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3.2 高速中型コンテナ船の推進システム
 
3.2.1 中型コンテナ船の現状
 船型別にコンテナ船の推移を竣工隻数で見てみると、Fig.3.1.1に示される通りである。1999年から大型船の隻数が急激に増え、中型、小型船が大きく減少しているのが分かる[2−1]。パナマ運河を通航しない大型船がアジア−北米航路、アジア−欧州航路いわゆる東西の基幹航路に投入され中型船と入れ替えが行われ、大量の中型船が南北航路または南南航路等に転配されている。従って、中型コンテナ船は以下のようにその役割を変えてくると言われている[2−2]。
●世界各地域の中枢港(ハブ港)間航路に就航する超大型コンテナ船(Ultra−Large Container Ship:ULCS)のフィーダーとして輸送。
●短距離のコンテナ輸送。
●超大型船を投入するまでもない分野。
 今後建造される中型コンテナ船はこれらの条件下で設計が行われるものと考えられる。
 
3.2.2 現在までに就航している中型コンテナ船の特徴
 今後の中型コンテナ船を検討していく上で、現在就航している中型コンテナ船の船型、主機関、推進機等の特徴をマクロ的に把握することが重要である。文献[2−2]に、1995〜2000年の間に建造された1,500、2,000、2,500及び3,000TEUコンテナ船の平均的な主要目と主機出力が求められている。これに1,000TEU程度及び小型コンテナ船の実績船を加えてTable 3.2.1に示すような中小コンテナ船の主パラメータを抽出した。枠で囲まれた部分が文献[2−2]からの引用である。1,170、1,221TEUの船はそれぞれ文献[2−3]、[2−4]に示されているコンテナ船で、342、500、800TEUはロイド船級協会のコンテナ船資料から引用した。1,500〜3,000TEUの主機のMCR値は実在する主機出力ではなく平均値であるので、SMCR(MCR to be specified)とでも言うべき値である。
 
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Table 3.2.1 中型コンテナ船の平均的主要目
 
 また、これらの主機回転数は、該当主機のカタログから抽出した。各TEUの船型の有効馬力・自航要素を推定し、MAUプロペラ図表によりプロペラを設計し速力・馬力の関係を求めた。プロペラ設計は表中のMCRで行った。10%主機マージンで15%シーマージンを考慮した時の予測された船速は表中の船速をカバーする値であった。また、アドミラルティ係数Cadm(=Δ2/3VS3/DHP、DHPは伝達馬力)は表中の船速での値を示している。
 
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Fig.3.2.1 船型主要目の傾向
 
 先ず、船型主要目とTEUの関係をFig.3.2.1に示す。(a)にコンテナ積載数(TEU)と船長Lppの関係を示す。積載量の増加とともに船長が長くなる。(b)にL/Bと積載数の関係を示すが、積載数の増加とともにL/Bが大きくなる傾向である。これらは船幅の制限により積載数が増加すると船長を長くすることによるためと考えられる。(c)にB/dの傾向を示す。B/dはほぼ一定で2.6〜2.7程度の値である。ただし、1,000TEU以下の小型船では若干大きな値となっている。寄港する港の水深の制限のため小型船では相対的に浅い喫水を採用するためであろう。(d)に肥痩係数Cbの傾向を示すが、Cbは1,500TEUまでは漸減するが、それ以上の積載数ではほぼ一定となっており0.60〜0.61の値となっている。
 現在までの中型コンテナ船の主要目はかなり特徴的な傾向をもつことが認められる。
 Fig.3.2.2にプロペラ直径と喫水の関係を示す。1,000TEUを超えると、プロペラ直径は喫水の70%程度となっている。これは荒天中運航時のプロペラレーシングを考慮した場合、ほぼ限界に近い値である。1,000TEU以上の中型船では、同一船型でプロペラ回転数を低くすることによるプロペラ効率の向上をこれ以上期待することはできないことがわかる。中型コンテナ船を高馬力高速化する場合、重要な制限事項となる。またFig.3.2.3にMCRにおけるプロペラキャビテーション数σR(=(Po−e)/(0.5ρW2)、ただしW2=VA2+(0.7πnDp)2、Poはプロペラ軸心の圧力、eは水の飽和蒸気圧、nはプロペラの毎秒回転数)とプロペラ荷重度 τ0(=T/(0.5ρApW2、T、Apはそれぞれプロペラのスラスト及び投影面積)の関係を示す。○印がTable 3.2.1の船型の値である。全ての船型がNSMB(Netherland Model Ship Basin)の上限値を少し越えた値となっており、ぎりぎりのプロペラ設計がなされていることが伺える。高馬力、高速化の際に船型、推進機の選択が従来船と同様には進めることができないことを示唆している。
 
Fig.3.2.2 船型とプロペラ直径
 
Fig.3.2.3 プロペラ荷重度(Burrill's Chart)
 
Fig.3.2.4 船速
 
Fig.3.2.5 アドミラルティ係数
 
 最後に速力と推進性能に注目してみる。Fig.3.2.4に計画速力をLPPに基づくフルード数で表した結果を示す。中小型コンテナ船の計画フルード数はほぼ0.25で積載数に依らないことがわかる。造波抵抗の急増を避けた計画速力、船長を採用しているためであろう。計画速力付近でのアドミラルティ係数をFig.3.2.5に示す。1,500TEU以下の小型船では積載数の減少とともにCadmが小さくなり、推進性能が低下していく。1,500TEU以上ではほぼ一定であり、高性能コンテナ船とするには1,500TEU以上が好ましいと言える。
 有効馬力・自航要素を推定し、MAUプロペラ図表によりプロペラを設計し、速力と馬力の関係を求めた。この結果から、MCR出力における推進機負荷率を表す荷重係数CLO、推力係数CT及び馬力係数BPを推定した結果をTable 3.2.2に示す。いずれの係数も1,500TEU以下になると推進器負荷が高荷重になることが分かる。
 
Table 3.2.2 推進器負荷に関する諸係数
TEU   342 500 800 1170 1221 1500 2000 2500 3000
Load coefficient CLO 0.0058 0.0065 0.0045 0.0043 0.0044 0.0031 0.0026 0.0029 0.0029
Thrust coefficient CT 2.504 1.946 1.227 1.122 1.186 0.920 0.829 0.847 0.961
Power coefficient BP 43.54 33.21 20.48 17.97 19.72 15.24 13.52 13.76 15.74
 
 以上の検討により現在までに就航している中型コンテナ船は、船型的にもプロペラの荷重度の点からも限界に近い設計が行われているということが認められる。
 
3.2.3 高速中型コンテナ船型の可能性
 中型コンテナ船は、スケールメリットを追求した大型、超大型コンテナ船[2−5]と別の進展が期待される。それらの中で最も期待される要因は、高速化やできるだけ多くの地方コンテナ港へ寄港できる船型であること等であろう。いずれにしても従来型コンテナ船と異なる船型、プロパルサの検討が必要になる。高速中型コンテナ船として試設計されている例を紹介する。
 
(1)北米−欧州航路対(FastShipプロジェクト)[2−6
 平均的に17〜21日かかる北米−欧州間のドア−ツードア−サービスを7日間に短縮しようとする企画である。このFastShipの主要目をTable 3.2.3に示すが、平均航海速力は36〜40ノットで大西洋を4日間で横断しようとするものである。全長265m、幅40mの半滑走型のモノハル船型で、主機は50MWのガスタービン5基、それぞれでウォータージェットが駆動される。平均波高7.5mの荒天中で40ノットの船速が維持できるよう構造設計されている。
 船型は従来と違った船型となり、船側、船底ともに平行部はなく、船体後半部は極端なU型で浅喫水、船体前半部は極端なV型で船体後半部喫水の3倍の喫水を持ち、深いセンタースケグが0.2Lから船首側に延びている。いわゆるビルジ部はなく、水線幅は最大幅より若干小さい。船長が長くしかも幅広で、L/B=5.5としており、肥痩係数Cbは0.4程度である。また、計画フルード数Fnは0.43としている。50MW用ウォーター・ジェットは現存するものの約2倍の大きさで、ポンプ・インレットの径は3.25mになるとしている。
 
Table 3.2.3 FastShip主要目[2−6
Length, oa 265.0m
Beam 40.00m
Payload 10,000ton
Containers 1432TEU
Propulsion 5xRolls-Royce Trent
Power 5x50MW
Speed 36-40knots
Route Philadelphia-Cherbourg
 
(2)Krylo v研究所の斬新的な新しい設計[2−7
 積載数1,500TEUフィーダーコンテナ船として高速コンテナ船が計画されている。この計画船の主要目をTable 3.2.4に示す。航海速力は35ノットであり、フルード数は0.36程度となる。船型は従来船型の延長と思われるが、肥痩度が異なることが推察される。Table 3.2.1に示した従来船型から排水量と軽荷重慮の関係をFig.3.2.6のように求めた。載貨重量を考慮して計画船の肥痩係数Cbを推定すると0.4程度となり、従来船型に比べるとかなり痩せ型船型となることが分かる。主機は40MWガスタービン2基で従来型の2軸の固定ピッチプロペラを駆動し、その後ろで付加推進器として電気推進機である20MWのAzipodを2基装備し、ハイブリッド式二重反転プロペラ推進システムとしている。高速化により推進器の荷重度が高くなるのを防ぐ工夫が必要であることを示している。
 
Table 3.2.4 1,500TEU高速コンテナ船[2−7
Length,oa 262.0m
Length,bp 250.0m
Beam 27.6m
Draught,summer 9.1m
Deadweight 15,000dwt
Container 1525TEU
Propulsion 2xgas turbine
Output 2x40MW (driving FP propeller)
Additional power 2xAzipod CRP
Service speed pod unit(electric drive)
Output 2X20MW
Speed,service 35knots
Endurance 8000nm/20days
 
Table 3.2.5 1,400TEUフィーダー・コンテナ船[2−8]の主要目
Length,oa 217.1 m
Length,bp 198.74 m
Beam 26.66 m
Draught,design 8.7 m
Deadweight,design 11190 ton
Draught,max 9.4 m
Deadweight,max 14190 ton
Container 1387 TEU
Propulsion 2xDiesel  
Output(MCR) 24000 kW
Service speed 25 knots
Endurance 6000 nm
Propeller 7.0 m x 1
 
Fig.3.2.6 排水量と軽荷重量(Table 3.2.1より)
 
 船主からの要求であるペイロード13,000トン(Table 3.2.1の傾向を用いると約950TEU)、船速30ノット、ただし33MWを超えない出力とした高速コンテナ船として、船長/船幅比が10:1の主船体の両側の船首、船尾にスポンソンを有するPentamaranが開発されている。具体的な寸法は示されていない。肥痩度の非常に小さい主船体の横安定を補うためのアウトリガー・スポンソンは抵抗増加にならないよう工夫され、有義波高6mの海象で28.3ノット出ることが水槽試験により確認されている。
 エンジン出力としては、推進器が二重反転プロペラであれば33MW、シングルの可変ピッチプロペラであれば36MW、必要とされる。このような斬新な船型は船級協会と建造側の即座の対応が困難なため、早期に実現可能な中型コンテナ船の開発も検討されており、Table 3.2.5に示すような1,400TEUフィーダーコンテナ船が提案されている。この船型の荷重係数は0.0037程度である。将来30〜50MWの出力で、30〜35ノットの船速を有する中型コンテナ船は、二重反転プロペラを採用することにより推進係数は0.8近くまで到達することが可能であると予想している。







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