3)水域環境
平成14年7月に河川、9月に中禅寺湖、湯ノ湖、10月にその他の湖沼群で水質、底質調査を実施した。測点位置を図3-3-1に示す。現地では、水質分析用に採水器で採水し、湖沼での水温と溶存酸素量(以下DOという。) 5は、CTDメーターとDOメーターを用いて測定した。 付表3-3-1に水質及び底質の分析方法を示す。
図3-3-1 水質・底質調査測点図
(承認番号 平14総使、第431号)
5
項目 |
説明 |
溶存酸素量
(DO) |
水中に溶け込んでいる酸素量。空気中から溶け込む酸素と、水中の藻類から排出される酸素からなり、生物の呼吸によって消費される。 |
pH |
水の酸性、アルカリ性の度合いを示す指標。7より大きいとアルカリ性、小さいと酸性。 |
全窒素(T−N) |
水中の窒素の総量。富栄養化の指標として最もよく使われ、富栄養と貧栄養の境界は0.15〜0.20mg/l程度とされている。 |
全リン(T−P) |
水中のリンの総量。富栄養化の目安は、0.02mg/l程度とされている。 |
アンモニウム
態窒素(NH4−N) |
水中にアンモニウム塩として含まれている窒素のこと。主としてし尿や家庭下水中の有機物の分解や工場排水に起因するもので、それらによる水質汚染の有力な指標となる。 |
クロロフィルa |
葉緑素の一種で、あらゆる植物性プランクトンに含まれているため、植物性プランクトンの存在量の指標となる。 |
SS |
直径2mm以下の浮遊物質の量。通常、高い数値ほど濁っていることを示す。 |
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(2)河川の水質
湯川、逆川、大谷川では、上流の湖沼で繁殖したプランクトンの影響を受けて、水中のクロロフィルaが比較的高い値を示す。また、湯川、逆川は、付着藻類がよく繁殖していて、付着藻類中のクロロフィルaも高い値を示す。
湯川上流では、全窒素が特に高く、有機汚濁が進行した湯ノ湖の影響が窺われる。白根沢、外山沢川、柳沢川は上流に汚濁源がなく、清澄な水質を保っている。
(3)各湖沼の水質
中禅寺湖と湯ノ湖の湖面水温は中禅寺湖で約22℃、湯ノ湖では約19℃であった。その他の湖沼群では、10月の測定ではあるが、五色沼で8.4℃、光徳沼で9.4℃とやや低く、西ノ湖、蓼ノ湖、切込湖、刈込湖では12.3〜15.9℃の範囲であった。
透明度は中禅寺湖湖心では13.5m、千手ヶ浜、菖蒲ヶ浜沖ではそれぞれ9.8、9.9mである。湯ノ湖では更に低く、2.4〜3.1mであった。
<中禅寺湖>
中禅寺湖の水質分析値の範囲を以下に示す。
pH |
7.9〜9.0 |
DO |
8.1〜10.9mg/l |
SS |
1mg/l |
クロロフィルa |
0.4〜4.7μg/l |
全窒素 |
0.11〜0.25mg/l |
COD |
1.3〜4.3mg/l |
全リン |
0.007〜0.023mg/l |
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|
各項目ともに高い値を示す測点は少なく、概ね清澄な水質が保たれているといえる。
全窒素と全リンの値についてみると、それぞれに富栄養化の境界とされる0.2mg/l、0.02mg/lを越える測点は全窒素で中宮祠と湖心、全リンで松ヶ崎であった。
今回の調査で得られた中禅寺湖の水温の鉛直分布断面を図3-3-2、3-3-3、測点の位置を図3-3-4に示す。 付表3-3-8に水温測定データを示す。
調査時(平成14年9月2日)には、水深16m付近に水温躍層が認められた。
図3-3-2 |
千手ヶ浜-菖蒲ヶ浜-中宮祠(北側)断面線の水温鉛直分布 |
図3-3-3 |
千手ヶ浜-松ヶ崎-湖心-中宮祠 (南側)断面線の水温鉛直分布 |
図3-3-4 水温測点位置
また、1962年〜1966年の湖心付近及び湖岸での水温測定結果をまとめた田中・島田(未発表)の資料を整理し、 付表3-3-9〜 3-3-10に示す。
<湯ノ湖>
湯ノ湖では3測点設けた。湯ノ湖の水質分析値の範囲を以下に示す。
pH |
7.3〜8.8 |
DO |
9.9〜12.5mg/l |
SS |
1〜4mg/l |
クロロフィルa |
8.4〜29.9μg/l |
全窒素 |
0.18〜0.60mg/l |
COD 2〜6.4mg/l |
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全リン |
0.02〜0.079mg/l |
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湯ノ湖は、周辺から流入する生活排水や温泉水の影響を受けて、有機汚濁6が進行していることが知られている。
今回の調査結果でも、全域でクロロフィルa、全窒素、全リン等が高い値を示しており、中でも湯ノ湖流入の表層で特に高い値を示す。
<西ノ湖、蓼ノ湖、切込湖、刈込湖、光徳沼、五色沼>
奥日光に散在する6つの湖沼の水質分析値の範囲を以下に示す。
pH |
6.2〜7.7 |
DO |
0.1〜10.6mg/l |
SS |
1〜10mg/l |
クロロフィルa |
0.2〜4.3mg/l |
全窒素 |
0.1〜1.12mg/l |
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全リン |
0.005〜0.043mg/l |
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光徳沼、蓼ノ湖、五色沼は各項目とも低い値を示しており、ほぼ清澄な水質を保っているといえる。五色沼ではpH6.2と今回調査を行った湖沼中で最も値を示す。
西ノ湖、切込湖、刈込湖では、やや汚濁が進行している様子が認められた。特に切込湖、刈込湖の底層では、水質汚染の有力な指標であるアンモニア態窒素が湯ノ湖よりも高い値を示す。
6 「有機汚濁」とは、水中の有機物(炭素を含む化合物)量が増大することによる水質汚濁で、その原因は生活排水やし尿など人間の活動に由来するものが多くを占める。有機物は植物プランクトンの栄養源となるため「富栄養化」も同様の現象であるといえる。有機物が増加すると、それを利用する植物プランクトンが増加して水への着色や悪臭等の影響が現れる。また、有機物が微生物によって分解されるときには溶存酸素が消費されるため、水生生物の生息環境を悪化させ、酸素が消費し尽くされると、アンモニアや硫化水素による悪臭が発生する。
(4)中禅寺湖・湯ノ湖の底質
平成14年9月に、中禅寺湖及び湯ノ湖の底質の調査を実施した。表3-3-1に測点別に分析結果、 付表3-3-11には底質調査の概況を示す。
中禅寺湖では、中宮祠、千手ヶ浜、菖蒲ヶ浜の3地点は湖岸で採泥したため、泥の粒径が大きく、全硫化物量7も、低い値となっている。急傾斜地で石が多く、採泥器が使えなかった松ヶ崎では、やや沖合で採泥したため、湖心に近い値となったが、全硫化物量は湖心の2倍以上であった。
湯ノ湖湖心では、中央粒径、強熱減量は中禅寺湖の湖心、松ヶ崎と大差ないが、全硫化物量は、高い値を示していて、底層が無酸素状態になっていることが窺われた。
表3-3-1 中禅寺湖と湯ノ湖の底質分析結果
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全硫化物量
mg/g(乾泥) |
強熱減量
% |
中央粒径(50%)
Mm |
中禅寺湖 |
湖心 |
0.82 |
13.8 |
0.010 |
中宮祠 |
0.17 |
6.5 |
0.180 |
松ヶ崎 |
1.80 |
12.8 |
0.008 |
千手ヶ浜 |
0.32 |
8.1 |
0.100 |
菖蒲ヶ浜 |
0.33 |
17.7 |
0.150 |
湯ノ湖 |
湖心 |
2.91 |
13.3 |
0.008 |
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7
項目 |
説明 |
全硫化物量 |
無酸素状態で有機物が分解されたときに発生する硫化物の量。底層環境悪化の指標となる。 |
強熱減量 |
乾燥させた底泥を約600℃で焼いたときに減少する量。有機物量の指標となる。 |
中央粒径 |
底泥をふるい分けした時に重量でみて中央になる粒径。 |
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