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第3章 推進システムメーカーの動向
 欧州では、主機、減速機、プロペラ軸、プロペラ及び関連周辺機器を推進システムパッケージとして、一つの企業が設計/提供/現場での設置/アフターサービス全てに責任を持って提供する方式、いわゆる“推進システムパッケージのシングルソース化“が拡大してきている。欧州の推進システムメーカーの最近の動向について、"The Global Marine Engine Business(David Tinsley著。2000年末出版。)14"において取り上げられている内容にその後の情報を加えて以下に記述する。
1. Wartsila−Lipsとの協力等
 2000年6月、Wartsila(以下、「W社」という。)とTIグループのJohn Crane-Lips(以下、「L社」という。)は、舶用統合推進システムの提供に関して正式に協力協定を締結した。これは、造船業界においてパッケージ・ソリューション市場が拡大していることを示すものであった。
 協定において、W社は、造船所に対して推進システム全体に関する主契約者となる。W社はディ−ゼルエンジンを提供する一方、L社はプロペラ、軸系、ベアリング、スラスター、ウォータージェット、ポッド(電動機格納式推進装置)、制御機器等を提供する。
 この協力協定により、製品やシステムの販売のみならず、船の生涯を通した支援業務(エンジニアリング会社にとって重要な業務となりつつある)に関して、2社の市場が拡大した。
 その後、2001年5月、W社はエンジンメンテナンス会社のCiserv社(スウェーデン)を買収し、保守整備能力の強化を図り、推進システムのトータル・サプライヤーとしての地位を更に強化した。
 2001年6月にWartsila Finland Oy(フィンランド)を訪問した際、舶用部門の欧州地区部長Mr. John Bergによれば、Lipsとの協力協定に基づく推進システムの販売実績は60〜70システムとのことで、販売実績も順調に伸びているようである。
 2002年1月末、W社はL社を買収することで合意に達した旨の発表を行った(買収価格2億1500万ポンド(約430億円))。W社は、L社の買収により、グローバル・シップ・パワー・サプライヤー(総合的な船舶推進システム提供者)のリーダーとしての地位を確立できるほか、2億ユーロ以上の売上高増加が期待できるとしている15。また、W社は、システム提供能力の強化は、「1990年に船舶建造価格の60%が造船所から生じていたが、2000年にはシステムサプライヤーと下請け業者の活動の拡大により25%に低下している」という海事産業の変化に対応したものであるとしている。
 
2. MAN B&W Diesel A/S, Alpha Diesel
 Alpha Diesel(以下、「A社」という。)は最近よく言われるようになった“One-Stop-Shop”を1902年以来実施してきている。システム型アプローチの信頼性、効率性及び安全性のメリットを強調し、機能的に統合された完全な推進システム(動力を含む)を製造・改良してきた。近年、競合企業が各工場の製造量を抑制しているにもかかわらず、MAN B&Wは、A社の製品領域に投資するとともに、パッケージシステムの改良と開発に利益の再投資を行っている。将来的には、A社は小型・中型船中心とした4ストロークエンジンの推進システムの強化のみならず、ボア径500mmまでの2ストロークエンジンの推進システムも提供するようになるものと見られる。
 最近の動きとしては、1999年、A社製造の4ストロークエンジンL27/38の初めての推進システムが発売されたが、その売れ行きは好調で、同社の中速エンジン市場における強さを改めて示した。このシステムには、新しい減速ギア・ボックスMGS37、新しいVBS可変ピッチプロペラ並びにAlphatronic監視・安全・制御システムが組み込まれてる。
 
3. Caterpillar MotorenとScana Industrierの提携
 ドイツのCaterpillar Motoren(以下、「C社」という。)とノルウェーのScana Industrier(以下、「S社」という。)は、過去20年間の協力関係があるが、2000年9月、"MaK Propulsion Packages(MPP)"のブランド名で推進システムを協同で開発・供給することとした。この動きは、完全な推進システム及び統合されたエンジンルームの提供能力強化を求める国際市場の動向に対応しようとしたものである。MPPは、C社の中速ディーゼルエンジンとS社のギア・ボックス、プロペラ及び制御システムにより構成される。この協力は、新造船や改造プロジェクトの推進システム要求への対応能力を向上させたほか、包括的で船の一生を通したサービスと顧客の支援能力を向上させた。世界中の代理店ネットワークは、事業開発、ロジスティック及びアフターサービス支援の基本となり、S社の製品は、S社の技術上・販売上の支援資源の補助のもと、C社の全世界流通ネットワークを通して入手できるようになる。
 MPPのイニシアティブは、C社及びS社の潜在的な市場を拡大し、推進システムに関する両社のリーダーシップを確立した。
 システム全体としてのアレンジは、激しい競争にさらされている船舶運航者の大きな関心事項になってきているシステム信頼性を高めると言われている。
4. MTU Friedrichshafen
 ドイツのMTU Friedrichshafen(以下、「MTU」という。)は、2000年春に発注されたフランスの高速フェリー"NGV Liamone"にディーゼルエンジンとガスタービンの結合(CODAG)推進システムを設置した。このプロジェクトはMTUが商船向け統合推進システムを提供する初めてのプロジェクトの一つであり、MTUは1163ディーゼルエンジン、LM2500+ガスタービンに加え、発電機、ギアボックス、カップリング、軸、燃料・排気システム、電子制御・監視装置を提供した。
 MTUは、「トータル・システム・アプローチは、推進システム構成機器のインターフェースやマッチングを効果的に実施するのに有利であり、特に高速フェリー建造では重要である。また、完成引き渡しは、造船所にとって一般的には安価で単純であり、時間の節約にもなる。」旨主張している。
 "NGV Liamone"建造プロジェクトにおいて、MTUは機器の提供に加え、エンジニアリングサービスも提供した。例えば、設計段階では、エンジンやガスタービンの土台等推進機器要素のアレンジにおいて船体構造設計に貢献した。
 2001年11月、MTUは米国の舶用ガスタービンメーカーVericor社16と同社の舶用ガスタービンTFシリーズ及びこれを組み込んだ推進システムパッケージを販売することで合意した。TFシリーズ舶用ガスタービンは、単独及びディーゼルエンジンとの組み合わせにより様々な推進システムの提供が可能であり、MTUは、「この合意により、MTUは顧客に対してより多様な推進システムの提供が可能になった。」としている。
 
● 高速フェリー"NGV Liamone"の概要
1. タイプ 単胴高速フェリー
2. 長 さ 134m
3. 速 力 42ノット
4. 推進システム
   65,000kW CODAG
    20V1163ディーゼルエンジン 2基
    LM2500+ガスタービン     2基 
5. 船 主   SNCM
6. 建造造船所 Alstom Leroux Naval(フランス)
7. 竣 工   2000年5月
8. 就航航路  フランス本土−コルシカ島








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