日本財団 図書館


2)STSの運営計画
 
 ここからは、ドア・ツー・ドアSTSの基本的な運営計画を示す。STS運営計画はa)運営形態、b)運行計画、c)資金調達、d)事業収支計画に分けて整理した。
 内容は、主にNPO等ボランティア団体がSTSを運営する際に必要な点を中心にとりまとめた。
 
a)運営形態
(1)運営・管理・運行主体の検討
 運営・管理・運行主体を以下のように決める(表4-15)。
・自治体直営
・福祉団体、福祉協議会、交通事業者、NPO等ボランティア団体 等への委託運行
 
表4-15 運営主体別現状のサービス内容
運営主体 サービス内容 要件
社会福祉協議会・
福祉公社
・移動困難な高齢者・障害者に対して、会員制などにより自宅から目的地等の送迎サービスを提供する。 ・自治体の福祉財源
NPO等ボランティア団体  
タクシー事業者 ・福祉タクシー:車いす使用者やストレッチャー使用者が乗降できるリフト等を備えた専用のタクシー車両による輸送サービス。
・介護タクシー:要介護高齢者を対象に、ホームヘルパー資格を取得した介護ドライバーが主にセダン型タクシー車両を運転し、乗降介助サービスを提供するタクシー。
・一般乗用旅客自動車運送事業
・福祉タクシーは8ナンバー許可
注)施設送迎サービス、患者送迎サービス、介護送迎サービス等の運行実態を踏まえた検討が必要である。
 
(2)契約方式の検討
 年間契約、長期契約、固定契約、受益に応じた変動契約 等
 
 以下、運営主体がNPO等ボランティア団体の場合を例に、b)運行計画、c)資金調達、d)事業収支計画の例を整理した。
 
b)運行計画
 
(1)組織づくり(人員確保)と業務
ア. コーディネーター
 ほぼ毎日の業務になるため、専任スタッフが望ましい。コーディネーターの業務には以下のようなものがある。
・利用者へのサービス内容の十分な説明
・利用者の意向を十分に聞き、サービス計画を作成
・利用者の心身状態、介助者、家の状況、車両のアクセス等の把握
・利用者の苦情・要望を整理し、サービスの質の向上をリード
・運転者、事務スタッフの要望を整理し、活動の環境改善と効率向上をリード
・運転者、事務スタッフの資質の向上を図る等組織力を強化
 
イ. ドライバー
 運転者の業務は以下のようなものである。
・運転、移動前後の乗降介助
・運行記録の作成
・利用者の苦情、要望、様子等を運行後に報告
・車両点検と清掃
 このほか、運転者のために以下のような教育・研修プログラムが必要である。
・運転の安全性確保、リフト等の正しい操作のための研修
・利用者の接遇・介助のための研修
・地域の情報(道路環境、福祉施設・公的施設、トイレ等)入手
・緊急時(利用者の急病、自動車事故等)の対応方法
 
ウ. サポートスタッフ
 コーディネーターやドライバーの補助を行う。
 
(2)供給体制の整備
 車両確保、報酬体系の決定等の供給体制を整える必要がある(表4-16)。
 
表4-16 供給体制の整備に必要なこと
項目 詳細内容の例
車両の確保 福祉車両(助手席回転シート車、シートリフトアップ車、車いす仕様車、ストレッチャー対応車)、一般車両
運転者の確保 定年退職者(バス・タクシー会社のOB)、主婦、学生 等
報酬体系の策定 コーディネーター、事務、運転者への報酬
保険の加入 ボランティア保険、在宅福祉サービス総合保険 移送サービス総合保険、送迎中自動車傷害保険 自家用自動車総合保険、自動車総合保険 等
事業手続き 運行要綱(利用規定)の作成(下表参照)
パンフレットの作成 地域における認知度アップ、利用会員獲得、運転者募集、寄付金のお願い等の目的で作成・配布(広報)
運営マニュアル整備 運転者登録カード、利用会員申込書 等
リスクマニュアル作成 事故発生時等の対処、利用者の体調変化への対応、介助者
 
(3)運行方式の設定
 スタッフや車両等の供給体制を整えた上で、利用者のニーズと要望に応えるサービスの供給水準(提供範囲、利用条件等)を決める(表4-17)。
 
表4-17 運行方式の設定
項目 詳細内容の例
利用対象者 外出困難な人(車いす使用者、視覚障害者、歩行困難者)
サービス提供日・時間 平日・休日、時間帯(例:9時〜17時)
運行地域(エリア) 運行地域。乗降車地域。遠距離(宿泊)
利用可能回数 最低保障する利用頻度の設定(何回/月)
予約 受付方法 電話、FAX、メール 等
予約時間、確認 予約締め切り時間・予約時間帯、予約確認(コールバック)
予約時間の調整 同じ時間帯に通院する人の予約時間を調整して、相乗りを勧める
身体能力等確認 介助の程度、ベッド・ツー・ベッドの必要有無等
利用料金 時間料金、走行距離料金、深夜・早朝・年末年始割増 等 (例:燃料費+利用手数料+利用時間×○円+割増額)
備考:利用目的 買物、観光目的等にも利用しやすいようにする。 他方、供給体制、予約の混雑度等に応じて、通院、通所(病院、福祉施設)等優先利用できる目的を設定することも考えられる。
 
【参考:STSで保障する外出対象の検討】
 身体障害者の外出目的別割合を表4-18、4-19に示す。通勤や通学(約50トリップ/月)については、将来、別途の供給体制が用意されることが必要と考えられる。
 
表4-18 身体障害者の外出目的(%)回答数N=4,517 平成13年
通勤・通学 通院 買物・散歩 知人宅訪問 旅行 地域施設利用 地域の行事 その他
19.6 61.9 57.8 29.0 19.3 8.3 26.0 15.7
資料)「平成13年身体障害者実態調査結果」厚生労働省のアンケート調査
 
表4-19 月2日以上外出する移送サービス利用者の目的別比率(%) 回答数N=305
通院 散歩 買い物 友人宅 旅行 役所 趣味 通所 通勤
53.5 42.6 35.7 12.5 2.3 19.1 22.0 24.3 15.4
資料)「移動サービス利用者支援システムの研究事業」NPO人材開発機構、平成14年度
 
(4)配車計画
 車両、運転者、利用者間のマッチングを行う。マッチングの際に運転者の管理票(運転可能日)を活用し、配車計画を立てる。マッチングが終わったら運転者に依頼し、運行管理日報に記入する。また、通院時間帯等の予約集中時には相乗り等を行い、より効率的な配車を立てる必要がある。
 
(5)関係者との連携と協働
 他の移送サービス、福祉タクシー事業者、居宅介護支援事業者、行政機関の間で連絡協議会のようなものを結成し、利用者情報や行政の動き等の情報交換や質向上のための研修を持ち回りで実施し、利用者拡大を図る。
 
【参考:運行・運営計画における留意点】
1. システムを立ち上げる努力
 モデル実験の実施等、新たなサービス提供のためのシステムを立ち上げるための努力が必要。
2. 潜在的需要の顕在化
 効率的な運行により、「家族がいないと外出できない」「お金がないので外出できない」「全く外出していない」等の潜在的需要に対応する。
3. 異分野間サービスの統合
 スクールバスと路線バスの統合にみられるような、異分野間サービスの統合を進めるべきである。
 
c)資金調達
(1)財源の確保
 公的資金・民間資金による出資、借り入れ、補助金、支援金、関係者の負担金、利用者の負担金 等
 表4-20は財源確保に関する具体的な項目を示す。
 
表4-20 財源確保に関する詳細項目
項目 詳細内容
会費 利用会員、協力会員(ドライバー)、賛助会員
利用料金 ガソリン代、ドライバーへの報酬等
事業収入 バザー売上費、資料等出版費、セミナー開催による参加費
寄付金 企業、個人からの賃金、物資の寄付
助成金 助成財団等からの助成
補助金 行政(自治体)からの補助
委託金 自治体等の事業委託や研究委託
その他 事業の多角化による副次的収入 等
 
(2)リスク分担
 経費に関わるリスク、事故・災害に関わるリスク、需要に関わるリスク 等
 
d)事業収支計画
 移送サービス団体が保有する車両台数の規模による運営費(事務所、車庫、運転・事務スタッフ数、車両関連保険等)の規模、その他考慮すべき事項等について検討する。運営費の目安を示すために年間収支の例を示す。
 
参考:「○○移送サービス団体」の規模と年間収支(平成12年度)
 
・会員数:利用会員(172人)、運転協力会員(78人)運営協力会員(13人)、賛助会員(111人)
・車両保有台数:4台
・年間運行件数:1,973回(1日平均 1.35回/台)
・年間走行距離:33,551km(1日平均 22.98km/台)
 
表4-21 移送サービス団体の年間収支内訳(○○移送サービス)
項目 詳細内容 金額(円) 割合(%)
収入 会費 入会金 36,000 0.4%
年会費(利用・協力・賛助会員) 827,000 8.6%
移送事業 移送サービス料金 1,667,425 17.3%
助成・寄付金 東京都振興事業助成金 4,588,000 47.6%
民間助成・寄付金 783,630 8.1%
その他 バザー、行事参加費、運転講習会 1,728,059 17.9%
収入合計 9,630,114 100.0%
支出 人件費 コーディネーター、運転者謝礼費 3,225,600 33.5%
移送事業 燃料代、ボランティア保険 1,327,283 13.8%
車両関連 車両保険、車検、リース代 724,405 7.5%
維持・整備費 279,995 2.9%
駐車場費 255,800 2.7%
事務所運営 事務所、通信・光熱水費 1,940,027 20.1%
講習・研修会 参加費 0 0%
イベント開催   678,971 7.1%
雑費   1,198,033 12.4%
支出合計 9,630,114 100.0%
 
・1回当たりコスト=4,881円(9,630千円/1,973回)
・1キロ当たりコスト=287円(9,630千円/33,551km)
 
※スケールメリット:
車両を5台から10台に増やした場合、経費は単に2倍になるとは限らない。規模の増大による様々な経費節減効果(固定費等)と稼働率のアップ等が考えられる。
 
4.2.6 サービス提供
フロー図 ステップ6 参照
 
 新たな供給体制スタートの前に、試験運行を含むシステム全体の確認を行い、事業の採算性、効果等を再確認する。
 
 運行の実施中において、以下のようなことが常に必要である。
・安全の確保
:定期的な安全運転講習・研修会への参加
・事業の維持策
:運転と事務スタッフの募集、車両の維持・管理
・利用実績データ集計と作成
:受付方法と連動した簡単でわかりやすい入力型予約ソフトの開発
 
4.2.7 事後評価、計画の見直し
フロー図 ステップ7 参照
 
 定期的な事後評価のために、事業点検調査、利用者意識調査を定期的に実施し、これらの事後評価の結果を踏まえて、計画の見直しを検討する。
 
 運行実施以後、事業の評価及び計画の見直しのために以下のことが必要である。
 
(1)地域福祉交通サービス全体での事業の評価及び計画の見直し
・効率的な運営計画及び配車計画の再検討(ドア・ツー・ドアSTSと輸送力がバス未満交通の供給水準の調整)
・サービス提供方法の見直し(車両の増車、予約システムの改善等)
・利用料金等利用条件の再検討
・PR方法の再検討 等
 
(2)各交通サービスにおける事業の評価及び計画の見直し
・利用者によるサービスの適正評価
・時間、料金、接客サービスに対する相談窓口の設置 等







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION