がある。寒冷地における軽量コンクリートの施工実績は国内外に多いが、配合の検討に際して凍結融解に十分配慮する必要がある。前述したように浮体構造物は補修困難な場所に立地するケースが多いため、耐用期間中に大規模な補修を必要としないことを長期的な要求性能とした。
 資料集に超軽量コンクリートの耐久性試験結果例を示す。水セメント比を小さくする(45%以下)にすることにより優れた耐久性を示すことが確認された。(資料集1.)
2.5 浮桟橋の分類
2.5.1 浮体型式の選定
浮体構造物の型式の選定にあたっては、次の点に留意する。
(1) 水域面積、延長、利用状況等を考慮して配置方法及び型式の決定を行う。
(2) 利用形態に応じた上載荷重に対して充分安定な構造とする。
(3) 付加機能として、高齢者・身体障害者等に配慮した構造とする。
【解説】
(1) 浮体構造物の代表的配置の例を次に示す。
a)岸壁に対して縦置きとした例
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b)岸壁に対して横置きとした例
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c)既設の岸壁に設けられた掘込み式の階段を利用した例
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d)岸壁部を浮体構造とした例
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(2) 上載荷重について
 原則として利用用途を考慮して決定するが、目安として下記文献がある。
 a)港湾の施設の技術上の基準・同解説(下巻p775)
 
 〔参考〕
 通常、浮桟橋の群集荷重は、客船の利用を主とするので5.0kN/m2とすることが多い。活荷重はフェリーを対象とする場合及び自動車の乗り入れを許容する場合には、自動車荷重を考慮する。床版の設計に用いる自動車荷重は、通常、道路橋示方書・同解説(日本道路協会)に規定するT荷重を考慮すればよい。
 
(3) 付加機能(バリアフリー)に着目した場合
 「公共交通機関施客施設の移動円滑化整備ガイドライン(p101)」に基づき浮桟橋と連絡橋についてはバリアフリーに配慮する。
[2] 桟橋・岸壁と連絡橋
 高齢者、身体障害者、妊産婦等すべての人が安全かつ円滑に移動できるよう、連続性のある移動動線の確保に努めることが必要である。この経路のバリアフリー化にあたっては、潮の干満があること、屋外であること等の理由から特別の配慮が必要であることから、ここに記述することとする。
 経路の設定にあたっては、なるべく短距離でシンブルなものとし、また雨風雪、日射などの影響にも、配慮することとする。岸壁と浮桟橋を結ぶ連絡橋については、潮の干満によって勾配が変動することを考慮したうえで、すべての人が安全かつ円滑に移動出来る構造とすることが必要である。
〈ガイドライン〉
表面 ○滑りにくい仕上げとする。
段差   ○段差を設けない。
○連絡橋と浮桟橋の間の摺動部(桟橋・岸壁と連絡橋の取り合い部等をいう。)に構造上やむを得ず生じる場合には、フラップ(補助板)を設置すること等により、これを極力小さくする。
摺動部 ○摺動部は安全に配慮した構造とする。
○フラップの端部とそれ以外の部分との色の明度の差が人きいこと等により摺動部を容易に識別できるものとする。
◇フラップの端部の厚みを可能な限り平坦に近づけることとし、面取りをするなど、車椅子使用者が容易に通過できる構造とすることがなお望ましい。
手すり ○連絡橋には、手すりを両側に設置する。
○手すりは2段とする。
◇始終端部においては、桟橋・岸壁と連絡橋間の移動に際し、つかまりやすい形状に配慮することがなお望ましい。
勾配 ◇連絡橋の勾配は、1/12以下とすることがなお望ましい。
視覚障害者
誘導用ブロック
○ターミナルビルを出て、タラップその他のすべての乗降用施設に至る経路に、敷設する。ただし、連絡橋、浮桟橋等において波浪による影響により旅客が転落するおそれのある場所及び着岸する船舶により経路が一定しない部分については、敷設しない。
○岸壁・桟橋(浮桟橋除く)の連絡橋の入口部分には点状ブロックを敷設する。
転落防止
設備
○水面等への転落の恐れがある箇所には、転落を防止できる構造の柵等を設ける。
ひさし ◇経路上には、風雨雪及び日射を防ぐことができる構造の、屋根またはひさしを設置することがなお望ましい。
揺れ ◇浮桟橋は、すべての人が安全に移動できるように、波浪に対し揺れにくい構造に配慮することがなお望ましい。
明るさ ○高齢者や弱視者の移動を円滑にするため、充分な明るさを確保するよう採光や照明に配慮する。
注)○印は整備ガイドラインの標準的な内容を、◇印は整備ガイドラインのなお一層望ましい内容を示す。
 「公共交通機関旅客施設の移動円滑化整備ガイドライン(p101、102)
 (交通エコロジー・モビリティ財団 平成13年8月)」
2.5.2 係留方式の選定
 浮体構造物は、設置場所の環境条件に対して完全に係留され、また、利用条件に対して一定の位置を保持しなければならない。
【解説】
 係留の方式は、浮体規模、水深、海底土質など条件により様々な形態がある。
 係留施設の方式は、一般にやや深い水深においてチェーン方式、ワイヤ方式が、浅い水深において中間ブイ方式、中間シンカー方式、ドルフィン・フェンダー方式、桟橋、等が用いられている。また、大水深においては、ワイヤ・チェーンの複合形式が用いられた例もある。
 チェーン方式、ワイヤ方式では、アンカー又はシンカーが用いられる。ドルフィン・フェンダー方式、桟橋、係船柱では、杭、ゴム防舷材、係船索などが用いられる。また、災害時の防災浮体構造物等利用用途の観点から簡易に脱着出来る係留方式として、平成12、 13年の「超軽量コンクリート等による浮体構造物の研究」(詳細は資料集3.参照)で検討したヨーク係留方式を参考として図解−2.1に示す。また代表的な係留方式の特徴を表解−2.1に示す。
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図解2.1 ヨーク係留方式の概略
表解−2.1 各種係留方式の特徴比較
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