高潮・浸水マップ作成マニュアル
(高潮統合モデルによる高潮推算と浸水計算への応用)
本書では、高潮発生時における浸水予測図を作成するにあたって、実務担当者が業務を計画・実施するにあたって準備すべき資料、手順などを事前に把握し、業務遂行を円滑に進めるための資料として作成された。
なお、本モデルは、氾濫予測図作成までを統合して構築されているが、風場推算、波浪推算、高潮推算など必要に応じた処理が可能である。
高潮統合モデルを用いた高潮シミュレーション(氾濫計算)は、図1に示すフローに沿って実施する。本書では、これらフローを実施する過程において主要な項目、重要な項目、必要な既存資料などについて、その設定方法や留意事項について述べている。また、後半では、実際の台風に基づいた実施例を掲載した。
なお、各モデルの詳細については本報告書及び平成16年度報告書(その1)に譲り、本書ではその概要のみ示した。
図1 高潮統合モデルの処理フロー(概要)
前項で示した、運用フローに沿って主要な手順、注意事項等を示した。
各シミュレーションを実施するにあたっては、適確な資料を収集する必要がある。
・地上標高、土地利用データ等、本モデル運用上重要なデータについては、データベース化が進んでおり、必要に応じて購入することが可能な環境となっている。
・氾濫計算などで必要となる土地利用や詳細な地形形状、地上構造物などは当該市町村での聞き取り・収集や現地踏査が必要な場合がある。
・対象事例の被災事例、気象資料などモデル検証のためのデータ収集を広範に行う必要がある。
本統合モデルでは、MM5により海上風を推算する。
・MM5は、ペンシルバニア州立大学と米国大気科学センターにより開発されたメソ気象モデルで、微物理、積雲パラメタリゼーション、大気境界層、放射、地表面過程など様々な物理過程を考慮している。
2.2.1 入力条件など
計算範囲、格子間隔、計算時間間隔などは計算対象を十分表現できるよう設定する。
これらの条件は、後述する波浪推算、高潮推算とリンクする必要がある。
・通常のシミュレーションでは、計算を効率的に実施するため、計算領域を複数分け(広、中、狭領域など)、目的とする領域の格子間隔に持って行く。(格子間隔例:広領域0.5°格子(約50km)、中領域10分格子(約17km)、狭領域1分格子(約1.7km))
・波浪推算や高潮推算ではここで算出した風場の結果を用いることから、基本的には同一の格子間隔などの条件を設定する。
本統合モデルでは、WAMモデルにより波浪を推算する。
・第3世代波浪推算モデルと言われているスペクトル法に基づいたモデルで、発達期の風波成分と減衰期のうねり成分を考慮できるモデルであり、波の発達と減衰、非線形相互作用などを同時に考慮することができる。
2.3.1 入力条件など
計算範囲、格子間隔、計算時間間隔などは計算対象を十分表現できるよう設定する。
WAMは浅海波として計算するため沿岸域の水深データを収集する必要がある。
・波浪推算は、海上風の推算結果を引き継いで計算されるため、格子間隔などは風場の条件と同一となる。
本統合モデルでは、多層マルチレベルモデルにより高潮を推算する。
・このモデルは、高潮の伝搬が流体運動の一種であることから、流体の運動を表す「連続方程式」と「運動方程式」を3次元的に解くモデルである。
・高潮推算では直接関係ないが、多層に区分することにより海面条件の季節的な特徴(夏季の成層状態)などを考慮することができる。
2.4.1 河川内高潮モデル
本統合モデルでは、高潮の河川遡上を考慮できるモデルである。
・従来、高潮計算においては海域のみの計算が主となっているが、実際には高潮が河川を遡上し上流側で災害を及ぼす可能性がある。
・本モデルでは、流入する河川を一次元的に「連続の式」と「運動方程式」を解いて河川の遡上を表現したものである。
2.4.2 波浪の影響
本モデルでは、高潮の水位上昇に波浪の影響考慮したWAVE SETUPモデルである。
・波浪による水位上昇への影響は、波高の数%程度と言われているが、台風などの高波高時には、高潮の水位上昇と相まって、影響を及ぼすことが考えられる。
2.4.3 入力条件など
対象海域の潮位観測資料、詳細海底地形、河川流量データなどの資料を収集する。
・通常、高潮推算では境界潮位に実測値を用いることが多い。そのため、計算領域の設定にあたっては、風場や波浪場の計算範囲と異なる設定が必要となる場合が多い。
・格子間隔は、対象とする構造物、地形が表現できる大きさを確保する必要がある。
・対象海域で河川遡上や、水位上昇に影響を及ぼすような河川がある場合、流量の資料収集を行う必要がある。特に、出水時などでは局所的な水位上昇に影響を及ぼすことが考えられる。
越流量の推定は本間の越流公式、越波量は不規則波の越波流量算定式を用いる
・越流とは、高潮によって上昇した潮位が堤防の天端高を上回り堤防を越えて海水が流れ込む現象で、越波は、海水面の上昇が堤防等の天端高以下であっても、台風時などに高波により水塊が堤防を越えることを言う。(詳細は本報告書 第4章参照)
2.5.1 入力条件など
海岸構造物(堤防構造など)、汀線付近(砕波帯内)の詳細地形データの収集
・越波の影響は、地形データや海岸構造物の精度のいいデータが必要となる。
氾濫計算では二次元不定流モデルを基本として計算する。
・氾濫計算は「氾濫シミュレーションマニュアル(案)」建設省土木研究所の考え方を基本として構築されている。(詳細は本報告書 第5章参照)
・高潮モデルでは、通常の降雨による浸水氾濫現象に比べ影響時間が短時間であることから、降雨量、側溝、下水道、排水機場の排水効果を無視している。
・境界からの浸水(堤防、護岸からの海水の進入)は本間の越流公式を用いている。
2.6.1 入力条件など
標高データ、地上建屋配置図、堤防・護岸・道路断面図、土地利用データなどの収集及び現地踏査
・標高データや建屋情報などは1/2500、1/5000等の縮尺のデータがあると現地のモデル化が精度良く行える。
・道路や鉄道の土盛りの高さなど氾濫流の硫化に影響を及ぼすような地形条件は現地踏査を含めできるだけ詳細に調査し、地形のモデル化に反映させる。
2.6.2 浸水予測図
対象地域の地形図、市街地地図などに最大浸水深などを合成し作成する。
・1/2万5千、1/5万の地形図等に氾濫計算結果を合成表示する。
・表示は、対象地域をメッシュに分割しメッシュごとの結果をカラーパターンなどで表示する。
2.6.3 危険度の評価
「土木技術資料42高潮危険度評価の試み」に基づいて高潮氾濫に伴う危険度の判定を行う
・危険度の評価は以下のフローに沿って実施する。
・避難のスピードは2500m/時として、算定する。
・避難場所までの距離は、計算格子間とする。
(例 (5,6)から(13,7)へ移動するときの距離は格子間隔100mとして
100×√ (13-5) 2+ (7-6) 2=806m)
・避難の開始は越流が始まった時点とする。
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