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1.2.3 削減方策実施に伴う問題点
・モーダルシフトの阻害要因に関する情報を収集整理した。
・モーダルシフトの進展には、海陸ジャンクション部など物流インフラ整備の推進、情報提供・情報確認手段の改善(IT化)、規制緩和や行政措置といった官民一体となった対応が必要である。
 
1.2.1項および1.2.2項で俯瞰したように、わが国の運輸部門における地球温暖化対策のなかでもモーダルシフトは最も重要な対策と考えられているにも関わらず、海運へのモーダルシフト化の進展は遅々として進まない感がある。そこで、以下ではモーダルシフト推進の阻害要因について情報を収集整理した。
 
(社)日本物流団体連合会およびモーダルシフト専門委員会が平成13年3月に報告した「モーダルシフト推進の阻害要因と利用輸送機関への要望に関する調査報告書」では、国内のトラック業者に対するアンケート調査が実施されており、その中でモーダルシフトの阻害要因等について詳細なアンケート調査が実施されている。
 まず、モーダルシフトの採用の動機については、図1.2-2のような結果となっている。この場合のモーダルシフトの対象には鉄道と内航海運の両者が混在するが、ともかくモーダルシフトの採用理由としてはやはりコスト面でのメリットがあることが最も重要視されていることが理解できる。その他としては「輸送時間に遜色がない」、「輸送品質が向上する」、「環境問題への対応手段になる」、「危機管理から輸送多様化の手段となる」等の理由が挙げられている。
図1.2-2 モーダルシフトの実施理由や動機
(複数回答)(n=93)
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No. 回答内容(複数回答)(n=93) 回答数
1 トラック輸送と比較して輸送コストが安くなる 74
2 トラック輸送と比較し輸送時間(リードタイム)に遜色がない 21
3 輸送品質(定時制、大量輸送)の向上となる 31
4 企業としての環境問題への対応手段となる 31
5 企業としての危機管理から輸送手段の多様化となる 13
6 その他 3
出典:(社)日本物流団体連合会、モーダルシフト専門委員会「モーダルシフト推進の阻害要因と利用輸送機関への要望に関する調査報告書(平成13年3月)」
 一方、「モーダルシフトを実施しない理由(内航海運について)」に関するアンケート調査では図1.2-3に示すような結果を得ている。これで見る限り、「コストに関する問題」を示した回答は8件と比較的少なく、「所要時間の問題」(23件)や「小口輸送が多くて内航海運に適さない」(41件)等が多くなっている。また、「着側配送等の物流システムに関する問題」、あるいは「日曜等の荷役等の運航スケジュールに関する問題」、さらには「運賃料金が分かりづらい等のサービスに関する問題」等を指摘しているものが目立つ。同調査においては、さらに詳細なモーダルシフトの阻害要因に関する詳細なアンケートを実施しており、その調査結果は表1.2-7に示すとおりである。この表では、寄せられた回答をいくつかの項目に分類している。同報告書ではこのような実態を踏まえ、さらにヒアリング調査等も実施し、全体を概観して次記のような問題を指摘している(報告書の内容から今回新たに整理した)。
図1.2-3 内航海運を利用しない理由
(複数回答)(n=62)
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No. 回答内容(複数回答)(n=62) 回答数
1 小口輸送が多く、内航船輸送に適さない 41
2 内航船を利用するような長距離輸送がない 30
3 発着ダイヤがよくない 2
4 所要時間が長くかかりすぎる 23
5 運賃が高くつく 8
6 便数が少ない 1
7 適当な航路がない 0
8 トラクタとトレーラの連結は法令で義務付けられており、車両の運行に支障が生ずることが多い 1
9 トラクタやトレーラの投資が過大 3
10 運休や遅延などの情報提供が不足である 3
11 荷主のパレットサイズと車両の荷台サイズが合わないため非効率 0
12 事故や災害発生時に迅速な対応がとりにくい 3
13 利用運送事業の許可の手続が手間である 1
14 着側の配送のための提携業者の確保が困難である 7
15 小口混載による集約輸送システムが見当たらない 7
16 荷主の出荷時間、ロットなど発着ダイヤに対応した変更がなされない 10
17 車両購入はじめ自社の運行体制の変更など負担が大きい 5
18 内航船の運賃料金の仕組みや手続の仕組みが分かりづらい 7
19 輸送枠の確保が難しい 0
20 日曜祭日、夜間荷役がなされないこと 9
21 港頭地区におけるシャーシ置き場の確保が困難である 0
22 その他 5
出典:(社)日本物流団体連合会、モーダルシフト専門委員会「モーダルシフト推進の阻害要因と利用輸送機関への要望に関する調査報告書(平成13年3月)」
表1.2-7 内航海運を利用しない理由に関する詳細アンケート結果
アンケート回答内容(複数回答)(n=24) 件数
輸送コスト(運賃・料金)が割高となる要因  
 海上部分の運賃が高いため 14
 発地・着地が港湾から遠隔地にあり、集荷・配達部分の運賃が高くなるため 19
 シャーシ駐車場料金などシャーシに関わる費用が発生するため 2
 返り荷の確保が出来ない(片荷となる)ことから集荷・配達部分の運賃が高くなるため(車両稼働率の低下が割高の要因となる) 9
 着側で提携業者による配送等のため、配達部分の運賃が高くなるため 5
 その他 0
輸送時間(リードタイム)が増加となる理由  
 発着ダイヤがよくない 1
 便数が少ない 2
 内航船の運航に時間がかかる 13
 港湾までの集荷・配達のためのアクセスがよくない 14
 集荷・配達先が港から遠隔地である 12
 船社への引渡しや引取りに時間がかかる 7
 その他 1
輸送手続き上の問題  
 輸送枠の確保が難しい 8
 運賃料金の仕組みや手続の仕組みが分かりづらい 19
 連絡運輸のための提携先の確保が難しい 8
 輸送依頼や利用運送業者の許可などの手続が煩雑で、分かりづらい 6
 その他 0
港頭における実務上の問題点  
 日曜祭日、夜間荷役がなされないこと 18
 港頭地区における駐車場が少ない 2
 船への貨物の引渡し受け取りが集中するため待機時間が発生する 16
 港頭地区の周辺取り付け道路が狭い 2
 港頭地区におけるシャーシ置き場の確保やその料金が高いこと 3
 その他 3
品質管理上の問題点  
 事故や災害発生時に迅速な対応がとりにくい 13
 リアルタイムでの正確な輸送状況(欠航、遅延、船舶の現在地等)が得にくい 14
 港湾における積卸しに駅などにより荷崩れ等の問題が発生する 4
 コンテナ輸送の場合、濡損(水濡れ)や結露などの問題が発生する 2
 季節的な繁忙期やスポット大量輸送の際に対応し難い(輸送枠やシャーシの確保が困難) 14
 その他 2
輸送機器の運用や使い勝手などに関わる問題点  
 トラクタとトレーラ(シャーシ)の連結は法令で登録が義務付けられているため、車両の運航に支障が生ずることが多い 12
 無人航走のためのトレーラ(シャーシ)やコンテナ輸送用の車両等の投資が過大である 16
 荷主のパレットサイズが車両の荷台サイズと合わないため非効率となる 11
 定温、保冷貨物のための港頭地区における電源設備不測の問題がある 0
 その他 2
出典:(社)日本物流団体連合会、モーダルシフト専門委員会「モーダルシフト推進の阻害要因と利用輸送機関への要望に関する調査報告書(平成13年3月)」
<モーダルシフト推進課題の整理結果>
(1)物流インフラ整備の推進
a.着地側での輸送業者と海運会社との提携
b.発地・着地側での運転手の移動手段の確保(公共輸送機関の充実等)
c.港湾と都市等のアクセス道路の整備
d.港湾後背地の整備(シャーシプール等の拡充)
e.港湾を中心にした物流センターの整備
(2)情報提供、情報確認手段の改善(IT化)
a.料金システムの明確化(ITの利用、標準料金等の提示)
b.輸送枠の状況確認、予約システム等のオープン化(ITの利用)
c.輸送貨物(トラック)の所在確認手段の改善(ITの利用)
d.事故、災害時の情報確認、伝達手段の改善(ITの利用)
e.モーダルシフトのメリット等の宣伝(ITの利用)
(3)規制緩和、行政措置等
a.港湾の24時間化および日曜・祭日荷役
b.岸壁使用料システムの改善(料金単位(12時間)の短縮(時間単位等))
c.関税保税システムの簡便化と内貿外貿ターミナルの一体化
d.モーダルシフト船の定義の緩和
e.モーダルシフトの推進のためのその他の規制緩和措置
 (1)の問題は港湾のインフラに関わるものである。
 (1)a.に関しては、既に海運業者側では対応可能な状況になっているとのことである。比較的単純な問題として港湾へのアクセスの問題がある((1)b.)。港湾においてトラックを船舶に引き渡した後には運転手は待機の状態になるため、できるだけ早く作業に戻れるように市内部とのアクセスが重要になる。もちろん、港湾に総合物流センターが存在すればその待機時間は大幅に短縮できることになる((1)e.)。
 (1)c.、(1)d.は港湾へのアクセスが問題になっているとの指摘に対応する措置である。前に触れた新総合物流施策大綱では「21世紀初頭までに、複合一貫輸送へ対応した内貿ターミナルへ陸上交通を用いて半日以内で往復できる地域の人口ベースでの比率を約9割へ上昇させる。」ということを数値目標として掲げている。現実に都市域が発達した既存港湾においては、仮に沖合い埋め立て地などの造成により、大規模な内貿ターミナルを建設できたとしても、アクセス道路の建設が大きな障害となる。今後は首都圏環状道路と海岸線との接点に大規模なターミナルを建設するなど、陸上の集配地としての機能も考慮した上でターミナル整備を考えていくことは必要である。また、地方港湾においては、フェリーふ頭が各社ごとに専用化されているが、将来の便数の増加を考えた場合、ふ頭およびバックヤードの共有化も必要になろう。
 
 (2)は情報提供や情報伝達等のシステム改善に関わるものである。インターネット等を利用することで、より広範な顧客(物流業者)との対応が可能になる。上述のように、着側の配送システムや小口混載等に関する対応については、既に海運側では対応可能な状況になっているものが多い。また、輸送枠についても通年で見れば積載率には余裕があり(70〜80%)、予約貨物の受け入れは出港ぎりぎりまで受け付ける等の対応を図るようになっている。むしろ、海運業者がそのようなサービスを提供していることが一般に知られておらず、また運賃システムや手続方法の分かりづらさ等の比較的単純なところで「内航海運は使いにくい」という印象を与えている場合が多いものと考えられる。情報提供の改善だけでもモーダルシフト推進の効果は大きいと考えられる。
 
 (3)は規制緩和に関与するものである。
 (3)a.は、規制緩和だけではなく、港湾労使間の協調が必要不可欠であるが、国際的な潮流れから見ても24時間化は最も望まれることである。本件に関しては、港湾労使間の協議の結果、平成13年4月には、日曜荷役の恒久的実施、祝日の平日並み夜間荷役の実施、ゲートオープン時間の延長、年末年始休暇の短縮について港運労使間で合意された。さらに、平成13年11月末には、荷役作業については1月1日を除き364日24時間実施すること、ゲート作業については土・日及び祝日も平日と同様に8:30〜20:00まで実施することについて合意され、港湾のフルオープン化に向けて大きな前進が見られた。
 
 一方、現在、特定の港においては、500総トン以上の船舶等の夜間入港は港長の許可が必要とされている12。これらの対象港では、既に相当数の船舶が安全対策を講じることを条件に特別許可を受けて夜間入港をしているものの、突発的なスケジュール変更があったときは手続きが間に合わない等の問題が発生している。このような状況に対応するため、2001年に海上保安庁内に設立された「夜間入港制限等に関する規制緩和の調査委員会」は包括許可制度の導入等大幅な規制緩和を含んだ答申を行い、現在海上保安庁においてその実現に向けた検討が進んでいる。
12港則法の第6条および同施行規則第4条等により、船舶の安全の確保のため、「函館、京浜(東京・横浜)、大阪、神戸、関門(下関・門司)、長崎、佐世保」の七港では、総屯数500屯以上(関門港若松区については、総屯数300屯以上)の船舶は、夜間(日没から日の出まで)の入港が原則として禁止されている。
 
 この他、石油類及び化学物質等の危険物を運送する船舶の夜間入港ならびに夜間荷役は、現在原則禁止されているが、これについても十分な安全対策を講じたうえで制限を緩和する方向でさらに検討が進められることが望まれている。
 
 (3)のb.は、例えばRORO船の平均的な荷役時間(3時間以内)を考慮すると、現行の岸壁使用料の最低時間単位である12時間をできれば時間単位に変更する等の措置が求められる、との趣旨である。既に、東京港等では1時間といった最小単位が設定されている事例がある。
 
 (3)のc.は、関税保税システムの簡便化と内貿外貿ターミナルの一体化についてである。港湾管理等の行政手続きに関しては、1999年10月から港湾EDIシステムが稼動し、船舶の入出港に際して従来は港湾管理者と海上保安庁に対して書面で別々に申請・届出が必要であった行政手続きを1度の電子手続きで済ませることができるようになった。このシステムをさらに発展させ、2002年中頃を目処に港湾EDIシステムと通関手続等のシステムであるSea-NACCSとの相互接続を実現する方向で関係者間で調整が進められている。完全接続後は、港湾手続のワンストップサービスが実現し、港湾管理者・海上保安庁等への諸手続きの簡素化あるいは外航貨物と内航貨物の積替え等の簡素化が可能になる。
 また、将来的には内貿ターミナルと外貿ターミナルとの融合を積極的に進める必要があろう。特にコンテナふ頭の場合、ハブ港としての国際競争の観点からみても、現在の内貿と外貿ターミナルの分離は、積み替え時間の増加をもたらし競争力の低下に繋がっていると考えられる。同時にバックヤードの共有化は土地利用の節約や構内荷役機械および車輌の燃料消費量の節減にも繋がる。関係各所の理解を得ながら、速やかに実現化に向けて動く事が望まれる。
 
 (3)のd.は内航海運暫定措置事業におけるモーダルシフト船の定義を緩和することでモーダルシフトが推進されるとの趣旨である。現行の定義とは「500kmを越える距離」および「寄港地は起点、終点を含めて4港まで」等である13。この点に関し、次世代内航海運懇談会の暫定措置事業部会では、2002年1月に、船種の特定・定義に関係の無い制限(例えば、寄港地・航路の制限)等については緩和が必要との報告を行っている。これらの定義の緩和により、内航海運へのモーダルシフトが進展することが期待される。
13 内航海運暫定措置事業および改正海上運送法で定義されているモーダルシフト船の定義は下記のとおりである。
[1]500kmを超えるモーダルシフトが可能な航路に就航する1万対象トン以上のランプウエイ設備を有するRORO船及び6千対象トン以上のセルガイド設備を有するコンテナ専用船で、コンテナ・車輌・シャーシーを輸送するもの。(原則として50%以上が陸上より海上へ転移するコンテナ・車輌・シャーシーを輸送するもの。)
[2]前項[1]以外のランプウェイ設備を有するRORO船又はセルガイド設備を有するコンテナ専用船であって、特にモーダルシフトを促進すると理事会が認めたもの。
[3]寄港地は起点・終点を含め4港までに限定。
 
 なお、内航海運暫定措置事業は平成10年度から導入された措置で、船舶を建造する者から船腹量に応じた納付金を徴収し、船舶を解撤する者に対して解撤する船腹量に応じた交付金を交付するという制度で、内航海運組合総連合会が資金調達、返済等を行っている。
 
  (3)のe.はその他の種々の規制緩和措置に関するものである。
 まず、港湾運送事業法の見直しが考えられる。2000年5月の法改正により、主要9港14においては一般港湾運送事業等に係る需給調整規制を廃止して免許制を許可制に改正する等の措置を行った。あわせて運賃・料金変更命令制度15の導入といった港湾運送の安定化策(セーフティネット)を講じたうえで料金認可制が届出制に変更された。これらの制度改革を他の港湾にも拡大したり、RORO船など荷役作業が比較的簡単な船舶を対象に地方公共ふ頭についても、港湾運送事業の免許要件を見直すなどの方策を進めることで、より合理的な港湾運送のサービスが促進されると考えられる。
14 京浜港(東京港、横浜港、川崎港)、千葉港、清水港、名古屋港、四日市港、大阪港、神戸港、関門港、博多港
15 「過度のダンピングを防止するため、運輸大臣は、不当な競争を引き起こすおそれがある運賃・料金について変更命令を行うことができることとする。」という内容
 
 さらに、現行の内航海運(沿海船)の航行区域は、原則として20海里以内の水域とされているため沿岸を直線航行できないことも運航効率低下の一因になっていた。この点に関し、2001年10月に限定近海船に関わる満載喫水線規則等が改正され、合理的な満載喫水線基準を設けることで、限定近海船の適用範囲の拡大が図られている。このことで、例えば犬吠埼(千葉)〜襟裳岬(北海道)では従来の沿海航行船の基準では488海里だった航路が限定近海船と同様の385海里で航行できるようになり、20%以上の航路短縮が可能になっている。
 ただし、乗船船員の資格の見直しについては未着手であり、現状では沿海区域に限定した乗船員チームをそのまま限定近海船に適用できないため、この点についての資格見直しも含めた改善が望まれる。
 上記の多くの課題(インフラ整備、IT化、港湾の24時間化の規制緩和等)は上述のように既に新総合物流施策大綱等(表1.2-2)で述べられており、その実施による効果が大いに期待されるところであり、既にその方向で多くの規制緩和等が実現している。
 物流という産業に直結するシステムを整備するのは簡単ではないが、これら種々の施策の推進により、官民一体となったモーダルシフト推進のための一層の取り組みが期待される。








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