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第4部 座談会:「第1回パートナーシップ大賞」を振り返って
岸田 「第1回パートナーシップ大賞」の取材調査、運営等々、お疲れさまでした。私たちはこの第1回パートナーシップ大賞のために、賞決定の前後約2年間、いろいろな形で動いてきたわけですが、この経験を今後に生かしていくために、今日は運営委員の間でいろいろ話し合いたいと思います。
 35事業の応募を得て、第1次審査では、ドラッカー財団の評価方法を使って11事例を選んだわけですが、何を根拠にしたのか、第2次審査のための取材に向けて、調査票をどう作ってきたのか、などが大きな議題だと思います。調査や分析をするにあたって苦労したこともたくさんありました。
 
岸田 まず応募事業についてですが、35件の応募事業の中で、分野別では福祉関係が一番多かったですね。その次に環境、街づくり、国際協力が続きます。全国のNPO法人の中では福祉関係が半数以上であることから考えると、必ずしも福祉ばかりに偏っていなかったのが大きな特徴ですね。
 
カテゴリー別分布
 
河井 大賞事例もそうですが、福祉と国際交流が絡んでいたり、複合的な事業が多かったことは興味深いです。
 
企業の社会貢献は発展段階
 
岸田 それから結構、大企業が複数応募してきているのも、大きな特徴ですね。社会貢献の取り組みが進んでいるところが見えてきたな、という感じはします。と同時に、ところがその企業が最初から「3つ出しましょう」「4つ出しましょう」ではなく、別々のセクション・担当者から応募が来ているものが結構ありました。
 
河井 全社的な社会活動方針に基づいて、リーダーシップに基づいて行われるのがいいのか、地域ごと・セクションごとなどにバラバラに取り組むことも、それはそれで望ましいのか、どうなんでしょうか。
 
岸田 全社的にNPOとの協働をうたっているところはまだ多くありません。たとえNPOとの協働を促進しようとしても、協働できるNPOがそこにあるかどうかという要素もある。だから能力や意欲の高いNPOの存在と、うまく重なったところで協働が始まっている、というのが実態ではないかと思います。
 例えば三井住友海上では、中部地区では旧・三井が中心となって始めた事業、東京では旧・住友が始めた事業が、お互い知らないところで応募してきました。比較的全社的に取り組んでいると思われたのはN社でしょうか。
 
河井 発展過程としては、分権化された部分でその社会貢献をどんどん進め、それが全社的な社会貢献に結びついていく、という方向性があって、今はその一つの段階にあるということでしょうか。最初からトップが方針を決めて社会貢献がうまく行くというのが必ずしもいいとは言えないですよね。
 
岸田 企業の規模を見ると、中小企業も少なくありませんでしたね(P27参照)。地域のNPO支援センターが中小企業数十社をまとめて、NPOを支援する仕組みづくりをする動きもありました。
 
高浦 中小企業では社長の意識が非常に高くても、部下がついてきているかといったらそうでないところもありました。トップは動くんだけど、他の人はただ仕事だ、言われたからやっている。そのあたりは問題を残していますね。
 
岸田 1企業対複数NPOのケースがいくつかありましたが、複数の団体の中に温度差があるという特徴もありました。複数のNPOが絡んでいる場合、必ずしも同じ状況で協働が進んでいるとは限らない。そういう意味で比較的よかったのがアジレントと発見工房クリエイト、オンライン自然科学教育ネットワーク実験教室の事例。ただ、ここはどちらかというと企業が主導でしたね。
 企業からのオファーに対して、自分たちにもメリットがあるからやりましょうというという事業は結構ありましたね。そういう意識は点数に反映されているような気がします。あまりにもどちらかが強すぎるケースは、協働事業として点数が低かったですね。
 
岸田 今回、私たちは98年12月以降の事業を対象に募集をかけました。その結果、企業とNPOの協働としてはまだ実績のないところがいくつかありました(P29参照)。ドラッカー財団が関わっている「ミューチュアル・オブ・アメリカ」*のアワードでは、事業として1年続いていないとパートナーシップの対象に入れていないそうですが、“実績”というのは、かなり重要なことなので、1年以上継続した事業というのは、次回からは必要な応募条件かもしれませんね。
 
*ミューチュアル・オブ・アメリカ
Mutual of America Community Partnership Award
 
 ミューチュアル・オブ・アメリカ財団という保険会社系の団体が毎年、他のNPOや行政、民間企業とのパートナーシップによって優れたリーダーシップを発揮したNPOを表彰しているもの。ドラッカー財団はその評価活動の一部を委託されている。NPOと企業の協働事例は応募数の約2割に上るという。(1)パートナーシップが1年以上継続しているか、(2)NPOのミッションを進めることができているか、(3)他の事業のモデルになり得るか、という観点から書類で第1次審査が行われ、最終的には企業・財団の評価者が受賞企業を決定している。
 
人と人との出会いからスタート
 
高浦 協働事業の始まりときっかけを見ると、たとえ大企業でも、社員が個人レベルでNPOの担当者と話し合って「始めようじゃないか」というものが多いですね。「こういうことをするからNPOへ行け」というトップダウンではなく、草の根的なアイデアから始まったものが多いです。個人的な結びつきから、ゲリラ的に始まっている(笑)。
 
河井 そういう意味で、「人」がダイレクトにつながっていて、「組織」としてどうか、という前に「人」がどう思うのか。その担当者それぞれが「社会貢献」だとか「NPOと企業がいい組織を作っていくんだ」という意識が重要ですね。
 
岸田 ただ、その次にやはり組織があるということの意味は大きいですね。例えばS社の場合、非常に人と人との結びつきが強かったんですが、組織として「社会貢献」という部署があったから形にできた、という要素もあります。そういう組織の背景があって、個人の意思が尊重され、個人の意思を最大限に伸ばすことができるわけですね。
 
高浦 札幌通運でも個人レベルで始まったものを労働組合がシステム化していくという流れをうまく作っていきました。やっぱり個人とシステム・組織との連携が重要ですね。
 
河井 まず個人として立ち上がるというのは一般的。それを見て企業側が「何をやってんだ」という話になってしまえばそこでしおれてしまう。しかし、それを花開かせようとして企業、組織がバックアップするという形が、この大賞の事例にはよく現れていますね。
 
NPOはすごく期待されている
 
河井 それから、思った以上にNPOの能力がすごく企業に期待されていることに驚きました。チャリティ、すなわち企業が一方的に支援しているタイプが相当多いのではないかと思っていましたが、実際に出てきた中身を見ているとむしろNPOが先導的に事業を進めている事例が多かったという印象を持っています。ドラッカー財団の評価*の「チャリティ」、「トランザクション」「インテグレーション」を使って類型点を付けていった時、ここに応募してきたところは自ら手を挙げてきただけあって、単にチャリティに留まらない、トランザクションの部分まで届いていると思われる事業が相当ありました。
 
岸田 今回の特徴として、応募に際して、企業とNPOのどちらかの意志がより強かったケースが結構あります。本来ならば協働事業だから、対等であるべきで、応募に際しても両者の合意を得ていることが条件になっていたのですが、実はその35事業の中には相手が知らないうちに応募してきた事業がありました。そういうところは、それが直接的理由ではないにしろ、第1次審査で残りませんでしたね。協働事業の基本になるものが欠けていたのかもしれません。
 
*ドラッカー財団の評価3類型
 
I チャリティ型:
主に資金(寄付)による企業のNPO支援
II トランザクション型:
NPOと企業が互いにそれぞれのメリットを意識する関係
III インテグレーション型:
共通の目的を持ち、かつ、それが自分たちのみならず地域や社会にも広く貢献する関係
詳しくは、P16参照







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