第4章 越流・越波計算のモデル化
4.1.1 越流の計算式
高潮によって上昇した潮位が堤防の天端高を上回ると越流が発生する。潮位上昇にともなう陸域への越流量は、本間の越流公式を用いて下記のように計算する。
堤外潮位をHr、堤防高をH0、堤内水位をHf、越流幅をLとしたとき、h1=Hr-H0、h2=Hf-H0とすれば、例えばHr>Hfのときの越流量Q0は次式で与えられる。
ここで、μ、μ'は全越流および潜り越流時の流量係数(長方形の堰の場合、0.91及び0.35とされている。)である。Hr<Hfのときに生じる堤内地から堤外地への逆越流の場合にも、同様な取り扱いとした。
4.1.2 越波の計算式
高潮による海水面の上昇が堤防の天端高以下であっても、天端高が十分でなければ高波による越波が発生し、堤防を水塊が越えて浸水の恐れが生じる。このときの不規則波の越波流量(qexp)として、以下の式により評価した。
この中では、波高の確率密度分布をレイリー分布と仮定し、護岸の種類形状に応じたパラメータ(a,b,c)を与えている。
ここで、hc:水面からの天端高、Hw:護岸前面の波高、H0:換算沖波有義波高、P(x):波高の確率密度分布(レイリー分布とした)、a,b,c: 護岸の種類により変化する係数(直立護岸の場合1.0,0.8,10.0、消波護岸の場合0.5,0.0,5.0)である。
4.1.3 越流と越波の計算モデル化
越流と越波の計算を複数地点において時系列に行うために、FORTRANを用いて越流・越波それぞれのアルゴリズムに対してサブルーチンプログラムを作成した。引数のうち、潮位と流速は高潮計算結果から、風速・有義波高などは波浪推算結果から受け継ぐ。
以下に越流と越波のプログラムの概要を示す。
(1)越流の計算“ETU”
概要:越流による流量を計算する。
引数:
引数 |
型 |
入出力 |
説明 |
COMMON /H/ |
整数、実数 |
入力 |
防波堤情報 |
COMMON /FL/ |
実数 |
出力 |
流量 |
COMMON /SU/ |
実数 |
入力 |
潮位 |
COMMON /TB/ |
実数、整数 |
入力 |
水深、境界情報 |
CC |
実数 |
入力 |
陸上遡上の係数 |
|
(2)越流量の計算“ETURYU”
概要:越流計算における越流量を計算する。Subroutine ETUからcallされる。
引数:
引数 |
型 |
入出力 |
説明 |
QQ |
実数 |
出力 |
越流量 |
H1 |
実数 |
入力 |
前後の潮位 |
H2 |
実数 |
入力 |
前後の潮位 |
CC |
実数 |
入力 |
陸上遡上の係数 |
|
(3)越波の計算“EPA”
概要:越波による流量を計算する。
引数:
引数 |
型 |
入出力 |
説明 |
COMMON /BH/ |
整数、実数 |
入力 |
防波堤情報 |
COMMON /FL/ |
実数 |
出力 |
流量 |
COMMON /VE/ |
実数 |
入力 |
流速、流量 |
COMMON /SU/ |
実数 |
入力 |
潮位 |
COMMON /TB/ |
実数、整数 |
入力 |
水深、境界情報 |
COMMON /WAVE/ |
実数 |
入力 |
潮位 |
SENT |
実数 |
入力 |
潮位のしきい値 |
|
(4)越波流量の計算“EPPACAL”
概要:越波計算における越波流量を計算する。Subroutine EPAからcallされる。
引数:
引数 |
型 |
入出力 |
説明 |
WW |
実数 |
出力 |
風速 |
HT2 |
実数 |
入力 |
防波堤前面の潮位 |
H2 |
実数 |
入力 |
防波堤の高さ |
FF |
実数 |
入力 |
フェッチ |
SENK |
実数 |
入力 |
浅水係数 |
GA |
実数 |
入力 |
防波堤定数 |
GB |
実数 |
入力 |
防波堤定数 |
GC |
実数 |
入力 |
防波堤定数 |
Q0 |
実数 |
出力 |
越波流量 |
H3 |
実数 |
出力 |
有義波高 |
|
波が傾斜海岸を遡上したり、海岸構造物に衝突すると、波は静水面上よりも高く打ち上がる。うちあげ高Rは静水面(平均水位)から最高到達面までの鉛直距離と定義されている。
うちあげ高には、換算沖波波高、沖波波長、堤脚水深、堤体勾配、海底勾配などの要素が関わっている。
堤体の断面形状の複雑さによって、うちあげ高の算定モデルが異なっている。ここではまず堤体の断面形状を単断面と複断面と二つに分けて、それぞれの場合におけるうちあげ高の算定方法を示す。
4.2.1 うちあげ高算定モデルの概要
(1)堤体が単断面の場合
図4-2-1のように海底勾配θがほぼ一様で、その上に一様な勾配α(単断面)の堤体が設置されている場合で、さらに護岸法面で砕波するか否かで場合分けを行う。(以下、高田の式)
図4-2-1 単断面の模式図
i)重複波水深領域
堤脚水深hが砕波水深hbより深い領域で、ここでは護岸法面で砕波するか否かで場合分けをする。
ミッシェの式から砕波を生じないもっとも緩やかな法面傾斜角αcを求めておく。
法面傾斜角αがαcよりも大きく、法面上で砕波しない場合。→うちあげ高(1)
法面傾斜角αがαcよりも小さい場合、法面上で砕波する。→うちあげ高(2)
ここで、R: うちあげ高,H0:換算沖波波高,Ks:浅水係数,Hl:堤脚水深における波高,ηs:波頂高,h: 堤脚水深,α:堤体の勾配 である。ηs/Hlとしては
を用いる。
ii)砕波以浅領域
hRは波のうちあげ高を最大にする堤脚水深(→図3.1.4)で、Rmaxは重複波水深領域においてh=hRとしたときの最大うちあげ高である。
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