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海難調査手続
概要
 海上輸送システムなどの複雑なシステムでは、船員、港湾労働者、管理者、船舶・港湾施設の設備と機材、船舶輸送システム、航路標識、刊行物、海図、マニュアル、周囲の環境など、システムの運営要素間で数多くの相互作用が見られる。海上輸送システムは複雑であるため、海難調査中は重要な情報が見過ごされたり失われたりする危険が常に存在する。そういった事態を避けるため、国際海事機関(IMO)が定めるアプローチに基づき、それを反映した米国沿岸警備隊の海難調査手続が作成された。この手続は段階ごとに下図I-1に示され、IMOの系統的アプローチとの対応関係が表されている。
 
図I-1
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 タイムラインはインシデントに関して「WHO、WHAT、WHEN、WHERE」を記録するのに用いられる。海難調査官は、タイムラインを構成するインシデントの人的側面に関し、事実情報収集の組織的手段としてSHELモデルを活用するべきである。いったんすべての関連情報が集められ、タイムラインの「いつ」の部分がわかるように順序よく整理されれば、次はその情報が行動、事象、条件に分類される。これらのステップはタイムラインの「誰が、何を、どこで」の部分となる。これに関しては資料1を参照
 全関連情報を収集し、インシデントのタイムラインを作成した段階で、海難調査官はインシデントが「HOW、WHY」発生したのかを特定するために原因分析を行う。原因分析のプロセスは、発生した順にしたがって数段階に分けて考えられる。
・初期事象(Initiating Event)と、その原因となる不安全行動(Unsafe Act)、意思決定(Decision)、状態(Condition)の組み合わせを特定する。
・不安全行動、意思決定、状態の原因要素を特定する。
・初期事象に続く事象の発生を許した対応策の失敗を特定する。
 海難調査官は、GENERIC ERROR MODELING SYSTEM(包括的エラーモデリングシステム)プロセスを用い、原因分析の第1段階で特定された不安全行動や意思決定ごとに、関連するヒューマンエラーの形式を決定しなければならない。
・不安全行動や意思決定が、計画エラーなのか実行エラーなのかを決定する。
・計画エラー、実行エラーの分類を決定する。
 結論はインシデントに関連した原因分析ならびにヒューマンエラー分析の結果である。結論は一般的に「因果関係(cause=effect)」がわかる形式で記述され、「直接(direct)」または「推論(indirect)」に分類される。「直接」的結論は、事実情報と関連証拠の分析により、可能な結果が1つしかない場合に導かれる。「推論」的結論は、事実情報や関連証拠の分析により、可能な結果が複数ある場合に導かれる。故に調査官は自己の専門経験を基に、どの結果が最も真実性が高いかを決定しなければならない。
 安全勧告の目的は、特定された不安全状態または他の望ましくない結果に対し、それらの状態が将来のインシデントの発生につながることを防ぐために必要な是正措置を提案することである。安全勧告はタイムライン、原因、ヒューマンエラー分析、調査の結論に基づくものでなければならず、またそれにより必然的に導かれるものでなければならない。安全勧告が適切であるかどうかを決定するために、海難調査官は以下を問うべきである。
・特定状態の存在が確認されたか。
・その状態は不安全であると確定されたか。
・その状態に対して制御措置(Control)がとられ得るか。
・その状態に十分に対応できる制御措置が現状で存在していないと確定されたか。
 
 安全勧告は仮想状態ではなく、実際の不安全状態に対して作成されなければならない。安全勧告は、調査中の特定インシデントの原因または寄与原因にならなかったものも含め、インシデント調査中に確認されたいかなる不安全状態にも対応するために出される、不安全状態の存続によって発生しうるリスクと影響は、今後必ずしも明らかになるわけではないことから、海難調査官は安全勧告の作成において、これらのリスクと影響についても説明する必要がでてくる。安全勧告は、制御措置の行使と活用によってある程度管理できる不安全状態のみに対して出されるべきである。制御措置としては慣例、法律、規制、方針、手順が挙げられる。不安全状態に対する安全勧告は、以下のいずれかに当てはまる場合にのみ作成されなければならない。
・現行で制御措置が存在しない場合
・現行の制御措置が不十分であるとわかった場合
 
 安全勧告は、既存の制御措置に従わなかったことで(船員が運搬作業中の禁煙ルールを無視したなど)不安全な状態が生じた場合、つまり違反の場合は作成されるべきではない。







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