1.2 内航海運に伴う温室効果ガス排出削減方策の現状
本章においては、内航海運又は運輸部門における温室効果ガスの削減施策について、その具体的な目標あるいは実施状況について内外の情報を収集整理し、問題点を抽出した。
・ヨーロッパでは海運の分担率は高く、モーダルシフトの重点は鉄道の利用促進である。
・アメリカの地球温暖化対策では、フェリー航路整備事業に対して道路整備財源を割り当てる事を可能とする時限立法が施行されている点が注目される。
温室効果ガスの8%削減を目標にしているEUでは、1998年頃から種々の活動を展開し、2000年11月に"European Climate Change Programme、 Progress Report"を公表した。その内容は各方面に多岐にわたっているが、その中で海運および運輸全般にかかわる内容は表1.2-1に示すとおりである。
ヨーロッパでは海運の利用は順調であり、むしろ鉄道の利用が減少している10ことから(図1.2-1参照)、鉄道利用の促進策が主に検討されており、海運業に関しては「モーダルシフトによる環境影響の小さい輸送の促進-貨物輸送のモーダルシフト」において、「海運および内水面交通および道路/鉄道/海運の効率的な利用の促進」とされている程度であった。しかし、MEPC47などではEUが今後内航海運および域内海運へ貨物移動を積極的にシフトすることを表明しており、今後何らかのインセンティブ制度が提案される可能性もあると考えられる。
10 貨物輸送全体での鉄道の占める割合は1970年の21.1%から1998年の8.4%に減少した。(WHITE PAPER(2001) "European transport policy for 2010: time to decide"から引用)
一方、アメリカは2001年6月に"Climate Change Review"という冊子を公表し、COP3以降の地球温暖化の状況および米国の対応策に関して(ブッシュ政権としての)レビューを行っている。この中では、ISTEAおよびTEA21というプロジェクトの取り組みが注目される。ISTEA(Intermodal Surface Transport Efficiency Act)は、1991年に成立した1991〜1997年の時限立法であり、TEA21(Transportation Equity Act for 21st Century)はISTEAの後継法(98〜03の時限立法)として1997年に成立している。どちらの法律も、高速道路信託基金を原資として、フェリー及びそのインフラ整備のためのプロジェクトに対して、船舶建改造資金や旅客ターミナルの整備費用などインフラ整備に対して助成金などを受けることができる。州や地方公共団体は、同資金を高速道路建設に配分するか、フェリーなどの交通機関の基盤整備に配分するかの決定を行う。これにより、既存フェリー航路の継続資金や新規航路の整備が実際に行われており、米国運輸省はフェリー事業全体に1997会計年度には1,800万ドルを2001年には2000万ドルを配分したと報道されている。同時に、フェリー事業者は、CMAQ(Congrestion Mitigation Air Quality Improvement Program)という制度の活用も可能である。同制度は人口集中域における大気環境改善をモーダルシフトなどによって図るもので、自転車の利用の多いフェリーターミナルなどを運営する州または地方公共団体の運輸管理部門が対象となる。
これらの法整備の背景には、「道路の延長として海上輸送を見る、あるいは海陸空で総合的に交通網を整備する」視点があり、わが国の内航海運と陸上運送の整備を考える上で、参考にする点があると思われる。
表1.2-1 EUの運輸部門での温室効果ガス削減対策
● モーダルシフトによる環境影響の小さい輸送の促進
・ 鉄道の再生
・ 貨物輸送のモーダルシフト
・ クリーンな公共輸送手段への援助
・ 航空交通の混雑緩和
・ 高度交通システム(Intelligent Transport System)
● 代替燃料およびクリーン車への転換システム
・ 自動車技術の改善
・ 代替燃料(バイオ燃料、天然ガス、水素)
● 市場メカニズムの活用
● 差別的課税制度の利用
● 啓蒙および行動改革のためのアクションプログラム
● 追跡調査および評価
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出典:EU COMMISSION STAFF WORKING PAPER (2001) SEC (2001) 502 "Integrated Environment and Sustainable Development Energy and Transport Policies: Review Report 2001 and Implementation of the Strategies"
図1.2-1 ヨーロッパでの輸送機関別輸送量の変化
出典:WHITE PAPER (2001) "European transport policy for 2010: time to decide"