日本財団 図書館


第2章 航海・通信機器システムメーカーの動向
 舶用機器のうち、航海機器、通信機器、電子機器はシステムとしての提供が早い段階から進んで来た分野であるが、近年欧州ではこれを加速する動きが見られる。具体的には、合併・買収等でシステム、モジュールの供給能力強化を図る動きがある。この動きについて以下に述べる。
1. Kongsberg Maritime Ship Systems AS(会社の概要は別添2)
 ノルウェーのKongsberg Maritime Ship System AS(以下、「KMSS」という。)は、航海機器システム・自動システムのパイオニアであるKongsberg Norcontrol(以下、「KN社」という。)と同社の姉妹会社でシミュレーターのリーディングカンパニーであるKongsberg Norcontrol Simulation(以下、「KNS社」という。)並びに舶用計器システム・センサーメーカーのリーディングカンパニーであるAutronica(以下、「A社」という。)の合併により、2001年に誕生した。
 KN社、KNS社及びA社は従来からそれぞれのシステムを提供していたが、システム提供能力を強化するため、Kongsberg Gruppen ASA(以下、「Kグループ」という。現KMSSの親会社)は、Navia(当時のA社の親会社)を買収し、センサー及び貨物関連システムに強いA社をKN社に合併させた。これにより、KN社の弱いセンサー・貨物システム提供能力を強化し、あらゆる船種の完全なパッケージの提供を可能にした。KグループはさらにこれにKNS社を合併させたが、シミュレーターの開発・製造と船舶電子システムの開発・製造は密接な関係があり、システム提供能力の向上をねらったものと思われる。
 現在、KMSSは、舶用システムとシミュレーターの設計、エンジニアリングに関する百年を超える経験をもとに、船舶電子システム、船員訓練システム及び衛星経由船舶管理ソフトの統合システムを提供するとし、その目指すところを、「センサーから完全な統合船舶システムまでの一貫したパッケージの提供」としている。
 KMSSは設立間もなく、組織の融合にはまだ数年はかかるとのことであったが、組織の融合が図られればさらに強力なシステム提供会社になるものと思われる。
 
(参考)
・ Kongsberg Maritimeのあゆみ:別添3
・ Kongsberg Norcontrol社の概要:別添4
・ Kongsberg Norcontrol Simulation社の概要:別添5
・ Autronica社の概要:別添6
2. STN ATLAS Marine Electronics GmbH(会社の概要は別添7)
 ドイツのSTN ATLAS Marine Electronics GmbH(以下、「SAM Electronics」という。)は、国際的にも有名なシステム提供会社であり、現在は航海、通信、水路調査、自動設備、電力・電動技術の機器及びシステムを含む製品とサービスを提供している。1999年にEuroMarine Electronics(以下、「EME」という。)が設立され、SAM Electronicsはその子会社となったが、EMEには舶用通信機器のリーディングサプライヤーのEuroCom Industries AS(以下、「ECI」という。)も傘下にあり、SAM Electronicsは統合船橋システム等航海・通信機器システムの供給能力の強化が図られた。なお、SAM Electronicsは、現在、通信機器システム、GMDSSに関し、ECIからOEM供給を受けている。
 なお、EMEは、STN Atlas Elektronik GmbH(SAM Electronicsの旧親会社)とベルギー・オランダの通信機器グループSait-Radio Hollandが設立した合弁企業であり、その傘下にはSAM ElectronicsとECIに加え、オランダのSait-Radio Holland Marine B.V.及びベルギーの Sait-Radio Holland Marine N.V.を有する航海・通信・自動・観測システムの総合メーカーグループである。
 
(参考)
● EuroCom Industries社の概要
1.会社名  EuroCom Industries AS
2.所在地  Lautrupnang 4A, DK-2750 Ballerup, Denmark
3.会社概要
舶用通信機器メーカーS.P.RadioとSKANTIを子会社として持つ舶用通信機器のリーディングサプライヤー。SAILORブランドとSKANTIブランドの製品を販売。同社によると、舶用通信機器の国際シェアは約25%。
4.子会社
(1)S.P.Radio
1948年に設立されたデンマークの舶用通信機器メーカー。
(2)SKANTI
1965年に舶用緊急ラジオ及びサバイバル艇の製造メーカーとして設立。
3. Litton Marine Systems
 Litton Marine Systems(以下、「LMS」という。)は、1997年2月、舶用業界において良く知られている3つのブランドSperry Marine、Decca及びC.Plathの合併により誕生した。すなわち、Litton Industries11は、1996年にSperry Marineを、1997年にRacal-Deccaの舶用電子事業部門を買収し、この2つをLitton傘下のC.Plathと合併させてLMSを設立した。LMSによれば、合併後4年が過ぎ、3社の統合はほぼ終了したとしている。
 現在は、米国でシステムを、英国でレーダー、オートメーションを、ドイツでオートパイロット、ジャイロを開発・製造し、販売部門はLMS全ての製品を取り扱う。LMSの最大の強みは、グループ内で全ての航海計器を製造しているため、全ての製品に加え航海計器システムを提供できることである。これに加え、オートメーションシステムやステアリングシステム等のシステムも提供できる。
 LMSは自社の強みを航海機器・通信機器の全て並びにそれらのシステムを提供できること、いわゆるOne-Stop-Shopであることとしている。これを実現するために4年前に3社を合併させてLMSを設立し、この4年間で3社を融合させるために、事業システム、組織の改革等を実施してきた。これはまさに3社の合併により、システム供給能力の強化が図られた例と思われる。LMSは航海・通信システムのみならず、舶用機器の警報・監視制御・状態評価システムを含む船舶電子システムサプライヤーとなっている。
 
(参考)合併前の3社の歩み
 Sperry Marineは、1910年に米国で設立されたジャイロ、オートパイロット、IBSのリーディングサプライヤーである。
 Deccaマリングループの起源は、蓄音機・レコードを製造していた英国のDecca Companyであるが、同社は第二次世界大戦中に軍用航海システムを開発して舶用部門に進出し、1950年には舶用レーダーを開発した。現在では、レーダー、舶用機器監視・警報システム、漁船電子機器のリーディングサプライヤーである。
 C.Plathの起源は、1837年にドイツ北部に設立された六分儀、海図、海事図書の輸入販売会社であり、第二次世界大戦前には商船向けジャイロコンパスの主要な供給者となった。第二次世界大戦後、同社は解体されたものの、1949年に航海計器の製造再開を認められ、同年、ジャイロコンパスの主要な特許を取得し、世界舶用市場向けにジャイロコンパスの製造を開始した。その後40年の間、同社は、舶用電子機器の会社に発展し、オートパイロット、速力ログや他のシステムの新製品を開発してきた。1962年、C.PlathはLitton Industriesに買収された。
 
4. Raytheon Marine GmbH
 ドイツのRaytheon Marine GmbHは、北極点への潜水艦による到達プロジェクトに関わったDr. Hermann Anschuretz-Kaempfeにより設立されたジャイロ、オートパイロット等の製品で名の知れた航海機器メーカーAnschutz & Co. GmbHが前身である。同社は、1994年末に米国最大の産業企業の一つ、Raytheon Companyに買収され、1995年1月に現在の会社が設立された。その後、2001年2月までRaytheon Marine GmbHはRaytheon Companyの舶用機器部門Raytheon Marine Company(米国)の傘下会社として活動していた。
 一方、Raytheon Marine Companyは、Raytheon Company(1920年代設立)が同社の舶用電気部門を独立させて1945年に設立した会社であり、小型船舶(プレジャーボート、作業船、漁船等)向けのレーダー、魚群探知機、電子海図、オートパイロットを主力製品とする航海機器メーカーであった。
 Raytheon Marine Companyは、Anschutz & Co. GmbH の買収、Raytheon Marine GmbHの設立により、航海機器の製品領域を拡大するとともに、公海を航行する船舶(大型商船、艦船等)市場においても統合航海システムの提供能力を有するメーカーとなった。Raytheon CompanyはAnschutz & Co. GmbHを買収後も1996年にスウェーデンの通信機器メーカー"Standard Radio"を買収し、あらゆる航海機器・通信機器システムを提供できるようになった。
 なお、2001年2月、Raytheon Company(Raytheon Marine Companyの親会社)が負債処理の一環でRaytheon Marine Companyのレジャーボート製品部門を売却したため、Raytheon Marine Companyは消滅し、現在、Raytheon Companyの舶用事業は、外洋航行商船(commercial high sea)を対象としてRaytheon Marine GmbHのみにおいて実施されている。
5. Consilium Selesmar S.r.l.(会社の概要は別添8)
 Concilium Selesmar S.r.l.(以下、「CS社」という。)は、レーダーと統合航海システムを主力製品とする航海システムメーカーであるが、前身のSelesmarは、1995年にスウェーデンのエンジニアリンググループConsiliumに買収され、CS社となった。Consiliumグループには、ログやVDR12(航海データ記録装置)を製造している航海機器メーカーのConsilium Navigation AB(スウェーデン)がある。CS社はConsilium Navigationから航海機器の供給を受けて統合航海システムを製造しており、Consiliumグループの傘下になることにより、システム提供能力が向上したものと見られる。またCS社は、統合航海システムを製造するにあたり、航海機器、通信機器を他のメーカーからも調達しているが、Consiliumグループの傘下になることにより、この調達能力も高まったものと思われる。
 なお、CS社の前身であるSelesmarは、同社製品を欧州内のみにおいて販売していたが、Consiliumグループに買収されることにより、製品の市場を欧州から韓国、中国を含む世界市場に拡大することができた。これにより、販売量を大幅に増加させることが可能となり、ひいては製品、即ちシステムの提供能力強化が図られたものと思われる。
 
6. まとめ
 上述のように、欧米の航海・通信機器システムメーカーでは、Kongsberg Marine Ship Systems、Litton Marine Systems、EuroMarine Electronicsグループ、Raytheon Marine Company、Consiliumグループに見られるように、この数年の間に、企業の合併、グループ化が急速に進められ、一つの企業又はグループの中で主要関連機器の調達が可能となり、システム提供能力の強化が図られている。
この背景には、顧客(船主、造船所)の舶用機器全般に対するシステム購入要請の増大に加え、[1]電子技術、情報技術の近年の急速な発展に合わせ、メーカーがトータル・システム・アプローチを強力に進めていること、[2]多数の船舶を管理する船主、船舶管理会社に見られるように、運航船舶のデータを衛星経由で入手して陸上における船舶管理を強化・合理化する動きがあること等が航海システム、通信システムを含む船舶全体としての電子システム化を加速していることが揚げられるものと思われる。
 これに加え、航海・通信システムを提供するメーカーには、Kongsberg Maritime Ship SystemsやLitton Marine Systemsのように機器監視・警報・制御システムや自動化システム等も提供し、船舶の全ての電気システムを取り扱う電気システムの"One-Stop-Shop"になっているものも見られる。
 これらの企業は高度なシステム提供能力を自社の強みとしており、今後ともシステム提供能力の強化、One-Stop-Shopとしての対応能力の強化が進められるものと思われる。
 なお、舶用メーカーは近年の船価低迷に伴う利益の低下等により厳しい環境にさらされており、欧米の航海・通信機器メーカーの最近の合併、グループ化の動きは、限られた規模の市場において生き残っていくための企業合理化の側面もあるものと思われる。(舶用電子機器関連会社の国際組織CIRM13のPresidentでもあるSAM ElectronicsのMr. Krombachは「舶用市場は成長しているものの、市場自体はそれほど大きくない。例えば、レーダーは年間需要が2,000から3,000台しかない。舶用メーカーが生き残っていくためにはコンペティター同士がもう少し話し合っていく必要がある。」旨述べていたほか、他の複数メーカーでも同様な発言が聞かれた。)
 また、今回取り上げた航海・通信機器メーカーの合併、グループ化はまだ組織の融合が完了していないと見られるものも多く、その成否を判断するにはもう少し時間が必要と思われる。(SAM ElectronicsのMr. Krombachによれば、同社の所属するEuroMarine Electronicsグループは、同グループの株の50%を所有している会社が所有株を売る動きもあり、グループ内の協力関係があまりうまく取れていないとのことであった。また、今回取り上げた合併、グループ化は国境を越えた国際的なものであることから、文化、気質等の違いもあり組織の融合化にはある程度時間がかかるものと思われる。)








日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION