日本財団 図書館


3. 調査結果
 
3.1 高速大型コンテナ船の推進システム
 1960年代後半に700TEUのフルコンテナ船が脚光をあびて就航してから約半世紀が経った。この間船型、積載量は年々大型化し、1980年代にパナマ運河を通航しないポスト・パナマックス型が就航して以来、ますます大型化が進み1995年以降5,000TEU以上の超大型コンテナ船へと進展し、近年建造されているのは5,000〜7,000TEUの積載能力を持つ船型である。また、有力船社は21世紀初頭に10,000〜13,000TEU型の超々大型コンテナ船の建造を計画している。このような推移を経て、現在大型、中型、小型コンテナ船の区別は概ね以下のようである[1−1]。
 
Table 3.1.1 最近のコンテナ船の区別
船型 小型 中型 大型
呼称 Feeder Handy , Panamax PostPanamax
TEU * 100−1,000 1,000−4,000 4,000<
*TEUは、20フィートコンテナに換算したコンテナ積載数を表す。
 
Fig.3.1.1 コンテナ船の船型別竣工隻数の推移([1−1]の表をグラフ化)
 
 船型別に上述のコンテナ船の推移を竣工隻数で見てみると、Fig.3.1.1のようである。1999年から大型船の隻数が急激に増え、中型、小型船が大きく減少しているのが分かる。
 ここで言う高速大型コンテナ船とは、ポスト・パナマックス型(我が国では、オーバー・パナマックス型とも言う)であり、Table 3.1.1に示す様にコンテナ積載量が4,000TEU以上のコンテナ船を主な対象とする。この種の船種は船幅を32.24m以下としなければならないパナマックス型の制限がなくなり、船型学的には合理的な船型が設計できる。最近のコンテナ船開発の変遷、動向、展望については、内外の雑誌[1−1〜1−14]の他、種々のシンポジウムの前刷集 [例えば、1−15]や関係の論文[例えば、1−16〜19]の緒言などに記述されている。
 
3.1.1 ポスト・パナマックスの出現
 ポスト・パナマックスはAPL(American President Lines)のC−10型フルコンテナ船をドイツの造船所(HDWとBremer Vulkan)で1986年5隻建造した時から始まる。船幅はB=39.4mで 4,340TEU 積みで、船幅方向にホールド内に12列、デッキ上に 16列積んでいる。主機(MCR)が41.9MW(95rpm)で、航海速力が24kt(85%MCR、90rpm、20%シーマージン)とすると、プロペラ設計、馬力計算並びに船尾変動圧力の予測が重要なテーマとなった。この他にプロペラ翼の強度と船体振動応答についても議論する必要がある[1−16]。この論文に記載された情報からデータ分析をすると、プロペラの荷重度を示す推力係数CTは約0.9と推定され、1.0に近い。船尾変動圧力振幅は実船計測で7〜9kPaとなっており、かなり高い方であり、船尾変動圧力の許容値の目安である8kPaぎりぎりであった。
 1996年にスーパー・ポスト・パナマックス型コンテナ船が登場した。船会社マースク・ライン(Maersk Line)がオーデンセ造船所で「レジナ・マースクRegina Maersk」(L型)を建造して、急速な大型化が始まった。全長LOAが318.2m、 船幅Bが42.8mで、ホールド内に14列、デッキ上に17列積み、公称6,250TEU(6,418TEUの記述あり、8,000TEUまで可能?)であった。詳細な船型関係の情報が全くなく、荷重度などは不明である。
 
 この頃から、大学、試験研究機関、船級協会、造船所などの各機関で更に大型のコンテナ船に関する調査研究や試設計が行われる様になり、超大型コンテナ船の実現に関して議論が内外関係雑誌紙上を賑わせる様になってきた。これらの文献資料を基にプロペラの荷重度、船尾変動圧力などと使用された設計ツール並びにその問題点を調べた。以下に幾つかの検討例をリビューする。
 
3.1.2 川崎重工(株)による試設計例[1−20
 5,250TEUコンテナ船の自社建造例をベースに7,000TEUと7,900TEUの試設計例が示されている。1軸船で大型化した場合、推進性能が大きな問題となる。特にプロペラ・キャビテーションが問題であり、展開面積比が大きくならざるを得ない。2軸船にすると既存のエンジンが使え、プロペラやキャビテーションの問題は少なくなるが、かなりの建造コストと燃料費のアップとなる。現在、既存のエンジンは70MWであるが、主機の気筒数増加と筒内圧増加で、エンジンは120MWまで技術的に対応可能であり、プロペラ軸については110MWまで技術的に問題がない。25ktはウイークリー・サービスを実現するためには、この種のコンテナ船には不可欠な要件である。エンジンの燃料消費量(41,000kJ/kgとして)を見積もっている。港湾のインフラやコンテナ強度の問題が解決すれば、2軸船型を採用することにより18,000TEU程度までは対応可能と結論づけている。
 
3.1.3 石川島播磨重工業(株)IHIの試設計例[1−211−22
 IHIは4,000〜10,000TEU積みのポスト・パナマックス型コンテナ船に二重反転プロペラ(CRP)を装着した場合について試設計を行い、これらの船(伝達トルク)に対応できる二重反転プロペラシステムを開発した[1−21]。現状のエンジンを前提とすると、一軸通常型プロペラ船でかつ25kt(20%シーマージン)で航行する場合には8,500TEU積みコンテナ船が限界となるが、二重反転プロペラとすることで、10,260TEUのコンテナ船が実現可能である。この場合の主機出力(MCR)は65.9MW(100rpm)であり、1機1軸船と比べて12%省エネになる。しかしながら、この種の船では船尾軸受けの設計の難しさ[1−23]と二重反転プロペラをこの種の船に適用するとプロペラ翼端速度が大きいことから、前方プロペラから後方プロペラに流れ込む渦キャビテーションによるエロージョンの発生が危惧される。
 
3.1.4 ロイド船級協会の試設計例[1−231−24
 ロイド船級協会(LR)が4,000〜12,500TEU積みのポスト・パナマックス型コンテナ船5種類に関して極めて詳細な調査を行い、公表内容も詳しく、装着されるプロペラの性能を予測する上で有益なデータが示されている。12,500TEU積みのポスト・パナマックス型コンテナ船(Lpp=318m、B=57m、D=29m、d=14.5m)の船速を23〜25ノットとすることの妥当性を調べ、設計上の課題を検討するため、概念的試設計が行われた。ホールド内に18列、デッキ上に22列積みとし、デッキハウスを中央とすることによって12,500TEU積みが可能である。
 ロイド船級協会の調査では4種類の推進法の有効性についての検討を行い、一機一軸の他、二機二軸(ゴンドラ・スケグ内にプロペラ軸を収納した場合)、二重反転プロペラ、主機一機+アジポッドの組み合わせのそれぞれについて利害得失を議論した。二重反転プロペラは船尾軸受け、主機一機+アジポッドは旋回時にポッドプロペラに発生する非定常キャビテーションとベアリング・フォース問題が危惧される。
 現在、製造可能な81MWの低速ディーゼルエンジンを主機(MCR、25%シーマージン)とすると、8,800TEU積み以下のコンテナ船では25kt出るが、12,500TEU積みのコンテナ船では23.5ktしか出ず、9,000TEU以上で25ktを達成するためには、2機2軸を採用しなければならない。船価ばかりか運航コストも増大する。12,500TEUで25ktを一機一軸で達成するには、98MWのエンジンを搭載する必要があり、プロペラ直径はDPが9.8m(DP/dDesign=0.7と仮定)、6翼、展開面積比aE=1.03になり、プロペラ重量(NiAlBr製)は129tonにも達し、プロペラ製造技術上の問題も浮上する。
 この種のコンテナ船の伴流分布をFig.3.1.2 に示す。6,500TEUコンテナ船の伴流分布で、典型的な軸方向(Axial)と面内方向(In−plane、半径と周方向)分布である。プロペラ一回転中の伴流変動振幅(Wake Deficits、Δw)、即ち、最大伴流値と最小伴流値または平均伴流値の差が大きい場合やプロペラ翼が時計の12時近傍を通過する時の伴流変化の傾斜がきつい場合には、船尾変動圧力レベルが高くなる。このため、船尾構造の疲労寿命と船体共振・強制振動が問題となる。ロイド船級協会の報告書には、伴流変動振幅Δwが0.2〜0.4の場合について、コンテナ積載量に対する船尾変動圧力の推定チャートが示されている。これをFig. 3.1.3に示す。この場合、Δwは平均有効伴流と最大伴流値の差である。この図から逆に、コンテナ船の通常の振動レベルに抑えるために確保しなければならない伴流変動振幅の大きさが分かる。
 
Fig.3.1.2 ポストパナマックス型 コンテナ船の伴流分布
 
Fig.3.1.3 船尾変動圧力の1次成分と伴流変動振幅
 
 面内方向の伴流成分もキャビテーションの成長・崩壊に大きな影響を与える。計算と実験の両方を用いると、両者はキャビテーション発生範囲や船尾振動の翼数の一次成分予測に対して適切なガイダンスを与えるが、二次成分に関しては問題がある。船尾変動圧力、特に翼数二次成分の予測に関しては、現状では実験的予測法以外に信頼できるツールがない。
 プロペラ翼端速度はキャビテーションの発生と発達を予測する上で重要なパラメータとなるが、このコンテナ船シリーズでは49〜59m/sになり、プロペラ翼端でのキャビテーションの発生は避けられない。この際、キャビテーション発生を安定化させ、ティップボルテックス・キャビテーション・バースティング、クラウド・キャビテーションなどの発生防止の努力が必要となる。周方向の伴流傾斜に起因する非定常キャビテーション対策としてはハイリースキューの採用が有効であるが、万能ではない。
 このように伴流分布はプロペラのキャビテーション対策上最重要であり、船尾変動圧力による船体振動騒音軽減やエロージョンの防止に決定的役割をなす。各文献には船型・推進性能に関するデータが少ない割に、伴流分布が示されることが比較的多く、これらのデータから一軸コンテナ船の伴流分布の典型的なものとしては、時計の12時近傍での伴流最大値wmaxは0.5〜0.6で平均0.55程度であり、伴流最小値は0.05、平均伴流値は0.20〜0.23となることが分かる。
 
3.1.5 ITTCの指摘[1−25
 国際試験水槽会議(ITTC)においても、第23期ITTCのPropulsion Committeeでは一軸の超大型コンテナ船Mega−Containershipのプロペラなどに発生するキャビテーションが重要なテーマとして取り上げられた。2000年中頃から25ノット以上で6,000TEU積みの大型コンテナ船が出現してきたことにより、その推進馬力は1軸100MWに近づき、これに装着されるプロペラは6翼で、展開面積比は0.9以上、プロペラ直径は8.75m以上になってきている。エンジンとしては低速2ストローク・ディーゼル機関が用いられ、プロペラ回転数は約100rpmであり、プロペラ荷重度係数CTは約1.0である。この様なプロペラはキャビテーションに対する設計マージンが小さく、伴流が充分均一であることが設計の前提となる。設計支援ツールとして、実験又は数値計算による流体力予測ツールが必要不可欠で、各種プロパルサについて振動レベルの絶対値やエロージョンの危険性を評価判断できる予測法の開発が必要であるが、現状信頼できる計算ツールはないと言わざるを得ない。
 MARINなどでのコマーシャル試験の実績をベースにPropulsion Committeeはこの種の高速高荷重プロペラの設計の難しさを表す設計難度係数DIを提案している。
DI=T・N2・Δw5・∇3/4/{5・107・Z・(AE/AO)・√C}
 DIを7より小さくすることが勧告されている。ここで、Tはプロペラ推力[kN]、Nはプロペラ回転数[rpm]、Δwはプロペラ翼端での伴流の変動倍振幅、∇は船体の排水体積[m3]、Zはプロペラ翼数、aE(=AE/AO)は展開面積比であり、Cはプロペラと船体との間隔(チップ・クリアランス)[m]である。この式の運用にあたって適切なスキューと翼端での荷重低減ピッチ分布を採用することが前提となっている。船型・自航データを仮定して、本調査の対象としたコンテナ船の設計難度係数DIを計算した結果をFig.3.1.4に示す。
 
Fig.3.1.4 大型コンテナ船プロペラの設計難度係数 DI
 
 この図から冷凍中型コンテナ船を除き、ほとんどの設計難度係数はITTCの推奨値より大きく、プロペラ設計が難しく、充分な注意を払わなければならないことが分かる。特に、10,000TEU以上のコンテナ船は凄まじい値となっているが、伴流変動振幅Δwが最も効くことによる。よって、超大型コンテナ船は伴流の均一化が不可欠であることが分かる。しかしながら、この係数はRoPaxフェリーに適用すると小さくなり過ぎ、適用範囲とΔwのべき乗数の定義に関して一般性はないと思われる。
 Propulsion Committeeでは、大型コンテナ船用一軸プロペラを設計する時、伴流分布が最も重要なパラメータであり、プロペラ翼断面形状の修正によるキャビテーション問題改善は二次的効果を与えるにしか過ぎないという見解を出している。プロペラ設計で注意すべき点は半径方向の荷重分布、スキュー及びレーキ分布である。初生抑制型翼断面はキャビテーション発生範囲とキャビテーション・ボリューム変化を低減することができるが、高荷重度コンテナ船の場合には逆に変動圧力とエロージョン発生の危険性が大きくなる可能性がある[1−26]。
 最適翼断面形状の設計に関して、従来の各半径位置で独立に最適翼断面形状を求める方法と異なり、一括で3次元的に最適プロペラを最適化手法で求める方法が提案している[1−27]。目的関数は翼面圧力変動で最小化することである。現在のところ、ポテンシャル流理論ベースによる最適プロペラ設計法[1−28]が中心で、キャビテーションの発生を支配する粘性まで考慮した適切な設計ツールが殆どなく、模型試験での確認を伴った設計でのみ最適プロペラ設計が可能である。
 航海速力25ノットで90MWの1軸コンテナ船(10,000TEU)のプロペラ設計は可能であるが、注意深い設計が必要不可欠となる。プロペラの他に、舵のエロージョンと旋回時やオフ・デザイン条件でのベアリング・フォースの予測法の改良も課題となる。Diverged Boss Cornがハブ・ヴォルテックス・キャビテーションによる舵のエロージョン防止に有効であるとCommitteeは推薦している。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION