日本財団 図書館


4)生物環境
(1)付着藻類
 付着藻類は、河床の石、岩盤、水生植物表面等に付着する藍藻・珪藻・緑藻等、微小植物の総称である。付着藻類は昆虫や魚類の餌として河川生態系の基盤を支えるとともに、栄養塩類(窒素、リン等)を取り込むことで水質浄化にも寄与している。また、付着藻類を含む水生生物の分布は水質と密接に関わっていて、付着藻類相はある程度の期間の水質の変化を反映して形成されているといえる。付着藻類の生息状況から判定される水質階級8は、一般に有機汚濁が進んだ順に「強腐水性」、「α中腐水性」、「β中腐水性」、「貧腐水性」の4段階区分が用いられていて、付着藻類の出現状況からみると奥日光の河川は貧腐水性−β中腐水性と判定できる。
 図3-4-1に付着藻類の調査地点位置、表3-4-1に各河川の優占種と汚濁階級、付表3-4-1に各河川の出現種類を示す。
 
図3-4-1 河川付着藻類調査測点
(承認番号 平14総使、第431号)
 
8
水質階級 生化学的酸素要求量 説明
貧腐水性(大変きれいな水) 2mg以下 種類数が多く、きれいな水にしか棲まない種が見られる。
β中腐水性(ややきれいな水) 2〜5mg 藻類の養分となる窒素やリンが多くなる。種類数、個体数ともに、水生生物が豊富になる。
α中腐水性(やや汚れた水) 5〜10mg 有機汚濁が進み、生物の種類数は減少する。
強腐水性(汚れた水) 10mg以上 汚れた水に耐えられる種しか生息しない。種類数は極めて少ない。
 
表3-4-1 各河川の優占種と汚濁階級
河川名 優占種 細胞数比率  汚濁階級
白根沢川 Nitzschia frustulum 珪藻 40% 貧腐水性
Rhoicosphenia abbreviata 珪藻 18%
逆川 Fragilaria pinnata v. pinnata 珪藻 59% β中腐水性
Fragilaria construens 珪藻 9%
湯川上流 Achnanthes minutissima v. minutissima 珪藻 24% 貧腐水性
Achnanthes convergens 珪藻 11%
湯川下流 Navicula seminulum 珪藻 11% β中腐水性
Achnanthes minutissima v. minutissima 珪藻 10%
柳沢川 Homoeothrix varians 藍藻 43% β中腐水性
Gomphonema pumilum 珪藻 34%
外山沢川 Navicula atomus 珪藻 23% β中腐水性
Cymbella sinuate 珪藻 17%
 
 図3-4-2に各河川における付着藻類の分布を示す。全体で66種が確認され、種類数からみると、湯川上流、湯川下流が特に多く、柳沢川、白根沢が少なかった。細胞数からみると、逆川が特に多く、外山沢川が最も少なかった。全河川で共通して確認されたのは1種だけで、細胞数による優占種から見ても、河川毎に異なる種組成が認められた。細胞数優占種は、ほとんどの河川で珪藻であったが、柳沢川は他の河川とは異なり、藍藻のHomoeothrix varians(ホモエオスリックス バリアンス)が優占種となった。本種は糸状の藻体が多数集まって小さな叢状になって河床の礫等に付着している。
 
図3-4-2 河川における主な付着藻類の分布
(円の大きさは種類数、塗り分けは細胞数比率を示す。)
 
(2)底生動物
 底生動物は、水底に生息する無脊椎動物の総称で、水生昆虫類をはじめ、貝類、ミミズ類、エビ類等様々な分類群を含んでいる。底質や流れ等の物理環境に応じた群集を形成するため、今回の調査では、様々な環境でタモ網を用いた定性採集9を行った。調査の結果、78種の底生動物を確認した。付表3-4-2に河川底生動物の出現種と場所を示す。
 
図3-4-3 河川底生動物調査測点図
(承認番号 平14総使、第431号)
 
 地点毎の確認種類数は18〜39種であり、逆川、湯川上流で多く、白根沢で少なかった。種類数が特に多かった逆川は、河床や河岸の変化には乏しく、上流に位置する光徳沼と河床からの湧水により一定の水量が保たれた安定した環境であるといえる。また、湯川上流は上流に湯ノ湖があり、大雨のときにも雨水が一気に川に流れ込むことが無いため、川が攪乱されにくいことに加え、礫底、砂底、倒木、河岸の植物等多様な生物生息環境が存在することが種類数の増加に繋がっていると考えられる。同様に流れが安定している湯川下流では、河床のほとんどが岩盤か砂泥であり、環境の変化に乏しいため、出現種の多くは砂泥底に生息する種であった。また、白根沢、外山沢川、柳沢川は、大雨による河床かく乱を受けやすく、底生動物相は年によって大きく変動していると考えられる。
 出現種は日光市内やさらに下流の水域でも普通に見られる種がほとんどであったが、白根沢で出現したオンダケトビケラは山地の小流に生息することが知られている。
 
オンダケトビゲラ
 
9 できるだけ多くの種類を確認する事を目的とした調査方法。採集方法にはこだわらず、できるだけ多様な環境で採集を行う。
 
(2)湖沼群の生物
(1)魚類
 現地調査は10月に、蓼ノ湖、光徳沼、西ノ湖、切込湖、刈込湖、五色沼で刺網と投網を使用して実施した。また、9月の底生動物調査時に湯ノ湖で奥日光では初記録となるタモロコ、ジュズカケハゼが捕獲されたため、魚類調査結果に付け加えた。
 調査測点図を図3-4-4に、魚類調査結果を表3-4-2に、また採集した魚類の計測結果を付表3-4-3に示す。
 
図3-4-4 魚類調査測点図 (承認番号 平14総使、第431号)
 
ジュズカケハゼ
 
タモロコ
 
 今回の調査で確認された魚類は、カワマス、ニジマス、ブラウントラウト、タモロコ、モツゴ、ウグイ、ギンブナ、ドジョウ、ジュズカケハゼ、ヨシノボリ類の10種であった。湖沼毎の種類数は1〜4種の範囲で、蓼ノ湖、光徳沼ではサケ科のみ、切込湖、刈込湖ではサケ科、コイ科、西ノ湖ではサケ科、コイ科、ハゼ科が捕獲され、最も標高の高い五色沼ではドジョウが捕獲された。奥日光の湖沼は元来魚類は生息しておらず、今回確認された魚類も全て人為的に移殖・放流されたものであると考えられる。
 
 奥日光水域に生息する魚類の分布状況を斉藤(1986)、奥本(1989)および今回の現地調査からまとめ、付表3-4-4に示す。今回の調査で新たに確認されたタモロコ、ジュズカケハゼを除く全ての種が中禅寺湖に分布しており、中禅寺湖以外の各湖沼には特定の魚種だけが移殖されるケースが多い。刈込湖のタモロコ、五色沼のドジョウ、湯ノ湖のジュズカケハゼは移殖・放流記録が確認出来ておらず、来歴は不明である。
 
表3-4-2 魚類調査結果
 
単位:個体/全量
  湖沼名 蓼ノ湖 光徳沼 西ノ湖 切込湖 刈込湖 五色沼 湯ノ湖
調査年月日 H14.10.7 H14.10.8 H14.10.8 H14.10.9 H14.10.9 H14.10.11 H14.9.3
科名 方法 刺網 投網 刺網・タモ網 刺網 刺網 刺網 タモ網
種名
サケ カワマス   5          
ニジマス 34     1 1    
ブラウントラウト     15        
コイ タモロコ         34    
モツゴ         12    
ウグイ     11        
ギンブナ       30 20    
ドジョウ ドジョウ           1  
ハゼ ジュズカゼハゼ             10
ヨシノボリ類     9        
種類数 1 1 3 2 4 1 1







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION