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「女の国」で村おこし[濾沽湖観光開発の現状と課題]・・・松村 嘉久
◎身近になった秘境・雲南◎
 八○年代から「少数民族の住む秘境」というイメージが構築されてきた雲南省は、関西国際空港と省都・昆明を結ぶ直行便が就航した九九年以来、関西圏からの団体観光客も気軽に行ける「身近な秘境」となっている。直行便就航のきっかけは、中国最初の国際博覧会・「中国九九昆明世界園芸博覧会(以下、昆明世博)」であった。昆明世博誘致を観光振興の起爆剤と捉えた雲南省政府は、多様な自然景観や人文景観、少数民族の伝統文化などの観光開発を試みてきた。近年では西部大開発やアジア開発銀行の大メコン圏経済協力計画といった追い風のもと、二一世紀に向けて民族文化大省建設構想が打ち出されている。この構想は民族観光開発とも深く絡み、中国内外からの観光客のまなざしのなかで、雲南少数民族文化を再構築する営為でもある(註1)
濾沽湖から見る落水村全景
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 第一四回世界観光機関大阪総会とあわせて開催されたツアーエキスポ二○〇一に、雲南省は国家旅游局・上海市と別に独自の展示ブースを設けて参加していた。少数民族歌舞団とともに来日した雲南観光プロモーション団は、日本からの観光客を誘致しようと、民族観光を前面におしだした宣伝活動を展開した。観光資源に恵まれ観光開発にも積極的な秘境・雲南は、こうした宣伝活動やイメージ戦略ともあいまって、関西のみならず日本のより身近な観光地になっていくであろう。
 中国では改革開放のもと観光産業の育成が試みられてきた。その背景には四つの理由が存在する。第一の理由は、「煙の出ない」観光産業を経済成長の牽引役と位置付け、その育成は産業構造調整にも資するという経済的なものである。第二は、観光産業の場合、既存の産業基盤が脆弱な地域でも育成でき、豊かな地域から貧しい地域へと収入の再分配も生じるため、地域的不均衡発展の解消に役立つという地域政策的観点からの理由である。第三の理由は、観光現象を媒介として、外国人は「中国」を認識して友好を深め、中国系同胞や国内観光客は「祖国」を再認識して愛国心を高めるであろう、という政治的なものである。第四に、観光産業の発展は第三次産業の雇用機会を増大させ、過剰都市化を防ぐ受け皿となる中小都市の育成に最適である、という都市政策的観点からの理由である。
 ところが近年、中国観光産業の育成において、二つの課題が声高に叫ばれるようになってきている。
 一つは、観光産業の「持続的発展(sustainable development)」という課題で、やみくもに観光開発が進んで過剰な観光客が押し寄せると、観光資源そのものが劣化して、観光地としての魅力を低下させかねないとの認識が浸透しつつある。もう一つの課題は、九〇年代に入って中国各省が独自の観光計画を策定して、互いに苛烈な開発競争を繰り広げるなかで、観光産業においても「条条、塊塊」現象(縦割り行政の非効率と地域主義の台頭)が顕在化してきたことを受けて、観光産業においても、省を跨いだ地域的協調関係の構築が要請されるようになったことにある。








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