第5章 高潮統合モデルの浸水計算への適用
この章では、高潮統合モデルの代表港湾へ適用し再現性を検討した。
適用例項としては、高潮を被災した八代海の松合とした。
高潮推算結果、越波流量などは前項までのフローによって算出された結果を引き継ぐこととした。計算手法は、主に土木研究資料「氾濫シミュレーション・マニュアル(案)−シミュレーションの手引き及び新モデルの検証−」(建設省土木研究所、平成8年2月)によったが、「水災のシナリオに応じた氾濫シミュレーション」(愛知県建設部、平成13年)も参考とした。
5.1.1 計算方法
氾濫計算には、以下に示す連続の式と運動方程式からなる二次元不定流モデルを用いた。
ここで、h: 水深(m)、H; 水位、g; 重力加速度、ρ;流体密度
u, v; x, y方向の断面平均流速
M(=uh),N(=vh);x, y方向の流量フラックス
τbx,τby; x, y方向の底面摩擦応力
底面摩擦応力は、Manning則から
また、地盤高が、著しく異なる場合の高地から低地への流れは、水面形が不連続となるため、次に示す段落ちの流れを用い、逆に低地の水位が次第に高くなり高地側に溢水する場合は段上がりの流れを用いた。
添え字1, 2は低地側及び高地側、x, yは成分方向を示す。
5.1.2 計算対象地域
計算対象地域は、過去の災害事例、洪水想定氾濫区域図などの洪水危険地図、現地ヒアリング調査などから浸水区域を想定し、設定する。
5.1.3 計算対象地域のモデル化
浸水計算は、対象地域を格子分割し、地形、地物等の条件をモデル化することで計算に取り込んでいる。以下、モデル化にあたっての留意事項を示す。
(1)計算格子
地形の特性、地物の状況などを考慮して格子間隔を設定する。
(1)解析対象範囲
格子を細分化しすぎると時間や労力がかかることとなるため、1万個以下になるように格子の大きさ、対象地域の範囲を設定する。(例:100m×100mの格子の場合対象範囲は100km2以下とする。)
(2)格子間の地形勾配
対象地域(氾濫原)の大きな地域は計算格子を細分化する必要がある。「氾濫シミュレーションマニュアル(案)」による適切な格子分割領域(格子間の標高差が50cm以内)を以下に示す。
(2)計算格子の地盤高
地形図、都市計画図、国土数値情報などから読み取る。また、必要に応じて現地踏査を行う。
読み取り対象としてはメッシュ毎の地盤高、堤防高、主要道路、鉄道の盛土構造の標高を読み取る。また、地図上での読み取りが困難な場合(格子が小さい場合など)は、隣接する格子から内挿して求める。国土数値情報を利用する場合、測量年度や崖地、丘陵地等の周辺は別途都市計画図などの詳細な地図との照合・補完を行う必要がある。
(3)氾濫原情報のモデル化
氾濫源を流下する流れは、鉄道などの盛土、建物や林等その土地の土地利用状況によって影響を受ける。計算にあたっては、これらをモデル化して計算条件の中に取り込む。
(1)盛土、開口部
盛土及び盛土上の開口部(各鉄道、道路)は、以下に示す計算式により求める。開口部は、樋門、カルバートと同様な取り扱いとする。
盛土の式
樋門の式
(2) 粗度係数
国土数値情報の土地利用データ(10m)、現地踏査の結果等を参考に、各メッシュ内の相当データから分類して設定した合成等価粗度係数を用いる。分類した土地利用形態は、(1)農地 (2)道路 (3)その他 (4)宅地とする。
なお、メッシュごとの粗度係数は、「氾濫シミュレーションマニュアル(案)」に基づき、以下に示す土地利用ごとの面積加重平均式で底面粗度係数を算定した。
・農地(水田、畑、果樹園、芝地)
・道路(幅員5m以上の道路を対象)
・その他(荒れ地、芝地、鉄道用地等;農地、道路以外の部分)
・建物(建造物の比率)
この式から、土地利用形態と建物による合成等価粗度係数は以下のとおりである。
(3)排水施設
排水機場の稼働していない条件とする。
(4)降水量
台風などの来襲時には、降雨による浸水もあるが、ここでは、高潮による越流水の浸水状況を把握するため、降雨は考慮しない。
(4)氾濫計算時間
浸水氾濫計算は、越流開始から終了までとする。高潮の場合、この時間は降雨による破堤浸水などに比べ時間が短く、次項の高潮事例の場合、浸水開始から1時間程度となっていた。
(5)浸水境界の設定
浸水境界は、海岸に面する堤防、護岸、海岸とする。
本モデルでは、高潮による破堤を考えていないが、破堤する場合は、「氾濫シミュレーションマニュアル(案)」と同様な考え方でモデルに組み込む。
なお、これら境界からの海水の進入は本間の越流公式により与える。
5.1.4 浸水予測図
浸水計算によって得られる結果から浸水予測図を作成する。
作成する主な図は以下のとおりである。
・最大深水深分布図:各格子点の最大浸水深の分布をみる
・最大流速分布図:各格子点の流速の分布を見るもの
・時系列水深変化図:海水の進入傾向を把握するため任意に時間を設定し時間変化をみる
5.1.5 危険度の評価
「土木技術資料42高潮危険度評価の試み」に基づいて高潮氾濫に伴う危険度の判定を行う。
この評価方法は、図5-1に示すフローに沿って実施する。危険度の区分はA〜Eの5段階で、それぞれ以下のとおりである。
・危険度A:堤防から海水が溢れる前に避難を始めないと、安全に避難ができない
・危険度B:堤防から海水が溢れ始めた時点で避難を始めれば、氾濫流に追いつかれますが、何とか避難できる
・危険度C:堤防から海水が溢れ始めた時点で避難を始めれば、氾濫流に追いつかれることはない
・危険度D:上層化・耐水化された住宅で住宅内で避難していれば大丈夫
・危険度E:避難区域外(床下0.5m以下)
実施結果は、格子毎に危険度を区分した分布図を作成する。
図5-1 危険度判定フロー
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