2.2 IMO排出基準対応システムの企画・検討
IMO排出基準、つまりバラスト水管理条約の附属書規則D-2バラスト水性能基準は、船舶から排出するバラスト水中の生物濃度を表II.2.2-1のように規定している。
表II.2.2-1 IMO排出基準
対象生物 |
排出基準値 |
摘要 |
50μm以上の水生生物 |
生きた生物数10個/m3未満 |
サイズの基準は、生物の長さ、幅、厚さの中で最も小さい箇所のサイズを適用 |
50μm未満で10μm以上の水生生物 |
生きた生物数10個/未満 |
病原性コレラ(O-1,O-139) |
1 cfu/100未満 |
cfu(=colony forming unit):平板寒天培地基に検水を塗布し形成される群体数 |
大腸菌 |
250 cfu/100未満 |
腸球菌 |
100 cfu/100未満 |
|
この基準に対して、平成15年度に実船に搭載したプロトタイプ実機は、50μm以上及び50μm未満10μm以上の水生生物に対して一定の効果が得られるものの、病原性コレラ菌等のバクテリアに対する効果は低い。スペシャルパイプ基本性能向上システムは、STEP基準である50μm以上の生物に対しては、処理7日後及び処理7日後の処理で満たすことができ、また、10μm以上から50μm未満の生物に対する効果も高い。しかし、バクテリアに対しては、明瞭な効果が得られなかった(後述、「5.1 スペシャルパイプ基本性能向上システムの試験」を 参照)。
よって、IMO排出基準対応システムは、スペシャルパイプ基本性能向上システムにバクテリアを中心に殺滅効果を発揮する技術を組み入れたものにする必要があると判断された。
バクテリアを殺滅する技術としては、熱処理、紫外線処理、化学物質(以下、活性化物)による処理が主なものである。それらのうち、熱処理と紫外線処理は殺滅性能、コスト面等で現実性に大きな問題があり、活性化物の多くは排出後の二次汚染及び船内での薬品貯蔵などの問題が大きな障害となっている((社)日本海難防止協会(1998):平成9年度船舶のバラスト水管理方策に係わる調査研究報告書)。
しかし、活性化物の中でオゾンに関しては、機械による製造が可能なことと、分解が極めて速い理由で当協会でも注目しており、すでに水生生物殺滅効果に関する試験を実施済みである。試験結果の概要を表II.2.2-2に示す。
この試験結果によれば、オゾンの水生生物に対する殺滅効果は、植物プランクトン及び動物プランクトン、つまり50μm以上の生物と50μm未満10μm以上の水生生物に対しても明瞭にあり、さらに植物プランクトンの渦鞭毛藻のシスト(休眠胞子)にも発揮する。また、IMO排出基準対応システムでの必須対応生物であるバクテリアに関しても、処理直後(オゾン注入直後)では多くを殺滅しており、その後、生き残った細胞の再増殖が見られるものの基本的な殺滅効果を持っていると評価された。
このような過去の研究成果に加え、注入したオゾンが混入する海水がスペシャルパイプを通過する時に、気体であるオゾンの溶解度が高まりオゾンの水生生物への作用を促進する相乗効果も期待できることから、IMO排出基準対応システムは、スペシャルパイプ基本性能向上システムにオゾン処理を組み合わせた方式を採用することとした。なお、オゾンの注入位置は、管内圧力が負圧状態のため注入が容易で、オゾンの溶解度向上による相乗効果が期待できるスリット板の前、さらにはポンプの入口(サクション側)とした。
表II.2.2-2 |
オゾン注入による水生生物の減少
(注入オゾン濃度1mg/) |
|
原水 |
処理直後 |
処理2週間後 |
植物プランクトン(細胞/) |
1,872,800 |
14,096 |
36 |
動物プランクトン(個体/) |
450.8 |
108.4 |
13 |
従属栄養細菌(CFU/) |
640 |
90 |
34,000 |
渦鞭毛藻Alexandrium属シスト
(発芽可能細胞数) |
20 |
10 |
0 |
|
データ引用: |
(社)日本海難防止協会(2000):船舶のバラスト水管理方策に係わる調査研究報告書 |
2.3 IMO排出基準対応改良システム(SPHS-V1)の企画・検討
IMO排出基準対応改良システム(SPHS-V1)は、「2.2 IMO排出基準対応システム」の構成である「スペシャルパイプ基本性能向上システム+オゾン処理」のオゾン注入方法を改良して、より一層オゾンの溶解度を促進し、少ない注入オゾン量でバクテリア等への作用を高めることで、最終的には船体への腐食の影響、排出水の環境影響、及びオゾン発生機の小型化とコスト低減を目標としている。本システムは、その最初の型式となる。
オゾン注入方法に関しては、各種気液混合方式に関する情報を収集した上で、平成11年度事業で採用した図II.2.3-1に示すミキサーパイプを用いることとした。
図II.2.3-1 |
IMO排出基準対応改良システム(SPHS-V1)でオゾン注入に用いるミキサーパイプ |
|