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1.3 内航海運に伴う温室効果ガス排出削減方策の検討
・内航海運に伴う温室効果ガスの削減のためには、内航海運へのモーダルシフトの推進と、輸送エネルギー効率の向上が必要であり、その推進のために以下の方策が必要と考えられる。
(1)内航海運へのモーダルシフトの推進
・社会ニーズに対応した魅力ある内航海運サービスの実現
・港湾施設等物流インフラの整備
・一層の規制緩和や優遇施策によるモーダルシフトヘの誘導
(2)内航海運の輸送エネルギー効率の向上
・船舶の大型化と経済速力での運航
・船舶の推進性能の改善
・機関の燃料消費率の改善
・環境負荷の小さい船舶に対するインセンティブの付与
 
 内航海運に伴う温室効果ガスの削減については、(1)トラックから内航海運へのモーダルシフトを進めることにより運輸部門全体での削減を図るとともに、(2)内航海運の輸送エネルギー効率向上を図ることにより内航海運の分野においても削減を進めることが必要である。以下に、それぞれの削減方策について検討を加える。
 
(1)内航海運へのモーダルシフトの推進
 地球温暖化防止の観点からだけではなく、道路の混雑緩和や労働力不足への対応の観点からも、環境負荷が低く輸送能力の高い内航海運へのモーダルシフトに対する社会的期待は大きい。しかしながら、その重要性は十分認識されつつも、内航海運へのモーダルシフトは思ったほどは進んでおらず、むしろ近年では従来船舶で輸送されていた貨物がトラック輸送に転換される「逆モーダルシフト」が起きているという指摘すらある。
 モーダルシフトは、当初省エネルギー等主に経済的な観点から取り組みが始まったものであり、地球温暖化という環境面からの本格的な取り組みはまだ始まったばかりと言ってよい。このような観点から今後モーダルシフトを推進していくためには、[1]内航海運に関連するすべての者がモーダルシフトを阻害している要因の除去に再度取り組み直すことにより社会ニーズに真にマッチした利便性の高い内航海運の実現を目ざすとともに、[2]産業・社会システム全体がこの全人類的な課題の克服に向けて協力しあう土壌づくりを行うことが重要な課題であると考える。
 
(ア)社会ニーズに対応した魅力ある内航海運サービスの実現
 (i)社会ニーズにマッチした内航海運サービスの提供
 モーダルシフトを進めるためには、何よりもその受け皿となる内航海運自体の利便性を向上させることが不可欠であり、高速海上輸送サービスの提供や運航航路・ダイヤの適正化等により輸送ニーズにマッチしたサービスを提供していく努力が必要である。
 1999年9月から運航を開始した東京〜苫小牧の超高速貨物フェリー「ほっかいどう丸」「さんふらわあとまこまい」は、在来貨物フェリーの1.5倍の高速性(片道30時間→20時間に短縮)、極めて大きな車両積載能力、2隻運航による定期デイリーサービスの提供等により、成功を収めている16。ハード(大型高速貨物フェリーの開発)及びソフト(2社の協力によるデイリーサービスの提供)両面にわたる取り組みの好例として今後の参考になろう。
 例えば、このフェリーと同等の高速性を有する内航コンテナ輸送システムの開発実用化もひとつのアイデアであろう。コンテナ船は、シャーシ部分の輸送の必要がない分、RORO船よりもさらに輸送エネルギー効率が高く、CO2排出量削減効果が大きい事が期待できる。反面、コンテナの荷役には時間がかかるため、高速かつ効率的なコンテナ荷役システムの開発と内航コンテナ専用ふ頭の整備あるいは外貿コンテナふ頭で内貿コンテナの取り扱いを可能にする、など陸上側のインフラ整備が必要となる。
16 東京/苫小牧間を20時間で結び(速力30ノット)、貨物専用フェリーとしては日本一の車両積載能力とスピードを持つ。1万2,520総トン、全長199メートル、全幅24.5メートルで、トラック(8.5メートル換算)200台、乗用車46台の積載能力を持ち、生鮮食料品輸送に対応するため、冷凍車専用電源も92基設置している。
 
 (ii)海陸複合輸送という視点に立った情報化の推進
 ソフト面での取り組みで重要な課題のひとつに情報化の問題がある。中小零細事業者が多く荷主系列で仕事をすることが多かった内航海運においては、荷主等に対して広くマーケット等の情報を提供する体制やITを利用した情報化が必ずしも十分とは言えず、これが海運の利用機会を失わせている一因と考えられる。また、内航海運へのモーダルシフト推進のためには、両端の陸上輸送をも含めたシームレスな情報の提供が不可欠である。そういった意味においては、「モーダルシフト(トラックから船へ)」という一面的な視点から一歩脱して、「インターモーダル(複数の輸送機関間の連携・複合)」という総合的な視点に立って、トラック事業者や荷主との連携のもとに情報化を進めることが重要と考える。
 
 (iii)静脈物流等モーダルシフト貨物需要の掘り起こし
 モーダルシフト貨物需要を積極的に開拓する努力も必要である。
 なかでも、循環型社会を支える静脈物流に対して内航海運が積極的に参画していくことは非常に重要な課題と考える。廃棄物やリサイクル貨物の輸送は現在トラック輸送が約98%を占めているが、これらの輸送は[1]スピードを要求されないこと、[2]輸送コストが重視されること、[3]生活圏を通過することを地域住民が歓迎しないこと等から、本来船舶輸送が最も適していると考えられる。特に、従来域内処理が原則であった廃棄物処理については、リサイクル法の制定等により今後は指定集積所からリサイクル工場や最終処分地などへ二次輸送の機会が増え、長距離かつ大口輸送という海上輸送のメリットが生かせるものと期待される。
 
 このほか、近年、内航海運の分担率が微減している砂利、セメント、石油製品等の基礎物資について、小口・短距離輸送に適したトラック輸送に対抗しうる内航輸送体系についても検討を進める必要がある。これらの基礎物質については、今後生産拠点及び貯蔵所の統合化により生産地-最終消費地への一貫輸送が求められる。船舶側にアンローダーを設ける等、荷役効率を考えた小型専用船の開発などが必要になるだろう。
 このような需要開拓は、(ii)で述べたように、トラック事業者や荷主との連携のもとに進めることが望ましい。
 
 (iv)内航海運業の構造改善によるモーダルシフトの推進
 上記に述べたような内航海運サービス向上のための施策を円滑に推進するためには、十分な経営体力、営業力、企画能力等が必要であり、かつ、スケールメリットを享受できるだけの輸送規模が必要となる。このような観点からも、中小零細事業者が多い内航海運業の経営構造の改善を一層進めるとともに、トラック事業者も含めた企業間の提携等が必要であるものと考える。
 
(イ)港湾施設等物流インフラの整備
 海運とトラック輸送との連携を円滑にするために、港湾インフラの整備と道路インフラの整備が一体となった物流インフラの計画的な整備が不可欠である。
 例えば、1.2.1節で述べたように、米国では、ISTEA(Intermodal Surface Transportation Efficiency Act)及びその後継法であるTEA21(Transportation Equity Act for the 21st century)という連邦法により、道路の延長又は混雑緩和等の回避ルートとしてのフェリー網の整備が道路整備と一体で行われている。わが国においても、建設省と運輸省の統合により、このようなインターモーダルな視点に立ったインフラ整備が可能な環境が整いつつある。
 このような考え方のもとに、港湾へのアクセス道路やシャーシプールのさらなる整備、トラック運転手等の移動のための公共交通機関の整備、複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルや港湾を中心とした物流センターの整備、船舶の大型化に対応した岸壁の大水深化等、複合一貫輸送を円滑にするためのインフラを整備する必要がある。
 
(ウ)一層の規制緩和や優遇施策によるモーダルシフトへの誘導
 (i)規制や行政手続きの一層の簡素化・効率化
 複合輸送に伴い煩雑になりがちな諸手続を軽減するとともに、海上輸送所要時間の3分の1を占める待機時間の短縮化により海上輸送のスピードアップを図る意味においても、内航海運や港湾に関する規制や行政手続きの簡素化・効率化は重要である。これらの規制緩和については、ここ数年かなりの進展が見られた。
 例えば、温暖化防止の観点からも、物流政策の観点からも極めて重要である港湾の24時間化については、2001年末に、荷役作業の24時間化について労使間の合意が得られた。今後は夜間入港や夜間荷役に関する規制についても、安全確保とのバランスをとりつつ見直しを行い、かつ割増料金などについても随時見直しを行うなど、既に完全に24時間化が行われている陸上トラック輸送システムとのシームレスなコネクションの実現を図るための規制や行政手続きのさらなる簡素化・効率化に向けての努力が必要である。また、ITを利用した各種手続きの簡素化や書類作成の合理化、行政手続きのシングルウインドウ化、についても一層の推進が望まれる。さらに外貿ターミナルと内貿ターミナルの共有化について早急に検討を進める必要があろう。
 
 (ii)モーダルシフトに対するインセンティブ政策の導入
 例えば自動車については、温暖化防止の観点から、低公害車に対する自動車税と自動車取得税の減免を行うグリーン税制が施行されているが、モーダルシフトの進展のためには、同様に環境保全に積極的に取り組む企業に対しては、造船側使用者側双方に然るべきインセンティブを付与することが必要である。
 このような観点から、環境負荷の低い内航海運を利用する企業に対する優遇税制や炭素税等環境負荷に応じた税制の導入、環境会計の制度化による企業評価の適正化等、モーダルシフトを誘導する政策を導入する必要がある。
 また、米国の例で紹介したように、モーダルシフト推進のためのターミナル建設やジャンクション道路の建設には道路整備用財源からの資金を導入するといった考え方も参考になるものと考えられる。
 
(2)内航海運の輸送エネルギー効率の向上
 船舶の輸送エネルギー効率向上の方策については、S&O財団「平成12年度船舶からの温室効果ガス(CO2等)の排出削減に関する調査研究報告書」に外航船を対象とした詳細な検討結果を示しているのでここでは詳述は避け、内航船に適した方策を次に挙げることとする。
 
(ア)船舶の大型化と経済速力での運航
 輸送エネルギー効率の向上の観点からも、輸送コストの削減の観点からも、荷主のニーズに応じて内航船の大型化をさらに進める必要がある。ただし、1.1章で述べたように、経済速力よりもかなり早い速力で運航されているためか、大型化が進んでいるにもかかわらず、輸送エネルギー効率の改善は思ったほど進んでいないのが現実である。燃料消費は速度の3乗に比例するため、航行速度のわずかな減少でも航行時間の増加を考慮したとしてもCO2排出量の削減に大きく寄与することは明らかであるが、一方、モーダルシフト促進の観点からは高速化が要求されるケースも多く、二律背反的な要素がある。
 今後、情報化の推進と適切な運航管理により、輸送ニーズに応じてできる限り経済速力に近い最適速力での運航を促していくことが必要であろう。特に、廃棄物や7基礎物資のようにスピードを要求されない貨物については、減速航行を徹底する必要がある。また、これとあわせて、できる限りデッドスペースを少なくするように貨物の最適パッケージ化についても検討する必要があろう。
 
(イ)船舶の推進性能の改善
 船型の改善については、外航船に比べるとわが国の内航船は、比較的船齢が低く、造船技術の優れたわが国で建造されていることから、大幅な改善効果は期待できないかもしれない。むしろ、プロペラボスキャップフィン(PBCF;中型船対象)、可変ピッチプロペラ(CPP;フェリー等の高速船対象)、大舵角かじ等、推進器の改善の方が効果を期待できる17。さらに、電気推進船についても、吉祥海運において次世代内航船の建造が進められており、今後普及にはずみがつくことが期待できる。また、将来的にはマイクロバブル技術による推進抵抗の低減が有望視される18
17 内航船の機器・装置の現状と仕様に関する調査報告書(平成13年9月、日本内航海運組合総連合会)によれば、船員労力の負担軽減などを目的に、内航船においては平成10年現在CPP装備船が隻数ベースで全体の26%を占めている。低負荷域での航行時間割合や発停止が多い内航船については、航海全体での効率改善に繋がっている可能性もある。
18 造船技術開発協議機構がまとめた「船舶からのCO2等の排出削減方法のマトリックス」でも、短期的に開発可能で削減効果の高い方策としてマイクロバブルが高い総合評価を得ている。
 
(ウ)機関の燃料消費率の改善
 機関の燃料消費率については、NOx排出量とトレードオフの関係にあること等から、短期的には大きな改善は期待しにくい。ただし、外航船と比較すると、内航船は入出港に伴うエンジンの発停止や中間負荷域での運転時間が多いため、VIT(燃料噴射時期自動調整装置)と電子制御を用いて低負荷域における燃料消費とNOx排出量を最適化する等の対策は残されていると考えられる19
 また、将来的には、現在国土交通省で開発が進められているスーパーエコシップの実用化が期待される。スーパーエコシップは、高効率ガスタービンと電気推進システムの採用、船型の最適化と貨物スペースの増大により、環境負荷(NOx、SOx、CO2)の低減を図るもので、CO2については現行のディーゼル主機機関から25%減を目標にしており、国土交通省では2005年頃の実用化を目指している。
 仮に、2000年において船齢7年以上の船舶が、2010年までにその半数がスーパーエコシップタイプの船舶に代替されると仮定した場合、2010年において内航海運全体で約75万トンのCO2削減が可能であると試算される20
19 同上のまとめにおいて、電子制御や可変翼過給機、燃焼室最適設計による負荷全域のスムーズな燃焼が短期間に開発可能で効果の高い方策として高い総合評価を得ている。
20 スーパーエコシップによるCO2削減量の計算方法は以下のとおり2000年時点で船齢7年以上の船舶が2010年までに全て代替建造される。実用化が2005年前後であることから、2010年までの代替の50%がスーパーエコシップとして新造されると仮定した。船齢7年以上の船舶が2000年において内航全船舶に占める割合は、内航船の船齢別船腹量(運輸省海上交通局調べ平成12年3月31日)により68%とした。船舶全体のCO2削減率=スーパーエコシップへの代替対象船(船齢7年以上の船舶)の割合×スーパーエコシップへの代替率(0.5)×スーパーエコシップによるCO2削減率 として計算した。得られたCO2削減率を2010年のCO2排出量(固定ケース)に適用し、船舶全体のCO2削減量(2010年)=船舶全体のCO2削減率×CO2排出量(内航海運・貨物船、2010年)として計算した。
 
(エ)環境負荷の小さい船舶に対するインセンティブの付与
 内航海運分野におけるCO2削減努力を促進するためには、モーダルシフトの促進と同様、環境負荷の低減に要したコストが用船料、港湾料金等に反映されるような政策的なインセンティブの付与や海運取引きの仕組みの構築が必要である。
 例えば、表1.3-1に示すように、欧州や米国においては環境負荷の小さい船舶に対して各種港湾料金や税金を減免する制度がある。これらの制度は、現在のところ、油汚染や防汚塗料などの海洋汚染防止やNOx・SOx対策が中心であるが、IMOにおいては外航船からの温室効果ガスの低減対策としてこのようなインセンティブスキームを導入しようとする動きがある。わが国においても、温暖化対策として又はNOx・SOx低減等他の政策目的と併せて、このようなインセンティブスキームの導入を図る必要がある。
 
 運輸施設整備事業団においては、船舶共有建造制度を見直し、CO2排出低減対策が講じられた船舶については、船主の建造費用負担割合を2割に軽減することとした。同制度は、上述したインセンティブスキームの一種と考えられ、今後このようなスキームが拡充されることが望まれる。なお、事業団の優遇制度はモーダルシフト船や貨物積載能力の増大についても適用されることとなっている。








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