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・2002年3月の地球温暖化対策推進大綱においては、輸送エネルギー効率の改善とともにモーダルシフトについて内航海運の分担率を2010年までに44%に引き上げると言う数値目標を定めている
・その他、「新総合物流施策大綱」や輸送機関の各関連団体の自主目標として、地球温暖化防止対策としての消費原単位の改善とモーダルシフトの推進がうたわれている。
 
 我が国はCOP3において2010年(2008年から2012年の間)に1990年比で温室効果ガスの排出量を6%削減するという目標を与えられ、既に各省庁において様々な取り組みが検討・実施されている。
 表1.2-2に我が国において内航海運に関連した地球温暖化防止対策の記載を過去の経緯を含めて示した。関係省庁が合同で設置した地球温暖化対策推進本部は平成10年6月に「地球温暖化対策推進大綱-2010年に向けた地球温暖化対策について-」を公表した。この中では省エネルギー等の様々な面での目標が掲げられており、船舶関連では表1.2-2に示すような3点の項目が掲げられている。具体的な数値目標が示されているのは輸送エネルギー効率の3%向上だけである
 この地球温暖化対策推進大綱の進捗状況等は平成13年7月に同本部から報告された「進捗状況および今後の取組の重点」に記載されている。この中での記載は表1.2-2に示すように、エネルギー効率の良い船舶の研究開発および代替促進とあわせて、モーダルシフト化率を2010年に50%に引き上げることが数値目標として掲げられている。
 また、2002年3月19日に公表された新たな「地球温暖化対策推進大綱」では、モーダルシフトに関して新たな目標が設定されており、内航海運の「輸送分担率を44%に向上すること」とされている。そして、「規制の見直し、新技術の導入等を通じた競争力強化による海運へのモーダルシフトの推進や輸送効率の向上」を図ることにより全体として約260万t-CO2の排出削減見込み量が計上されている。
 
 国土交通省は具体的な削減目標を策定し、「温室効果ガス▲6%の実現のために運輸部門において構ずべき措置」としてまとめている。その内容は表1.2-3に示すとおりであるが、このうちで船舶に関連する部分は表1.2-2に抜き出した2点(モーダルシフト化率向上および燃費改善)であり、これらには具体的数値目標が示されている。
表1.2-2 我が国における地球温暖化防止対策で内航海運に関連した記載の集約表
出典 船舶・海運に関わる内容
地球温暖化対策推進大綱
(平成10年6月)
地球温暖化対策推進本部
・輸送エネルギー効率を約3%向上させること
・内航貨物輸送の推進(具体的数値はなし)
・国際コンテナ貨物等の国内陸上輸送距離の削減のための港湾整備(具体的数値はなし)
温室効果ガス▲6%の実現のために運輸部門において講ずべき措置
(平成13年)
国土交通省ホームページ
・消費原単位改善3%(CO2削減量として▲10万トン)
・長距離貨物のモーダルシフト化率40%→50%(CO2削減量として▲30万トン)
グランドデザイン(案)
(平成13年6月)
国土交通省
・国内長距離貨物輸送におけるモーダルシフト化率
42.9%(平成10年度)→50.0%(平成22年度)
新総合物流施策大綱
(平成13年7月)
閣議決定
・国際競争力のある物流システムの構築
 −船舶の大型化・高速化等による効率化
 −海上ハイウェイネットワークの構築
 −次世代内航船(スーパーエコシップ)の研究開発
 −ITを活用した次世代海上交通システムの構築
 −テクノスーパーライナーの事業化
 −船舶の高速化や複合一貫輸送に対応した内貿ターミナルの拠点整備
 −港湾の24時間フルオープン化等への対応
・地球温暖化対策
 −消費原単位の改善(エコシップ、スーパーエコシップ)
 −モーダルシフトの推進
・大気汚染等への対応
 −大都市部の外沿に位置する港湾の活用
地球温暖化対策推進大綱進捗状況および今後の取組の重点
(平成13年7月)
地球温暖化対策推進本部
・船舶のエネルギー消費効率向上のための技術研究開発および運輸施設整備事業団による船舶の共有建造制度の弾力化によるエネルギー消費効率の良い船舶への代替促進
・長距離貨物のうち産業基盤基礎物質を除いた製品の輸送における鉄道・海運比率を2010年に50%を超える水準に向上させる
・次世代内航船(スーパーエコシップ)の研究開発
地球温暖化対策推進大綱
(平成14年3月)
地球温暖化対策推進本部
・規制の見直し、新技術の導入等を通じた競争力強化による海運へのモーダルシフトの推進や輸送効率の向上
・内航海運の競争力を強化することにより輸送分担率を44%に向上
 −2001年度中を目途に次世代海運ビジョンを策定
 −参入規制の緩和等の事業規制の見直し
 −船員の乗り組み体制の見直し等の社会的規制の見直し
 −スーパーエコシップについて、2005年までに実証実験等を終了し、2006年度より実用化等
・複合一貫輸送に対応した内貿ターミナル等の拠点整備、湾内ノンストップ航行の実現等による湾内航行時間の短縮等、海上ハイウェイネットワークの構築
 −2007年に東京湾港航路整備事業完成予定
 −2006年度までに東京湾においてAIS(自動船舶識別装置)の活用等、航行管制・支援強化を整備予定
 
 海運へのモーダルシフトの有効性については、中央環境審議会地球環境部会の目標達成シナリオ小委員会が平成13年6月に示した中間とりまとめ(案)に定量的な評価がなされている。同とりまとめにおいては、各対策の経済性評価および不確実性について検討を加えているが、運輸部門については表1.2-4に示すような結果を示している。船舶関連ではモーダルシフトが明記されている程度であるが、ここで特筆すべきは海運へのモーダルシフトのCO2削減効果が他の対策と比べて、飛びぬけて費用対効果が高いと評価されている点である。同資料によると、1トンのCO2を削減するのに必要な費用は、海運へのモーダルシフトの場合700円程度と見積もられているのに対して、鉄道へのモーダルシフトは20万円程度と評価されている。なお、同資料には同じ効果(全対策で2,340万t-CO2)を燃料税の導入で代替した場合には15%程度の燃料税となり、その場合の追加的費用は34,000円/t-C程度とされている。
 
 一方、平成13年7月に閣議決定された「新総合物流施策大綱」では、具体的な数値目標はないものの表1.2-2に示すような様々な施策が述べられている11
 平成14年3月19日地球温暖化対策推進本部が改定決定した地球温暖化対策推進大綱の内容のうち運輸部門の施策とその削減見込み量を表1.2-3に示した。同大綱では、これまで対象荷種や船舶を限定していた従来のモーダルシフト化率に代えて、運輸部門全体の輸送量(キロトンベース)に占める内航海運の分担化率を新たな目標に据えるなど、従来のモーダルシフト施策より一歩踏み込んだ施策が盛り込まれている。これらの海運部門と陸上輸送機関などに対する他の施策と併せて、2010年における運輸部門全体の削減見込み量を約4600万トンとしている。
11 ただし、大綱中の「効率化」は国際競争力のある物流システムの構築の項で述べられているものである。
 
 この他、造船・海運関連の団体や組織においてもそれぞれに自主的取組目標を設けている。表1.2-5はその内容を示したものである(参考として表1.2-6にその他の主な輸送機関の自主的取組目標を示した)。機関の改善、運航管理の改善、モーダルシフトの推進により輸送エネルギー効率の削減を目指していることがわかる。削減の数値目標としては日本内航海運組合総連合会は2010年度において1990年度比3%の削減(トンキロベース)を目標に掲げており、これは地球温暖化防止対策推進本部や国土交通省が掲げた目標に一致するものである。
 また、日本船主協会は2010年に1990年比で輸送エネルギー効率(トンべース)の10%削減を、日本旅客船協会は同じく2010年に1990年比で3%削減(人キロベース)の自主目標を掲げている。
 その他の輸送機関の自主的取り組みとして、日本貨物鉄道(株)は電気機関車の消費エネルギー(kWh)の削減を自主目標に掲げており、1990年比で2010年に15%、1999年に8.3%削減を掲げている。また、全日本トラック協会は輸送エネルギー効率の改善は掲げていないものの、大型トラックのトレーラーへの代替(2010年に1990年比で6%)を掲げている。
 
表1.2-3 平成14年 地球温暖化対策推進大綱における運輸部門でのCO2排出削減対策と削減見込み量
項目 対策 2010年における排出削減見込み量(106t-CO2)
■自動車交通対策
クリーンエネルギー自動車を含む低公害車、低燃費車の開発・普及 自動車の燃費の改善の強化措置 13.90
トップランナー基準適合車の加速的導入、自動車税のグリーン化や自動車取得税の軽減措置による低公害車普及の急速な進展、政府一般公用車の低公害化を契機とする低公害車開発・普及の加速 2.60
クリーンエネルギー自動車の普及促進 2.20
営業用自動車等の走行形態の環境配慮化 アイドリングストップ装置搭載車両の普及 1.10
大型トラックの走行速度の抑制 0.80
交通流対策 自動車交通需要の調整 0.70
高度道路交通システム(ITS)の推進 3.70
路上工事の縮減 0.40
交通安全施設の整備 0.70
テレワーク等情報通信を活用した交通代替の推進 3.40
自動車交通対策による削減見込み量 小計 29.50
■環境負荷の小さい交通体系の構築
モーダルシフト・物流の効率化等 モーダルシフトなど
内航・鉄道貨物輸送の推進 1.50
海運へのモーダルシフトの推進や輸送効率の向上 2.60
輸送力増加の鉄道の利便性向上 0.30
物流の効率化  
トラックの輸送の効率化 2.90
国際貨物の陸上輸送距離の削減 1.80
公共交通機関の利用促進 公共交通機関の利用促進 5.20
その他輸送機関のエネルギー消費効率向上*1 鉄道のエネルギー消費効率の向上 0.40
航空のエネルギー消費効率の向上 1.10
環境負荷の小さい交通体系の構築による削減見込み路量 小計 15.80
運輸部門全体の削減見込み量 46.00
▲他部門におけるCO2排出削減見込み量(参考)
産業部門 63.10
民生部門 83.50
新エネルギー対策 52.00
*1:「船舶のエネルギー消費効率の向上」による削減量は見込まれていない地球温暖化対策推進大綱(平成14年3月19日地球温暖化対策推進本部決定)より作成
表1.2-4 温室効果ガス削減対策技術の経済性評価
(運輸部門)
対策技術名 追加的削減費用
(円/t-C)
追加的削減量
(千トンCO2)
不確実性評価
価格低下 別目的 確実性評価
トラック輸送からの船舶へのモーダルシフト 730 270   C
実走行燃費の改善(低公害車の普及) 57,000 6,800 B
購入車輌の小型化 57,000 3,300 B
トラック輸送から鉄道へのモーダルシフト 200,000 30   C
公共交通機関の活用(バス路線の整備) 290,000 1,700   A
都市部での自動車走行環境の改善(ITの活用) 2,300,000 320 B
貨物の輸送効率の改善(共同輸送) 4,100,000 3,800   C
公共交通機関の活用(新交通システムの整備) 6,400,000 680   C
凡例:
[1]価格低下
○ :今後の技術発展及び量産効果により、既存技術導入の場合と比較して、相対的に価格が下がり追加的削減費用が低下すると考えられる場合
空欄:上記以外
[2]別目的
◎ :地球温暖化防止(省エネルギーを含む)以外の目的がむしろ主目的で、その目的が効果・利益として算入されていない場合
○ :地球温暖化防止(省エネルギーを含む)以外の目的も同じぐらい重要で、その目的が効果・利益として算入されていない場合
△ :地球温暖化防止(省エネルギーを含む)以外に副次的な効果が期待でき、その効果・利益が算入されていない場合(ただし、地球温暖化防止のためではなく、副次的効果のために対策の導入が推進される可能性がある場合に限る)
空欄:上記以外
[3]確実性評価
A :費用評価結果の確実性が-30%〜+50%程度におさまる場合
B :費用評価結果の確実性が-50%+〜+100%程度におさまりA以外の場合、または、EUの費用評価結果を用いた場合
C :費用評価結果の確実性がA、B以外の場合
 
出典:中央環境審議会 地球環境部会「目標達成シナリオ小委員会」中間取りまとめ(平成13年6月)








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