日本財団 図書館


3.1.6 世界最大冷凍コンテナ船[1−28
 本船は2,000TEUでかつ、巡航速力21ノットであるので、中型のフル・パナマックスコンテナ船であるが、船型及び自航要素などの推進性能情報が詳細に記述されている[1−29]ので、ここで触れた。
 独造船所HDWの依頼でコンサルタントとハンブルク水槽HSVAとで共同してプロペラ設計を行い、水槽試験とプロペラ設計が綿密に行われており、プロペラ荷重度CTも1に近く、最近の欧州でのプロペラ設計の現状が分かる。設計の最大の狙いは良好な推進効率、船尾振動(3.5kPa以下)と操縦性能のベストバランスである。プロペラは35.5°の中程度スキュープロペラをベースにスキューと直径を変更し、3回プロペラ設計を行っている。
 この設計ではHSVAのプロペラ設計プログラムによりプロペラを設計し、その設計結果の評価は、MITのキャビテーションとプロペラ性能解析プログラム(MIT/UT−HPUF−3AL)と大型キャビテーション水槽Hykatでの船後キャビテーション試験で確認している。性能解析法による計算結果より模型実験結果の方がキャビテーションの発生量が設計の度により減少しており、明瞭な設計効果が出ている。船尾変動圧力についての実船計測(エンジン出力、20MW、97rpm)結果も示されており、翼数一次数成分の片振幅は2.6kPaであり、”Comfort Class”の要求内に収まっており、また、Hykatでの模型実験と良く一致している。計算予測値は実船計測値より少し高めであるが、良く合っていると言える。
 
3.1.7 データ分析
 今回の調査で取り上げたコンテナ船のうち、データ分析の対象として用いたコンテナ船型の主要目Table 3.1.2に示す。
 船型・推進性能(有効馬力、自航要素など)の情報が明示されていない時は適当に推定し、MAUプロペラ図表によりプロペラを設計した。設計点は船速が与えられた条件とし、トライアル状態や実船計測での情報に基づく場合には、シーマージンをゼロと表記した。
 
Table 3.1.2 調査対象の大型コンテナ船の主要目
(拡大画面:88KB)
 
 先ず、船型データがどの様なものか調べた。Fig.3.1.5に示す様に、船長LPPはコンテナ積載数TEUの変化に対して直線的に増加し、フルード数は0.26から0.21に小さくなる傾向がある。
 
Fig.3.1.5 大型コンテナ船のコンテナ積載数と船長の関係
 
 次に、Fig.3.1.6に示す様にB/dはコンテナ積載数の増加に対して微増する傾向があるが、3〜4程度の範囲にある。一方、L/Bはほぼ7で一定である。前者は港湾での喫水制限の影響と思われる。
 
Fig.3.1.6 大型コンテナ船のコンテナ積載数とL/BとB/dの関係
 
 CBについての情報は文献などから得難いので、本調査ではできるだけ既知の船や記述のある船を対象に調査を行った。Fig.3.1.7に示す様に、CBは0.58〜0.68程度であるが、TEUの変化に対してほぼ一定の傾向にある。
 
Fig.3.1.7 大型コンテナ船のコンテナ積載数と肥痩係数の関係
 
 図に示さないが、プロペラ直径と喫水の比は0.7近辺で、レーシング防止の観点からプロペラ直径はこれを目安に決定されている様である。
 本調査の対象としたコンテナ船の船型データについての調査から傾向が得られたが、大型コンテナ船のプロペラの荷重度がどの程度の値になるかを調べた。プロペラ直径が分からない時には適当に推定し、プロペラ荷重度CTを計算した。この時、プロペラは6翼MAUチャートを用いて設計し、プロペラ単独効率を算出した。プロペラの形式とCTにより、プロペラの効率は一義的に決まるので、プロペラの設計の難しさを示す指標となる。プロペラ荷重度CTを積載数TEUに対してプロットしたものをFig.3.1.8に示す。10,000TEUのコンテナ船まではCT=1前後であるが、これ以上のコンテナ積載数となるとCTは急激に大きくなり、荷重度がCT=1.5近くになり、プロペラ設計が難しくなり、船速が速いのでキャビテーションの発生ばかりでなく、推力低下も避けられないことが予測される。前述のDIによる調査結果と同様の傾向である。
 
Fig.3.1.8 大型コンテナ船のコンテナ積載数とプロペラ荷重度
 
 この他の定義の荷重度(第1章参照)の指標についての調査結果をFig.3.1.9に示す。(PBN20.4は6,000TEU以上で、PB/Aは全ての船が推奨値を超えており、プロペラ設計の難しさを示している。但し、Aはプロペラ・ディスク面積(=πDP2/4)である。
 
Fig.3.1.9 大型コンテナ船プロペラの設計難度係数
 
 逆に荷重度を示す指標を評価してみると、CTとDIが特に大型コンテナ船のプロペラ設計難度を示すものとして適当と思われる。 最後、今回の詳細調査の対象となったコンテナ船の船尾変動圧力(翼数一次成分)をHolden法により推定した。この結果をFig.3.1.10に示す。8,000TEU以上では10kPaをはるかに超える様な異常に大きな船尾変動圧力振幅が予測され、船体振動上の問題が生じること避けられない。
 
Fig.3.1.10 大型コンテナ船の船尾変動圧力の1次成分
 
 以上のことから、10,000TEU以上のコンテナ船に関しては、従来船型よりなお一層の伴流均一化などを可能とする船型、特に船尾改良の他、高い荷重を吸収しつつ、高効率で作動するプロパルサの設計に対する工夫が必要である。
 また、このような高速高荷重での作動条件で使用されるプロパルサとしては、キャビテーションの発生を抑えることができ、かつ最適設計をすると在来型プロペラと同等の効率で設計できると言われるタンデム・プロペラ[1−30]も選択肢の一つである。この他には、キャビテーションの発生を抜本的に抑止し、これにより船尾変動圧力を大幅に低減できる新形式のプロペラの開発が不可欠である。
 
3.1.8 まとめ
 以上の調査から、大型コンテナ船を一軸プロペラとすると経済メリットは大きいが、設計が困難となってくる。既存の通常型プロペラ設計法では8,500〜9,000TEUが限界である。
 これに対して、推進装置を二重反転プロペラCRPとすることによって10,260TEUまで可能であるが、難点が無いわけではない。また、タンデム・プロペラが一つの答えとなる可能性があるが、キャビテーションを含めた最適プロペラ設計法は確立されていない。
 この他に、通常型プロペラ形式で超大型コンテナ船の様な高速高荷重プロペラを設計するためには、プロペラへ流入する流れとプロペラ荷重を3次元的に考慮したプロペラFlow Adapted Propellerとその設計法の開発がブレーク・スルーになる。
 コンテナ船は直径が大きいことからキャビテーションが避けられず、伴流分布の均一化のための船型開発を同時に進めることによりプロペラ設計における負担が軽減される。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION