6)試験結果
以下に示す試験結果からは、スペシャルパイプの基本性能向上要素としては、スリット部の流速増加とスリット幅を狭くする方法の2つがあり、両方を組み合わせることで、STEP基準をクリアーすることが可能と思われる。そして、エネルギー効率及び水生生物に対する効果を考慮すると、流速は約40m/secに速くすること、及びスリット幅は0.3mmを中心とするのが適切であると考えられる。
(1)物理条件
表II.2.1-5には、各試験ケースにおける物理条件(圧力損失、スリット部流速、圧損係数等)を示した。なお、圧力損失とはスリット上流圧と下流圧の差分で、圧損係数は次の式で求めている。
圧損係数=圧力損失/1/2 × ρ × v2
ρ:海水の密度(g/cm3)1.03 g/cm3
v:流速(m/s)
圧損係数は、消費エネルギーを指標する。そこで、各スリット幅のスリット部流速が約30m/secの時の圧損係数を比較してみた。この場合に、圧損係数が高いと、同じスリット部流速を作り出すためのエネルギーのロスが大きいことになり、非効率なケースと見なすことができる。
結果は、スリット幅0.1mmが1.543、0.2mmが1.042、0.3mmが1.070、0.5mmが1.145であり、スリット幅0.1mmが他のケースの1.5倍ほど高く非効率なケースであった。なお、スリット幅0.5mm、0.3mm、0.2mmと圧損係数は小さくなり、一見して効率が良くなっているように見える。しかし、圧損は当然ながらスリット幅が狭いほど高くなっており、将来の実船での搭載運用を考えると、圧損が低い0.5mmあるいは0.3mm程度が現実的な幅であると考えられる。
表II.2.1-5 スペシャルパイプ基本性能向上要素試験
各試験ケースにおける物理条件計測結果
スリット幅
[mm] |
スリット
上流圧
[kPa] |
スリット
下流圧
[kPa] |
スリットによる
圧力損失
[kPa] |
流量
[m3/hr] |
スリット部流速
[m/s] |
圧損係数 |
0.1 |
441.0
709.1
1010.0 |
14.74
23.28
20.44 |
426.3
685.8
989.4 |
3.941
5.084
6.180 |
22.77
29.38
35.70 |
1.597
1.543
1.507 |
0.2 |
448.3
706.4
994.7 |
13.28
29.39
30.94 |
435.0
677.0
963.8 |
9.378
11.45
13.78 |
28.47
34.76
41.85 |
1.042
1.088
1.069 |
0.3 |
449.4
689.0
973.0 |
19.79
22.31
24.98 |
429.6
666.7
948.1 |
13.61
16.63
19.64 |
27.92
34.08
40.27 |
1.070
1.115
1.135 |
0.5 |
415.9
640.4
894.4 |
29.56
35.22
29.62 |
386.3
605.1
864.8 |
21.01
25.30
30.08 |
26.60
32.04
38.08 |
1.060
1.145
1.158 |
|
(2)水生生物の殺滅率
表II.2.1-6には、各試験ケース時における50μm以上の動物プランクトンに対する殺滅率等を示した。殺滅率は、処理前のコントロール水中と1回通水した処理水中の正常な動物プランクトン数の差分比率である。
STEP基準である98%殺滅をクリアーしたケースは、スリット幅0.1mmのスリット部流速35.70m/sec、0.2mmの41.85m/sec、0.3mmの40.27m/secであった。
表II.2.1-6 スペシャルパイプ基本性能向上要素試験
各試験ケース時における50μm以上の動物プランクトンに対する
殺滅率等 |
スリット幅
(mm) |
スリット部流速
[m/s] |
コントロール水中のプランクトン数
[個/10L] |
処理水中の
プランクトン数
[個/10L] |
殺滅率(%) |
0.1 |
22.77
29.38
35.70 |
1,353
2,017
1,711 |
156
76
12 |
88.5
96.2
99.3 |
0.2 |
28.47
34.76
41.85 |
2,033
757
1,023 |
277
39
18 |
86.4
94.8
98.2 |
0.3 |
27.92
34.08
40.27 |
805
1,067
1,287 |
83
54
17 |
89.7
94.9
98.7 |
0.5 |
26.60
32.04
38.08 |
663
2,136
1,245 |
87
110
40 |
86.9
94.9
96.8 |
|
(3)圧損係数と水生生物の殺滅率
表II.2.1-7には圧損係数と50μm以上の水生生物の殺滅率、図II.2.1-3には圧損係数と50μm以上の水生生物の殺滅率との関係を示した。
スリット幅0.1mmは、他のスリット幅に比べて似通った殺滅率でも極端に圧損係数が高く、効率が悪い。他のスリット幅はほぼ同じレベルでいずれも効率良く殺滅している。その中で、STEP基準の98%以上の殺滅率を記録しているのは、スリット幅0.2mmのスリット部流速41.85m/sec、0.3mmの40.27m/secであった。
表II.2.1-7 スペシャルパイプ基本性能向上要素試験
圧損係数と50μm以上の動物プランクトンの殺滅率
スリット幅
(mm) |
スリット部流速
[m/s] |
圧損係数 |
殺滅率(%) |
0.1 |
22.77
29.38
35.70 |
1.597
1.543
1.507 |
88.5
96.2
99.3 |
0.2 |
28.47
34.76
41.85 |
1.042
1.088
1.069 |
86.4
94.8
98.2 |
0.3 |
27.92
34.08
40.27 |
1.070
1.115
1.135 |
89.7
94.9
98.7 |
0.5 |
26.60
32.04
38.08 |
1.060
1.145
1.158 |
86.9
94.9
96.8 |
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図II.2.1-3 スペシャルパイプ基本性能向上要素試験
圧損係数と50μm以上の水生生物の殺滅率との関係
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