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成果のまとめ
 「不登校生の進路と社会参加のネットワークづくり」平成13年度事業としては、1年間というより継続した2年間の成果と言えるものが多い。つまり一日だけのシンポジウム、相談会というものからの成果も勿論大切であるが、むしろ2年間の流れの中で、又、全国の様々な方々との交流と意見交換の中で、ヒントとなることが数多くある。それらを結びつけることで、一つの方向性を見出すことができる。そこで、ここでは数ある成果の中から標記のテーマに最適な、しかも活用できるものを示したい。
1. 不登校からの社会参加
−不登校生が社会に参加して行こうと考えた時、我々はどんなサポートをしたら良いのか−
 不登校経験者が、切角社会に出て行こうと考えても、現状では社会の側に十分な受入れ態勢ができていない。又、不登校生自身も、自分に何ができるのか、何に向いているか、何をしたら良いのか、が十分分かっていない。親も教師も「この子に合った仕事があれば」とは言うものの、その仕事が何なのか、が十分に把握されていない。であれば、まずは「どんな道に進めばよいか」を知る必要がある。そんな話をしている中で、本事業の裏方として我々を支えてくれていた(有)アイデアガレージの西尾社長から「彼らが自分自身を見出せるような、ゲーム感覚の阿弥陀のようなものを作りましょうよ」という意見がでた。このアイデアを生かしたのが「初めの一歩」である。このシステムを活用して、まず彼等が自分の方向性の輪郭をとらえる。そこで自己認識した彼等に対し、我々の「社会参加相談員」(トライアル・サポーター)がアドバイスしながら次のステップに移る。まず各人の目標のため、必要があれば、学歴、資格、技術・技能の修得に進む。目標があれば、学習意欲もわき、集中できる。目指す職業の内容については、ヤングハローワークでのパソコン検索の活用や、キャリナビプロジェクトの「インターネットお仕事辞典」で調べることができる。作家、タレント等の特殊な職業の場合は、キャリナビから取材に行くこともできる。
 次が職業体験であるが、ここで各地のネットワークが活躍する。兵庫県の「トライやるウィーク」のように、地域の様々な職業の方々にご協力いただいて、極力彼等の希望にそった職業体験を行う。同様の目的で沖縄の「島プロジェクト」では毎週1職種を体験し、一年間で50種の仕事が体験できる「アイランド留学」を計画している。我々はこれを「ウイークリーインターン」として実施したらどうかと考えている。
 職業体験では自分がどういう形で社会参加できるか、あるいは何が不足しているか、が分かったら、不足部分を補った後、就業となる。就業に到らない場合は、ボランティアから有償ボランティアを目指すか、アルバイトとの中間のボラバイトを行うか、アルバイトから正社員を目指すか、となる。
 「初めの一歩」やキャリナビで起業家タイプあるいは自営に適していることが分かった人は、起業家教育を受け、そちらに進む。以上をわかり易くするため、下図にまとめた。
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2. ひきこもりからの社会参加
 ひきこもりの人達の社会参加は大変困難な事ではあるが、あえて段階を追って社会参加への道を示してみる。
 まず自室から全く出られないような完全ひきこもりに対しては、下記の専門家に相談することが考えられるが、依頼が集中するので、すぐ対応できるとは限らない。他には手紙という手段しか考えられない。親も食事を運ぶ時にメモや手紙を入れておく、ということからスタートする。もし本人がパソコンや携帯電話を使うなら、メールを活用する。この手紙、メールで少しづつコミュニケーションと信頼関係を築き、頃を見て工藤氏、矢吹氏、清水氏、荒井氏、広谷氏、そして私共の相談員に依頼するという形をとる。ひきこもりの最大の問題は社会性の喪失であるから、まず他人がかかわって、その社会性を身につけさせることが必要である。メンタルフレンドも悪くはないが、居間に出て来て話ができる位になってからが望ましい。本人が家から外に出る気になったら、その意志を確かめた上で、相談員やメンタルフレンドと共に外に出るようにする。ここまでいけばかなり見通しは明るい。
 次に斉藤環氏、河合洋氏等のような専門医を訪ねるか、本協会のような研修システムを持っている所を訪ね、社会参加のための研修を受ける。この研修は実務的な部分ばかりでなく、「仲間と出会う」というのが目的の一つ。仲間とつながりが持てれば、誰か一人がアルバイトに行けば、皆もそうしたいというエネルギーが出てくる。その後は進学、ボランティア、アルバイト、就業というように進んでいく。
 
工藤 定次 NPO法人青少年自立支援センター理事長・タメ塾塾長
矢吹 孝志 マインドヘルスパーソナリティセンター・うつみね学園代表
清水 和重 フリースクール元気学園学園長
荒井 裕司 東京国際学園高等部校長・登校拒否の子ども達の進路を考える研究会(略称:登進研)代表
広谷 佳巳 アカデミアインターナショナル代表取締役
河合 洋 カワイクリニック院長
斎藤 環 佐々木病院精神科医師
3. 相談ボランティアの意義と活用
 今年度頭初、不登校経験者にボランティアで後輩の相談にのってもらうため、相談ボランティアを募集した。その結果全国から400名近い人が応募し、アンケートに答えて下さった人、約300名が現在登録されている。彼等の様子はP 〜P に紹介されているが、ここでは成果の部分だけまとめておきたい。詳しくは成果I-6を参照していただきたい。
[1]非常に辛い体験であったにもかかわらず、その体験を生かして人の役に立つことで自分に自信を持ち、社会参加に結びつけたいという人が多く見受けられた。
[2]「不登校生の気持を理解していないのに、分かったふりをしてアドバイスするのはやめてほしい」という意見も多く、今までの対応を反省し、今後のカウンセリングに生かしたい。
[3]親、教師、友達、社会等、彼等を取り巻く環境と周囲の理解の大切さを痛感した。
[4]不登校の問題は本人よりも周囲、特に親の問題が大きく、親が変わるためのセミナーが急務である。
[5]宗教、倫理、道徳感の欠如が著しい今の日本では、人の痛みのわかる彼等は貴重な存在であり、シンポジウムの中で「不登校生が日本を救う」とまで言った人がいた。「この世には人の痛みのわかる人が必要だから、生き続けてほしい」という相談ボランティアの意見もあった。
[6]相談員としての基本的な技術を取得するため、カウンセリング研修を行い、受講した人が100名以上となった。その中で計64時間のスキルアップ研修を終え、修了証を手にした人が10名を数えた。彼等は次年度からの訪問相談活動も期待されている。
 300人の相談ボランティアが、今年度相談に来た約2000家族に与えたものは計り知れない。ボランティアを拝んで帰る親、感涙する人、「目から鱗が落ちた」と表現した人、「いい機会を与えてくれました。本当にありがとう」といって何度もお礼とおじぎをくり返す人、「やっと子どもの辛い気持が理解できました」と言って帰る人。私共も主催者冥利につきる年であった。相談ボランティアの活躍こそが今年度の最大の成果と言っても過言ではないと考えている。








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