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4. 造船技能資格制度試案
4.1 資格制度に対する基本的考え方
(1)全般
 技能レベルを客観的にあらわす指標とすることを第一義とし、加えて造船業に携わる技能者の技能向上意欲や社会的評価の向上を目指す。
(2)職種と技能
 組織に基づく職種とその作業範囲、人事評価制度は、個々の企業の経営管理方針によりさまざまである。したがって、無理に職種、作業区分の統一は行わず、船舶の建造に必須の作業要素を40の「技能」として抽出した(3(1)「対象造船技能と等級」参照)。
(3)特定技能
 同一技能区分でも対象作業により技能内容が異なる場合は、必要技能を併記して該当する技能を選択できるように表記する。すなわち、専門技能を技能区分名の後の括弧内に表記することにする。例えば 造船現図(線図作成・フェアリング)、造船現図(外板および一品展開)、甲板仕上げ(荷役装置)、甲板仕上げ(係留・係船装置)、修繕機関仕上げ(主機)、修繕機関仕上げ(発電機)等である。
(4)レベル
 技能レベルは、基本的に次の3段階とする。
・1級:実務作業をこなせるだけでなく、計画、配員を含む、まとまった仕事をこなせるレベル
・2級:簡単な指示により段取りを含め一人作業ができるレベル。
・3級:指示を受けて作業できるレベル。
(5)教育制度との関係
 教育制度で予定されている新人教育研修を終了した者には、その専門ごとに“造船技能基礎(機関)研修修了者”のような資格を与えて、一定のレベル保有者であることを認定する。同様に中堅者教育を修了した者にはコースに応じて“造船○○技能研修修了者”のような資格を与える。
 上記の技能評価基準をどれだけ満たすかは、研修内容(カリキュラム)次第になるので、今後の検討課題とする。
(6)マイスター
 幅広い職種において1級以上の実力をもつ者や、特に優れた技能をもつ者には特級またはマイスター資格を設けることを、今後の検討事項とする。
(7)職務能力との関係
 職務遂行能力には、何ができるのかの技能等級以外に、責任感、統率力、指導力、協調性等の人間性の総合評価が必要であろう。ここで示した技能評価基準(等級)は、この総合判断のための一要素である技能レベルを測るためのものである。
 
4.2 資格制度実施にあたっての配慮
(1)国家資格に関する改善勧告
 国が関わっている資格は、公的資格(民間技能審査事業認定制度。単に「認定制度」)を含めると結構、多い。資格数、認定数、検定数を改めて示すと、
・国家資格:16府省、193資格
・公的資格:3府省、134資格認定
・技能検定:133職種検定
 これらに対し、規制緩和の見地から、平成10年4月〜平成12年9月に、規制行政に関する調査−資格制度等−が行われ、その結果に基づいて勧告がなされた(総務省「規制行政に関する調査結果に基づく勧告−資格制度等−」、平成12年9月)。勧告内容の概要は下記のとおりである。
 
a. 対国の資格制度
(i)資格審査事務の在り方の見直し、適正化
・事務の民間への委託等の推進・透明化
・会計処理の適正化
・関係省庁の指導監督の徹底
(ii)資格要件、資格審査方法等の見直し、適正化
・資格要件の見直し
 受験・受講資格の原則廃止(高度かつ専門的な知識や技術・経験を要するために特別の教育・訓練が必要なものを除く)、明確かつ合理的な理由のない実務経験、実務補習、年齢等を必要とするものは、原則廃止または実務経験年数の短縮
・資格審査実施方法等の見直し、試験問題等の公表の推進
 試験が継続して休止されていて、今後も受験希望者数の増加が見込めないものは、試験の統廃合を行う。
・試験等手数料の適正化
・申請手続き等の簡素化
 申請書類の記載事項は、資格審査に必要最小限なものとし、法令で明確に定める。
(iii)資格者業務の範囲、競争制限的制約等の見直し
・資格者の業務範囲等の見直し
 資格者の業務範囲が限定されているため、その有用性が十分、活用されていないものは、業務範囲の拡大を行う。
・開業資格に係る競争制限的制約の見直し
 司法書士、土地家屋調査士などの「開業資格」の規制の緩和
 
b. 対民間技能審査事業認定制度
(i)認定制度の在り方の見直し
 真に国が奨励すべき事業として認定すべきかを検討し、認定取消を含めて見直す。
(ii)認定事業運営の適正化
・会計処理の適正化
・資格審査の基準・実施方法等の見直し、試験問題等の公表の推進
 受験・受講資格としての学歴と、実務経験、年齢等の原則廃止、有効期間の原則廃止と有効期間の更新目的で実施される講習等への強制受講の禁止(任意受講生)など。
 
(2)造船技能資格制度実施にあたっての配慮
 さて、これまで既存の資格、技能検定制度の内容と、造船技能における資格制度の試案について述べてきたが、次に、造船技能資格制度の実施に際して配慮すべき事項を考えてみたい。
 
(1)企業ニーズに従い段階的に実施
 本事業参加会社やあわせて訪問した地方小型船舶工業会加盟会社から、
・「技能をもっと大きな単位にまとめる」
・「流動化している代表的な職種に絞る」とのコメントがあった。
 新造船の船殻では鉄工、溶接に、艤装では配管、鉄艤、機関仕上げに集約するなどの案である。
 一方、まったく逆の意見もある。外部の技能者を契約的に雇用する場合や規模の大きい造船所では、同じ機械仕上げ職(技能)でも機器の種類が多いので機器別に細分化し、専門職化すべきであるとの意見などである。
 これらの意見を考慮に入れたうえで実務的に対処するために、
・社内的にニーズの高い技能(職種)から段階的、部分的に実施
・その後、運用実績を加味して、対象技能を段階的に増やす
方法が考えられる。
 なお、対象となる技能の細かい知識および技能要件も、全国的に合意するまでには時間を要することから、本事業参加会社の試行、評価結果を集積し、運用実績を重ねて順次、改定していく段階方式が現実的であろう。
 
(2)私的運用から開始
 技能評価基準の原案は、新造船、修繕船工事に必要な技能をほぼ網羅している。その中で提示している知識要件、技能要件は、その性格上、すべての造船所で共通に利用できる一般性、共通性を指向して作成された。換言すれば、各社独自の複合職や管理体制に基づく特殊な技能(職種)は対象としていない。
 一方、本事業参加各社を訪問調査したところ、技能評価基準の価値、利用先は次のように考えられていた。
(i)協力工採用時の技能レベルチェック
 技能レベルを客観的にチェックし、単価設定の一助にする。
(ii)構内技能者の再教育訓練資料
 本評価基準(原案)をもとに(本工、協力工を問わず)構内技能者の知識、技能レベルの実態を調査し、再教育訓練の基礎資料とする。
(iii)給与制度とのリンク
 ともすれば情に流されやすい人事考課に科学的な指標を導入して、給与とリンクさせ、給与制度の透明化を図る。
(iv)技能向上目標の設定
 技能評価基準原案に基づいて、技能者全員にアンケートを実施して、個人ごとの技能向上目標を設定する。必要に応じ、目標達成者への報奨制度とリンクさせる。
 このように利用方法が各々のニーズによって異なっていても、各企業が実際にこれを運用し、順次、その数を増やしていくことが肝要であろう。
 
(3)公的化への手順
 資格制度の機能には、公証、評価、技能向上の3つの機能があることは前述した。これらは、技能を評価する機関が大きければ大きいほど、権威があればあるほど、その効能が十分に発揮される。
 一方、造船技能の資格制度は、技能の特質上、「能力認定資格」とすべきであるが、前述した資格制度に関する勧告の内容、趣旨を勘案すると、造船技能資格制度(造船技能検定制度)の公的化には、次の配慮が必要であろう。
(i)資格取得希望者が毎年、相当数にのぼること→対象技能はあまり細分化しない
(ii)受験・受講資格のなかの学歴、実務経験年数、年齢等の制限は、可能な限り緩くする。
(iii)上位資格の取得に、下位資格の一定期間の保持を義務付ける制約は設けないか、または期間を短縮する。
(iv)認定のための試験内容
 「技能評価基準」が教育制度に適用されると、資格制度は公的化への第一歩を歩むことになるが、それに先立って個人の技能レベルを「技能評価基準」に当てはめるための試験内容、あるいはこれに相当する“判定基準”が必要になる。
 教育制度は全国的に幅広く適用されるにしたがい、技能レベルの評価は、絶対評価とならざるをえない。そのための試験内容や判定基準として有用なものを作るためには、私的運用段階から試案を作成し、試行を重ねて準備しておく必要がある。
 
 図6は、造船技能を公的資格化するまでのステップ案である。
 
図6 造船技能検定制度の公的化までのステップ







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