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5. 接地工事
5.1 接地工事の目的
 船舶における接地の目的は、人体に対する危険防止、火災発生の防止、ノイズ障害の防止であり、FRP船も鋼船やアルミ船もその目的とするところは同じである。しかしながら船体自体が不良導体であるFRP船においては静電気の帯電による不具合が、またそれが良導体である鋼船等においては短絡等による不具合がそれぞれ問題となる。
(1)短絡、漏電等発生時の電気機器、電線への接触による感電防止
(2)帯電した導体への接触による感電防止(FRP船)
(3)帯電した導体からの放電による感電防止(FRP船)
(4)短絡、漏電等発生時の船体への接触による感電防止(鋼船及びアルミ船)
(5)落雷による感電防止
(1)短絡、漏電等による火災、爆発の発生防止
(2)通常の発熱、火花発生からの引火による火災、爆発の発生防止
(3)帯電した導体からの放電による火災、爆発の発生防止(FRP船)
(4)落雷による火災、爆発の発生防止
(1)電子機器・ケーブル等からの誘導ノイズ障害の防止
(2)電気機器・ケーブル等からの輻射ノイズ障害の防止
(3)無線障害の防止
(4)帯電した導体からの放電による輻射ノイズ障害の防止(FRP船)
 電気機器及び電線の絶縁破壊や誘導漏洩等による短絡、漏電等による感電は、電気機器のカバーやケーブルの金属被覆等を接地することにより防止することができる。また静電気の帯電による感電は、金属部を接地することにより防止できる。したがって、少なくとも人体に直接接触する可能性のある良導体は有効に接地することが必要である。
 さらに不良導体材料をマストに使用する場合、良導体である人体に落雷が直撃する可能性があるため、有効な接地を行ない、避雷することが望ましい。
 またFRP船においてはマストに良導体材料を用いている場合でも、マストからの有効な接地が行われることが重要である。
 詳細については、付録7「避雷設備」を参照されたい。
 感電防止と同様に短絡、漏電等により火花や発熱のために発生する火災や爆発は電気器具のカバーやケーブルの金属被覆を接地することにより防止できる。また静電気の帯電による火災や爆発についても感電防止と同様、金属部を接地することにより防止できる。このため、少なくとも燃料及び引火性ガスに直接接触する可能生のある良導体は有効に接地することが必要である。また、落雷による火災や爆発についても避雷装置を設けることにより防止できる。
(1)誘導ノイズ対策
 電子機器等への誘導ノイズ障害には、妨害側と被害側との静電結合による静電誘導と、これら相互の電磁結合による電磁誘導等がある。これらの誘導ノイズ障害の防止に対してはシールドがよく使われるが、ここでの接地の役割は重要である。
 しかし、その接地も施工方法によっては有効でないばかりか他のノイズを拾ってしまう場合もあるので、誘導のメカニズムをよく見極めて処置する必要がある。特にFRP船においては船体が不良導体であるため、接地線が逆に空中線として作用することがあるので注意が必要である。
 輻射ノイズ障害は、ノイズが電磁波として空中伝搬し電子機器等に障害を与えるもので、無線機器からの発射電波そのものはいうまでもなく、高調波成分を含んだ大電流回路(サイリスタ使用回路等)等からの漏洩電磁波や直流機のブラシあるいは静電気のスパーク等によるノイズが空中伝搬するもの等がある。
 無線送信機と受信機は、いずれも有効に接地することにより効果的な電波の発射や受信が可能となる。したがって、無線機は、必ず有効に接地することが重要である。また、接地することによって不要電波の輻射や妨害を防ぐことができる。
 ただし、他の接地線が空中線として作用する場合があるため、特にFRP船においてはむやみに接地線を這い回さないことも大切である。
 航海用機器及び漁ろう機器は近年、高機能、高性能化が進み、その結果として他のシステムに対しては電子機器相互間の電子結合(静電的結合、電磁的結合)によって発生する有害な妨害信号となる。これらの干渉妨害を防ぐためには有効な接地を取ることが肝要である。
 
 5.1項で述べた接地の目的を満足させるため、電気機器及び電線等を有効な方法で接地することが重要である。またFRP船(木造船)においては、さらに感電や火災、爆発の恐れのある箇所の金属部の接地も重要である。
 以下に接地方法の概要を示す。
 なお、接地方法の詳細については「5.3 接地工事要領」を参照のこと。
 感電及び火災の防止のため、電気機器及び電線のがい装、シールド、さらに感電や火災の恐れのある箇所の金属部等は、最短距離(低抵抗)で接地することが望ましい。
 ノイズ対策としての接地は、感電防止や静電気対策、あるいは落雷対策のための接地と異なり、単純に低抵抗で接地すればよいというものではなく、ノイズの性質や侵入経路及び誘導のメカニズム等をよく見極めて、効率的に減少し、除去するように施工する必要がある。
(a)コモンモードノイズ(対地回路ノイズ)
 コモンモードノイズは信号線と接地回路間に電位差があるために生ずるノイズをいい、不平衡回路に発生しやすい、主なノイズの原因とその対策は次の通りである。
(i)接地回路の電流によるもの
 これは接地回路に流れ込む電流による電圧降下のために、接地回路の二点間に電位差を生じ、これが信号に影響を与えるものである。したがって、信号回路が不平衡回路になっている場合にはこれを一点接地とするか、あるいは、絶縁トランスによって電圧の異なる接地を切り離す等の対策が考えられる。また、信号回路を平衡回路として、対地電圧の影響を受けないようにするのも有効である。
(ii)静電結合によるもの
 これは信号導体と接地回路との間の静電結合によって接地回路ノイズの影響を受けるもので、信号回路にシールド線を使用するなどの静電遮へいを行うことによって除去できる。この場合のシールドの接地は(i)による一点接地が望ましい。
 なお、あじろがい装ケーブルを使用しているのであれば、このがい装を接地することでも、かなりな効果が期待できる。しかし、がい装が塩害等の影響による腐食でその効果が薄れるので、防食加工したがい装線、もしくはシールド線が有効である。
 最近はフェライトコアを使ったコモンモードフィルターがあり回路によっては有効である。
(b)ノーマルモードノイズ(線間回路ノイズ)
 信号線の往復二導体間に発生するノイズで、二本の導体がループに磁束が結合して電磁誘導によって起電力が生じ、線間電圧となって信号に影響を与えるのが主な原因である。
 これは信号線に鋼帯のシールドや、鋼製のコルゲート被覆を施した磁気遮へい用のケーブルを使用したり、ケーブルを電線管(コンジット)に入れるなどして磁気遮へいをする方法と、信号線や妨害線の心線をより合わせる方法等がある。磁気遮へいの場合も、遮へい体を接地することによって同時に静電遮へいも行うことができる。
(a)静電誘導
 妨害側導体と信号側導体との間の静電容量結合によってノイズを誘導するもので、(1)(a)(ii)で述べたように信号回路に遮へい付きケーブルを使用し、そのシールドを接地することによって静電遮へいを行うことができる。この場合、前記の接地回路の電位差の影響を受けないようにするために、一点接地とすることが望ましい。
(b)電磁誘導
 妨害側導体と信号側導体との間の電磁気的結合によって信号側回路の二線間にノイズを誘導するもので、この対策としては(1)(b)で述べたように磁気遮へいする方法と、その二線をより合わせることによって、よりごとに誘起する電圧の向きを逆にして打ち消し合わせ、全体として誘起電圧を小さくする方法等がある。
(c)輻射誘導
 電磁波すなわち電波の形で輻射されて信号回路に誘導するもので、無線機器からの電波(これには空中線からのみではなく、無線機器の接地線からの輻射もある。)、高周波回路からの漏えい輻射、あるいは蛍光灯や直流機のブラシ及び定周波装置等からの輻射がある。
 これに対する対策としては、前記の(a)と(b)の併用が有効であるが、周波数が高いので編組状のものよりも面状のシールドのほうが有効である。
 以上主なノイズの種類とその誘導のメカニズムごとに、主として被害側について対策を述べたが、これらは妨害側に施すほうがより有効であり、広範囲なノイズ防止になるが、経済性や工作性をよく検討して実施する必要がある。
 無線機器(送信機、受信機、航海用無線機器、計測機器等)の接地線には高周波電流が流れるので、直流や低周波のときとは異なり、接地線といえども空中線と同様に考えなければならない。したがって、無線周波数帯における有効な接地を行うためには、接地線のインピーダンスを極力小さくしなければならない。
 空中線は、経路上の誘導構造物である船体甲板及び室内壁のあらゆるパラメーター(空中線のストレー容量等)を通して送信機の空中線整合回路の接地端子へ戻るループを描いているので、高周波電流がどこをどう流れて元に戻ってくるかを考えた上で、船体への接地をきちんと取ることが接地のポイントといえる。
 ただし、27MHz帯及び40MHz帯の無線機器のみを装備している場合には、一般の接地で行ってもよい。
 FRP船(木船)の場合は船体自体が電気絶縁物であるので電磁遮へい効果は皆無である。このため無線機器及びその電線は特に有効に接地しなければならない。
 また、無線機器と無線機器用電線の接地系統に高周波のノイズ源となる発電機等の接地線を接続すると、ノイズが受信機等に妨害を与えることがあるので、無線機器及びその電線の設置系統は他の機器等の接地系統と独立させることが望ましい。







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