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2 港湾内における船舶運航に伴う排出ガスの影響
2.1 港湾内における船舶運航に伴う船舶排ガス影響の把握
 ここでは、港湾内における船舶排ガス(NOx、SOx)の影響を把握するために、1999年を対象に東京湾内を航行する外航・内航船舶の活動量をモデル化により把握し、沿岸部周辺の大気環境への影響を定量化する。
 
・港湾内の船舶から排出されるNOx/SOx量を算定するに当たり、従来の計算方法の問題点を整理し、本調査における算定方法を定めた。
・上記の排出モデルに従って、1999年における束京湾内船舶のNOx/SOx排出量算定を行った。
 
 陸上の固定発生源や自動車など移動発生源からの排出量の算定方法は環境省や経済産業省などによりマニュアル化されており、排出量の積み上げも行政レベルで日常的に行われている。しかし、船舶からの排出量については現在まで排出量の規制対象にされていないため、既に規制対象となっている固定発生源や自動車などに比較すると、統一的な排出算定方法は未整備な状態にあると言える。技術的にもC重油を用いる外国船籍の超大型貨物船からガソリンを用いるプレジャーボートなどの小型船までと対象機関が非常に幅広いことから、全てを網羅的にカバーする排出量算定方法および排出係数が確立されているとは言えない状況にある。
 ここでは、(1)において従来の排出量算定方式を簡単に紹介し、(2)以下に本調査で用いた算定方法について触れた。(2)においてNOxの排出係数について、(3)においてSOxの排出係数について、(4)において排出モデルを概説する。
 船舶からの大気汚染物質排出量の算定について、国内では環境庁が監修した窒素酸化物総量規制マニュアル(以下「NOxマニュアル」という。)に記載された方法が用いられていることが最も多い。
 NOxマニュアルは、大都市域を中心に設定された窒素酸化物総量規制地域内における窒素酸化物排出量を管理するため、地方自治体などが同排出量を算出することを目的に開発されている。海上のどの範囲までを総量規制区域とするかについては法律上明確な規定はないが、NOxマニュアルでは「当該地域内に存在する港湾区域内並びに当該地域に影響を及ぼすことが推定できる周辺地域の港湾区域及び航路」をその対象範囲とするとされており、通常その地方自治体が管理する港湾区域内が総量規制区域内として扱われる。このため、NOxマニュアルに基づき該当港湾区域内を航行する船舶及び同港湾を利用停泊する船舶からの排出量は算定されているが、日本全体あるいは湾全体からの排出量を把握するために、開発された手法ではないことに留意する必要がある。
 本方式は、原理的には対象港湾地域内の1隻当たりの排出量または燃料消費量を推定し、これに港湾統計などの隻数を乗じて港湾区域内からの排出量を算定する。表2.1-1に示すように、船舶ごとの運航実態データや機関類の出力などは、その船種と総トン数をパラメータとした推定式により算定する方法である。
 したがって、港湾区域内の埠頭を利用する全船舶の諸元以外の活動状況(利用時間および荷役時間の比率、航行速度など)は、全て明らかなものという前提で算定法も組み立てられている。ただし、荷役時の補機ディーゼルおよびボイラーの負荷割合など、総トン数および船種以外の把握しにくいパラメータについては表中に示すように設定例の記載があり、これらを使用する場合が多い。
 地方自治体が発表する排出量の算定においては、過去の排出量との整合性を取る為に、これらのパラメータに大きな変更が加えられることなく、使用されている。
 このうち川崎市調査や環境省調査などによれば、総トン数を基に推定式により算定される主機の馬力数や補機類の馬力数などは、現在においても大きな誤差を示していない。例えば、図2.1-1は馬力数と燃料消費量との関係を示したものであるが、NOxマニュアルに記載の算定式は日本舶用機関学会(現マリンエンジニアリング学会)が収集した最新データとほぼ一致している。これらのことから、機関の馬力当たりの燃料消費量については従来の知見に基づいて計算を行ってよいと考えられる。
表2.1-1 NOxマニュアルによる算定方式の要約
  入力が必要なパラメータ 左欄より推定されるパラメータ
運航関連の諸数値 隻数 -
運航時間 -
停泊時間(荷役時間) 参考例として、一般貨物船の平均停泊時間および荷役時間比(いずれも船型に関係ない)の記載
平均負荷 参考例として、港湾区域内の運航パターンおよび停泊時の平均負荷率の記載がある
船舶の諸元 総トン数 主機の馬力数
補機の馬力数

馬力数および上記平均負荷率から、時間当たり燃料消費量およびNOx排出量を算出
船種
図2.1-1 舶用機関における馬力(PS)と燃料消費量(kg/h)の傾向
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