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3. 評価の視点
NPOと企業の対等性を重視
 
岸田 「NPO側が企業とどれだけ対等にできるんだろうか?」ということに私たちは評価の視点を置いていますよね。
 
高浦 その意味で、前出のようなケースは単なる「チャリティ」型に留まってしまいますね。協働事業では、お互いに力を持って、それを対等に発揮していかなければ事業として発展していかないですから。
 
河井 規模も大きくて社会的な影響力がある事業でも、第1次審査で残らなかったものがありますが、企業側のわりと一方的なチャリティで、それに対してNPO側が何を返しているのかが、応募書類からはよく分からなかったからです。例えば国際協力という点で非常に重要で、社会的にも有意義な事業に対して企業側が「がんばってね」とお金を出している。が、企業側が国内拠点においてその国際的支援をどのような形で生かしているのか。
 
岸田 協働の「トランザクション」のところまで到達していないという判断でしたね。
 
高浦 前提としては、「チャリティ」的なものよりも協働の類型がどれだけ発生しているかというところに価値を見出したということですよね。
 
岸田 必ずしもそれだけで判断していいのかどうか、という課題は残ります。大きな寄付によって大きな施設ができ、その地域にとって非常に大きな意味を持っているケースもあるはず。但し、今回の評価では、それが果たして私たちの目指している協働というものになるのかどうかにポイントを置きました。
 
高浦 つまり、NPOがある程度、企業と対等にアイデアを出したりして巣立って欲しいという目的があるわけですよね。
 
河井 この点は、今後もっと議論していくことができると思います。一見、「チャリティ」色が強いと見えても、いろいろ調査をした結果、「チャリティ」だけだとは言い切れない場合もあるでしょう。反論もあるかもしれません。
 
岸田 そういった意見が見える形で私たちに伝わり、ディスカッションを重ねることによって、お互いに発展できると思います。
 最終的に受賞対象に残らなかった大きな企業、NPOの中には、私たちの本への掲載を拒否したところがありました。これは残念ですね。
 
河井 掲載拒否ということは、つまり「われわれの事例が低い」と見られたと思っているからですよね。今回の私たちの視点からいうと非常に重要だと思われるものを評価した結果であって、35事例については箸にも棒にもかからぬものはなかった。PSCとしての評価軸を提示したのであって、「いや、私は今回大賞には選ばれなかったけれども、優れた事業を行っている」というところはもちろんあるはずです。
 
岸田 そのあたりを応募してきた人たちにどうやって伝えていくか。私たちの姿勢をしっかり伝え切れていないのかもしれないというのが、反省点でもありますね。
 
高浦 私たちがいくらそのような考え方を持っていると言っても、一般読者に誤解を招く可能性はありますからね。
 
キラリと光る事業を発掘したい
 
岸田 そこは結構大事ですよね。落ちたからマイナスだったというのでは決してない。この視点で見ると、という前提を分かってもらわなければなりません。
 ただ、既にいろいろなところで賞をもらっているところより、基本的には全体の底上げのために、これまであまり注目はされていなかったけれども、キラリと光るものがある事業、団体にも光を当てましょうという気持ちはありました。だからそういう意味では大きなところがそう簡単に賞を取ることができなかったというのはあったかもしれませんね。それは私たちだけではなく、審査員にもあったと思います。それはこれからの課題ですね。
 
河井 評価というのはそういうものかもしれませんね。もともと一つしか評価基準がない、ということではなく、同じ事業でも同じ人が違う視点から見たら違う評価にもなり得る。「評価軸はこれしかない。私は正しい評価軸を持っています」というように提示し合うことが稀に行われるんですが、それは違うと思います。
 
河井 先ほどの「実績」という点で、最初の類型点評価では、いわゆるアイデアレベルや発想レベルにあるものでも、高い点数になっているものがありますが、実際に調査をした結果「その成果・実績が必ずしも明確ではない」という理由で、第2次審査対象の11事例には入りながら、最終審査対象の6事例には残らなかったものがありましたね。
 
岸田 NPOに対する金融制度、歩行者のためのユニバーサル地図情報や廃油リサイクル事業がそうでしたね。来年以降、伸びる可能性がありますね。
 
魅力的な表現でアピールを!
 
河井 今回、各団体のプレゼンテーション能力も評価対象になりましたね。簡単に言うと応募書類の書き方にも結果が左右されました。
 
岸田 応募書類で第1次審査を行ったので、35事例全部を取材できたら、違った結果が出た可能性は否定できません。
 
河井 しかし、逆に言うと事業内容とは別に、それを補給していく力をNPOは企業との協働の中で求められている。社会的インパクトを与えるためにも求められる「トランザクション」だと思うんですよね。「密かにいいことをやってます」ではなく、それをアピールする力も必要なんです。
 
岸田 そうなんですよね。その応募書類・申請書類の書き方というのは、例えば添付書類をどう付けてくるかということと関係があります。量の問題ではなくて質の問題ですが、その事業が持っている広さや深さやが分かるようなものがやはり必要なんですよね。
 今回の応募書類には、手書きもあればワープロもある。でも、私たちは基本的にはそんなことでは判断していない。その内容や面白そうかという点はもちろんありますが、熱意が伝わるかどうかも非常に大きなポイントです。
 
河井 この事業のことを他人にどう知らせたいと思っているのか、ただ一応欄を埋めるかというくらいのものなのかというのは、添付書類の中身によって結構見えましたね。
 
岸田 今回の応募書類の中で、最初から「協働事業によってそれぞれが成長した点」という質問項目を入れているのは、私たちの大きな特徴だと思います。お互いに成長できた点が明確になっているかどうかを評価の段階に入れたわけですね。
 
河井 チャリティならチャリティとして、それなりの新しい成長を得たのか。単に「言われたからお金を出します」ではなくて、お金を出すことによって新しい気付きを持ってその企業自体が変わっていったものを評価しました。
 
岸田 特にその変わり方が抽象的ではなく、具体的に見えてきたかどうか。
 
河井 社会貢献の重要性が高まることによって、今後NPOへの需要が高まってくると書いてきたところがあったが、そんなに単純ではないと思う。もう少し具体的に、その事業に基づいて、何に新しく気づいて、本業の中でもこのように生かしています、という点を見たかったのです。
 
岸田 そこで活動している人たちのイメージがこちらに伝わるかどうかは大きなポイントでしたね。特に企業がNPOからどのような影響を受けたかが見たいな、という希望がありました。
 それからやはり具体性ですね。振り返って見てみると具体的に書かれていないものは落ちています。血が通っているなとこちらに伝わってきたものについては点数が高かった。
 
河井 ここを重視していますよということを、こちらからもっとアピールする必要もあるかもしれませんね。







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