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研究内容と成果
 
 まず院内のモルヒネの使用の初期導入の浸透という意味で、WHO方式による疼痛ラダーに基づき、癌疼痛患者のモルヒネ使用現状を疼痛コントロールチーム(メンバー:婦人科医師・看護師〔癌性疼痛認定看護師を含む〕・臨床薬剤師・麻酔科医師)を編成して、有効なモルヒネ使用の検討並びに適正化を行った。方法は症例毎に以下の項目を調査・評価し、問題点を検討、それを基に当院独自のモルヒネ初期導入のためのクリニカルパスの作成をおこなった。
(1)モルヒネ開始の理由
(2)開始時の投与量、種類及びその決定方法
(3)服薬指導方法
(4)副作用対策
(5)出現した副作用の種類と程度
(6)出現した副作用への対応
(7)効果判定
(8)モルヒネ増量のタイミング及び増量法
(9)投与経路
(10)ADLの評価
(11)モルヒネの投与経過と転帰
(12)レスキューの使用と方法
(13)その他問題点
 具体的な方法としては、当院の婦人科病棟に入院中のモルヒネ導入の必要な患者に対し、婦人科医師・看護師(癌性疼痛認定看護師を含む)・臨床薬剤師・麻酔科医師が集まり定期的にカンファレンスをおこなった。メンバーのそれぞれが患者と面接して痛みの評価等を行い、カンファレンスの結果をもとに主治医とディスカッションし、モルヒネの初期導入量を患者の状態に合わせて決定した。何症例かを経験しクリニカルパスの作成の基盤とした。
 そこで、実際にチームで関わった症例の評価についていくつかを下記に提示する。この様な事例検討をもとに今回のクリニカルパスを作成した。痛みの評価はフェイススケールを使用したペインフローチャートを作成し用いた。(資料1
 
症例1:61歳 女性 子宮体癌
(1)モルヒネ開始の理由:非ステロイド性消炎鎮痛薬のみで徐痛不能となったため
(2)開始時の投与量:MSコンチン30mg/day
(3)服薬指導方法:癌性疼痛認定看護師ならびに臨床薬剤師の介入
(5)副作用の種類と程度:眠気(日中ウトウトしてしまう)
(7)効果判定:フェイススケールによる痛みの評価と面接
(9)投与経路:経口
 チーム介入期間:平成14年5月7日〜5月18日
 使用していた鎮痛剤:MSコンチン30mg/day、ボルタレン錠3錠/3×
 痛みの部位と性質:左大腿部のしびれと刺すような痛み
 痛みの強さ:安静時0〜1、体動時2〜3
 実際の疼痛チームの関わり:ペインフローチャートと面接起床時の痛みが強い事がわかった。痛みの性質から非ステロイド性消炎鎮痛薬が効果的であると判断した。患者は違和感の為、坐剤を好まず拒否されていたが、患者の痛みはボルタレンが有効であること、(すでに経口で内服しているが坐剤の方が吸収も速く、起床時に使用することで体動時の痛みに効果的であり、さらにMSコンチンが減量され、副作用が軽減されるかもしれない)を薬剤師の服薬指導により説明した。
(10)ADLの評価:ボルタレンの坐剤使用後、体動時痛の軽減が見られ、ペインスケールは1ないし2で、効果があったと考える。この症例を通して感じたことは、患者は痛みが取れると他の身体症状、例えば吐き気や眠気などを訴える事があるため、痛みがとれたから良いのではなく、そのような訴えにもきちんと対応する必要があるということである。
 
症例2 59歳 女性 
(1)モルヒネ開始の理由:非ステロイド性消炎鎮痛薬のみで徐痛不能となったため
(2)開始時の投与量:MSコンチン20mg/day
(3)服薬指導方法:癌性疼痛認定看護師ならびに臨床薬剤師の介入
(7)効果判定:フェイススケールによる痛みの評価と面接
(9)投与経路:経口
 チーム介入期間:平成14年5月27日〜5月30日
 使用していた鎮痛剤:MSコンチン30mg/day
 痛みの部位と性質:下腹部
 痛みの強さ:スケール4〜5
(8)モルヒネの増量のタイミング及び増量方法(実際の疼痛チームの関わり):面接で日中の痛みがすっきりとれないということが主訴であった。日中のペインコントロールを目標とし、12時間毎に内服していたMSコンチンをより血中濃度を安定させるために8時間毎の内服とし、20mg→30mgの増量とし癌性疼痛認定看護師と薬剤師の服薬指導により説明した。疼痛コントロールをつけ退院が目標であっっため、薬剤の調整を行った。
(12)レスキューの使用と方法:自宅での生活は、入院生活より活動量が増えるため嫌みが増強する可能性がある。患者の不安を増強させないためにもレスキューを準備しておくことが大切である。この患者のレスキューとしては即効性があるボルタレン坐剤を選択した。以前軒訴人を内服していたことから、患者自身や主治医はロキソニンでもよいのでないかということと、坐剤はあまり好まないとの反応であったが、内服では効果発現までに時間がかかることや、激しい痛みや嘔気があるときには内服が困難となる事などを説明し、痛みの状況で内服か坐剤かを選択してもらうこととした。
 評価:この症例により、痛みのコントロールに関しては、スムーズに対応できた症例であるといえる。患者が現状を正しく理解されている場合、チームで積極的にサポートできることが分かった。
 
 これらのような症例検討を重ねて、およそ7回にわたるカンファレンスを行った。その内容を以下に示す(詳細は議事録参照)。
第1回 婦人科病棟におけるモルヒネ使用状況の調査の実施計画
第2回 婦人科病棟におけるモルヒネ使用状況調査の計画の問題点について
第3回 婦人科病棟におけるモルヒネ使用状況調査の進行方法の検討(ペインフローチャートの作成について)
第4回 症例検討会
第5回 症例検討会
第6回 症例検討会
第7回 クリニカルパス作成について
 このようなカンファレンスを行い、別紙のような当院におけるモルヒネ初期導入のクリニカルパスを作成した。(資料2)もちろんWHO方式の疼痛ラダーが原則で、このパスはそれをさらに細かくしたものである。特徴は微調整がし易く、疼痛増強時や副作用出現時の対応が分かりやすい。モルヒネは副作用が必発する薬であり、このパスは患者の服薬指導をしっかり行い、また副作用対策を細かく立てていることから緩和医療チームが結成され、疼痛コントロールを行うにあたり有用なものであるといえる。
 次の段階として実際の緩和医療チームの立ち上げである。
 やはり大学病院として高度先進医療の先駆けの機関病院とはいえ、緩和医療の必要性は他病院のそれと変わらない。院内においても、悪性腫瘍患者の身体症状及び精神症状の緩和を提供する緩和ケア診療の必要性が高まってきている。当病院内にも緩和ケアチームを発足させ、全体の緩和医療のレベルアップ及び啓発、実践していく十分な体制を整備することになった。
 そこで平成14年10月3日に第1回緩和ケアチーム打ち合わせ会議を開催した。メンバーは病院長、臨床腫瘍部長、麻酔科医師、精神科医師、癌性疼痛認定看護師、ソーシャルワーカー、事務で、緩和ケアチーム準備委員会を構成した。このとき話し合われた内容としては、チーム発足時期・チーム構成員・診療体制(院内での位置づけ、各科との連携を含めて)などについて話し合った。この日は各分院からも緩和医療チームの立ち上げのために看護師長らも参加し、会議終了後に意見交換会を行った。大学の中全体にも緩和医療に対する意識の拡大が感じられた。続く第2回緩和ケアチーム打合わせ会議は、第1回のテーマの確認をまず行い、施設基準上のチーム体制について東京社会保険事務局に確認をとりその報告がなされた。チーム発足時期については、メンバーの選出は大学人事などを考慮し、答申書の作成を早急に行うことになった。さらに診療体制についてのさらなる検討も行い、当院の緩和医療の定義を決定した。当院に於けるその定義とは『チームが担当する緩和医療は終末期医療ではなく、対象疾患の身体的、精神的症状緩和により、退院・外来管理が可能となるものである』とした。第3回緩和ケアチーム打ち合わせ会議において決定したことは、まず緩和ケアチームの活動システムについて・緩和ケア実施計画書(資料3)についての検討がなされた。そして早期検討課題として各メンバーに宿題が出されて、次回までに報告することとなった。第4回緩和ケアチーム打合わせ会議はチーム発足に当たり大詰めの話し合いがなされ、この打ち合わせ会議の検討結果を踏まえて院長に答申をおこない、遅くとも平成15年度からの活動開始を目標に緩和医療チーム編成を行っていくこととなった。







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