第3章 設計手順
3.1 設計フロー
設計フローを図−3.1に示す。自然条件及び必要な浮体規模より、浮体の基本型(矩形断面)が決定されると、下記のフローチャートに従い設計を行うことができる。
*1)浮体規模(長さ、幅)の決定にあたっては、浮体構造物の利用用途を考慮し決定する。
*2)動揺シミュレーションは、利用形態に則したより厳密な計算が可能であり、実施することが望ましいが計算に比較的時間を要することから、波長が長い海域や沖波を考慮する以外は、8章に述べる簡易な方法が多く用いられる。
図3.1 設計フローチャート
3.2 記号
本マニュアルにおいて用いる主な記号を次のように定める。
A : |
断面積 |
b : |
部材幅 |
c : |
かぶり |
d : |
有効高さ |
Ec : |
コンクリートのヤング係数 |
Es : |
鋼材のヤング係数 |
F : |
荷重 |
f : |
材料強度 |
f’c : |
コンクリートの圧縮強度 |
fr : |
疲労強度 |
fu : |
鋼材の引張強度 |
fvy : |
鋼材のせん断降状強度 |
fwy : |
せん断補強鉄筋の降状強度 |
fy : |
鋼材の引張降状強度 |
M : |
曲げモーメント |
N : |
軸方向力 |
R : |
断面耐力 |
S : |
断面力 |
V : |
せん断力 |
W : |
ひび割れ幅 |
γa : |
構造解析係数 |
γb : |
部材係数 |
γc : |
コンクリートの材料係数 |
γf : |
荷重係数 |
γi : |
構造物係数 |
γm : |
材料係数 |
γs : |
鋼材の材料係数 |
ε : |
ひずみ |
σu : |
鋼部材における引張(圧縮)強皮の特性値 |
τ : |
鋼部材におけるせん断応力度 |
【解説】
本マニュアルで使用する記号は、原則として「コンクリート標準示方書」あるいは「鉄道構造物等設計標準・同解説(鋼・合成構造物)平成12年7月」に準じるものとした。本文は、そのうち主なものを示したものである。
主な添字に関する意味は次のとおりである。
b : 曲げ
c : 圧縮、コンクリート
d : 設計用値
k : 特性値
r : 変動
s : 鋼材(鉄筋とその他の鋼材を区別する場合は、鉄筋:srその他の鋼材:ss)
t : 引張
u : 終局
y : 降状
3.3 照査の基本
(1) 検討は、原則として材料強度と荷重の特性値ならびに3、4項に規定する安全係数を用いて以下の各項に示す方法により行う。
(2) 終局限界状態に対しては、一般に部材の断面破壊に関して式(3.3.1)により、検討を行う。
γiSd/Rd≦1 (3.3.1)
ここに、
γi : 構造物係数
Sd : 設計断面力
Rd : 設計断面耐力
なお、設計断面力Sd及び設計断面耐力Rdは、それぞれ式(3.3.2)、式(3.3.3)により求められる。
Sd=Σγa、S(Fd)、 Fd=γf・Fk (3.3.2)
Rd=R(fd)/γb、 fd=fk/γm (3.3.3)
ここに、
Fd : 設計荷重
Fk : 荷重の特性値
fd : 材料の設計強度
fk : 材料強度の特性値
γa : 構造解析係数
γf : 荷重係数
γb : 部材係数
γm : 材料係数(γc、γs)
(3) 使用限界状態に対する検討は、コンクリートのひび割れに対して次式により行う。
w/wa≦1 (3.3.4)ここに
w : コンクリートに生ずるひび割れ幅
wa : コンクリートの許容ひび割れ幅
【解説】
(2)について 終局限界状態に対する照査は、図解−3.1に示すように、それぞれの材料に応じた材料係数γmで材料強度の特性値fkを除して求めた材料の設計強度fbを用いて部材の設計断面耐力Rdを求め、これが設計断面力Sd以上であることを確かめることによって行われる。設計断面力Sdは、荷重の特性値Fkに荷重係数γfを乗じて求めた設計荷重Fdを元に構造解析を行って算出する。この際、構造解析係数γaを考慮する。また、RdとSdの比較において構造物の重要度に応じた安全性の確保を考慮するために設計断面力Sdに構造物係数γiを乗じている。
図解−3.1 終局限界状態設計法における照査方法
3.4 設計に用いる安全係数
安全係数には、材料係数γm、荷重係数γf、構造解析係数γa、部材係数γbおよび構造物係数γiを用い、それぞれの標準値を表−3.1に示す。
安 全 係 数 |
限界状態の種類 |
終局限界 |
使用限界 |
材料係数
(γm) |
コンクリート |
1.3 |
1.0 |
鉄筋及びPC鋼材 |
1.0 |
1.0 |
上記以外の鋼材 |
1.05 |
1.0 |
荷重係数
(γf) |
永久荷重 |
1.0〜1.1
(0.9〜1.0) |
1.0 |
変動荷重 |
1.0〜1.2 |
1.0 |
波力 |
1.3 |
1.0 |
施工時変動荷重 |
1.0 |
‐ |
上記以外の荷重 |
1.0〜1.2
(0.8〜1.0) |
1.0 |
偶発荷重 |
1.0 |
‐ |
構造解析係数(γa) |
1.0 |
1.0 |
部材係数(γb) |
1.15〜1.3 |
1.0 |
構造物係数(γi) |
1.0〜1.2 |
1.0 |
注−1)表中( )内の数値は荷重を小さく考えた方が危険な場合に適用する。
注−2)終局限界状態検討時の部材係数は、以下の値を用いることができる。
・曲げ及び軸方向耐力を算定する場合…1.15
・軸圧縮耐力の上限値を算定する場合…1.3
・コンクリートのせん断耐力分担分を算出する場合…1.3
・せん断補強筋のせん断耐力分担分を算出する場合…1.15
注−3)終局限界状態に関する構造物係数は、以下に示す値を用いることができる。
【解説】
本係数は、「ハイブリットケーソン設計マニュアル」を参考として定めた。
3.5 構造解析
(1) 構造解析においては、構造物の形状、支持条件、荷重状態及び考慮する各限界状態に応じて適切な解析モデルを設定する。
(2) 限界状態を検討するための断面力の算山においては、線形解析を適用し、構造解析係数γaを1.0としてよい。
(3) 構造物は、その形状等に応じて、はり、スラブ、柱、ラーメン、アーチ、シェル、及びこれらの組合せからなる単純化した構造解析モデルに置換して解析してよい。
(4) 合成版の不静定力の計算に用いる剛性は、部材の全断面を有効として求めてよい。
【解説】
(1)(2)(3)について 解析理論は、仮定する材料の応力―ひずみ関係が線形か否かにより弾性理論と塑性理論また変形による二次的効果(幾何学的非線形)を無視するか否かにより一次理論と二次理論とに大別される。
設計においては、各限界状態に対して必ずしも同一の解析理論を用いる必要はなく、それぞれの限界状態に適した解析理論を使い分けて、用いる解析理論に応じて、適切な構造解析係数γaを選ぶことができる。ここでは、豊富な実績をもち信頼性が確立されている弾性一次理論に基づく線形解析を用い、構造解析係数γaを1.0として、終局限界状態、使用限界状態及び疲労限界状態における照査を行うことを原則とした。
浮体の設計に用いる荷重は、設計対象により必要に応じて適宣選定して組み合わせる。各荷重への荷重係数については、表3.1を参照するものとするが、設計に際して荷重作用の状況を考慮して適切に設定するものとする。