(2)試験結果
1)水生生物に対する処理効果等の要約
表II.5.2-6には50μm以上の水生生物、表II.5.2-7には50μm未満10μm以上の水生生物、表II.5.2-8には大腸菌群、表II.5.2-9には従属栄養細菌に対する試験結果を示した。
この試験における目標は、IMO基準の達成である。その内容は、50μm以上の水生生物は、バラスト水排水時に10個/m 3未満であること、50μm未満10μm以上は、10個/ml未満であること、また、病原性コレラ菌等にも一定濃度未満にすることが規定されている(「2.2 IMO排出基準対応システムの企画・検討」 参照)。
このIMO排出基準に対して50μm以上の水生生物では、オゾン濃度2.5mg/ では基準が達成できなかったものの、1.0mg/ 及び5.0mg/ では処理3日後に基準を達成した。すなわち、オゾン濃度2.5mg/ 以下では、基準が達成される可能性もあるが非達成の場合も起こりうる濃度で、完全な基準達成には5.0mg/ の注入オゾン量が必要と判断される。
なお、オゾンを注入しスペシャルパイプで処理しないコントロール水に比べ、スペシャルパイプで処理した場合に、明らかに水生生物数が減少しており、オゾンとスペシャルパイプ組合せによる相乗効果が現れている。
表II.5.2-6 |
IMO排出基準対応システムの試験における50μm以上の水生生物に対する処理効果とIMO排水基準との比較(生物数/m3) |
スリット部流速 |
40m/s |
30m/s |
IMO排水
基準 |
注入時のオゾン濃度 |
1.0mg/ |
2.5mg/ |
5.0mg/ |
未処理原水 |
35,650 |
67,150 |
56,700 |
24,000 |
10未満 |
コントロール水 |
11,500 |
13,200 |
1,550 |
900 |
処理直後 |
500 |
450 |
250 |
200 |
処理1日後 |
2,000 |
9,150 |
200 |
100 |
処理3日後 |
0 |
1,350 |
0 |
0 |
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ここでいう“未処理原水”とは港湾自然海水をいい、“コントロール水”とはオゾンを注入しスペシャルパイプを通さない海水をいう。“処理”を冠してあるのは、オゾンを注入し、スペシャルパイプを通過させた処理水を表す。なお、生物数の数値は2回の試験の平均値。
灰色でマークされているのがIMO基準を満たしている。
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50μm未満10μm以上の水生生物では、注入時のオゾン濃度5.0mg/ のスペシャルパイプの処理を行わないコントロール水を除き、他のケースでは全て処理直後の時点でIMO排水基準を達成している。すなわち、50μm未満10μm以上の水生生物に対しては、オゾン濃度1.0mg/ でIMO基準を達成することが確認された。
なお、このサイズ区分の水生生物に対しても、オゾンを注入しスペシャルパイプで処理しないコントロール水に比べ、スペシャルパイプで処理した場合に、明らかに水生生物数が減少しており、オゾンとスペシャルパイプ組合せによる相乗効果が現れている。
表II.5.2-7 |
IMO排出基準対応システムの試験における50μm未満10μm以上の水生生物に対する処理効果とIMO排水基準との比較(生物数/m) |
スリット部流速 |
40m/s |
30m/s |
IMO排水
基準 |
注入時のオゾン濃度 |
1.0mg/ |
2.5mg/ |
5.0mg/ |
未処理原水 |
26.370 |
44.006 |
50.044 |
11.586 |
10未満 |
コントロール水 |
4.680 |
0.280 |
14.691 |
0.416 |
処理直後 |
0.731 |
0.021 |
1.967 |
0.190 |
処理1日後 |
0.562 |
0.242 |
0.277 |
0.289 |
処理3日後 |
0.005 |
0.246 |
0.001 |
0.039 |
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ここでいう“未処理原水”とは港湾自然海水をいい、“コントロール水”とはオゾンを注入しスペシャルパイプを通さない海水をいう。“処理”を冠してあるのは、オゾンを注入し、スペシャルパイプを通過させた処理水を表す。なお、生物数の数値は2回の試験の平均値。
灰色でマークされているのがIMO基準を満たしている。
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大腸菌群に対しては、オゾン濃度1.0mg/ の場合で基準の非達成が見られる。ただし、オゾン濃度2.5mg/ 及び5.0mg/ では、全てのケースで検出限界以下(ND)であり、IMO排出基準を達成するとともに、完全に殺滅している。
なお、本試験では大腸菌群を分析している。大腸菌群はIMO排出基準で規定されている大腸菌を含むより多くの種類を包括しており、大腸菌群で基準値を達成している結果は、もちろん大腸菌での基準値をも達成していることを意味する(「図II.5.1-1 大腸菌E.coli(I型)と大腸菌群との関係」 参照)。
表II.5.2-8 |
IMO排出基準対応システムの試験における大腸菌群に対する処理効果とIMO排出基準との比較(CFU/100m) |
スリット部流速 |
40m/s |
30m/s |
IMO排出
基準 |
注入時のオゾン濃度 |
1.0mg/ |
2.5mg/ |
5.0mg/ |
未処理原水 |
1,750 |
4,375 |
1,000 |
5,125 |
250未満
(大腸菌として) |
コントロール水 |
875 |
ND |
ND |
ND |
処理直後 |
ND |
ND |
ND |
ND |
処理1日後 |
250 |
ND |
ND |
ND |
処理3日後 |
125 |
ND |
ND |
ND |
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ここでいう“未処理原水”とは港湾自然海水をいい、“コントロール水”とはオゾンを注入しスペシャルパイプを通さない海水をいう。“処理”を冠してあるのは、オゾンを注入し、スペシャルパイプを通過させた処理水を表す。なお、数値は2回の試験の平均値。
IMO基準は“大腸菌“として設定されているが、本試験では“大腸菌群”で分析した。
灰色でマークされているのがIMO基準を満たしている。
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従属栄養細菌はIMO排出基準では規定されていない。ただし、規定されている病原性コレラ菌、腸球菌、大腸菌が全て含まれる、一般環境に広く分布する従属栄養のバクテリア総数を表しており、従属栄養細菌に対して完全な処理効果を発揮することは、従属栄養の全てのバクテリアに対して処理効果を持つことになり、IMO排出基準は間違いなく達成することを意味する。
この従属栄養細菌は、オゾン濃度1.0mg/ 及び2.5mg/ では、処理直後にある程度減少するものの完全に殺滅しきれず、その後、再増殖した。オゾン濃度5.0 mg/ のスリット部流速40m/sでは処理直後に完全に殺滅し、その後の再増殖も観察されなかった。一方、オゾン濃度5.0 mg/ でスリット部流速30m/sでは、処理直後に一旦検出限界以下(ND)となったが、完全に殺滅されていなかったためか、処理3日後に再検出された。
これら結果から、全てのバクテリアを完全に殺滅する条件は、注入時のオゾン5.0 mg/ で、スリット部流速が40m/sであると判断される。
表II.5.2-9 |
IMO排出基準対応システムの試験における従属栄養細菌に対する処理効果(CFU/100m) |
スリット部流速 |
40m/s |
30m/s |
IMO排出
基準 |
注入時のオゾン濃度 |
1.0mg/ |
2.5mg/ |
5.0mg/ |
未処理原水 |
557,500 |
451,250 |
220,000 |
928,333 |
非設定 |
コントロール水 |
173,750 |
6,250 |
625 |
667 |
処理直後 |
7,333 |
2,625 |
ND |
ND |
処理1日後 |
3,213,333 |
1,000 |
ND |
ND |
処理3日後 |
60,250,000 |
23,225,000 |
ND |
19,000 |
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ここでいう“未処理原水”とは港湾自然海水をいい、“コントロール水”とはオゾンを注入しスペシャルパイプを通さない海水をいう。“処理”を冠してあるのは、オゾンを注入し、スペシャルパイプを通過させた処理水を表す。なお、数値は2回の試験の平均値。
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以上の結果から、「IMO排出基準対応システム」では、オゾン濃度5.0 mg/ 、スリット部流速40m/sで完全にIMO排出基準を達成できることが確認できた。
ただし、散気管によるオゾン注入後の試験システム内における試験水とオゾンは、水相と気相に分離しているのが確認され、オゾンと海水の混合、つまり、オゾンの溶解が不十分であると考えられた。よって、オゾンの注入方式を改良し、溶解を効率的に行えば、さらに処理効果が上昇し、必要オゾン量も少なくすることが可能であると考えられた。
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