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2.4 港湾区域内における船舶運航に伴う排出ガス抑制方策の効果に関しての検討
・削減対策による排出量の予測を行うため、2010年を対象に固定ケースにおける排出量予測を行った。
・入港隻数が外航内航ともに3%増加するものの、IMO対応機関の一部導入の効果から、各港における2010年の排出量は、1990年に比較して大きな変化はないと予測された。
・対策を施す計画ケースとして、燃料切替えを想定したケース1、湾内の減速航行を想定したケース2、一部専用ふ頭において陸電を使用するなどの集中的な対策を行うケース3の合計3ケースを想定し、それぞれのNOx/SOx排出量を算定した。
・ケース1では、SOxの大幅な削減に対して、NOxの削減効果は10%弱と小さい。ケース2では、減速による削減効果よりも停泊時間の短縮による削減効果が大きくなっている。ケース3では、ケース2とほぼ同程度の削減効果が出ており、集中的な対策によっても、湾全体でNOxについては2割程度の削減効果が得られる。
 
 CO2における将来予測と同様に「固定ケース(1999年までに導入されている政策・対策の効果を考慮し、それ以降は新たな政策・対策の導入がないとした場合の将来予測)」を1ケース、「計画ケース(確実性の高い政策・対策の実施を前提とした将来予測)」を3ケースの合計4ケースにおいて、将来の排出量および沿岸での拡散シミュレーションを計算した。
(1)固定ケースにおける計算条件
 「固定ケース」算定のために、以下の3項目について設定を行った。
(ア)各埠頭の入港隻数
(イ)各埠頭の平均利用時間
(ウ)規制動向(IMO対応機関の導入効果)
 
(ア)将来の入港隻数
 京浜港は全て特定重要港湾であり、港湾計画に基づいたふ頭の整備が行われている。しかし、港湾計画に基づく将来の入港隻数はあくまでも計画値であり、全体の排出量が過大評価となる可能性があると考えた。そこで、2010年における総入港隻数については、第1章で述べたCO2の将来予測と同様に、日本国全体の社会経済活動量予測に比例して伸びるものと仮定した。つまり入港隻数2010年/1999年比は、トンマイルべースの内航輸送量の2010年/1999年比1.03((237,000/229,432))とした。外航船についても、国内のコンテナふ頭が国際コンテナ輸送のハブ港として東南アジアに占める地位が相対的に低下している現在の状況を考えると、日本経済の全体のトレンドより高い伸びを示す可能性は少ないと考えた。従って外航船入港隻数についても、内航船と同じ伸び率を用いることとした。
 船種ごとあるいは総トン数クラスごとの隻数割合は、船舶の大型化、専用船化などによって変化する可能性もあるが、本試算においてはコンテナ船の大型化のみを考慮した。コンテナ船については、南本牧などの大深度コンテナふ頭の建設など港湾の大規模な新規立地もあることから、大型化を表2.4-2に示すように盛り込んだ。新規コンテナふ頭については、現在もっとも大型コンテナ船の利用が多い大黒ふ頭の利用状況がそのまま反映されるものとして計算し、残余のコンテナ利用隻数を現在の利用隻数比率で既存ふ頭に割り振った。コンテナ船以外の船種については、各ふ頭を利用する隻数が、1.03倍されるものとして処理した。
表2.4-1 2010年の東京湾内の入港隻数
  全船舶 うちタンカー うちコンテナ船 うちPCC
隻数 総トン数 隻数 総トン数 隻数 総トン数 隻数 総トン数
外航 11,095 201,935,302 731
7%
23,960,625
12%
5,335
48%
102,946,522
51%
1,257
11%
23,287,019
12%
内航 37,599 39,810,698 17,041
45%
14,205,805
36%
58
0%
28,770
0%
672
2%
2,674,993
7%
それぞれ、1999年の値を単純に1.03倍した。
表2.4-2 東京湾内のコンテナ船総トン数階級別構成の将来予測
  1999年   2010年  
隻数 総トン数 隻数 総トン数
99,999総トン〜60,000総トン 264 18,324,474 312 21,642,755
59,999総トン〜50,000総トン 154 8,089,252 182 9,554,091
49,999総トン〜40,000総トン 308 13,829,894 364 16,334,275
39,999総トン〜30,000総トン 499 17,739,594 589 20,951,962
29,999総トン〜20,000総トン 347 8,552,437 410 10,101,152
19,999総トン〜15,000総トン 636 10,741,708 751 12,686,866
14,999総トン〜10,000総トン 603 7,677,951 311 3,954,145
9,999総トン〜6,000総トン 1,246 10,280,036 642 5,294,219
5,999総トン〜3,000総トン 1,025 4,434,083 528 2,283,553
2,999総トン〜1,000総トン 98 278,651 50 143,505
5,180 99,948,080 4,138 102,946,522
 各クラスの総トン数計を、1.03倍した。その後、14,999総トン以下の小型コンテナ船の利用率は、2010年には半分になると仮定し、相当分の総トン数は150,000総トン以上の1999年の比率で割り振った。
(イ)各ふ頭の平均利用時間の設定条件
 一隻当たりの利用時間については、コンテナ船の大型化により全体として微増する可能性もあるが、その一方で、港湾荷役の効率化などによって短縮される可能性もあることから、ここでは変化がないものとする
 民間専用埠頭については、その利用計画などが明確になっていないことから、総トン階級ごとのふ頭平均利用時間(時間/隻)、荷役時間(時間/隻)ともに変化しないものと仮定した。
(ウ)船舶排ガス規制動向(IMO規制などの大気汚染物質排出量算定条件)
 2010年においてはMARPOL73/78条約の新付属書の発効状況に関わらず、同NOx規制対応機関を搭載した船舶がある程度就航していることが期待できる。本付属書では、発効後に遡及適用が盛り込まれており、その対象範囲である2000年1月1日以降に建造される全船舶には、対応機関が搭載されると期待できる。本試算では、内航船については1999年時点で船齢7年以上の船舶、外航船については同じく1999年時点で船齢15年以上の全船舶が、2010年時点で全て新造船に代替しており、これら全ての新造船には補機・主機ともにIMO対応機関が搭載されていると仮定した。
 これらの老齢船が東京湾内を利用する船舶に占める割合については、内航船については、全内航船の船齢構成を用い、船種、船型に関係なく、隻数ベースで73.0%が、2010年時点でIMO対応機関搭載船舶であると仮定した。
 次に外航船については、東京湾内は、世界の船齢構成に比較した場合、若い船の割合が多いと考えられた。そこで、日本船籍船の船齢構成に基づき、船種、船型に関係なく、隻数ベースで11.2%が、2010年時点でIMO対応機関搭載船舶であると仮定した。
 2.1.1の現状の排出量算定においては、表2.4-3に示すようにNOx排出率を設定している事から、主機、補機にかかわらず、C重油使用機関では12%、A重油使用機関では9%の削減につながる。
表2.4-3 IMO規制値との整合性を取ったNOx排出量
  IMO未規制機関 IMO規制機関
主機(C重油相当使用として) 規制値の25%増 規制値の10%増
主機(A重油相当使用として) 規制値の10%増 規制値
補機(C重油使用として) 規制値の25%増 規制値の10%増
補機(A重油使用として) 規制値の10%増 規制値
(2)計画ケースにおける計算条件
 「固定ケース」をべースにして、大気汚染抑制方策の効果を2010年時点において予測した。
 2.3の抑制方策において検討した減速航行、燃料切替え、陸電使用について、コスト以外に、実施上問題となる点を表2.4-4に示した。
 大気汚染物質抑制方策としては、この他に脱硝装置の設置、水エマルジョン燃料の使用などが考えられ、その削減効果は大きいものの、特定の湾内でのみ使用される機器の設置を強制することは、現実的でない。
 したがって、このような防止技術を施した低排出機関の設置や使用は湾内でのみ使用される船舶あるいは使用割合が高い船舶、たとえばタグボートなどに限定した方が望ましいと考えた。
表2.4-4 抑制方策実施上の問題点
  内航 外航
減速航行 小型船が多いことから、操船性への影響は少ない。 大型船が多いことから、操船性への影響が大きく、タグボートの追加使用が発生するおそれがある。
RORO船やフェリーなどについては、運航スケジュールが厳しいため、実施困難となる可能性もある。 モニタリングは比較的容易。
モニタリングは比較的容易。
燃料切替え 船員の労力負担軽減のため、dual fuel 化の方向もあり、従来に比較すると、燃料切替えに対する抵抗は少なくなった。ただし、一部大型船舶では、動粘度の違いが大きいため、燃料切替えが困難であったり、専用の燃料ライン増設が必要となる場合もある。 内航に比較して低質の燃料を用いている事から、燃料管理がシビアである。そのため、ボイラーや一部C重油専焼船では動粘度の相違から、船員の作業が増加したり、燃料ラインの二重化などの装置の設置が必要になる可能性がある。
モニタリングは比較的容易。 モニタリングは非常に困難。
陸電使用 定期航路では、船上設備の設置は比較的容易。 国内の入港回数は少ないため、定期航路でも船上設備の設置義務付けは現実的でない。
年間の入港回数が多いため、電源切り替え作業に伴う船員への負担が大きい。 タンカーへの適用は防爆上困難。
タンカーへの適用は防爆上困難。
 実施上の問題点を踏まえて、3つの計画ケースを想定し、東京湾における大気汚染物質排出量の削減効果を計算した。
 ケース1では、出入港時、荷役・停泊時ともにA重油への切り替えを想定した。
 ケース2では、全船舶について湾内の航行速度を8kntに制限した。減速航行により、時間帯によっては交通集中を引き起こす可能性があるので、港湾を24時間化することとした。港湾の24時間化により泊地における停泊時間が短縮されることが期待できるので、ここでは、沖待ち時間およびふ頭停泊時間のうち非荷役時間の両方について1/4とした。一方、減速航行により特に大型船については操船性の低下も考えられるが、今回はタグボートの航行量の増加は考慮に入れていない。
 上記2ケースは出入港する全船舶に対して湾内全域で対策を講じる事になるが、ケース3においては、ふ頭付近においてかつ船種も限定して集中的な対策を講じる場合を想定した。
 ケース3では、まず船種を限定して陸電使用する場合を想定した。荷役時の時間あたり燃料消費量が比較的多いこと、危険物運搬船など制度面の制約が少ないこと、専用ふ頭の利用が多いことなどの条件から、PCC、石油系燃料以外の液体タンカー、内航RORO船およびフェリーを選定した。ただし、本計算においては陸上の発電に伴い発生するNOxおよびSOx排出量は考慮に入れていない。
 また、タグボートからのNOx排出量も外航船からのNOx排出量の約1割強と大きな排出割合を占めている事から、本ケースにおいては陸電使用に併せて、タグボート全船にスーパーエコシップ相当の低排出機関(NOx;1/10、SOx;2/5)を搭載するものとした。
・ 計画ケース1
 全船舶が東京湾内においてA重油相当の燃料切替えを行う。
・計画ケース2
 全船舶が減速航行を実施する。東京湾内の最大航行速度を8kntに制限。減速航行にともなう混雑緩和のために港湾を24時間化。泊地での停泊時間およびふ頭利用時間のうち非荷役時間をそれぞれ1/4とした。
・計画ケース3
 外航では、総トン数10,000トン以上のPCC、非燃料系タンカー、内航では5000総トン以上のRORO船及びフェリーで、陸電使用を行う。陸電使用に係るNOx、SOxは計算していない。同時にタグボートについては、スーパーエコシップ相当の低排出機関を搭載するものとした。
 固定ケースおよび3つの計画ケースにおける大気汚染物質排出量の予測は表2.4-5から表2.4-8に示すとおりである。固定ケースを1999年と比較すると微増しており、IMO規制機関の導入効果は、2010年においては期待されるほど大きくないことが示された。
 次に削減対策を講じた各ケースとの比較をみると、ケース1ではSOxについては半分以下に削減できるものの、NOxの削減効果については10%弱となっている。ケース2では、減速による削減効果よりも停泊時間の短縮による削減効果が大きくなっている。ケース3では、ケース2とほぼ同程度の削減効果が出ており、地域と船種を限定した集中的な対策によっても、湾全体でNOx/SOxについて2割程度の削減効果が得られる事がわかる。
表2.4-5 2010年における東京湾内の船舶排ガス排出量
(固定ケース)
単位t/年
  停泊中 航行中合計 総計
  横浜 川崎 東京 千葉 木更津 横須賀 合計
NOx 3,371 1,331 1,916 2,109 605 572 9,905 9,650 19,555
SOx 2,919 1,265 1,825 1,839 531 412 8,790 8,301 17,091
対1999年比NOx 100% 101% 94% 107% 107% 111% 102% 103% 102%
対1999年比SOx 101% 111% 106% 110% 110% 93% 105% 106% 106%
NOxは全量NO2として、SOxは全量SO2として排ガス量(Nm3)から質量換算した。
表2.4-6 2010年における東京湾内の船舶排ガス排出量
(計画ケース1)
単位t/年
  停泊中 航行中合計 総計
  横浜 川崎 東京 千葉 木更津 横須賀 合計
NOx 3,205 1,227 1,785 1,989 543 512 9,261 8,730 17,991
SOx 1,197 533 826 819 219 186 3,780 3,349 7,129
対固定ケース比NOx 95% 92% 93% 94% 90% 90% 94% 90% 92%
対固定ケース比SOx 41% 42% 45% 45% 41% 45% 43% 40% 42%
NOxは全量NO2として、SOxは全量SO2として排ガス量(Nm3)から質量換算した。
表2.4-7 2010年における東京湾内の船舶排ガス排出量
(計画ケース2)
単位t/年
  停泊中 航行中合計 総計
  横浜 川崎 東京 千葉 木更津 横須賀 合計
NOx 2,613 1,008 1,382 1,557 495 504 7,559 8,338 15,897
SOx 2,194 927 1,359 1,407 399 303 6,589 6,723 13,312
対固定ケース比NOx 77% 76% 72% 74% 82% 88% 76% 86% 81%
対固定ケース比SOx 75% 73% 74% 77% 75% 74% 75% 81% 78%
NOxは全量NO2として、SOxは全量SO2として排ガス量(Nm3)から質量換算した。
表2.4-8 2010年における東京湾内の港湾からの船舶排ガス排出量
(計画ケース3)
単位t/年
  停泊中 航行中合計 総計
  横浜 川崎 東京 千葉 木更津 横須賀 合計
NOx 2,529 1,007 1,374 1,567 414 452 7,343 7,490 14,833
SOx 2,148 780 1,087 1,171 366 363 5,916 7,632 13,548
対固定ケース比NOx 75% 76% 72% 74% 68% 79% 74% 78% 76%
対固定ケース比SOx 74% 62% 60% 64% 69% 88% 67% 92% 79%
NOxは全量NO2として、SOxは全量SO2として排ガス量(Nm3)から質量換算した。
 なお、参考として国土交通省において開発実用化を推進しているスーパーエコシップの導入効果を試算した。2000年において船齢7年以上の全船舶(総トン数ベースで68%)のうち半数が、2010年までにスーパーエコシップタイプの船舶に代替したと仮定した場合の東京湾内の排出量の変化について、表2.4-9に示した。スーパーエコシップは、ガスタービンを用いた電気推進船であり、停泊中の動力についても主機からの供給が期待できる。従って、ここでは停泊航行中ともに、NOxでは固定ケースのNOx時間当たりの排出量を全て1/10に、SOxはA重油の硫黄含有量の更に2/5である0.2%として計算した。NOx、SOxともに約10%の削減効果が見込まれる。
表2.4-9 参考2010年における東京湾内船舶排ガス排出量
(スーパーエコシップ導入効果)
単位t/年
  停泊中 航行中合計 総計
  横浜 川崎 東京 千葉 木更津 横須賀 合計
NOx 3,020 1,176 1,646 1,844 509 479 8,674 8,705 17,379
SOx 2,739 1,181 1,669 1,693 481 374 8,137 7,825 15,962
対固定ケース比NOx 90% 88% 86% 87% 84% 84% 88% 90% 89%
対固定ケース比SOx 94% 93% 91% 92% 91% 91% 93% 94% 93%
NOxは全量NO2として、SOxは全量SO2として排ガス量(Nm3)から質量換算した。








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