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3. 造船技能評価基準
(1)対象造船技能と等級
 前章までに述べてきたように、わが国の経済環境、造船界の現状を考えると、造船業への資格制度の導入は、相応の効果を生み、うまくいけばわが国造船業活性化の大きな起爆剤になることが期待できる。このため、(社)日本中小型造船工業会では、平成13年度から関連する調査事業として作業要件書の作成を行ってきた。
 その成果として造船技能資格の対象となる技能を、下記の40技能とし、これに1〜3級の等級を考えた。
(注)造船所により1つの職種が行う仕事の範囲、内容が異なっている。このため、既報告書で使用していた「職種」という呼称を使用した場合の誤解を避けるため、ここでは「技能」と称すことにする。なお、「技能」は、次の4つの要素で構成される(中小企業庁「中小企業の『ものづくり力』強化に向けた展望と課題」、H12.6)。
(i)技:機械操作、手作業のコツ
(ii)経験(現場)知:経験により蓄積された知識
(iii)感知力:目視、手触り、振動、異音、用具等に関する検査、検知力
(iv)問題把握力、解決力:段取り、分析
 
(1)船殻:16技能
 現図、NC切断、鋼板手切り、型鋼切断、鋼板曲げ、型鋼曲げ、配材・整理、小組立鉄工、小組立溶接、大組立鉄工、大組立溶接、船台鉄工、船台溶接、船台木工、グラインダ、歪取り
(2)艤装:13技能
 塗装、船具、甲板仕上げ、木艤装、保温・防熱、鉄艤装品製作、鉄艤装品取付、管加工、配管、機関仕上げ、製缶、機械加工、電気艤装
(3)修繕:9技能
 修繕塗装、修繕船具、甲板鉄工、甲板仕上げ、木工、修繕配管、機械加工、修繕機関仕上げ、修繕電気の修繕特化9技能に加え、「船殻」技能の各種を加える。
(4)間接:2技能
 クレーン運転、足場
 
(2)技能評価基準の試行、評価結果
 平成13年、14年度で設定した上の40技能の等級別作業要件書を、船殻内業、船殻外業、船装、機装、修繕に集約して、平成15年度本事業参加会社、およびその他数事業所に試行、評価をお願いした。
 分担した技能と担当会社/事業所は、次のとおり。
(1)船殻内業:北日本造船、内海造船、四国ドック、栗之浦ドック、他(5)
(2)船殻外業:幸陽船渠、今治造船丸亀事業本部、檜垣造船、栗之浦ドック、臼杵造船、他(7)
(3)船装:墨田川造船、幸陽船渠、四国ドック、浅川造船、福岡造船、石原造船、他(7)
(4)機装:北日本造船、金川造船、内海造船、伯方造船、今治造船丸亀事業本部、浅川造船、他(7)
(5)修繕:東北ドック、三和ドック、西武造船、神戸船渠工業(4)
(6)間接:上記全社/事業所(21)
 
 技能評価基準のアンケート内容は、
(i)技能評価基準に対する全般的な意見
(ii)技能者が保有している資格の内容
(iii)そして実際に就労している技能者の知識、技能レベルを「技能評価基準原案」用紙の該当する欄に回答記入
の3種で、アンケート依頼内容は、添付資料1のとおりである。
 
 試行、評価をお願いした造船所からは、分担した技能(職種)に実際に携わる本工、協力工の保有している知識、技能を、経験年数、社内等級とともに回答してもらった。
 技能者数は述べ835名、総計2,300頁を超える膨大な回答結果は、技能(職種)別、等級別、項目別に集計した。職種別、等級別の回答者数を、添付資料2に示す。
 
 寄せられたコメントの主なものは、次のとおりである。
【技能評価基準の設定、資格制度に対する意見】
・全面的に賛成:20社・事業所
・条件付賛成:1社
(注)なお、本事業参加会社への訪問調査の際、近隣の地方小型船舶工業会加盟造船所を訪問し、労働事情と造船技能資格制度への賛否を問うた。訪問調査会社数は、次のとおり。
*関門地区:2社、*西四国地区:1社、*神戸播磨地区:1社
*東四国地区:1社
 訪問した小船工会員会社は、概して、仕事量の確保に苦労しているため、傘下の協力工を陸上工事と共用する形をとって、工事量の繁閑調整を行っている。したがい、造船工事にスポット工を採用するとき、仲介人(あるいは本人)の申告する技量と採用側期待技量とのギャップにしばしば遭遇していて、同じ職種でも陸上工事と造船工事の技能の違いを明確に認識している。
 各社の造船技能資格制度、等級づけに対する意見は、積極的「賛成」であった。技能レベルを等級化することで、外部から技能者を採用する場合、「当たり外れがすくなくなる」、「特に鉄工などのように技量判定が難しい職種では、技量をチェックしやすい」、「実力に応じた単価設定に利用できる」が主な理由である。
 添付資料4に、地方小船工会員会社の技能者別、経験年数別人員を示すので、参照されたい。
 
【技能評価基準原案に対する意見】
・必要知識のうち、品質管理(統計)関連知識は、過剰要件である。
・現実に、ある職種の技能者を採用する場合、技能要件は、各職種(技能)とももっと詳しく、細分化してもらった方が評価しやすい。
・技能を細分化するより、例えば、鉄工、溶接などのようにステージを限定せずに大きく捉えた方が現実的である(造船所は規模が小さいほど、複合職化している背景がある)。
・溶接、配管、塗装の流動化が一般化している職種(厳密には、陸上産業と共用している職種)に限定すべきである。
・各社にベテラン技能者や監督者がいることから、彼らを顕彰する意味でも「特級」とか「マイスター」とかの資格(技能検定の特級に相当)を設けるべきである。
・「浅くてもよいから幅広い作業をこなせる」のを1級とすべきである。
・1級は、極めて専門性を要求されるから「知識、技能の深さ」がなければならない。
・組織による管理スパンと技能区分が一致しない。
・評価者によって評価レベルにバラツキがでる。
* アンケート結果をつぶさに見ると、総じて、規模の小さい造船所ほど技能者の知識、技能に対する評価は高く、逆に、規模の大きい会社は、技能評価に厳しい傾向がある。
* 等級に対する見方が異なる。「幅が広く、何でもこなせる」のを1級職とするとの考え(比較的規模の小さな企業)があるのに対し、逆に「幅は狭くても深くなければ1級に値しない」(比較的規模が大きく、分担作業を主にしている企業)という考え方がある。
* 例えば、荷役装置にはいろいろなものがあるが、これらの装置の据付に対し幅広い技能をもつ人、特定の装置、例えばセメント荷役装置の運転調整に特別の技能を有する人は、いずれも1級相当とみなすのが妥当と思われる。ただし、専門技能が明確に分かるよう、技能名の後に対象とする装置を括弧内に記し、技能評価基準書には、装置別にその資格条件を記すことにする。
(例)甲板仕上げ(セメント荷役装置)、機関仕上げ(ディーゼル主機関)
 
(3)試行結果による修正
 アンケート集計結果、および訪問先での意見を基に、技能別評価基準を追加・修正した。主な追加・修正点は、次のとおり。
 
(1)新造船および間接関係
(i)品質管理に関する知識(QC関連)
・ QCはわが国製造業の存立基盤ともなっている重要な要素であり、不良原因の特定、撲滅に必須の知識であるが、基本的に技術スタッフの役割との意見が多かったため、技能者への要求は控えた。
(ii)アンケート回答結果を反映させ、要求レベルの格上げと格下げを行った。
・ アンケート集計回答者の半数以上が該当している場合は、格上げまたは格下げした。
・ ただし、回答者の回答レベルが低くても、それに合わせて格下げしなかった例もある。
(例)安全問題:「常識的レベル」と回答した1級職該当者が多数いたが、安全に関わる重要な問題のため、1級職には敢えて「詳細」レベルを要求した。安全問題に関する知識レベルが全般に低いことは今後の懸念材料で、重要な教育テーマでもある。
・ 格上げ、格下げの比率はおおよそ7:3である。
(iii)新造、修繕ともタイトルの“××職”から「職」を削除した。
(iv)複数の技能(職)を鉄工、溶接などに集約する案は、今回は見送った。
 
(2)修繕船関係
(i)修繕現図、修繕溶接を新設した。
(ii)甲板鉄工を「修繕鉄工」に改称した。
(iii)修繕機関仕上げを主機、発電機、推進器・軸系、ポンプ・回転機器、ボイラ、空調・冷凍機の装置選択式とし、さらに解放(バラシ)、修理・復旧、調整運転に細分化して等級に反映させた。
(iv)「木工・保温・防熱」に「ラギング(管と機器の保温・防熱)」項目を明確に分離した。
(v)修繕塗装をタンク内、タンク外でわけた方が良いとの意見があり、これに基づいて、新造船ともども「塗装」技能に追加修正を行った。
・ タンク内外で要求される作業の技量、知識に大きな差異はないが、ブロック塗装と違い、タンク内では、特にロンジの内側を窮屈な姿勢で正確に行わなければならないなど困難な作業が多いことを考慮した。
 
 このアンケート回答結果と訪問調査時に収集した意見を加味して、技能別評価基準を作成した。添付資料5に、技能別評価基準を示す。
 
(4)保有資格
 技能評価基準のアンケートとともに、技能者がもつ「保有技能、資格」を職種別にアンケート調査した。結果は、次のとおりである。
(1)造船技能者の保有資格ベスト5と保有率は、下記のとおり。
・玉掛技能講習修了者:>69%
・ガス溶接技能講習修了者:>44%
・フォークリフト運転技能講習修了者:>37%
・床上操作式クレーン運転技能講習修了者:>30%
・(船級)溶接者:>23%
(注)保有率は、回答者総数835名で保有回答者数を割った数値。ただし、保有資格は、無回答者が相当数あるので、少なくとも上の数値よりは大きくなる。
 
図5 造船技能者保有資格(保有資格者数10名以上の資格)
(拡大画面:14KB)
 
 なお、集計結果は、添付資料3(職種別保有資格)に示す。
 
(2)取得している資格は、安全関連の職業資格型資格がほとんどで、能力認定型資格は溶接以外、ほとんど見当たらない。これは、造船技能に必要かつ適格な資格がないことの証左でもある。ただ、造船特有資格が少ないため、従業員の士気高揚目的で仕事と直接関係ない資格取得を奨励している例もあるので、上記保有資格が造船技能者のもつ資格のすべてはないことを付記しておく。







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