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2.4.2 将来の環境濃度寄与率の算定と評価
・前章で示した固定ケースと計画3ケースについて拡散計算を行い、陸上への影響の削減効果について予測を行った。
・SO2およびNOxの寄与濃度の削減量は、各環境基準値に比較して必ずしも大きいとはいえないが、環境基準の達成状況から考えると、NOxの削減の優先順位が高いものと考えられた。
・ケース1(燃料切替え)は、NOx削減方策としてはコストパフォーマンスが低い。ただし、内航船については、A重油使用船舶に対して何らかのインセンティブを与えるなどの方策は有効と考えられる。
・ケース2(減速航行)は、NOx削減効果は高いが、港湾の24時間化とセットで実施する必要があり、陸上側の関係各所との協力体制の構築が前提となる。
・ケース3(陸電使用など)は、ケース2と同等のNOx削減効果(寄与割合で3%弱)を有する。この場合のランニングコスト増は約12.2億と全船舶が燃料切替えを行った場合とほぼ同額であり、コスト対NOx削減率の効果はケース2の燃料切替えよりも大きい。
 
 2.4.1で計算された排出量をもとに、固定ケースと計画ケース3ケースの合計4ケースについて、拡散シミュレーションを行い周辺大気環境への影響度合いを算定した。気象条件については1999年のデータを流用した。
 2.4.1で計算した大気汚染監視局における各ケースごとに、固定ケースに対する寄与濃度及び寄与割合の削減量をSO2について図2.4-1に、NOxについて図2.4-2に示した。なお、各ケース各地点における寄与濃度及び寄与割合の計算結果は図2.4-3から図2.4-6に示すとおりである。また、水平分布や各地点の計算濃度については参考資料を参照されたい。
 全体的には、2.4.1(3)で示した排出量とほぼ同じ傾向を示しており、削減割合に応じて大気環境濃度に対しても応分の削減効果が認められる。細かくみると、ケース1では、SO2について寄与割合で最大25%程度の削減効果が認められるものの、NOxについては寄与割合で0.5%前後の削減効果しか認められない。一方、ケース2とケース3においては、NOxの寄与割合で最大2.5%前後の削減効果が認められるが、SO2ではケース3の削減効果はケース2に比較して少なくなっている。これは、陸電を使用するケース3の場合、燃料消費量の削減効果に比較してNOxの削減効果が大きいことを反映していると考えられる。地点間の差異をみると、活発に港湾活動が行われている横浜、川崎港付近の地点において、寄与濃度、寄与割合ともに削減効果が大きく、船舶、公共コンテナふ頭および専用ふ頭が集中する地域において重点的に削減対策を行う事の有効性を示唆していると考えられる。
 
 次に、対策の優先順位あるいは緊急性について考えてみたい。図2.4-1および図2.4-2に示すように、計画3ケースによるSO2およびNOxの寄与濃度の削減量はそれぞれ数ppbであり、SO2の環境基準である40ppbおよびNO2の環境基準値である60ppbに比較して必ずしも大きいとはいえない。
 SO2環境基準達成率が高いのに反してNO2については計算対象地点における環境基準達成率が低く、陸上の排出源に対しては将来に渡って一層のNOx排出量削減が求められている。このことを勘案すれば、東京湾内においては、SOx排出対策よりもむしろNOx排出対策を優先させるべきと考える。この点、越境酸性雨が大きな国際間題となっている北欧諸国と情況が異なることを、認識しておく必要があろう。
 以上の考察に基づき、各ケースの削減対策としての優劣を論じてみたい。ケース1に示した燃料切替えはSOxに対しての効果は大きいが、NOxに対しての削減効果は10%に満たない。ケース1の燃料切替えにより、東京湾全体で年間約10.8億円の燃料代コストの増大となると試算されるが、ケース3と比較すると、燃料切り替えによるNOx削減の費用対効果は必ずしも高くないと考えられる。
 ただし、内航船については、船員の労力軽減の観点からdual fuel化やA重油のmono fuel化の動きがあることを勘案すると、大気汚染対策の観点からも、A重油使用船舶に対して何らかのインセンティブを与えるなどの方策は有効であると考えられる。
 
 ケース2に示した減速航行は、コスト対効果の最も高い方策である。横浜川崎港に入港する船舶の場合、浦賀水道通過後に、平均12knt程度に速度をあげ、港湾区域に入る時点でも10knt前後の航行速度を保つと考えられる。これらの速度を8knt程度に減速することにより、NOxについては約2%の削減効果を期待することができる。また、航行中の燃料消費量の節約により、東京湾全体において年間約2800トンの燃料節減につながり、付随してCO2排出量も削減できることになる。ただし、浦賀水道や港入り口の航路などでは、明け方および夕刻などに海上交通が集中する傾向があることから、港湾荷役を24時間化することにより交通の時間集中を緩和する措置を取る必要があろう。また、減速航行によってタグボートの使用隻数などが増加した場合のコスト負担増などについても考慮する必要があろう。港湾の24時間化による泊地での燃料消費量(補機ディーゼル発動機である場合は多い)の削減はNOx削減にも有効であるため、減速航行を行わなくとも、港湾の24時間化だけでも十分な効果があると考えられる。
 今回の試算では、港湾の24時間化が陸上のNOx/SOx発生量に与える影響については考定量的な評価を行っていないが、港湾の24時間化により、従来ゲートオープン時の前後に集中発生していた貨物自動車の交通量がある程度分散され、渋滞が解消されることによりNOx総量が削減されることが期待できる。今後は、港湾のジャンクション部分における陸上及び海上の交通量が相互に与える影響を盛り込んだ総合的な排出モデルの構築も必要であろう。同時に、コンテナヤード内で用いられるストラドルキャリヤーやトランスファークレーンなどの荷役車両についてガソリン車化あるいは更に踏み込んでCNG(圧縮天然ガス)車化するなどの総合的な方策も検討するべきと考える。
 
 ケース3では、ふ頭付近においてかつ船種も限定して集中的な対策を講じる例として、一部の船種に対して陸電使用するケースを考えた。横浜港では外航PCCおよび原糖を運ぶ爆発性の少ないタンカーの利用などがあることから、部分的に陸電使用を行った場合の効果は大きく、NOxで30%にも及ぶ。この場合のランニングコスト増は約12.2億と全船舶が燃料切替えを行った場合とほぼ同額であり、コスト対NOx削減率の効果は燃料切替えよりも大きい。また、大型コンテナ船の利用が多い京浜港においては、タグボートからのNOx排出量も大きな割合を占めるため、タグボートに対する低環境負荷型機関の導入も効果が大きいと考えられる。
図2.4-1 周辺環境監視局地点における計画3ケースの寄与濃度・寄与割合に見る削減傾向(SO2)
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図2.4-2 周辺環境監視局地点における計画3ケースの寄与濃度・寄与割合に見る削減傾向(NOx)
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*NOxは(NO+NO2)である。








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