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2.3.2 モデル航海での排出量等の比較
・前項に引き続き、499総トンの内航船をモデルに、NOx/SOx排出量とコストの試算を行った。
・燃料切替えはSOx対策としては有効であるが、日本国における都市大気問題の対応策としては有効とはいえない。
・減速航行は、大気汚染物質の排出抑制効果は10%程度であるが、費用対効果を考慮すれば最も実効性が高い。
・陸電の使用はコスト的には最も影響が大きくインフラも必要となるが、減速航行よりも大きな大気汚染物質の排出抑制効果が期待できる(20%以上)方策である。ただし、限定された専用ふ頭においては荷役時にも使用することが必要であり、非荷役時の船内居住区への給電だけでは十分な抑制効果は期待できない。
 
 2.3.1における検討は主に港湾内での排出量の削減効果を評価した。大気汚染物質の影響は主に都市部で生じるため、港湾内の評価でおおむね十分と思われるが、コストについては、港湾内だけの比較では陸電のように高いという印象のみを与えかねない。 そこで、ここではモデル的な航海を設定し、その全航海でのコスト等の比較を行った。
(1)シナリオ航海時の状況
 本検討のために用いたシナリオ航海は、「(財)シップ・アンド・オーシャン財団(平成6年):内航船の近代化に関する研究」報告書と同一のものである。即ち、499GT型貨物船の標準的な運航形態を想定したもので、代表的な航路として水島港から千葉港へ鋼材を運送するとしたものである。貨物船は水島港で貨物を搭載し、千葉港で荷卸した後、バラスト状態で水島港に戻るものとされており、このシナリオ航海での運航スケジュールは表2.3-5に示すとおりである(片道約400海里)。このシナリオからでは航海:入港・出港:荷役・停泊の時間比率は74:6:40=37:3:20となる。
 一方、上記報告書によれば、このシナリオ航海における年間航海数は60航海となっており、総航海時間は120時間×60航海=7200時間/年となる。主機の運転時間は4800時間/年、主機の燃料消費量は1020kl/年(17kl/航海)(C重油)となっている。入港・出港時は航海速度から速度ゼロに減速・加速することになり、その間の燃料消費は2.3.1(3)に掲げた[8]式に示すように速度の2乗に比例するとすれば、航海速度での消費量に比べて1/3の消費になるので、主機による燃料消費の比率は37:1となり、燃料使用量は航海時に約993kl/年(16.55kl/航海)、入港・出港時に約27kl/年(0.45kl/航海)となる。
 また、補機については同報告書によれば表2.3-6に示すような電力消費の状況が把握されており、この調査結果および表2.3-5の運航状況(所要時間)を乗じて発電電力量(kWh)を推定した。
 以上のデータを整理すると、シナリオ航海の運航状況別の燃料消費量、大気汚染物質の排出量および所要コスト(燃料費)は表2.3-7に示すとおりとなる。
(2)各削減方策の実施による大気汚染物質排出量等の変化
 シナリオ航海時の大気汚染物質排出量等を示した表2.3-7および港湾区域内での各方策による削減度をとりまとめた表2.3-4を用いて、各削減方策を実施した場合の港湾区域内での大気汚染物質排出量及び航海全体でのコストを検討した。
 ここで、陸電の使用については荷役時と停泊時(沖待ちを除く)の両者について適用した場合と、停泊時(沖待ちを除く)にのみ適用した場合の2ケースを試算した。また、燃料切替えは港湾区域内での作業(出入港時、荷役時、停泊時(沖待ちを含む))に適用し、減速航行は出入港時のみに適用した。
 各方策の実施によるNOx/SOx排出量及びコストの比較は表2.3-8、表2.3-9、表2.3-10に示すとおりである。
(3)まとめ
 陸電使用、燃料切替え、減速航行によるNOx/SOxの削減効果等を表2.3-11および図2.3-2に集約した。
 
 陸電使用は停泊時(沖待ちを除く)に使用する程度では十分な大気汚染物質の削減効果は認めらない(5%以下)。一方、荷役時にも使用すると港湾区域内で25%程度の削減効果が認められる。荷役時にも陸電を使用した場合のコストの増加は航海全体でみれば3%程度である。ただし、このコストには配電設備等のインフラ費用および荷役作業前後の電力線の接続解除に要する作業コストを含めていないため、トータルコストとしてはこれよりも高くなる。
 
 燃料切替えは、特にSOx対策としては有効な方策であることが認められるが(80%程度の削減)、NOx対策とすれば削減効果は小さいことが分かる(最大10%の削減)。コスト的には航海全体で4%増と陸電の使用よりも大きくなると推定された。
 近年の都市部での大気汚染対策の主対象がSOxではなくNOxであることを考慮すると、大気汚染物質の削減方策としては必ずしも有効な方策ではないと考えられる。
 
 減速航行はNOxやSOxの削減効果としては10%程度が期待され、コスト面でもメリットがある。減速航行を実施した場合、航路帯の航行効率の低下や操船性への影響が考えられるが、港湾の24時間化などと組み合わせれば、解決不可能とは考えられない。
 
 以上のことから、燃料切替えはSOx対策としては有効であるが、現状の都市大気問題の対応策としては有効とはいえない。
 減速航行は、大気汚染物質の排出抑制効果も10%程度であるが、費用対効果を考慮すれば最も実効性の高い方策と考えられる。
 陸電の使用はコスト的には若干増加するが、減速航行よりも大きな大気汚染物質の排出抑制効果が期待できる(20%以上)方策である。ただし、その場合は荷役時にも使用することが必要であり、停泊中のみでは十分な抑制効果は期待できない。
表2.3-5 シナリオ航海での運航スケジュール
(499GT型貨物船(鋼材運送))
日時 運航状態等 所要時間(時間) 備考
航海時 出入港時 荷役時 停泊時
1日目10:00 水島入港SB         SB:スタンバイ
1日目11:00 水島港着岸   1:00      
1日目23:00 出港SB     9:00 3:00  
1日目24:00 出港   1:00      
3日目13:00 千葉入港SB 37:00        
3日目14:00 千葉港外投錨   1:00      
4日目02:00 入港SB       12:00 沖待ち
4日目03:00 千葉港着岸   1:00      
4日目17:00 出港SB     12:00 2:00  
4日目18:00 出港   1:00      
6日目07:00 水島入港SB 37:00        
6日目08:00 水島港外投錨   1:00      
6日目10:00 入港SB       2:00 沖待ち
合計   74:00 6:00 21:00 19:00 停泊時間中の沖
待ち時間14:00
(財)シップ・アンド・オーシャン財団(平成6年):内航船の近代化に関する研究から作成
表2.3-6 電力使用量
(499GT型貨物船1航海当り(鋼材運送))
    航海時 出入港時 荷役時 停泊時 沖待ち時
断続負荷 合計(kW) 24.2 55.1 69.7 27.9
不等率 1.6 1.3 2.0 1.3
所要電力(kW) 15.1 42.4 34.9 21.5
連続負荷 所要電力(kW) 72.8 418.5 46.2 22.7
合計所要電力(kW) (A) 87.9 460.9 81.1 44.2
所要時間(h)* (B) 74:00 6:00 21:00 5:00 14:00
発電電力量(kWh) (A×B) 6,505 2,765 1,703 221 619
(財)シップ・アンド・オーシャン財団(平成6年):内航船の近代化に関する研究から作成
*:所要時間は表2.3-5に基づく
表2.3-7 シナリオ航海の運航状況別の燃料消費量、大気汚染物質排出量およびコスト
    航海時 出入港時 荷役時 停泊時 沖待ち時 合計
燃料消費量
(kl/航海)
主機 16.55 0.45       17.00
補機 1.29 0.55 0.34 0.04 0.12 2.35
合計 17.84 1.00 0.34 0.04 0.12 19.35
NOx排出量
(kg/航海)
主機 1,108 30       1,138
補機 87 37 23 2.9 8.2 157
合計 1,194 67 23 2.9 8.2 1,295
SOx排出量
(kg/航海)
主機 791 22       813
補機 62 26 16 2.1 5.9 112
合計 853 48 16 2.1 5.9 925
所要コスト
(千円/航海)
主機 321 8.7       330
補機 25 10.7 6.6 0.9 2.4 46
合計 346 19.4 6.6 0.9 2.4 375
(参考)
CO2排出量
(t/航海)
主機 47.4 1.29       48.7
補機 3.7 1.58 0.97 0.13 0.35 6.7
合計 51.2 2.87 0.97 0.13 0.35 55.5
主機の燃料消費量は本文参照
補機の燃料消費量は表2.3-6および190g-fuel/kWh(0.199l/kWh)から算出
NOx排出量は70g-NOx/kg-fuel(66.92kg-NOx/kリットル-fuel)として算出
SOx排出量は50g-SOx/kg-fuel(47.8kg-SOx/kリットル-fuel)として算出
コストは19,400円/kリットルとして算出
CO2排出量は2,999g-CO2/kg-fuel(2,867kg-CO2/kリットル-fuel)として算出
表2.3-8 陸電使用による運航状況別の大気汚染物質排出量およびコスト
<ケース1:荷役時+停泊時に陸電を使用した場合>
    航海時 出入港時 荷役時 停泊時 沖待ち時 合計
NOx排出量
(kg/航海)
主機 1,108 30       1,138
補機 87 37 0.17*1 0.02*1 8.2 132
合計 1,194 67 0.17 0.02 8.2 1,270
SOx排出量
(kg/航海)
主機 791 22       813
補機 62 26 0.12*1 0.02*1 5.9 94
合計 853 48 0.12 0.02 5.9 907
所要コスト
(千円/航海)
主機 321 8.7       330
補機 25 10.7 18.1*1 2.3*1 2.4 59
合計 346 19.4 18.1 2.3 2.4 388
(参項)
CO2排出量
(t/航海)
主機 47.4 1.29       48.7
補機 3.7 1.58 0.56*1 0.07*1 0.35 6.3
合計 51.2 2.87 0.56 0.07 0.35 55.0
*1:表2.3-7の値に表2.3-4に示す削減度を乗じて算出
<ケース2:停泊時にのみ陸電を使用した場合>
  航海時 出入港時 荷役時 停泊時 沖待ち時 合計
主機 1,108 30       1,138
補機 87 37 23 0.02*1 8.2 154
合計 1,194 67 23 0.02 8.2 1,292
主機 791 22       813
補機 62 26 16 0.02*1 5.9 110
合計 853 48 16 0.02 5.9 923
主機 321 8.7       330
補機 25 10.7 6.6 2.3*1 2.4 47
合計 346 19.4 6.6 2.3 2.4 377
主機 47.4 1.29       48.7
補機 3.7 1.58 0.97 0.07*1 0.35 6.7
合計 51.2 2.87 0.97 0.07 0.35 55.4
*1:同上
表2.3-9 燃料切替えによる運航状況別の大気汚染物質排出量およびコスト
<出入港時、荷役時、停泊時、沖待ち時についてA重油を使用した場合>
  航海時 出入港時 荷役時 停泊時 沖待ち時 合計
主機 1,108 27*1       1,133
補機 87 33*1 21*1 3*1 7*1 151
合計 1,194 60 21 3 7 1,284
主機 791 4.1*1       795
補機 62 5.0*1 3.1*1 0.4*1 1.1*1 71
合計 853 9.1 3.1 0.4 1.1 867
主機 321 13.0*1       334
補機 25 15.9*1 9.8*1 1.3*1 3.6*1 56
合計 346 28.9 9.8 1.3 3.6 390
主機 47.4 1.24*1       48.7
補機 3.7 1.51*1 0.93*1 0.12*1 0.34*1 6.6
合計 51.2 2.75 0.93 0.12 0.34 55.3
*1:表2.3-7の値に表2.3-4に示す削減度を乗じて算出
表2.3-10 減速航行による運航状況別の大気汚染物質排出量およびコスト
<出入港時について減速航行を実施した場合>
    航海時 出入港時 荷役時 停泊時 沖待ち時 合計
NOx排出量
(kg/航海)
主機 1,108 18*1       1,126
補機 87 37 23 3 8 157
合計 1,194 55 23 3 8 1,283
SOx排出量
(kg/航海)
主機 791 13.8*1       805
補機 62 26.3 16.2 2.1 5.9 112
合計 853 40.1 16.2 2.1 5.9 917
所要コスト
(千円/航海)
主機 321 5.6*1       327
補機 25 10.7 6.6 0.9 2.4 46
合計 346 16.3 6.6 0.9 2.4 372
(参項)
CO2排出量
(t/航海)
主機 47.4 0.83*1       48.3
補機 3.7 1.58 0.97 0.13 0.35 6.7
合計 51.2 2.40 0.97 0.13 0.35 55.0
*1:表2.3-7の値に表2.3-4に示す削減度を乗じて算出
表2.3-11 各方策の実施による大気汚染物質放出量およびコストの比較
<港湾区域内>
方策 NOx
(kg/港湾)
SOx
(kg/港湾)
コスト
(千円/港湾)
(参考)CO2
(t/港湾)
シナリオ航海(排出量・コスト)(A) 101 72 29.3 4.32
陸電使用*1 排出量・コスト(B) 75 54 42.2 3.85
削減度(B/A:%) 75 75 144 89
陸電使用*2 排出量・コスト(B) 98 70 30.7 4.26
削減度(B/A:%) 97 97 105 99
燃料切替え 排出量・コスト(B) 91 14 43.6 4.14
削減度(B/A:%) 90 19 149 96
減速航行
(10knt→8knt)
排出量・コスト(B) 89 64 26.2 3.29
削減度(B/A:%) 88 89 89 76
*1:荷役時+停泊時(沖待ちを除く)に陸電を使用した場合
*2:停泊時(沖待ちを除く)にのみ陸電を使用した場合
<1航海当り>
方策 NOx
(kg/航海)
SOx
(kg/航海)
コスト
(千円/航海)
(参考)CO2
(t/航海)
シナリオ航海(排出量・コスト)(A) 1295 925 375 55.5
陸電使用*1 排出量・コスト(B) 1270 907 388 55.0
削減度(B/A:%) 98 98 103 99
陸電使用*2 排出量・コスト(B) 1292 923 377 55.4
削減度(B/A:%) 100 100 101 100
燃料切替え 排出量・コスト(B) 1284 867 390 55.3
削減度(B/A:%) 99 94 104 100
減速航行
(10knt→8knt)
排出量・コスト(B) 1283 917 372 55.0
削減度(B/A:%) 99 99 99 99
*1、*2:同上
図2.3-2 各方策による港湾内での大気汚染物質排出量及び航海あたりのコスト比較
z1099_01.jpg
陸電*1:荷役時および停泊時(沖待ち時を除く)に陸電を使用
陸電*2:停泊時(沖待ち時を除く)に陸電を使用
燃料切替え:出入港時、荷役時、停泊時にA重油を使用
減速航行:出入港時の減速(10knt→8knt)








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